穏やかでパーソナルな色彩に彩られたEGO-WRAPPIN

EGO-WRAPPIN’   2013/04/12掲載
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 時代の空気を掬い取り、唯一無二の音 楽センスでハイブリッドな“大衆音楽”を鳴らし続けてきたEGO-WRAPPIN'。そんな彼らの最新 モードが今まで以上に色濃く反映されたニュー・アルバム『steal a person's heart』がついに届けられた。作品全体に漂う穏やかなトーン、最小限のアンサンブルで構成されたシンプルながらも味わい深いサウンド、しかも曲によっては中納が鍵盤を、森がドラムやベースを自ら演奏する楽曲も収められるなど今まで以上にパーソナルな印象をグッと強め た感のある今作。そこに込められた思いを探るべく、中納良恵と森 雅樹に話を訊いた。
――今回のアルバムは、今まで以上に自分たちの伝えたいことをストレートに届けたいという、ふたりの思いが明確に反映された作品なんじゃないかと思ったんです。それこそ1曲目の「水中の光」とか、ある意味、すごく穏やかなラヴ・ソングだったりするじゃないですか。今までこういう楽曲が1曲目にくることってなかったと思うんです。そこがすごく意外で。
 「やっぱり3.11が大きかったんですよね。あの日以来、音楽の聴こえ方が変わったような気がするんです。個人的には、すごく穏やかな音楽を求めるようになって。そんなときに、ちょうど、よっちゃん(中納)がこの楽曲を持ってきたんですよ。それで僕がヤラれてしまって。まあヤラれてしまったっていうか……すごく粋だなって思ったんです、表現として。震災以降に感じていた自分らの気分を自然に伝えられるっていうか。それで、この曲をトップに持ってきたいなと思ったんです」
――今のEGO-WRAPPIN'のムードを伝える意味でも。
 「うん、そうですね。そういう聴かせ方が一番ナチュラルかなと思って」
――声高にメッセージを叫ぶというよりも。
 「こういう穏やかなトーンで表現した方が、逆に説得力が生まれるということもあるやろうし。やっぱり自分自身変わらざるをえないところもあったし、あの震災って、それぐらいのもんやったと思うし」
中納 「うん。せやな」
――中納さんは3.11以降音楽の聴き方は変わりましたか?
中納 「3.11とはあまり関係ないかもしれへんけど、以前に比べて音楽は聴かへんようになってきましたね。車に乗るようになったから、車ではガンガン聴くんですけど、家ではあんまり」
――音楽の嗜好性が変わったりは?
中納 「森君と同じで、今は気分的に優しい音楽を求めてるところはあるかもしれないですね。昔からフォークとかアコースティックな音楽は好きやったんですけど、最近、特に」
――音楽を聴く頻度が減ったのって何か理由はあるんですか。
中納 「うーん、なんでなんですかね。前とか、めっちゃレコード屋さん行ってたし、気になる新譜も常にチェックして、雑誌とかも読んだりして、ほんま三角座りしてレコード聴いてたんですけど、ある時期から、そういうことをしなくなりました」
――音楽をインプットしなくても済むようになってきたんですかね。
中納 「ああ、そういうのもあるかも分からないですね。以前は肥やしみたいな気持ちで音楽を聴いていたところもあったと思うんです」
――職業柄。
中納 「そうそう。前はもっと、こういう曲を作りたいとか、こういうふうに歌いたいみたいなものがあったと思うんですけど、そうじゃなくてもいいみたいなところに来ているのかも分からないですね。今までさんざん良い音楽を聴いてきたという自負はあるし、まだまだ知らんこともいっぱいあるけど、今まで培ってきたものが、自分の中の糧になっていると思うし。今は自分の中から自然に出てくるものを大事にしたいなと思うんですよ」
――曲作りに関して以前と意識は変わりましたか。
中納 「そうですね。今回はそれこそ森君がドラム叩いて、そこから曲を作ったりしてるんで。アルバム全体、割とミニマムな編成になっていて」
――そこもすごく印象的で。また冒頭の話に戻っちゃいますけど、ミニマムな編成であることも含めて、聴き手への“伝え方”を今まで以上に意識したのかなって。
中納 「それはあったと思います。震災以降アコースティックのライヴも増えたし、2人でやったり、ドラムの菅沼(雄太)くんと3人でやったりとかして、そこで要るものと要らないものみたいなことに気が付いたんですよね。EGO-WRAPPIN'を組んだときの気持ちが蘇ったっていうか」
 「原点回帰みたいな感じやったかもね」
中納 「あえてシンプルなところから作った曲の方が良く聴こえるというか。単純に心地良かったんですよね。自分らで全部済ませられる範囲というか、自分らがやれることをやるっていう。そういう意味では今回、すごく創作意欲はあったと思います。“私らには、これしかやれることないし”みたいな。自分らが作った音楽を聴いて、元気になりましたとか言ってもらえるんだとしたら、これほどやりがいがある仕事はないやろって。そこでメラメラと」
――創作意欲が燃え上がった。
中納 「燃え上がりましたねえ(笑)。自分たちで出来ることは全部やってやろうって。D.I.Y.精神ていうか、実際、そういう風にやったほうがすっきりするし、すごく充実感があるんですよ」
 「まあ、あとは単純に、やりたいからやってる、みたいなところもありましたけどね」
中納 「うん。作ってて楽しかった、っていうと子供っぽい言い方になっちゃいますけど、でも、ほんま楽しかったんですよ。また、森君の叩くドラムがなんか良いんですよね。すごく女子っぽくて(笑)」
――女子っぽいドラム(笑)。
中納 「無駄がないっていうか」
 「好きですね、ドラムは」
中納 「めっちゃリズム揺れますけど(笑)。でも、そこがいいんですよね。森君のドラムに合わせて歌ってみて思い出したことがあったんですけど、私、同じ曲やのにバンドが変わっただけで歌詞を忘れるときがあるんですよ。それって何やろうな?と思ったら、音の響きで曲を覚えているっていうことに気が付いて。それと一緒で、曲の作り方も、違う感覚で来られたら違うメロディが生まれるっていうか。そこが面白かったですね」
 「あの感覚は面白かったね」
中納 「で、また森君が改めてギターを持ったときに爆発するんですよ。それが〈ちりと灰〉という曲だったりするんですけど。違うことをやってから、自分の場所に立ち戻ったら、そこに新たな広がりが生まれていたというか」
 「(唐突に)あー、ドラムやりたいわー」
中納 「ははは。もっとやったら、ええんちゃう?」
 「ほんま、もっと叩きたいわ」
中納 「今回ずっとこんな感じで」
――めちゃめちゃ楽しそうじゃないですか。
 「そう、めちゃめちゃ楽しかったんですよ! “やりたい、やりたい”の連続やったな、今回のレコーディングは」
中納 「私も結構、自分で鍵盤を弾いたりして。前やったら、もっとプレイヤーとして優れてる人に頼んでいたと思うんです。でも結局、“こういうふうに弾いてほしい”とか、“こういうふうに叩いてほしい”とか、自分たちなりの要望が、どんどん出てくるわけじゃないですか。お願いしてる限り、全面的にお任せするべきだと思うんですけど……。特に森君はドラムとかめっちゃうるさいんですよ」
 「(笑)」
中納 「それやったら自分でやったほうが早いんちゃう?って(笑)」
 「それで自分で叩いてみたんですけど。理想に近づけようと思って、めっちゃ努力しましたよ(笑)」
――(笑)。その結果、今まで以上に自分たちの色が音にも表れて。
中納 「そう。自分たちらしさを出したかったんですよね、今回のアルバムでは。それを感じてもらえるといいんですけど」
――めちゃめちゃ感じますよ。それこそ演奏の巧拙を越えた部分で訴えかけてくるものがあるなって。
 「やっぱり自分たちでも、そういう音楽が好きなんですよね。技術や知識を越えて訴えかけてくる音楽が」
――僕はジョナサン・リッチマンとかニール・ヤングが大好きなんですけど、やっぱり演奏の巧拙を越えたところで感動してると思うんですよね。それこそ、ラモーンズとかも然りで。
 「すごく分かります。なんか演奏が上手すぎたら、それぞれの色が混じり合わないような気がするんですよね。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの、あの混じり具合とか最高じゃないですか。結局、作り手の色がぐちゃって混ざってるような音楽に魅力を感じるし、自分たちでも常にそういう音楽を作りたいと思ってるんですよね」
――確かにEGO-WRAPPIN'の音楽って、ふたりの色の混ざり具合が、その都度、微妙に変わっていて、そこもまたおもしろいなと思うんです。
中納 「森君にしか出せない色とかありますよね。ギターの響きひとつ取っても独特だなと思うし。たとえばライヴ前に他の人がサウンドチェックでギターを弾いていても、森君に変わった瞬間に分かりますから」
 「へえ。そうなんや」
中納 「森トーンあるよ(笑)。確実にある」
 「マジっすか?」
――ちょっと一癖あるというか、一筋縄でいかないギターですよね。
中納 「普通のコードとか弾かないですもんね。そこにビビッとくるんですけど」
――要するにキワキワなんですよね。一歩間違えたらダサさに転びそうなところをギリギリで格好よさに変えてるっていうか。
中納 「そう! キワキワなんです。しかも、それをワザとやってるのか、無意識でやってるのか、いまだに分からないところもあって(笑)」
――実際のところ、どうなんですか?
中納 「自分ではキワキワとか思ってないんちゃう?」
 「うーん……どうなんですかね。単純に“これカッコいいんちゃう?”みたいな。でも、たしかに若干イレギュラーなものが好みかもしれませんね。逆に言えば、よっちゃんの声があるから、僕がちょっとハミ出した方向に行けるのかもしれませんけど」
――今回のアルバムからは、今の時代に対するメッセージみたいなものも強く感じるんですよ。それこそ原発について歌っている「10万年後の君へ」を筆頭に。
中納 「そこは自分でも意識したところがあって。こういう時代に出したアルバムということで、ずっと残っていけばいいなという思いがあるし、特に〈10万年後の君へ〉に関して言えば、この曲を聴き返すことによって、“こういう問題を忘れちゃいけないな“って、その都度、思い返してもらいたいんです。私は原発には完全に反対ですけど、一方で、そうじゃない人もいるわけじゃないですか。そういう人に対して、力ずくでメッセージを伝えようとしても絶対に無理だと思うんです。でも、めっちゃ切実やし、世界的な問題だと思うから、一人の人間として、こういうふうに感じているんですよ、ということを歌に載せて発信したいなと思ったんです。やっぱり危険なことは危険なことやし、“何が本当に大事なことなんやろ?”って自分自身に問いかけたい気持ちもあって。もちろん聴いてくれた人がどう思うかは人それぞれやと思うんですけど。でも、やっぱりあかんことはあかんと思うし」
――絶対に風化させちゃいけないなと思いますよね。
中納 「そうなんですよ。絶対に忘れちゃいけないことだと思うから、どうしても歌いたくて」
 「こういう曲をセンスよく伝えられたらいいなと思うんですよね」
中納 「うん。それはすごく思った」
 「“俺らめちゃくちゃかわいそうやろ?”ってアピールするのもセンスないと思うし、単に熱くアピールするだけでも、それはそれで引いちゃう人もいるし。そのへんのセンスって、すごく大事なことだと思うんですよ」
中納 「ちょっとの加減でだいぶ違うものになってしまうから、すごく難しいなと思う。そのあたりも含めて、今回、“伝える”ということについて結構考えたと思いますね」
――久々のアルバムが完成したわけですが、1枚通して、自分たちで聴いてみて、いかがですか?
中納 「結構好きですね。自分たちで試行錯誤を重ねて作ってきたから、今まで以上に味わいも深まってるというか。一言でいえば、自分で作ったケーキとかクッキーみたいな感じですかね。手作りで美味しくできたと思います(笑)。もちろん、まだまだ足りないところや、やりたいことも、いっぱいありますけど、とりあえず今の現状では、これがベストちゃうかなって」
――森くんはいかがですか?
 「今回のアルバムは、完全に日本人が作ったアルバムやと思うんです。日本人としてのメッセージが詰まってると思う。で、EGO-WRAPPIN'の歴史の中でも、また意義深い作品ができたと思うんです。EGO-WRAPPIN'が死んでからも重要ですから。作り手が死んでも作品は生き続けるみたいな」
中納 「せやな。でも、ほんとそういうことだと思うんですよ。今の時代を生きている自分らの気持ちが詰まってると思うし。時代を超えて、ずっとこのアルバムが生き続けてほしいなと思いますね」
取材・文 / 望月 哲(2013年3月)
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