一音一音の美しさを目指して――本田珠也がICTUS Trioを始動

本田珠也   2018/02/14掲載
はてなブックマークに追加
 本田珠也の新しいグループ、ICTUS Trio(イクタス・トリオ)が素晴らしい。「フリー・ジャズのペーター・ブロッツマンとの共演のあとで、渡辺貞夫さんとやるようなドラマーは、ぼくのほかに滅多にいないでしょう」と言うように、本田はさまざまなスタイル、ジャンルを超えたドラムの才人だが、このICTUS Trioはその自由な発想のドラマーの、ある意味中心的な音楽理念のようなものを浮き彫りにする重要な作品だ。
 「ピアノの佐藤浩一君を知ったのは2年ほど前で、サックスの守谷美由貴さんから、“あなたにぴったりのピアニストがいる”と言われたんです。たしかにぼくが関心のあるピアノに同じような関心を持っていて、何かできるかなと思ったんです」
 このアルバムの曲目リストがちょっと異様で、まずカーラ・ブレイの曲がずらりと並び、佐藤浩一のオリジナル、そして2曲のスタンダードが取り上げられている。カーラ・ブレイとなると、ピアニストのポール・ブレイを頭に浮かべる人が多いと思うが、それは正しくもあるが、正解はちょっと違う。
 「グループ名にもなった〈ICTUS〉は、プーさん(菊地雅章)とやった思い出深い曲なんです。それと2曲のスタンダードもプーさんとのトリオでよく取り上げていた曲です」
 そう、正解は菊地雅章だが、このアルバムは菊地に捧げられた作品というわけでもない。ポール・ブレイは菊地が高く評価していたピアニストで、この選曲はおもに佐藤浩一のアイディアのようだ。しかし、カーラ・ブレイの作品をたくさん取り上げるというのは、日本のピアノ・トリオ作品として、かなり異端と言っていい。
 「ピアノ・トリオというと日本ではかなり型にはまったイメージがあるけど、それが不満なんです。ジャズは即興の演奏だから、型にはまらないもっとぎりぎりの即興表現を目指すような世界をこのトリオで実現したいと思ったんです。菊地さんは即興ということをよく考えていて、教えられることが多かったです。ストイックで美学があって、一音でもいいからいい音を弾きたいといったことをよく言ってましたね。このトリオは、そういう精神を引き継ぎたいと思うんです。つまり、垂れ流しの即興ではなく、一音一音に美しさがあり、そこに自分が関わっていると自分で納得できるような演奏を目指すということです」
 菊地雅章が他界したとき、新宿Pit Innで日野皓正佐藤允彦らが集まり、追悼の演奏会が開かれたが、そのまとめ役をしたのが本田珠也だった。菊地の晩年にいちばん近くにいたのが本田だったという理由もあるが、こうした日本ジャズの先輩たちを尊敬し、同時にまた本田は彼らから愛された若い才能ということもある。
 「ぼくは、こうした先輩たちが素晴らしいのは、音楽を達観している人たちだと思うからです。高柳昌行さん、渡辺貞夫さん、富樫雅彦さん、みんなそうです。それぞれが素の音楽感覚をそのまま出している。それがすごいんです。個性とかスタイルの違いとか、そういうんじゃないんですね。できることなら、ぼくもそういう自分を押し通すような世界に行きたいんです。現代は音楽があふれかえっていますが、同時に音楽を表層部分で考えることが多い気がする。だから、音楽を聴いて沈んでいくものがない、人間らしさがなくなっているんじゃないかと思う。ブロッツマンも貞夫さんも世界は違うけど、音楽が好きということに変わりはないわけで、それぞれが自分を押し通すことで確立した人間らしい世界なんです。音楽があふれる現代に音楽で生きていくことは、昔からすると簡単な気がしますが、でも逆にプーさんや貞夫さんのように自分を押し通して生きることは難しいのかもしれない」
 このICTUS Trioは、その難しい挑戦で結束したグループと言えるかもしれない。本田珠也、その盟友のベーシスト須川崇志、そしてピアノの新星、佐藤浩一。それぞれがこの時代らしい万能な表現者たちだが、同時に彼らはそれに決して満足しない音楽家たちでもある。つまり、ジャズの即興の基本にどこまでもこだわる現代の才能でもある。
取材・文/青木和富(2018年1月)
Live info
本田珠也 ICTUS Trio
ICTUS Trio Live Schedule

2018年3月1日(木)神奈川・横浜 Jazz Spot DOLPHY
http://www.dolphy-jazzspot.com

2018年4月7日(土)東京・渋谷 l'atelier by apc
http://www.latelierbyapc.com/latelier

2018年5月19日(土)東京・新宿 Pit Inn(昼の部)
http://www.pit-inn.com

2018年5月25日(金)愛知・吉良 Jazz Club intelsat
http://www.jazz-intelsat.com

2018年5月26日(土)岐阜・高山 飛騨高山ジャズフェスティバル
https://www.hidatakayama-jazz.com

2018年6月23日(土)東京・国立 NO TRUNKS
http://notrunks.jp

※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] ピアノ演奏の基礎の部分をショパンで構築してきた――牛田智大、10代最後に取り組んだショパン・アルバム[インタビュー] ホセ・ジェイムズが新レーベル「レインボー・ブロンド」を始動――第一弾アーティスト・ターリがデビュー・アルバムをリリース
[インタビュー] もうひとつのシティ・ポップ――Dos Monos『Dos City』[インタビュー] 音楽は、生き方そのもの BUPPON『enDroll』
[インタビュー] トリオ・レコードが遺したミュージカル作品 発売当時のディレクター徳光英和が『上海バンスキング』などについて語る[インタビュー] 想像を形にする“宇宙”を舞台とした、Shing02とSauce81の共作アルバム『S8102』
[インタビュー] 音ゲーは“音楽の楽しさを伝えるツール” モリモリあつし『タイムカプセル』[インタビュー] ブルッフの協奏曲は、人生のステージの中でいつも傍にあった曲──アラベラ・美歩・シュタインバッハー、〈東芝グランドコンサート2019〉に出演
[インタビュー] 新しいセッションだから“シーズン2” Mari & Bux Bunny シーズン2始動[インタビュー] いまだからこそ作れたコレクション 鈴木惣一朗が細野晴臣プロデュース・レーベル「ノンスタンダード」について語る
[インタビュー] 仏教と音楽が私の楽しみであり、人生のともしび――三浦明利『いのちのともしび』[インタビュー] THREE1989が挑んだ“愛のアルバム”『Kiss』
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
新譜情報
データ提供サービス
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015