ロマンティックなものが好きっていうのは共通してると思う――注目のヒップホップ・クルーKANDY TOWNからIOがソロ・デビュー

IO(KANDYTOWN)   2016/02/19掲載
はてなブックマークに追加
世田谷区出身を中心としたメンバーで構成された15人組のヒップホップ・クルー、KANDYTOWN。ラッパー、DJ、トラックメイカー、エンジニア……と多彩な面子が集まり、フリー・ダウンロードでリリースされ彼らの名前を一躍高めた『KOLD TAPE』や、リリース後即完売となった“KANDYTOWN × nosh”での『Kruise』など、アンダーグラウンドな存在ではありながら、若手クルーの中では随一とも言える注目度を誇っている。その中でも、JASHWONやLOSTFACE、DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH!を擁するBCDMGと、同クルーのDONY JOINT、YOUNG JUJUと共にディールしたIOが、満を持して『Soul Long』でソロ・デビュー。
Mr.DRUNK(MUMMY-D)やMURODJ WATARAIといったヴェテラン勢から、MASS-HOLEOMSBKID FRESINOのようなアンダーグラウンド勢までがトラックメイカーとして幅広く参加した本作。そういったネーム・バリューに気負うことなく、自然体で「彼の視点から描かれた言葉」を紡ぎ、トラックに刻んでいく様は、ニュー・ヒーローの登場を強く感じさせる。これからのKANDYTOWNの動きの先鞭となる事実も踏まえ、今年の重要作であることは間違い無い。
――『WOOFIN'』誌の表紙を飾ったり、リリース前からメディア露出の多さが、IOくんの注目度の高さを物語ってるね。
「自分でも驚いてます。自分のペースで、自分のやりたいことをいつも通りにやってきただけなので、こんなに注目してもらえてることに驚いてるし、いろんな人にサポートしてもらえてるのは嬉しいですね」
――そんなIOくんの音楽的な原点から、今回のインタビューを始められたらと思います。
「音楽に興味を持ったのは、小学校4年ぐらいですね。Minnie Ripertonの〈Lovin' You〉が親父の車でよくかかってて、“この曲が好き”って思ったのは〈Lovin' You〉が最初だったと思う」
――その頃からメロウなものが好きだったんだね。
「単純に良い音楽だと思ったんで、シンプルに好きでしたね。親父がディスコ世代なんで、R&Bとかソウルはよくかかってました」
――ではヒップホップに出会ったのは?
「14歳ぐらいだったと思いますね。KANDYTOWNのYUSHIが学校で後ろの席だったんですけど、YUSHIがラップを書いて聴かせてきたんですよね。それがラップの出会いだったと思います。みんなの影響で、ラップを聴き始めて、書き始めてって感じでしたね」
※註: YUSHIはドカット(ex-ズットズレテルズ)の名でも知られるラッパーだが、ニュースで既報の通り、昨年2月に急逝が発表された。
――その当時聴いてたのは?
DMXとかThe DiplomatsFabolous〈Into You feat. Tamia〉とか、Ja Rule〈Mesmerize feat. Ashanti〉、Jennifer lopez〈All I Have feat. LL cool J〉みたいな、00年代初期の感じですね」
――後半の3曲は中学生が聴くにはメロウすぎない?(笑)。ラップはKANDYに至るようなメンバーでやってたの?
「そうですね。大体、YUSHIかB.S.C.の家に溜まって遊んでたんですけど、チルしたり、映画観たりっていう中に、ラップっていうのもあったんですよ」
――遊びの一環として。
「そうですね。最初は“俺はラップはいいよ”って感じだったんですけど、みんながラップに集中しちゃうと、やってない俺だけヒマになっちゃうじゃないですか。それで仕方なく俺もはじめたって感じですね(笑)。それで15〜6歳ぐらいで、BANKROLLってグループになっていました」
――BANKROLLでライヴはやってたの?
「結構やってましたね。最初にやったのは2007年の夏ぐらい、場所は町田のFlavaでしたね。学校がそっち側にあったんで、学校のみんなが来れる方が良いだろうってことで、町田でライヴして。その時は違うグループにいた菊丸とかとも一緒でしたね」
――ではKANDYTOWNというクルーが成り立ったのは?
「2014年ぐらいですね」
――結構最近なんだ。
「みんなでずっとつるんでるし、このメンバーで一つの集合体ってイメージなんですけど、この面子で作品を出すために、名前が必要だなってことで、改めて名前を付けたんですよね。それで2014年の11月に『KOLD TAPE』を、KANDYTOWNとしてフリー・ダウンロードで発表して」
――あの作品でニューカマーとしての注目が高まったと思うんだけど。
「貯まってた作品を、自分たちがすっきりする為に出そうかっていう軽いノリだったんで、それがいろんな人に評価されたり、注目されるキッカケになったのは驚いたし、動いたら変化が起きるんだなって」
――ほぼ同じタイミングで、BCDMGへの加入が発表されたよね。
「BCDMGとの最初の繋がりで言えば、15〜6歳ぐらいの時に、JASHWONさんのスタジオにデモを渡しに行ってるんですよね。でも、そこでは特に何かが起きることは無くて。で、19歳ぐらいの時にBOOT STREETで働かせてもらってて……」
――渋谷・宇田川町にあったCDショップだね。
「はい、路面店が無くなる最後の一年ぐらいです。その時にJASHWONさんとG.O.Kさんから“ちょっとスピットしてみろ”って言われて、16小節ぐらい蹴ったんですよね。その時位からラッパーとして見てもらえる様になったのかな。それでJASHWONさんから送ってもらったトラックに、ラップを載せて返してっていう遣り取りが始まったんですよね。でも、最初は“うん”とか“まあまあ”って日々が続いて。でも〈DIG 2 ME〉が出来た時に、やっと“よし”って言ってもらえて」
――KANDYのMIKIくんはGROW AROUNDで働いてるようだけど、そういった宇田川文化圏の中にはいたんだね。
「そうですね。俺はそんなにしょっちゅうはいなかったですけど、YUSHIとかDONYは良くいたし、たまに遊びにいったりはしていました」
――そして、BCDMGとディールを結んだ理由は?
「BCDMGが路線を拡大するタイミングで声をかけてもらったんですよね。BCDMGへのリスペクトは当然あったし、シーンを動かしてきた人たちだから、その人達と一緒に活動するのは、自分にとってプラスになると思って。でも、根本的には人間として付き合って、そこでフィールするものが大きかったから、ですね。それに、BCDMGにはラッパーの所属が少なかったんで、目立てるかなって(笑)」
――ディールに至る説明はBCDMG側からあった?
「あまり無いですね。JASHWONさんからは“大丈夫だよ、一位取れるよ”ぐらいだったんで、俺も知りたいです(笑)」
――BCDMGのメンバーから、作品に対するディレクションは?
「曲やバースに対してのディレクションはあまり無いですね。基本的には“IOのやりたい様にやりなよ”っていつも言ってもらえるので、ありがたいです。でも、作品に対する評価が“いいね”って感じだとそこそこなんですけど、“ヤバいね”って言ってもらえると、絶対に数字が動いたりするんですよ。それが〈DIG 2 ME〉だったりして。そういう風に、感覚で教えてくれる感じですね。俺も具体的に“どうですか”とかは訊かないし」
――そっちの方がやりやすい?
「そうですね。俺としても細々と何小節目のどこをこう変えたほうが良いとか、内容がどうこうとか言われるのが苦手なので。フロウの部分だったりはDJ NOBUさんがアドバイスくれるんですけど、基本的には任せてくれてますね」
――では、今回のソロ・リリースが決まったのは?
「去年の頭からソロの話は出てたんですけど、具体的に流れが決まったのが夏の終わりぐらいでしたね。その時には既に、YUSHIの一周忌に当たる2月14日にリリースしようって思ってて、それに併せて動いてもらった感じですね」
――呂布くんや菊丸くんもストリート・サイズでのソロ・リリースはあったけど、流通に乗る形ではIOくんが一番手になるよね。IOくんがその先陣を切ったのは?
「なんでですかね……(笑)」
――そこは計画的な感じではなかったんだ。
「全然そうでは無かったですね。ただKANDYの中で、ありがたいことに中心人物って感じで取り上げてもらってるので、KANDYの2016年を始める上で、俺がそのキッカケを作って、後が続くようなシチュエーションになればいいなとは思いましたね」
――KANDYの中でリリースに対して集まって相談したりとかはあるの?
「全然無いです(笑)。みんなそれぞれ見せたい部分や、表現の方向性も違うと思うし、かなりバラバラだと思うんですよね。でも、それについて話したりはしないですね。だから、インタビューを一緒に受けたりとか、他のメンバーのインタビューを読んで、“あ、そう思ってるんだ”って分かったり。グループの方向性みたいなことは、ほぼ話したこと無いですね」
――幼馴染の友達同士で“自分達はこういう集団だよな”って話はしないし、そういう仲間との遊びの中にヒップホップがあって、それをリリースするっていう方向性にも近いと思うから、あえて自己規定はしないよね。
「そうですね。今日はどこに出かけようかと、今日はラップしようかは、同じ価値観の上にあるんで」
――でも、遊びの一環にラップがあるのが、スゴく今っぽいと思うんだよね。
「だから、KANDYの曲って、内に向けたワードだったり、分からせ合い、確かめ合いって部分もあるんですよね。呑みに行って、じゃあ帰って曲でも作ろうかってなったら、そこで話せなかったこととか、今日思ったことも作品に含ませたりもするんで」
――その意味でも、会話の延長にあるんだよね。具体的に『Soul Long』の話を伺うと、どういう風に制作を進めていったの?
「トラック集めからですね。DJ NOBUさんと人選を話し合いながらトラックを集めて、そこでフィールしたものをチョイスさせてもらって……って感じですね。最初に出来たのはKID FRESINOのトラックで作った〈Tap Four〉で、彼のNYの家でトラックを聴かせてもらってから始まって」
――KID FRESINOとは去年「Special Radio ft IO」を作っているけど、あの曲はIOくんがMVを撮ってるんだよね。KANDYのMVもIOくんが手がけてるけど。
「映画が好きなんで映像に対する興味があって」
――「Special Radio ft IO」のMVで興味深かったのは、KID FRESINOのパートは昼間なんだけど、IOくんのパートは夕方から夜になってるんだよね。KANDYの映像も、基本的に夜が多かったと思うし、今回のアルバムにも通じるけど、IOくんの手がけるものは夜のムードが基本にあるのかなって。ただ、決してダークでは無いのが面白いところで。
「アルバム全体に関してはテーマ的なものはなくて、もらったトラックの中で、自分が格好いいと思うもの、クールなものを選んだんですよね。だから、こういうムードになったのは結果的になんですけど、好きなテンションを選ぶと、こういう雰囲気になるんだと思いますね」
――以前、KANDYのインタビューをカラオケボックスで行なった時に、オリジナル・ラブの「接吻」と、山下達郎の「蒼氓」をみんなで合唱してたのがスゴく印象的だったんだよね。20代前半でそのチョイスは渋すぎると思ったし、でも、それが全員に共通する感覚なんだなって。
「〈接吻〉は俺らのアンセムです(笑)。でも、ああいったロマンティックなものが好きっていうのは、共通してると思いますね」
――“ロマンティック”っていうのは、このアルバムにスゴくピッタリくる言葉だね。ストーリー性よりも、一瞬一瞬を切り取るIOくんのリリックにも、その表現は当てはまると思う。
「トラックを聴いて浮かんだイメージとか言葉、雰囲気を作品に込めようって。それが自分の書き方だし、究極、格好いい一小節の寄せ集めだと思うんだと思うんですよね。且つ、アルバムを通して一曲みたいなものだとも思いますね」
――基準がパンチラインにあるよね。
「そういうことかもしれないですね。でも、ラップに対してずっと自然に向き合って来たんで、深く考えたことが無いっていうのも正直なところですね。だから、逆に感想を聞いて、そうなんだって気づくことが多いし、今回もアルバムを聴いた人から、感想を聴かせてもらいたいなって」
――音の構成的には、サンプリングで作られたトラックが中心になっているけど、それには意図はある?
「ただ単に、その音が好きって感じですね。でも、あんまりパキパキしたものは好きじゃない。聴いてると街の見え方が変わるような、ドラマティックな音が好きなんで、それにはサンプリングの音がハマるんだと思いますね」
――では、ソロ・アルバム以降の動きは?
「リリース・ツアーと並行して作品作りもしていければなって。KANDYとしても、夏ぐらいにはフル・アルバムをオフィシャルで出したいですね。今年はKANDYのメンバーもソロでどんどん出すと思います。呂布や菊丸、YOUNG JUJUがもう出す計画を立ててますね」
――今年はKANDYが侵攻する年になりそうだと。
「YUSHIが死んで、みんな一つにならなきゃなっていう意識もあると思うし、注目してもらえる分、期待を裏切らないようにしないとなって。でも、無理するんじゃなくて、自分が調子いいなって思う流れで音楽を作って、格好つけて、クールに生きていければ、それが一番いいと思うんですよね。昔から“成り上がる”とか、“ベンツに乗って”とか言うんですけど、そういうものが、自分やクルーの動きに自然についてくればいいかなって。いい音楽を作って、良い生活をするっていう、夢を見せられる様なラッパー、クルーになれるといいかなって思いますね」
取材・文 / 高木“JET”晋一郎(2016年2月)
BCDMG Presents Tale Of City
IO『Soul Long』Release Live
www.bcdmg.jp/
2016年3月25日(金)
東京 代官山 UNIT & SALOON
開場 / 開演 23:00
前売 2,500円 / 当日 3,000円(ドリンク代別)

Release Live: IO(KANDYTOWN / BCDMG)

LIVE: KANDYTOWN / BCDMG
DJ: MURO / オカモトレイジ (OKAMOTO'S) / NOBU a.k.a BOMBRUSH! / MASATO / WELLOW / KORK & More Special Guests


最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
[インタビュー] ソウル&ファンク・ユニットMen Spyder 初のEPを発表[インタビュー] KMC 全曲O.N.Oによるビート THA BLUE HERBプロデュースの新作
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015