ビッグ・バンド界の甲子園は熱かった〜〈YAMANO BIG BAND JAZZ CONTEST〉ライヴ・レポート

2009/09/09掲載
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 日本の夏に開催される熱いバトルといえば甲子園が真っ先に頭に浮かぶ方も多いだろう。その一方、音楽の世界にもワクワクドキドキ、アドレナリン出っ放しの“夏の戦い”が毎年繰り広げられているのを皆さんはご存じだろうか。その大会こそ“YAMANO BIG BAND JAZZ CONTEST(以下YBBJC)”。大学生のビッグ・バンドを対象に、全国予選を勝ち抜いた精鋭たちがスウィング、スウィング、またスウィングの演奏で鎬を削る一大イベントだ。今年も8月22、23日に行なわれたコンテストから2日目の様子をレポートしよう。


■立教大学の演奏に会場が沸く

立教大学 ニュー・スウィンギン・ハード

 国立音楽大学や明治大学といった名門ビッグ・バンドの見事な演奏で大盛況となった初日を終えて迎えた2日目。この日は東洋大学グルービー・サウンズ・ジャズ・オーケストラの演奏からスタートした。午前中一発目の登場という緊張感あふれる状況でありながら、リズム、ハーモニーともに安定した演奏を聴かせて会場は一気にヒートアップ。この日も熱い演奏が続く予感を抱かせる。

 続く法政大学も落ち着いたサウンドを聴かせるなか、さらに会場をうならせたのが3バンド目に登場した立教大学ニュー・スウィンギン・ハードだ。学生とは思えない圧倒的なグルーヴでぐいぐいスウィングさせるリズム隊、分厚い音圧と細部まで計算された絶妙なホーン・ハーモニー、流れるようにフレーズを紡ぎだすトランペット・ソロで会場を魅了した。

 7バンド目に登場した早稲田大学ハイ・ソサエティ・オーケストラは、多くのプロ・ミュージシャンを輩出している名門ビッグ・バンド。例えば初日の最後にゲスト出演した人気バンド"BATTLE JAZZ BIG BAND"のメンバー全16人中、なんと6人がハイ・ソサエティ・オーケストラ出身。同バンドの卒業生でいまはプロとして活躍するピアニスト、宇関陽一の曲「Prelude〜New Departures」を演奏するなど、バンドの個性を前面に出した丁寧なプレイを聴かせた。


■三世代にわたる夢の共演
 中盤ではYBBJCの40回記念として"THE 40th スペシャル・ステージ〜魂がつながる瞬間"と題したコーナーが設けられ、3バンドが演奏を披露した。

 まずはハイ・ソサエティ・リユニオン・オーケストラ。彼らは1960〜70年代に早稲田大学を卒業したOBたちで結成された超ベテラン・バンドだ。どっしりと落ち着いたハーモニー、安定したビート、そして滑らかでユーモラスなMCで会場は大いに盛り上がった。

 次にスターライト・オーケストラが登場。彼らは慶應義塾大学 ライト・ミュージック・ソサエティのOBで構成されている。驚くなかれ、ライト・ミュージック・ソサエティの結成は1947年。今年で62年目を迎える"プロ・アマ問わず日本で一番歴史の古いビッグ・バンドのひとつ"なのだ。今回のYBBJCに向けて結成されたバンドとは思えない、リラックスした演奏で楽しませてくれた。

 そして最後に登場したのは富士学苑高等学校のムーン・インレット・サウンズ・オーケストラ。高校生で結成されたビッグ・バンド、さぞや初々しい演奏を聴かせてくれるものと期待していたら……これがまたなんともお見事のひとこと。それまで聴いてきた大学生たちの演奏と遜色ない、高い演奏レベルで驚かせてくれた。

 学生ビッグ・バンドの素晴らしいところはこのように世代を超えて楽しめるところだろう。卒業して就職したり結婚したり、人生の状況が変わっても長く続けられる。そして続ければ続けるほどしっくり味のある演奏ができあがるものだ。


■泣くものあり、笑うものあり

洗足学園音楽大学 はにかみーず

 休憩を挟んで第2部がスタートした。

 関西ならではのハイ・テンションでユーモラスなMCとは対照的に熱い演奏を聴かせた天理大学のALSジャズ・オーケストラを皮切りに、愛知学院大学、京都大学とスウィンギーなナンバーを聴かせる。

 11番目に登場した洗足学園音楽大学のはにかみーずは本選初出場。手元のパンフレットに掲載された演奏予定曲目には「Just Like the はにかみーず」「キラリ流れ☆」「ぱにぱにーず」と謎の文字が並んでおり、開演前から気になっていた。しかも、メンバーの楽器欄にはひとり"RAP"という文字がある。これはキワモノか……と思いきや、ハーモニーはぴったり、ギター・ソロは音色・フレーズともにプロ顔負け、1曲目の途中で突然乱入してきたラッパーも会場を大いに盛り上げた。さらに、メンバーが作曲した楽曲はメロディアスな佳曲で、さすが予選を勝ち抜いただけはある。人は見た目で判断してはいけないと改めて実感した。

 以降、国際基督教大学、学習院大学、大阪大学と演奏は続き、最後に1970年代からゲスト・バンドとして参加し続ける"YBBJCの代名詞"森寿男とブルーコーツの演奏をもって2日目は幕を閉じた。



国立音楽大学 ニュー・タイド・ジャズ・オーケストラ



明治大学 ビッグ・サウンズ・ソサエティ・オーケストラ

 2日目の最後には総評と表彰式が控えている。

 会場中が緊張に包まれる。

 司会の国府弘子の口から受賞バンドがコールされるたびに会場に響く歓声とため息。壇上では受賞を喜ぶバンドあり、優勝を狙っていたのに……と悔しがるバンドあり、マイクを振られてボケてみるも冷たくあしらわれるバンドありと最後まで楽しめるイベントだった。

 ちなみに、彼女の冷静かつユーモラスな司会振りもコンテストの見どころの一つだった。次回来場される方々は、ぜひ演奏だけではなく彼女の軽妙なトークも存分に堪能していただきたい。

 学生ビッグ・バンドによる熱い夏が、今年も終わった。


取材・文/山口和史(2009年8月)
写真提供/山野楽器YBBJC実行委員会
【2009年の受賞バンド一覧】
第1位 最優秀賞 国立音楽大学 ニュー・タイド・ジャズ・オーケストラ
第2位 優秀賞 明治大学 ビッグ・サウンズ・ソサエティ・オーケストラ
第3位 優秀賞 立教大学 ニュー・スウィンギン・ハード
第4位 スイングジャーナル賞 早稲田大学 ハイ・ソサエティ・オーケストラ
第5位 76.1InterFM賞 慶應義塾大学 ライト・ミュージック・ソサエティ
第6位 日刊スポーツ賞 同志社大学 ザ・サード・ハード・オーケストラ
第7位 特別賞 大阪大学 ザ・ニュー・ウェイヴ・ジャズ・オーケストラ
第8位 敢闘賞 天理大学 ALS ジャズ・オーケストラ
第9位 審査員賞 甲南大学 ニューポート・スウィング・オーケストラ
第10位 奨励賞 青山学院大学 ロイヤル・サウンズ・ジャズ・オーケストラ

最優秀ソリスト賞 劉 慎太郎 (tp) 立教大学 ニュー・スウィンギン・ハード
優秀ソリスト賞 中山 雄貴 (tb) 甲南大学 ニューポート・スウィング・オーケストラ
優秀ソリスト賞 梅田 和利 (g) 洗足学園音楽大学 はにかみーず
ベストランクアップ賞 洗足学園音楽大学 はにかみーず
CDジャーナルムック
熱闘!BIG BAND〜学生ビッグ・バンドの熱い夏〜


 『熱闘!BIG BAND〜学生ビッグ・バンドの熱い夏〜』は、YBBJCの40年を総括したメモリアル・ブック。コンテストの歴史を振り返る「YBBJC 40年の歩み」、伊藤たけし、神保彰、本田雅人らコンテスト出身のプロ・ミュージシャンたちへのインタビュー、過去に撮影された膨大な写真からピックアップして構成した「写真で見るYBBJCの歴史」、審査員による「コンテストに強くなる秘訣」などボリュームたっぷりの内容。これ一冊あれば、YBBJCのすべてが丸分かり!

■YBBJCホームページはこちら
http://www.yamano-music.co.jp/docs/ybbjc/index.html
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