【CDJournal.com 10th 特別企画】にわかに注目を集めるアジアン・レアグルーヴの世界

2010/07/14掲載
はてなブックマークに追加
King of Diggin’From Thailand
マフト・サイ インタビュー


 カラフルな布地に包まれた、『Thai Funk Zudrangma』というタイトルのミックスCDを下北沢のDISC SHOP ZEROで買ったのはいつのことだっただろうか。パッケージを開けると、中に入っていたのは怪しげなレコード/ジャケットがぎっしり敷き詰められた大判のポスター。CDのほうはもっと怪しくて、聴いたことのないサイケデリック歌謡がこれでもかと詰め込まれていた。

 そのミックスCDを制作したのは、タイのレアグルーヴDJ、マフト・サイ。自身が主宰するスレンマー(Zudrangma)レコーズから3枚のミックスCDをリリースしているほか、タイの首都バンコクで<PARADAISE BANGKOK>というパーティをオーガナイズ。近年注目を集めるアジアのディープ歌謡の面白さを、アジアの側から浮き彫りにしようとしている人物である。

 マフトの出身はバンコク。12歳から2年間オーストラリアに住んだ後にイギリスへと移住し、ヒップホップやソウル、ファンクをメインにDJを始めている。影響を受けたDJとしてケブ・ダージジャイルス・ピーターソンらの名前を挙げるマフトだが、故郷タイの音楽に興味を持ち出したのはDJを始めてからのことだった。
 「DJのギャラがすごく良かったんで、そのお金を持ってちょこちょこタイに帰ってたんですね。その頃、僕はジャズとかファンクが好きだったんですけど、そういう音源はイギリスでも買えるから、タイ・ファンクみたいなものを掘ってみようと思って。自分が好きなビートをタイ人がやってるんじゃないかと思ったんですよね」
 彼が掘り出したのは、タイでは“ペーン・ケー”と呼ばれるものだったという。
 「“ペーン”が音楽で、“ケー”が直すという意味ですね。外から入ってきた音楽を直す。要するに“エディットする”っていう意味ですね。外国の曲を演奏し直して歌詞もそのまま歌ったものと、タイ語の歌詞を乗せて歌ったものと、大きく分けて2つのものがあります。タイ・ファンクはそもそもタイにやってきた米兵向けに作られていた音楽だったんです」



2010年6月に東京で開催された<PARADAISE B
ANGKOK IN TOKYO>のフライヤー
 マフトのようにレアグルーヴ視点からタイ・ファンクをディグするDJは、彼が登場するまで皆無だったといっていい。現在ではファンクものから一歩踏み込み、「ファンクよりも、もっとディープなんですよ」という東北部イサーン地方の大衆音楽、ルークトゥンやモーラムへと興味がシフトしつつあるそうだが、タイでDJをする際にはさまざまな困難にも直面しているという。
 「基本的に都会の人はルークトゥンやモーラムを聴かないんです。<PARADAISE BANGKOK>というイベントを立ち上げて3年ぐらい経つんですけど、最初は、“ロンドンから帰ってきたのに、なんでそんな曲ばかりかけるんだ?”と言われました。イヴェント中も“ダサいからやめろ!”なんて罵声を浴びたこともあったし。でも、僕は絶対にやめたくなかったんです。レゲエやアフリカン・ミュージックとミックスすることによって、タイの音楽が海外の音楽とも差がないことをみんなに分かってもらいたかったし。そうやっていくうちにだんだんみんな理解してくれるようになって、最初は5人ぐらいしかいなかったお客さんも、最近では300人ぐらいになってます。ある意味、ルークトゥンとモーラムは僕と一緒に闘ってきたパートナーのような存在ですね」



マフトが主宰するZudrangmaのレーベル・ロゴ
 先述したスレンマーのレーベル・コンセプトに関して、マフトはこのように話す。
 「今のタイでは、あらゆるものの権利を外国人が保有しているんです。外国人に自分たちのものを持ってかれてしまっているような気がして、それをタイの人にまずはわかってもらいたいと思ってます。自国の音楽の素晴らしさにタイの人たちは気付いてないと思うから、自分が集めたレコードを通じて、まずはそれを紹介していきたいんです」
 現在、マフトは、別項で紹介したファインダーズ・キーパーズおよびイギリスの良心的リイシュー・レーベル、サウンドウェイからリリースされる2種類のコンピの制作に携わっているという。
 「タイの音楽の素晴らしさを知ることができたのは、僕自身、すごく運が良かったと思ってます。僕が作ったタイ音源のコンピレーションを聴くことによって、いろんな国の人たちが、それぞれ自分の国にある音楽の魅力を知ってもらえたらいいなと思います」
 そう話すマフトはまだ20代前半。これからの彼がどんな仕事を残していってくれるのか、本当に楽しみだ。
取材・文 / 大石 始



左より、『Thai Funk Zudrangma vol.1』、『vol.2』、『vol.3』(Zudrangma)
マフト選曲によるタイ・ファンク、ルークトゥンを収録したミックスCD。
VOL.1、VOL.2は民族柄がプリントされた布で、VOL.3はもち米を入れる竹細工の容器で
それぞれパッケージングされている。


最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 大好きな街、小田原への愛を込めた「O・DA・WA・LOVE」配信リリース emily hashimoto[インタビュー] ギターミューズRei デビュー10周年 初のベスト・アルバム発売
[インタビュー] 突然、しゃっくりのように曲作りが止まらなくなった… 実力派歌手が初のアルバムを発表 高遠彩子[インタビュー] ふたたび脚光を浴びる作曲家の新作は、フル・オーケストラによるインスト・アルバム 日向敏文
[特集] 「柚木麻子と朝井リョウとでか美ちゃんの流れる雲に飛び乗ってハロプロを見てみたい」アフタートーク[インタビュー] アーバンで洗練されたグルーヴを鳴らす注目の6人組バンド BESPER
[インタビュー] 徹底的に音にこだわった ロックとオーケストラの完全なる“融合” GACKT[インタビュー] イベント〈The Night Unthreads 〜360° floor live〜〉にも出演 00年サウンド再来、CLW
[インタビュー] プロデューサー藤井隆が語る 麒麟・川島明のファースト・アルバム![インタビュー] スーパープレイヤーぞろいのブラス・アンサンブルが、満を持して発表するバロック名曲集 ARK BRASS
[インタビュー] 「私が歌う意味」 自らが選曲したディズニー・ソングで歌手デビュー 檀れい[インタビュー] 突如あらわれた驚異の才能! 10代の集大成となる1stフル・アルバム Meg Bonus
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015