“沖縄の音楽”を今の視点でアーカイヴ化。5枚組ボックス・セット『沖縄の音楽 記憶と記録』

2023/04/21掲載
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 沖縄が本土復帰50年目を迎えた2022年、『沖縄・記憶と記録』と題された展示企画が沖縄と横浜、大阪で開催された。1958年創刊の月刊写真誌『オキナワグラフ』に掲載された写真や沖縄音楽のレコードなどを2022年視点でアーカイヴし、話題を集めた同企画の音源版として今回リリースされたのが、CD5枚組のボックス・セット『沖縄の音楽 記憶と記録 コンプリート CD BOX』である。
 選曲と監修を手がけたのは立川直樹(プロデューサー)と小浜司(島唄研究家)のふたり。戦前から現在までの沖縄民謡のみならず、ジャズやロックなども収録した横断的な選曲には、彼らの「ある思い」が込められていた。212ページにおよぶブックレットには小浜による詳細な全曲解説が記されているほか、40ページの「沖縄の音楽マガジン」も付属。立川自身も「入門編でありながら、永久保存版」と胸を張る沖縄音楽の宝箱について、立川と小浜に話を聞いた。
――立川さんは70年代から沖縄音楽を意識されていたそうですね。
立川「そうですね。僕は昔からジャンルで音楽を聴かないんですよ。いいものはいいという感覚。だから、沖縄から島唄やロック、ジャズがまとめて入ってきたとき、すごく性に合う感じがしたんです。ロックと民謡が共存していて、そのチャンプルー感がおもしろかった。沖縄には本土返還(1972年)の前にも行ったことがあるんですけど、僕自身、東京でもFEN(註・Far East Network/極東放送網。現在のAFN)を通してアメリカ文化に触れていたので、沖縄に行っても居心地が良かったんですよ」
――そのころから民謡にも触れていたんでしょうか。
立川「触れていましたね。ポルトガルのファドとかラテンのような世界各地の民謡的なものが好きだったんですよ。そういったものと同じ感覚で沖縄の民謡を聴いていたのかもしれない。歌謡曲でも仲宗根美樹さんとかエキゾチックなものが好きでしたし」
沖縄の音楽
左/小浜司(島唄研究家) 右/立川直樹(プロデューサー)
――立川さんと小浜さんが会ったのはいつごろなんですか。
立川「2年ぐらい前ですかね?」
小浜「そうですね。(沖縄市の)キャンパスレコードでお会いしました」
立川「(沖縄音楽の)全集を作るアイディアが閃いて、誰と一緒に作るのがいいんだろう?と何人かに相談したら、みなさん小浜さんの名前を出すんですね。それで一度お会いしようと。小浜さんはそのとき蓄音機を持ってきて、SPレコードを聴かせてくれたんです」
小浜「打ち合わせのとき、沖縄音楽をどう紹介するのがいいのかなと考えてたんですけど、もう聴かしちゃったほうが早いなと思って」
立川「レコードをかけながら解説してくれるんだけど、小浜さんは記憶を言語化するのがすごく上手いんですよ。わかりやすいんだけどディープでね。これは楽しいことになりそうだと思いました」
――メールやリモートではなく、沖縄の空気を吸いながら直接コミュニケーションを取ったことも大きかったのかもしれませんね。
立川「そうですね。そういうコミュニケーションがなかったら今回の全集はできなかったと思う。沖縄の空気が入ってる感じがするんですよ」
小浜「立川さんは復帰の前から沖縄に来てるわけですけど、あのころ沖縄のラジオは常に民謡が流れていたんですよ。その雰囲気をお互い体験していたことも大きかったと思います」あ
立川「タクシーに乗ってもラジオがかかってるわけで、触れる機会は多かったですね。テレビをひねると、FENのテレビ版でシュープリームスが流れてるし、沖縄、ちょっとやばいぞと(笑)」
沖縄の音楽
沖縄の音楽
沖縄の音楽
――そもそも今回のプロジェクトはどのような経緯で始まったんでしょうか。
立川「吉本興業の大会長から“沖縄の復帰50年のタイミングで何かやりたいと思っている”と相談されたので、展覧会を提案したんですよ。なおかつ映画のサントラみたいなものがあったらおもしろいんじゃないかと。ずいぶん前に沖縄でとあるプロジェクトをやろうとしたことがあったんだけど、なかなか大変で、実現しなかったんです。今回は沖縄のどなたかと共同でやったほうがいいんじゃないかと考えていたところで、小浜さんとお会いしたんですね。この人だったら大丈夫だと直感的に思いました」
――『OKINAWA MEMORIES AND RECORDS 沖縄・記憶と記録』と題された展示企画が沖縄の大宜見村で開催されたのが2021年12月ですね。その後、那覇、横浜、大阪でも開かれたわけですが、『オキナワグラフ』(註:1958年に創刊された沖縄県内唯一のグラフ誌)の誌面やレコードジャケットが展示され、沖縄の文化史を多角的に紹介されていました。今回のボックスセットはその延長上にあるわけですね。
立川「そうですね。ただし、けっして堅苦しいものではなく、サントラとしても楽しめるものにしたかった。そういうものができたのはやっぱり島唄案内人である小浜さんがいたからこそです」
小浜「学術的なものにはしたくなかったんですよ。だから、チャンプルーです。どこを切っても沖縄音楽が出てくる。混ぜるといってもカチャーシとチャンプルーは違っていて、カチャーシはぐちゃぐちゃに混ぜるわけだけど、チャンプルーは具がわかる程度に混ぜる。その意味では今回はチャンプルーですね」
――学術的なアーカイヴであれば、たとえば「このディスクは1950年代の沖縄のある地域」といったかたちで細かく分類し、整理していきますよね。
小浜「今回はそういうものではないですよね。沖縄の島唄はですね、ヤマトでいうはやり唄のような形で、いつも新しいものが生まれてくるんです。小さな島ですけど、かつては民謡のレコードも何千枚も売れたんです」
立川「レーベルの数もすごいよね。ジャマイカ状態というか(笑)」
小浜「そういう沖縄音楽のあり方を味わえるものにしたくて、ジャンルも年代もチャンプルーな選曲にしたんです」
――プロジェクトのタイトルにそれが表れていますよね。“沖縄民謡”でも“沖縄の伝統”でもなく、“沖縄の音楽”であるところに。
立川「そうそう、“沖縄の音楽”なんです」
小浜「沖縄で生まれたものはすべて“沖縄の音楽”ですからね。ロックに関しても、沖縄で生活していて感じ取ったものを選ぼうと考えていました」
立川「“沖縄の音楽”を謳ってる以上、ロックがないのも変ですからね」
――時代もジャンルもさまざまで、ジュークボックスを聴いているような感覚になりました。
立川「沖縄のジュークボックス文化っておもしろくて、昔は美容院にもあったぐらいで、どこにでも置いてあったんですよね。ジュークボックスとライヴとラジオが重要な意味を持っていた。だから(音楽が)チャンプルーしてるんだと思う。今おっしゃっていただいた“ジュークボックスを聞いてる感覚”というのは、まさに僕らが狙っていたものでもありますね」
小浜「新しい歌い手が出てくるとまずレコードを作ったんです。なぜかというと、ジュークボックスに自分のレコードを入れたいから。ジュークボックスに入ったものがラジオでかかるようになり、それでみんなの耳に届く。だから、オリジナルのレコードを作るというのは新しい歌い手にとってもステータスみたいなものだったんですよ」
立川「東京や大阪と比べると、沖縄のほうが音楽の伝わり方がプリミティヴだった気がします。音楽がよくないと、グルーヴがよくないとみんな聴いてくれない。本土はこうすれば売れるだろうという作為的なものがあるけれど、沖縄は音楽に求めるものがシンプルで、そこが魅力なのかもしれない」
沖縄の音楽
沖縄の音楽
――5枚のディスクにはどのように曲を振り分けていったんでしょうか。一枚ごとのテーマがあった?
小浜「いや、特別なものはないですね。選んだ曲からどうやってわけていこうかというぐらいで。今回は大正5年に録音された(富原盛勇の)〈今帰仁宮古ノ子〉のSP版を持っている方とお会いしまして、録音させていただいたんですね。〈今帰仁宮古ノ子〉は沖縄で最古の音源だといわれていて、そこから2019年までの録音をまとめるというのが大きなテーマですよね。だから1枚目のディスクの1曲目には〈今帰仁宮古ノ子〉を入れました」
立川「最初に小浜さんが選曲していた段階では、もう少し系統立てたものになってたんですよ。だけど、(選曲が)進むにつれてチャンプルー感が出てきましたよね」
――先ほどから何度も出てきた“チャンプルー感”が今回の作品のおもしろさですよね。たとえば、1934年に録音された「安里屋ユンタ」の一番古い音源が入ってますけど、その次に照屋林助さんの「職業口説」(1974年)が入っている。時代も文脈も異なるけど、誰もが知る「安里屋ユンタ」のメロディに次に照屋林助さんの特徴的な口説が始まると、景色が突然変わってハッとさせられるんですよね。そういう仕掛けがあちこちにあって、ちょっとDJ的な感覚もしました。もしくはサントラ的というか。
立川「そういっていただけるとすごく嬉しいですね。最近だったら(映画)『ハウス・オブ・グッチ』なんかは古い曲が40曲ぐらい使われてますけど、ジャンルも何も関係なくてもなりたっている。この全集もそういうものにしたかったんです。沖縄の歴史と人々の記憶が入り混じったものというかね」
――戦後の混乱期に作られた歌もたっぷり収められていますよね。「PW無情」などは戦後まもない時期、捕虜収容所のなかでカンカラ三線で歌われていた歌ですが、小浜さんが執筆した解説にはそのことも丁寧に綴られていて、今回のボックス・セットでそうした歴史を知る方も多いのではないかと思います」
小浜「そうですね。ディスク1の3曲目には〈三絃ヒヤミカチ節〉という曲が入ってますけど、これも戦後まもない時期に作られたものです。山内盛彬さんという方が作ったもので、最初はオペラのために作ったんですよ。それをのちに登川誠仁さんが(三線の)速弾きにアレンジして、知名定男さんが歌った。今では高校野球の応援歌に使われていますけど、ここに入っているのは山内盛彬さんが80歳のときの録音です。そういえばね、60年代、山内盛彬さんが沖縄に帰省した際、バスに乗ったら知名定男さんが歌った〈ヒヤミカチ節〉がかかったそうなんですよ。この曲、確か私が作ったものだけど、こんなだったっけ?と驚いて、思いがけなく歓迎されたと喜んだそうです(笑)」
沖縄の音楽
――1曲1曲にストーリーがあるのがおもしろいですよね。
立川「小浜さんとレコードコンサートをやると、今みたいに解説してくれるんです(笑)」
――沖縄は独自のジャズ史を刻んできた土地でもありますが、沖縄を代表するジャズ・シンガー、与世山澄子さんの「サマータイム」も収録されています。民謡を聴いたうえで与世山さんの歌を聴くと、また違って聴こえてきますよね。
立川「与世山さんの〈サマータイム〉は沖縄のジャズなんだよね、見事に」
小浜「与世山澄子さんは自分のお店(註:那覇の“インタリュード”)を持ってるんですけど、一声出すと、それがもう与世山節なんですよね。今回何を選ぶか考えたんだけど、やっぱり〈サマータイム〉だろうと」
――現代のジャズ・シンガーである安富祖貴子さんも入っています。
立川「小浜さんのいう◯◯◯節というのは重要だろうね。安富祖さんはアルバム一枚をニューヨークでプロデュースしてるんだけど、そのときに彼女もやっぱり沖縄の歌手という感じがしました。民謡はもちろん、歌謡曲でもひとりひとりの“節”がある」
――紫やコンディショングリーン、KYAN MARIE with MEDSUSAなどロック・バンドも入ってますけど、確かに“紫節”“コンディショングリーン節”がありますよね。
立川「そうそう。それぞれの節があるから人を惹きつけるんだろうね。沖縄に限らず、節がない人って残らないと思う。うまいけど、ねっとりしたものがない」
――沖縄音楽の現状についてどう思われますか。
小浜「島唄に関しては危機的な状況ではあると思うんですよ。裾野は広がったけど、ウチナンチュー自体が興味を示さなくなりつつある。ただ、三線の音はウチナンチューの血液みたいなものなので、祭りなど節目節目には三線の音が聴こえてくる。そういう意味では、沖縄から島唄が消えることはないと思います。今回作ったCDをぜひ若い方にも聴いていただいて、沖縄音楽の素晴らしさに気づいてほしいですね」
――近年は与那国島の與那覇有羽さん、宮古民謡に取り組む松原忠之さんなど、若くて力のある歌い手も出てきていますよね。
小浜「ふたりとも僕が作品をプロデュースしてるんですが、頼もしい限りです。松原忠之は宮古で生まれ育ったわけじゃなくて、浦添市の生まれですよね。でも、宮古島出身の両親から受け継いだ“宮古の心”をもっている。ただ、刺激が必要だとも思っています。このCDの発売記念イベントが4月15日にあって松原忠之にも出てもらうんですが、〈伊良部トーガニー〉は今まで(師匠である)国吉源次の歌詞でしか歌ったことがなかったんですね。それもいいんですけど、発売記念イベントでは今回のCDに入っている〈兼島節〉の歌詞で歌ってもらうんですよ(※取材はイベント前に行なわれました)」
――このボックス・セット自体がそうした刺激になるといいですね。
立川「そうですね。沖縄に限ったことではないと思うんですけど、それぞれの土地ならではのオリジナリティが失われつつありますよね。音楽も膨大な情報のひとつとされているけど、一方ではレコードやカセットテープの売り上げが伸びてきたりと、フィジカルがふたたび注目を集めている。そういう時代だからこそ今回みたいな全集が必要だと思うし、これがひとつの起爆剤になればいいと思っています。小浜さんと一緒に、そういう力を持ったものを作れたんじゃないかな。魔法の瞬間みたいなものがいっぱい入った全集だと思います」


取材・文/大石 始
CDボックス撮影/斎藤大嗣
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