【特別対談】 今井美樹×川江美奈子〜今井美樹と7人のピアニストのデュオ作品『I Love a Piano』を語る

今井美樹   2008/03/19掲載
はてなブックマークに追加
 7人のピアニストとともに、自身の大切なレパートリーに新しい息吹をそそいだコンセプト・アルバム『I Love a Piano』を発表した今井美樹。河野圭、小曽根真武部聡志倉田信雄川江美奈子大野雄二塩谷哲といった、今や日本の音楽シーンに欠かせないピアニスト/作・編曲家/プロデューサーたちが集結し、しばらく彼女が“封印”していた「瞳がほほえむから」や「PRIDE」も洗練されたアレンジで届けてくれた。

 そしてさらなる透明感と豊かさで放たれる彼女の歌は、歌い手が丁寧に育てていく声という楽器の素晴らしさをあらためて感じさせるものだ。今回は、参加したピアニストたちのなかでもシンガー・ソングライターという肩書きも持つ川江美奈子とともに、今作について、そして“ピアノの魅力”について語ってもらった。




――『I Love a Piano』は錚々たるピアニストたちが参加していますね。

今井 「そうですね。ここ2〜3年は私自身が“人に果敢に出会っていく”ことがテーマだったんですけど。今回の作品に参加してくれたのは、そんななかで久しぶりに再会したり、新しく出会った人たちばかりなんです」

――川江さんとは、今井さんが2005年にリリースされたシングル「愛の詩」を作曲されてますが。どんな出会いでしたか。

今井 「その時は武部(聡志)さんから“凄くいい曲を書くから”っていう強い推薦があって出会ったんです」
川江 「はい。私は高校生の頃から美樹さんの音楽を聴き始めて。大学生になって初めて男の子とデートでドライブしたときにカセットで聴いていたり、私の私生活の背景に流れている音楽だったんです。私自身も当時から音楽をやりたいっていう思いがありましたので、美樹さんが生み出しているものは昔から好きで。でも巡り巡って自分が曲を書かせていただけるとは思ってなかったので凄く嬉しかったですね」
今井 「彼女の楽曲を初めて聴いたとき、“あれ、この曲私、歌ってなかったっけ?”っていうくらい私のなかにスムーズに入ってきたんですよ。凄く“今井美樹らしい”と感じるものだったので」

――そのくらい今井さんにぴったりな曲だったんですね。

川江 「私はよく美樹さんの歌に合わせて歌ったりしていたから、曲を作るときにも自然とイメージできたんだと思います。知らないうちに研究してたのかも」
今井 「そうそう。“今井美樹を研究したわね〜!?”って初めてお会いしたときに、そんな失礼なことを言ったくらい(笑)。でもお互いにユーミン好きのDNAが体のなかに流れているところもあって、私は彼女の曲のなかにある翳りのようなものをどこか懐かしく感じたり、共感できたりしたんですね。何度聴いてもやっぱり一番気持ちがフィットする曲だったので、布袋さんというプロデューサーを離れての第一弾シングルとして“これが今の新しい私です”って、この曲だったら自然なんじゃないかなと思ったんですよね」


――その後は2006年のシングル「年下の水夫」でもコラボレーションされて、お互いにいい感触を深めていったと思うんですけど。今回、川江さんはピアニストとして参加してほしいというオファーを受けたわけですよね。

川江 「はい、びっくりしました。最近の美樹さんは塩谷さんを始め、私が尊敬しているピアニストの方々と一緒にライヴをされているのを拝見していて。だから自分がピアニストとしてこのような方々と作品でご一緒させていただけるなんて、最初は信じてなかったくらい(笑)。でも私らしく参加させていただけたらいいかなと思って」
今井 「だって彼女はピアノのイントロ一つで曲の世界を作れる人だから。そこから入る声の温度や言葉の響きやメロディが、一筆書きみたいに繋がっていくんですね。毎回デモ・テープを聴かせてもらうたびに“ピアノ1本でよくここまでできるよね”って思うの。今回、彼女は自分が作った今井美樹の曲で参加したいって最初は言ってたんだけど、私の主旨としては何が出てくるかわからない異種格闘技的なトライをお互いにしたかったので、あえて別の曲でやってほしいっていうお願いをしたんです」
川江 「それが私にとって結果的には、作曲家としてではなくミュージシャンとして美樹さんと向き合えるというありがたく貴重な機会になりました」


――そこで「遠い街から」が選ばれたと。

今井 「そう、これは一筋縄ではいかない難しい曲なんですけどね」
川江 「好きなんです、この曲。映画のような情景がある曲を一緒にやりたいなという想いがあって。綺麗に色が浮かんでくるような曲を女性二人の雰囲気でやれたらいいなと思って」

――お二人の「遠い街から」は、ほんとに景色の移ろいや、主人公の心の動きが自然とわかるようなピアノと歌で。素晴らしい仕上がりですよね。

今井 「ありがとうございます。曲ごとにピアニストの匂いが出る作品にしたかったので、彼女には、ピアノだけではなく声も入れてもらったんです」
川江 「先日、河野(圭)さんにお会いしたら“声はズルイよ〜”って言われました(笑)」
今井 「だって、あなたの武器だものね(笑)」

――今回の制作を通じて、あたらめてピアノの魅力をどう感じましたか。

今井 「怖いぐらいに激しい気持ちになったり、心がとろとろに溶けそうなほど柔らかくなったり、弾き方によっていろんな景色も色も見えてくるっていうことをあらためて感じました。ピアノの可能性を追求している人たちと一緒に作品を作れたことは大きかったですし、今後も近いところで寄り添うように活動していけたらと思っています」
川江 「こんなふうに日替わりでピアニストが来て一緒に歌うようなこと、美樹さん自身のエネルギーがガツンとないと、やれないですよ(笑)」
今井 「ほんとにそうね(笑)。自分が元気だからこそ作れた作品です」
取材・文/上野三樹(2008年2月)


 現在の日本の音楽シーンを代表するピアニスト7人をフィーチャーした、すべて一発録りによるデュオ・アルバム。歌い手としての究極ともいえるスタイルによって制作された『I Love a Piano』の聴きどころはもちろん、それぞれのピアニストによって引き出される、“シンガー・今井美樹”の奥深く、美しいヴォーカリゼーションにある。1曲目の「瞳がほほえむから」では、ジャズ〜クラシックの境界線を心地よく行き来する河野圭の演奏を感じながら、柔らかい“ほほえみ”をたたえたヴォーカルを披露、聴く者の感情をゆったりとほぐしていくようなバイブレーションを響かせていく。小曽根真のピアノと一緒に歌った「年下の水夫」は、本能的とさえ言いたくなるようなエモーションが印象的。また「春の日」では、武部聡志による、たおやかな叙情性をたっぷりと含んだプレイとともに、まさに春の情景が浮かんでくるような表現力を示している。しっかりと洗練された倉田信雄のアレンジメントを受けながら、前向きなメッセージをストレートに描き出す「Goodbye Yesterday」、シンガー・ソングライターとしても稀有な才能を持つ川江美奈子のコーラスを交えた「遠い街から」も、原曲の持つポテンシャルを十分に引き出している。そして個人的な感想を言わせてもらえば、大野雄二とのデュオによる「ルパン三世 愛のテーマ」は、本作の一つのハイライトではないだろうか。甘美な色気を漂わせる大野のピアノ、上品なセクシャリティを含んだ今井の声がゆったりと溶け合っていく様子は、音楽だけに許された官能的な歓びに満ちている。芳醇なメロディを紡ぎ出す塩谷哲のピアノが胸に迫る「PRIDE」も素晴らしい。

 ジャズのエッセンスをナチュラルに取り込んだ声、楽曲の世界観を大らかに広げていく表現、そして、一流のピアニストとともに繰り広げられる、圧倒的な集中力をともなったパフォーマンス。『I Love a Piano』は今井美樹のシンガーとしての本質を示す、とても貴重な作品だと思う。

文/森 朋之






[収録曲]
1.「瞳がほほえむから」 with 河野圭
作詞:岩里祐穂 作曲:上田知華 編曲:河野圭
 
2.「年下の水夫」 with 小曽根真
作詞:岡田ふみ子 作曲:川江美奈子 編曲:小曽根真
 
3.「春の日」 with 武部聡志
作詞:今井美樹 作曲:MAYUMI 編曲:武部聡志
 
4.「Goodbye Yesterday」 with 倉田信雄
作詞、作曲:布袋寅泰 編曲:倉田信雄
 
5.「遠い街から」 with 川江美奈子
作詞:今井美樹 作曲:久石譲 編曲:川江美奈子
 
6.「ルパン三世 愛のテーマ」 with 大野雄二
作詞:千家和也 作曲、編曲:大野雄二
 
7.「PRIDE」 with 塩谷哲
作詞、作曲:布袋寅泰 編曲:塩谷哲



■今井美樹 2008年コンサート・ツアー・スケジュール

4月26日(土) 市原市市民会館 大ホール
5月1日(木) ハーモニーホール座間
5月9日(金) サンポートホール高松
5月17日(土) 神戸国際会館こくさいホール
5月18日(日) 大阪・フェスティバルホール
5月22日(木) 福岡市民会館
5月24日(土) 熊本県立芸術劇場 演劇ホール
5月28日(水) 島根県芸術文化センター(グラントワ)
5月30日(金) 岡山市民会館
6月1日(日) 鳥取県民文化会館
6月6日(金) NHKホール
6月7日(土) NHKホール
6月14日(土) 静岡市民文化会館 大ホール
6月15日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
6月20日(金) 新潟県民会館
6月25日(水) 奥州市文化会館(Zホール)
6月27日(金) 宮城県民会館
6月29日(日)東京・JCB HALL(追加公演) ※NEW! 3/21更新
※詳しくは公式ホームページへ。

■今井美樹 公式HP
http://www.imai-miki.net/


■『I Love a Piano』特設サイト
http://www.imai-miki.net/i_love_a_piano/index.html


■今井美樹・制作スタッフ日誌
http://blogs.yahoo.co.jp/irc2_miki_imai


■川江美奈子 公式HP
http://www.minakokawae.com/
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも
[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”
[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表
[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作
[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成[インタビュー] ソウル&ファンク・ユニットMen Spyder 初のEPを発表
[インタビュー] KMC 全曲O.N.Oによるビート THA BLUE HERBプロデュースの新作[インタビュー] 魚返明未 日本の新世代ジャズを牽引するピアニストが、新たなトリオでアルバムを発表
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015