フランス電子音楽シーン最前線 vol.4

2013/06/28掲載
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 今年も春のパリは、6月のシーズン末を前にさまざまな電子音楽関係のイベントが目白押しで盛り上がりを見せました。その中から今回は、〈クアルツ・エレクトロニック・ミュージック・アワード〉〈プレザンス・エレクトロニック2013〉〈ソニック・プロテスト〉〈エクスタンション〉の様子をレポートします。

 まずは4月4日、〈クアルツ・エレクトロニック・ミュージック・アワード〉の第9回授賞式が、キャバレー“ムーラン・ルージュ”に併設する、クラブ兼ライヴ・ハウス“マシーン・デュ・ムーラン・ルージュ”で行なわれた。2002年にアレクサンドル・グロエルにより、クリエイティヴなインディペンデント電子音楽制作を支援・促進するために立ち上げられた賞で、ピエール・アンリが名誉会長を務める。

 今年はシングル賞、新人賞、実験賞、アルバム賞、マックス・マシューズ賞、名誉賞の6つの部門からなる。なかでもINA/GRM(フランス国立視聴覚研究所 / フランス音楽研究グループ)とIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)のサポートする実験部門は2人の受賞となった。対象となった作品は、オヴァル(マーカス・ポップ)の『OvalDNA』(Shitkatapult)と、同じくドイツを拠点にする若手の及川潤耶の『Bell Fantasia』(ZKM)。ノスタルジックで洗練された響きが印象的な及川、2010年の復帰アルバム・リリース後さらなる邁進を続けるオヴァルの新作が、近いうちにGRMやIRCAMで演奏されるかと思うと楽しみである。

 また、今までにピエール・シェフェール、ビョークらが受賞した名誉賞は、デトロイト・テクノの創始者のひとり、デリック・メイに贈られた。メイは、授賞式とカクテル・パーティの後、“ダンスフロア・ヒーローズ”パーティの最初のDJを務めた。

 なお、授賞式ではレーベルの見本市や、シルヴガイスト・マエルストロムなど7組のパフォーマンスが行なわれた。また翌日のクアルツ・マッシヴ・ナイトには6組のアーティストが出演した。

 実験音楽からエレクトロニカ・ポップまでカヴァーするジャンルやスタイルの多様性が持ち味の面白い賞なのだが、当初は19あった賞が徐々に減っている。今年から実験賞へのIRCAMの参入に、関わりの深かったGRMの来年の撤退と10年目を迎え、変化のときでもあるようだ(※)。

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ダニエル・メテオ(Shitkatapult代表)と及川潤耶 / デリック・メイ

 続く4月5〜7日には、GRMで毎年恒例の電子音楽祭〈プレザンス・エレクトロニック2013〉が開催された。今年も国際的な顔ぶれが“104”に集まり、パリの電子音楽ファンを楽しませてくれた。

 初日の夜のコンサートの聴きものは、電子音楽史に刻まれるモートン・サボトニックの『Silver Apples of the Moon』の抜粋。1967年にブックラ・シンセサイザーで作曲された音自体は時代を感じさせるものの、生き生きとしたつくりは今でも十分に面白さがある。マルク・バティエがGRMならではの多数のスピーカーによるアクースモニウムを用いて、その醍醐味を堪能させてくれた。

 また、フェリックス・クービンのパフォーマンスでは「腕の骨折」「首の切断」「セロリ」といったアナウンスの後に続く短い物音の録音を軸に、音源とそのあいまいな意味をユーモアたっぷりに戯れさせる手法に個性が光っていた。

 注目されたトリのピーター・レーバーグ、スティーヴン・オマリーのデュオ、KTLはエレクトロニクスとギターのノイズ・ドローン。ホワイトノイズ、高音の倍音、まるでコントラバス・チューバのような厚い重低音などが現れては重なる。細部の音のエネルギーが魅力。

 2日目の目玉は、ふたりの日本人アーティスト。まずは、パリにもファンの多いKK NULL(岸野一之)が16時からのコンサートで、自身の作品『Cryptozoon』から新たにつくった短縮ヴァージョンを演奏した。意外に爆発的な音量ではなく、しなやかにクレッシェンド、ディミヌエンドを繰り返し、小刻みに表情を変えていく。雷鳴や虫・鳥の鳴き声など印象的な森の中のフィールド・レコーディングによる自然の音が、クリック音や電子音と混ざり合い、ビート感のあるテクノ風な部分とアヴァンギャルドな部分を自由に行き来する。見事な流れの楽曲演奏に大きな拍手が贈られた。

 18時からの部では、フランス在住のトモコ・ソヴァージュが、大小の陶器のボウルに入った水と水中マイクを使ったライヴ・パフォーマンスを行なった。ボウルの中の水をコップで移し、水位を変えることで音の高さを変えながら叩く、あるいは指でかき回すことでできる波紋のつくるヴィブラートなどを水中マイクで拾い、ループやディレイさせる。穏やかでありながら、豊かな水の生命感にあふれるサウンドが独特の音世界を描いた。

 最終日の夜のコンサートの締めくくりは、ベン・フロストが2009年にリリースしたアルバム『バイ・ザ・スロート』をもとにライヴ演奏を行なった。全体的に同じマイナーコードが響く、メロディアスなアンビエント・サウンド。そこに、電子音のパルスにフィードバック音、獣のうなり、犬の鳴き声のつくるリズム・ループなどが絡まる。胸に直接響く大音量の重低音、不安感をあおるような雰囲気が印象に残った。

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KK NULL / トモコ・ソヴァージュ
(c)INA - Aude Paget

 4月11〜21日には今年で9回目を迎える実験音楽フェスティヴァル〈ソニック・プロテスト〉が開かれた。期間中はインスタレーションや展示もあり、その後フランス各地、スイス、ベルギーでのコンサートへと続く。

 16日、18区にある“フルリー・グット・ドール”で行なわれたコンサートでは、中国のハーシュ・ノイズ・グループ、トーチャリング・ナースが初来仏ということで注目を浴びた。演奏前に覆面をかぶり、縄を持って客席を回るといった演出と、勢いのある激しいノイズ・ミュージック・パフォーマンスで会場を沸かせた。また、中国の琵琶とエレクトロニクスのデュオ、COMPUTER PIPAでは、李帯果の鮮やかな指さばきとロラン・“キンク・ゴング”ジャノーの音が見事に融合していた。

 とくに人気を集めた17日のパリ近郊パンタンの“ラ・ディナモ”でのコンサートでは、スティーヴン・オマリー、アッティラ・シハー、オレン・アンバーチのトリオ、グレイヴテンプルが際立っていた。“ドゥーム&ドゥーマー”と題した即興ライヴでは、3人とも参加しているドゥーム・メタル・バンド、Sunn O)))を彷彿とさせるダーク・アンビエントなドローン・ノイズ・ミュージックを展開した。シハーのデス・ヴォイスでありながら瞑想的な声は、強烈な存在感を持つ。最後はエネルギッシュなアンバーチのドラムとともにグルーヴ感あふれる盛り上がりを見せ、会場を沸かせた。

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グレイヴテンプル
(c)ISonic Protest

 5月にはリュック・フェラーリが創設した国立音楽創作センター、ラ・ミューズ・アン・シルキュイ主催の音楽祭〈エクスタンション〉が開かれた(2〜29日)。こちらは今年で13回目となる。

 なかでも、23日にはフランスのノイズ・ミュージック界を代表するひとり、フランク・ヴィグルー企画のフェスティヴァル“ブリュイ・ブラン(ホワイト・ノイズ)”との共同コンサートが行なわれて注目を集めた。場所はパリ近郊アルクイユの“アニ・グラ”という元アニス酒蒸留所。

 前半、若手からフェラーリやイヴォ・マレクまで複数世代による6つの電子音楽作品が演奏された後、後半ではヴィグルーとピアニスト / 作曲家のラインホルト・フリードルによる“砂漠”と題したライヴ・パフォーマンスが行なわれた。ピアノの内部奏法で知られるフリードルはイーボウ(電気弓)で弦を擦り、うねりのある音色を出したり、低音弦を叩いてアンティーク・シンバルのようなものを跳ねさせたりと、多様な響きのパレットを展開した。対するヴィグルーはピアノの音を取り込みつつ、ノイズの波を繰り広げる。寄り添うデュオの生気に満ちたノイズ・サウンドは圧巻だった。

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フランク・ヴィグルー / ラインホルト・フリードル
(c)La Muse en Circuit - Vincent Hindson

 興味深いことに、どのイベントも2000年代前半に創立され(〈プレザンス・エレクトロニック〉は2005年から)10年前後経っている。ちょうどその頃に、コンピュータの普及とともに電子音楽も一般化してきたという要因もあるのだろう。10年を迎えますます躍進といきたいところだが、ここ3〜4年はヨーロッパの不況が影を落とし、ブールジュの音楽祭・コンクールなど消えてしまったイベントもある。節目・変動の時期に、こういった枠組みに囚われず、趣味の異なるリスナーにも開かれた形の電子音楽イベントが定着し、さらに活性化することに期待したい。
取材・文 / 柿市 如
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