良い意味で遠回りをしてきた――20周年を前に、韻シストが開けた次への扉

韻シスト   2017/08/04掲載
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 結成から19年目を迎え、ますますグループとしての動きを活発化させる韻シストが、約1年ぶりとなるニュー・アルバム『Another Day』をリリースした。日常性や普遍性、オーディナリーな感情を刺激するようなリリックとサウンドは、しっかりとヒップホップの背骨を持ちながら、同時にポップ・ミュージックとしての鮮やかさも提示するなど、まさに韻シストならでは。完成に至るまでの道程を、メンバーのBASI(MC)とShyoudog(b)に伺った。
――BASIさんのソロ・アルバム『LOVEBUM』に続いて、毎回ゲストMCを迎えてYouTubeで配信していたセッション番組「STUDIO韻シスト」からはコンセプト・アルバム『STUDIO韻シスト THE ALBUM』と、今年は既に関連アルバムを2作もリリースしていますね。
Shyoudog 「そして韻シストのアルバムなんで、BASIは殺人的なスケジュールだった思いますよ(笑)」
BASI 「ただ、作品ごとに音楽に対する感覚とか発想が違うし、似たようなものを3つ同時に動かしてるんじゃなくて、全く別なものを3つ動かしてる感じだったので、全部、全箇所が新鮮に捉えられたんで、“しんどく”は無かったです。韻シストとソロの感触の違いに関して言えば、やっぱり韻シストは6人で作ってるし、ラップだけ考えても、韻シストには圧倒的にスキルのあるサッコンの存在感や要素があって、楽曲を対等にシェアして1曲を作るっていう感触があるんですね。且つ、『HIPSTORY』以降の韻シストはShyouやTAKU(g)も歌うようになったので、更に楽曲内の振り幅やバラエティも増えて、お互いに切磋琢磨して1曲を作ってるんです。だけど、ソロはそれを1人でやる訳なので、そこに載っている乗員数が違うというか、曲に対するバランスがちょっと違うなって感じですね。ただ、どれも刺激であって、充実してるからリリックが沸いてきたんだと思うし、どこかに繋がっていく感覚がありましたね」
――「STUDIO韻シスト」での制作はいかがでしたか?
Shyoudog 「韻シストの場合は、“こうやったらこうなる”っていう予想がある程度見える部分もあるんですけど、他のアーティストとやる時は、予想もつかへんというか、全く違う球が飛んでくる新鮮さがありますね。しかも参加アーティストもモンスター級だったんで、予想と全然違う角度で飛んできても、それがめっちゃオモロイっていう新しい感覚作品作りが出来て。且つ『THE ALBUM』は、ハラQさんっていうCOCOLOBLANDのボスが出してくる“こんなん聴きたいねん”っていうアプローチに対して、どう返すかっていうチャレンジでもあったので刺激になりました」
――『Another Day』に反映されている部分はありますか?
Shyoudog 「『THE ALBUM』で形にしたバンド感をもっとこのアルバムで出したいっていう気持ちがあったんですよ。だから、バンドでしか作られへんような曲作りの方法として、今回はジャム・セッションでトラックを作ったんですよね」
――前作のインタビューでは、トラックの制作は予め作ったトラックをバンドとしてリアレンジするという方法を取ったと仰っていましたが。
Shyoudog 「そういう作り方では出来ひんような音楽の作り方に焦点を当てました。ジャムって、ゼロから作っていくことに重点を置こうって。今はノートパソコンでデモ作りやRECが出来るし、沸いてきたり気持ちが高ぶったりした時にすぐ制作に入れるから、自分らが共有してる感覚が、そのまま曲作りに反映できるようになったことも大きいですね」
――セッションという有機的な結合で生まれる感覚というか。BASIさんはソロがフィード・バックする部分はありましたか?
BASI 「リリックについては、他を遮断して韻シストに集中して。韻シストに向けて、書きましたね。確かに韻シスト以外の仕事で得たフィールを韻シストにも繋いでいくのが一番美しいとは思うんですけど、今回に関しては、完全に韻シストに集中して。これまでの19年間と、これから迎える20周年を目前にして、自分たちの歴史とかメンバーの今のヴィジョンをズレなくラップとして落とし込むことが必要だなって。それだけこの『Another Day』に込めるものが特別だったんですよ」
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Photo by 新井友樹
――今回の『Another Day』というタイトルはどこから生まれたんでしょうか?
BASI 「もともと温めていたタイトルが、ある映画と被ってしまってちょっと使いづらい状況になってしまったんですよね。そんな時、福岡にライヴで向かう飛行機の中で、Shyouとこれまでの韻シストの歴史を振り返りながら、今回のアルバムではデビュー作である『ONE DAY』が持ってたような“ゆるさ”を、今の自分たちで“タイト”に形にしたいって話したんです。ただただゆるかっただけの『ONE DAY』とは違うもの――つまり『Another Day』やって、飛行機の中で閃いて。その説明をメンバーにしたら、満場一致で、みんなが“それやな”って。きちんと生まれた、思い入れのあるタイトルです」
――「are sore kore」は、“ヒストリー”とは謳わないようにしながら、韻シストのこれまでを振り返るという楽曲だと感じましたが、この中での「あんま好きじゃなかったな昔」という言葉がスゴく印象的でした。確かに、10年以上前の韻シストは、時代的にもシーン全体がハードコア全盛だったこともあって、キワモノ的な捉えられ方をされていたなと。
Shyoudog 「僕たち自身も、みんなそうやって見てはるな、っていう感覚はスゴくありましたね。ヒップホップ・バンドが珍しかったのもあるし、“ラップ取り入れてるバンド”が当時多かったこともあって」
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Photo by 新井友樹
――いわゆるミクスチャーが全盛でもありましたね。
Shyoudog 「だから“ヒップホップ・バンドってなんやねん”“そもそもヒップホップにバンド必要ないやん”っていう状況の中で、僕らはヒップホップとして受け止められにくかった。クラブでライヴを出来る状況でもなかったし、取り巻く環境すべてが整ってなかったんですよね。誤解されてるのも分かってたんで、どうやったら僕らのサウンドがヒップホップって認めてもらえるかなっていう戦いでもありました。だけど、ずっと活動していく中で、ヒップホップ・バンドっていうのがちゃんと成立することも認知されたし、いちいち言わないでも単に“ヒップホップやな”って捉えられるようになったと思いますね」
――今回のアルバムも、ものすごくヒップホップ性を感じるんだけど、一方で単純にグッド・ミュージックとして捉えられる内容になってるのが本当に韻シストらしいなって。
BASI 「〈Don't leave me〉をラジオで聴いたおかんが、“めっちゃ良かったわ〜、懐かしい感じするわ〜”っていう、おかんならではコメントをくれて(笑)。でも、捉えてくれる人はそういう感じでいいと思うんですよ。ヒップホップとして、ってことではなくて。もちろん、そう評価してくれるのは嬉しいけど、トータルとして、懐かしいとか、気持ちいいとか、ノレるわっていう、ポピュラーなものになりたいんですよね。韻シストとしてもそういう扉を開けることで、挑戦する次のステージが待ってると思う」
――『LOVEBUM』と『THE ALBUM』、そして『Another Day』には、肯定や許容といったポジティヴな感覚があって、それがいまの韻シスト全体のムードでもあると思いました。
Shyoudog 「そうですね。日常の中でもそういうワードが出てくるんですよ。年齢も重ねて、子供が出来たり、友達や仲間にいろんな変化が生まれたことで、ポジティヴだったり、“優しい歌”とか、そういうものを作っていきたいって。ハードな時代にみんな暮らしているから、攻撃するような曲じゃなくて、やっぱり元気が出来るような、絶対にいいことがある、っていう歌を作りたいし、自分たちにもそれがジンとくるんですよね。つっぱらんでも、肩肘はらんでもいいような歌っていうか。そういうのは常に思ってる部分はあります」
BASI 「自分としては攻撃は随所ではしてるんですけど、痛くないように殴ってるっていうか。攻撃してても痛くなくて、ちょっとファニーな、リスナーもピースに聴けるっていう、猫パンチみたいな感じですね。やっぱりラップなんで、時には毒づく瞬間も好きですし、単に優しい言葉を並べるっていうよりは、攻撃はしてるけど、優しいフィーリング、ムードは分かるっていうか。それを出すのに必死ですね」
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Photo by 新井友樹
――制作期間中はライヴを控えるアーティストも多いですが。韻シストはそうではないですね。
Shyoudog 「僕らも減らしてた時期もあったんですけど、それは僕らには合ってないなと思ったんですよね。常にライヴの、生の、現場の空気に触れておかないと、作品にリアリティが無くなるなっていう感覚があって、ライヴを止めるのは僕らは違うな、ずっと実戦の中にありたいなって。だから、制作期間中であろうがなんであろうが、ライヴは止めたくないし、大事にしていきたい」
――有機的な動きや生の感覚、体感を常に持っていたいというか。
BASI 「時代とかシーンの確認を、ライヴを通してやっている部分もあって、そこからリリックとかサウンドが生まれることが確実にあるんですよね。想像やイメージだけでは世の中とシンクロしないので、僕らはライヴを大事にしていますね。“いま”を夢中で捉えて、そこから生まれたリスナーとの関係について、僕らは音楽で返していってると思うんです」
――日常性が今回は特に強いと思うんですが、ライヴをしていく中で、それが求められてると感じたのでしょうか?
Shyoudog 「感覚的にいうと、朝ごはん食べるように、というか。ライフスタイルの中にライヴも組み込まれているものなので、それが無くなると、作品が日常から離れてしまう気がするんですよね。生活とライヴを通して、僕らの普段の日常が出来てるっていう感覚があるので、そういう部分が反映されてるんじゃないかなって」
BASI 「ライヴ後にSNSに上がる写真やムービー、コメント、リアクションによってリスナーとの距離を近く感じることが出来る環境の中で、リリックを書いたりしてるので、より距離が近づいていくのかもしれないと思うし。一緒に成長していってるような、距離を縮めて感じ合っていってるという感触がスゴくあるので、作品も僕らやリスナーの日常にフィットしてるものになってるのかなって」
――ShyouさんやTAKUさんのヴォーカルも作品の大きなファクターになっていますね。
Shyoudog 「昔は、歌はちょっと遠い存在だったし、そういうパートはサックスが担ってた部分があったので、自分がメロディを手がける感覚自体が無かったんですけど、歌うようになってからはアイディアも生まれるようになったし。それも韻シストの要素の一つとして認識するようになりましたね。ヒップホップ・バンドとして認めてもらうために頑張ってる時には、メロディを入れるのは枷になるかなと思った時もあったんですが、今はそういうことも全部溶けて、出来ることや、持っているものは全部出したいと思ってます」
――ラップは話芸や会話的なノリをベースにしていますが、その構造を担保するスキルはとにかく高いし、「are sore kore」でのフロウは今っぽい部分も込められていて。
BASI 「でも、あのケンドリック・ラマーっぽいフックのフロウを提示したのはTAKUなんですよ。実は僕らは全員がヒップホップIQが高いんで(笑)、そういう要素がメンバーのあらゆる角度から生まれて、一曲になってるんですよね。且つ、その感覚はメンバーの中で何センチずつかは違ってるんで、その全員が思う美味しいところにどう落とすかのもポイントで」
――その意味では、共有感覚の上で作品を作る故にポップになるともいえますね。20周年の動きはいかがでしょうか?
Shyoudog 「まだ発表は出来ないんですが、ホンマにヤバイな!っていう予定が組まれてます。韻シストとして成人を迎えるんで、より大人な韻シストを見せられればなって」
BASI 「自分らと世間のイメージがフィットしにくい時代からずっとやってきて、いまようやくみんなとフィット出来てきた思うんですよね。良い意味で遠回りをしてきたと思うし、その中でヒップホップでは出会えなかった偉大なるミュージシャンとも出会って。そういう人も巻き込んでの20年目を形に出来ればと思うし、見といて欲しいですね」
取材・文 / 高木“JET”晋一郎(2017年7月)
韻シスト主催 NeighborFood
www.in-sist.com/
2017年8月19日(土)
大阪 心斎橋 CONPASS
開場 19:00 / 開演 20:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(オールスタンディング / ドリンク別)
チケット予約: Peatix

出演
LIVE: 韻シスト
SPECIAL GUEST: 鎮座DOPENESS
DJ: DJ YACCHAN / DJ SOUL ONE




2017年8月26日(土)
東京 代官山 LOOP
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(オールスタンディング / ドリンク別)
チケット予約: Peatix

出演
LIVE: 韻シスト
SPECIAL GUEST: 田我流
DJ: FENCER / 高橋マシ(SLD)


韻シスト ONE MAN LIVE 2017
NEW ALBUM『Another Day』RELEASE TOUR SPECIAL

www.in-sist.com/
2017年11月10日(金)
東京 渋谷 WWW X
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,500円(オールスタンディング / ドリンク代別)
※お問い合わせ HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999(平日 12:00〜18:00)
チケット先行受付: 8月7日(月)〜 / 一般発売: 9月2日(土)〜



2017年11月17日(金)
大阪 心斎橋 BIGCAT
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,500円(オールスタンディング / ドリンク代別)
※お問い合わせ YUMEBANCHI 06-6341-3525(平日 11:00〜19:00)
チケット先行受付: e+ 8月7日(月)〜 / 一般発売: 9月2日(土)〜


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