世にも美しい“切れ目の戯言”――ATOSONE(RC SLUM / Boutique Strange Motel)

ATOSONE   2019/05/13掲載
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 “名古屋を拠点に活動するヒップホップ・レーベル”であり、“NEO TOKAIを代表するクルー”こと、RC SLUM。彼らを紹介する言葉として間違いはないのに、伝えきれていない想いがいつも残る。リリースされた作品はもちろん、不定期に催されるパーティ〈METHOD MOTEL〉など、その活動を他と一線を画するものへ昇華しているのは、オーナーであるATOSONEであることは間違いない。彼が今年オープンさせたBoutique Strange Motelを訪れ、話を訊いた。
――ジャン・コクトーはお好きですか?
 「好き。何もできないけど、何でもできる人。コクトーと(パブロ・)ピカソだったら、絵画としてはピカソの方が評価される。でも人間としての面白さなら、コクトーには半端ない魅力があったはず。誰にでも愛されて、どこにでも顔を出せたんじゃないかな。人たらしで俺に似てるね」
――コクトーは“孤独は有益で自分の生気をよみがえらせてくれる”“作品のテーマは孤独”とかつて語っていますが、これはATOSONEにも言えること?
 「そうでしょ、みんな孤独でしょう。孤独だからこそ人とつながることができる。人恋しさって本当はそういうこと。嫁がおって子どももできたけど、結局、人間は他人によってしか、自分を見ることができない。ずーっと孤独っすよ。結婚して変わったことは、美人が毎日横にいるな、ってくらい。まだ知り合って2年くらい、あいつも俺のことわかってないし、俺も彼女のことわかってない」
――5月には、東京で開催される〈Group Exhibition“KARTELL”〉に参加されるそうですね。
 「コラージュがテーマで、『ZOOM』っていうフランスの本から取った写真を使って、せこせこ縫った。何でも食えるんですけど、嫌いなのはまずいもの。アートも同じです。昔、“美しくなければ絵じゃない”っていう先生から絵を教わった。自分の好きなものにだけ囲まれていたい。俺にとって音楽は、コクトーにとっての絵。自分の中で、音楽をやる人格って一番若いんです。洋服屋、絵を描く、不良、デザインする、物語を書くってのは古い人格。最近は俺のことを“ラッパー”って認識してる人もいるけど、それはないね。だって素人だもの。“#WHO WANNA RAP?”(2015年)の時はプロジェクトとしてやらなきゃいけなかったから、俺がラップしたらこれくらいのことしかできないよっていうことと、これくらいはできるよっていう手の内を明かしただけ」
――RC SLUMをヒップホップ・クルーではなく、ラップ・クルーだという捉え方をすると、ATOSONEの存在は理解しづらいかもしれません。
 「今、“RC SLUMが俺の住所だ”って言えるかは怪しい。もういろんなことが終わって、俺は飽きてる。かつての熱量はないし、変わっていないとしても傾け方が違う。がっかりさせるだろうけど、俺は正直、過去やってきたことすべてに飽きてます、でも昨日、カズオ(MC KHAZZ)がDJ HIGHSCHOOLに怒られて、その怒られたカズオが俺とみっくん(MIKUMARI)に怒って、俺とみっくんが仲直りしたから、やっぱりRC SLUMが俺の住所ですね」
――ティアドロップの刺青を消したんですね。
 「ガキができて……くらいの感じ。あれには意味があって、誰もが入れていいものではない。何かを失った時に入れるもの。子どもが生まれた今は必要ない。入れるに至った業、カルマは俺の中で終わったんです。たばこのフィルターを燃やして、自分で焼いた。最初は結構大きくやけどになったけど、知らなければわからないくらいにきれいになったっすよね。すげえ痛かった、ものすごい血も出て“これこそ血の涙”だって(笑)。服とか血まみれで、帰ってきた嫁が驚いて焦ってた」
――こんなにきれいになるなんて本当に役目を終えた感じ。でも、誰よりも似合っていました。
 「うん。トレードマークみたいだった。そういうのはもういいだろうってことでもある」
――自分が死ぬことについて考えたことありますか?
 「ある。明後日だったら死んでもいいかなって。それで明日になったら、また明後日ならいいかなって1日ずつ延長してきた感じ。死ぬまでそうやって延長していくのかな」
――好きな本ってありますか?
 「(チャールズ・)ブコウスキーとか色川武大が好き。酔っ払い、ヤク中の戯言。本はたくさん読んでるけど、睡眠薬の代わりというか、寝られないから読む感じ。俺の書く文章(ZINE『WALTZ』『COIN LAUNDRY』)も経験則でしか書けないから切れ目の戯言、言い訳ですね。実際、いろんな人が本を紹介してくれたりするけど、自分のことじゃないと響かない。本を読むことや音楽を聴くことが好きなのか、麻薬が好きなのかわからないところもある。どっちが自分の本当なのかを知りたくて、薬物をやめて2年経ってすごく変わった。“ちょっと俺、色気なくなったかも”って思ったり。最初の1年はほんとにつらかったし、みんなに迷惑をかけました。コクトーを好きになったきっかけは『阿片』という本に“月と距離が近づいた”っていう言葉があって。俺にも月と距離が近づいた瞬間があったから、読んだらコクトーの気持ちがわかるかもしれないって」
――映画もよくご覧になりますか?
 「観ますよ。セキヤくん(GRINGOOSE)がむっちゃ教えてくれます、良い映画ばかりではずれがない。『4ブロックス』っていうアラブ系ギャングのドラマも面白かった。でも、哀しいだけの話ですよ」
――映画、本、音楽をなぜ必要とするんでしょうね?
 「孤独だからでしょ(笑)。そこに戻ってくるはずです」
――普通の生活では満たされないものを昇華させるためなのかと、私は思っています。
 「普通の生活に無縁だからその感覚はわかんない。この年齢になって、社会と接点を持ってみようってバイトに応募したけど、結局"両手両足骨折してこのメールも顎で打ってます"って面接は断った(笑)」
――普通の生活をしながらアーティストとして活動している人もたくさんいますよね。
 「COVANとかC.O.S.A.はそういう生活をしてるから、聴いている人の共感も得られるんじゃないのかな。でも、俺の美意識やセンスは、働かずにずっと遊んでるから身に付いたもの。ザトくん(STRUGGLE FOR PRIDE / DJ HOLIDAY)が魅力的なのもそうでしょ。だから逆にみんな、俺の言うことなんてわかんないと思う」
――SQUAREで働いていた頃も普通の生活ではなかったんですね?
 「あれは“部屋住み”だった。ボスのONIくんは兄貴みたいな感じだったし、自分と仕事の境目はなかった。大きいハイエースの後ろをハンガーラックに改造した移動服屋さんを親戚がやっていて、小6くらいからずっと洋服が好きで、それくらいから洋服は売るもんだって意識があった。だから俺は洋服屋。それが正解だし、“ラップなんかしてんじゃねえよ、服屋なんだから服たためよ”って前の女とヒロシ(DJ BLOCK CHECK)には言われたね」
――栄にあったお店(STRANGE MOTEL SOCIAL CLUB)も、このBoutique Strange Motelも、美意識がとても伝わるお店ですね。
 「この態度で発信していることと、扱っている服に違和感がない、俺らしい店だってみんな言ってくれますね。ほかの服屋で“おっさんがなんでそんなストリートぶってんの? そんなの着る? その年になって?”って思うこともある。洋服は売るものだけど、違和感があってはいけない」
――Boutique Strange Motelの会員申し込みの時、“好きな曲”の項目がありましたよね。申し込む手を一度、止めました(笑)。
 「そう、俺の中に入ってくるのと同じことだから簡単に来てほしくない。あの質問でふるいにかけたんですよ(笑)。みんな結構文句言っとったな。好きな曲は人それぞれだし、気分もあるし自由でいいけど、NGもありましたよ」
――RC SLUMの今後の予定を教えてください。
 「UG Noodleを出します。『THE METHOD 2』の〈CITY〉すごく良かったでしょう? UGは昔SHE LUV ITにいて、CE$が紹介してくれた。tofubeatsの〈POSITIVE〉でギターを弾いてるやつ。俺のミックスもまた作りたい。それからCROWN-D、ROCKASENのISSACも出す予定です。リリースは、ジャケがあって、CDがあって、ライヴがある、三位一体じゃないと意味がないし、俺はフィジカルがないとおもしろくない。それにうちのCDは中高生に聴かせたくない。薬物中毒者とインテリに聴いてもらいたい」
――ATOSONEはB-BOYですか?
 「B-BOYはきれいなスニーカーを履くけど、俺はスニーカーをそんなに履かないし、ウィングチップの靴が好き。もう“BOY”って歳じゃない。ヒップホップはあくまでもユースカルチャーだから、こちらが若い人のところに行くんじゃなくて、俺らがおるところに若い人が来ることが絶対だと思う。同じような場所で遊ぶのも飽きたから、違う表現、別の遊び方を改めて提示したい。俺らは俺らで遊ぶから、興味があれば来ればいい」
――飽きたことが次への原動力になっている。
 「ダサい大人を見てきたし、若いやつの邪魔をしたくない。名古屋では音楽じゃないところで計るやつばっかりで、そういうことは違うだろってことを含めて“音楽の話をしよう”ってずっと言ってきた。まともにできねえから音楽やってるのにそんなこと言われてもな。だから、年上でも対等に付き合ってくれるザトくんや、セキヤくんと出会ったのは衝撃でした」
――意外と年齢を気にされるんですね。
 「その年齢なりにっていうことは必ずある。でも俺はどうしても天候とか季節、気分にも左右される。夏にはこれを聴きたいとか、西日が射す時間はこうしたい、とか。朝日はクラブ帰りにしか拝まないから、基本的に西日(笑)。今は違うとこにいるんだけど、金色の犬を飼っていて、そいつは西日が似合うんですよ。キラキラして、きれい。俺はロマンティックでセンチメンタルで、うっとうしいってよく言われたな(笑)」
取材・文・撮影 / 服部真由子(2019年4月)
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