100パーセント、自分自身 加藤和樹『Ultra Worker』

加藤和樹   2018/07/26掲載
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 意外とも思えるのだが、加藤和樹がフル・アルバムを発表するのは、自身名義では実に9年ぶりだそう。前作『SPICY BOX』まで4作を数えるミニ・アルバムや“恋”をテーマに据えた連作シングルなど、むしろ精力的に作品を発表してきた、それゆえの“意外”さなわけだが、そうして培ってきた歌い手としての経験値が、全10曲をダイナミックに聞かせる牽引力となっているのはたしか。ニュー・アルバムのタイトルは『Ultra Worker』。“日々頑張っているすべての人”たちへの共感をこめた、彼らしい表題と言えそうだ。
 「今回は、最初からテーマが決まっていたんです。僕自身日々忙しくしている一方で、たとえば握手会でお客さんと話したりする中で“これから夜勤なんです”と言われたり。働いてる合間に来てくれる方も多いんですよね。そこから“働く人”をテーマにして作品を作れたらな、という思いが浮かんできたんです。しかも9年ぶりのフル・アルバム。気合いがいっそう入りましたね」
――それは出会ってきたファンの方たちの声プラス、加藤さんご自身がブレイクするまでに抱えてきた葛藤、“夢ってなんだっけ?”って迷いを抱くようなね。その両方が合わさったテーマだと、理解していいんでしょうか。
 「両方を知ってるからこそ、(歌詞が)書けたんだと思うんですよね。アルバム・タイトル曲の〈Ultra Worker〉にしても、言葉だけ取るとただ忙しく働いてる人みたいなイメージがあるけど、“ultra”には“超越”とか“超えていく”という意味もある。自分自身を超えていく。自分のやりたいこと、夢や目標に向かって突き進んで働いている人たちというイメージをこめて、このタイトルをつけたんです」
――1曲目の「HERO」もかっこいいですよね。80年代のヴァン・ヘイレンにも通じる、からっとした中にもきらびやかさのあるアレンジで。聴いていて爽快感がある。
 「この曲名も、単なるアニメや戦隊ものの主人公ということではなくて、誰もが自分の人生においては主人公なんだ。自分が行く道は、自分以外歩めないんだ。そういう気持ちをこめて書いたんです。はたまた、そうやって歩んでいく中で、誰かの人生のサポート、支えになれることだってあるかもしれない。僕が自分に言い聞かせていることでもありますね。こういうメッセージをこめた歌詞を書く場合、かならず自分とリンクさせて書いていくので」
――一方で、言葉の乗せ方には、ある種のファンキーさがありますよね。
 「デモを聴いた時点で、ある種の疾走感は感じていました。たたみかけるような勢いもある。そこにテーマとしていた“ウルトラ・ワーカー感”を盛り込むにはどうすればいいか。原曲の勢いに負けない言葉と前向きな言葉を乗せていこうとは考えましたね。そこから書き始めたら、自分の中でどんどん広がっていった」
――コーラスもご自分で?
 「はい」
――“♪頂上越えてゆくんだ”の“頂上”という単語自体、すごくノリがいい。言葉がパン!と弾けるような。工夫が凝らされた曲という印象があります。
 「“頂上”とか“上昇”とか、あと“限界”(笑)。耳になじみやすい言葉がうまくはまったんですよね」
――楽しんで歌っているのが伝わってくる。
 「自分の声を何声か重ねているんです。かならずライヴをイメージしながらレコーディングするんですけど、特に今回は、お客さんがそこを一緒に歌ってくれるような雰囲気で歌いました」
――“Keep on going”というフレーズは、デモの時点であったものなんですか。
 「いや、入ってなかったです。別の言葉だったところを、もっと合うと思えた英語を自分で調べて、当ててます」
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――空耳かもしれないけど、“希望”とも聞こえます(笑)。
 「ほんとですか(笑)。それは意識してなかった(笑)。でも、ありがとうございます」
――この曲にかぎらず、ノリを出すのが巧みになってきた気がしますが。
 「疾走感のある曲ほど、歌が走りがちになるところを、意識的に“矯める”ことによって、テンポ感を調整するようにはしています。自分が心地よいと思えるところが、だんだんわかってきました」
――いい意味で、歌い手として成熟してきた。
 「曲への理解や、仕上がった時のイメージが明確になってきたのは大きいですね。昔は自分で歌ってても、どういう感じになるのかがわからなかった。出来上がりが想像できるようになってきたことで、またひとつ違う感覚で、歌にアプローチできるようになったんじゃないかと思います」
――曲順も工夫されたのじゃないですか。
 「〈HERO〉は最初か最後だと思ったんです。でも、イントロを聴くと最初がいいかなと。〈Ultra Worker〉は最後に考えたんですが、一気にここでアゲとくのもありかなと思った。で、〈L∞P(ループ)〉や〈魂〉〈Calling Me〉はちょっと重いので、中盤に持ってこようと」
――「L∞P」は前作の『SPICY BOX』に近い。ダークで、デジロック的な曲ですよね。
 「そうですね」
――一方で、“もっと〜”で始まるフレーズをたたみかけていくくだりなど、歌詞との相乗効果が高い作品でもあります。
 「〈L∞P〉は、自分自身にもこういうことがあったなと思わされた曲なんです。いくらかんがえても目に進めずに、また同じ場所に戻ってきちゃう」
――堂々めぐりしてしまう。
 「居心地がいいとずっとそこにいてしまうんですよね。でもそこをぶち破って、抜け出していく。そんな心境に身を置いて歌っていましたね」
――そういう意味でも、同じ“もっと〜”という単語を繰り返しているようで。
 「同じじゃないんです。考えてやったわけではなくて、自然にそうなっていったんですけど。“もっと心まで自由に”“もっと自分のために生き”“もっとあなたと生きたい”。ひとつひとつに意味がある”もっと”なので、そこは同じにはしたくないというのがありました」
――「L∞P」のようなダークな曲も、お好きなんですね。
 「好きです。ヘンな話、僕自身“太陽と月”のたとえで言うなら、“影”の部分が多いと思っているので」
――「Ultra Worker」みたいな曲とは対極ですけど。
 「そういうところもだんだん出てきたみたいです」
――寝た子を起こしたのかも(笑)。
 「でも、そこもまた自分のよさだと思うんです。両極端の表現ができるというのは、強みになるとも思うし。ダークな曲を歌う時の“影”の部分って、ライヴで表現する時すごく大事じゃないですか。こういう曲を“底抜け”の感じで歌っちゃったら」
――まず、信頼は置けませんよね(笑)。
 「どちらも自分の中にあるものだからこそ、表現することができる。自分の中にまったくないものって、表現できないので」
――今回「Butterfly」のような曲が入ってることも、そう考えると“必然”というか。
 「〈Butterfly〉と〈BLUE MONDAY〉のつながりが、すごくよかったんですよ。この2曲は絶対並びにしたいというのがあった。〈BLUE MONDAY〉は歌詞の内容的に、アルバムのラストにふさわしいなと。月曜日が来て、新しい仕事の日々がまた始める。最後に聴いて、また明日がんばろうと思えるような並びにしたかったんです」
――「BLUE MONDAY」と言ってるけど、かならずしもブルーなだけじゃないよと。
 「ブルーっていうと、どうしても“醒めた”イメージがありますけど、僕にとっては“青空”に近い、さわやかな言葉でもあるんです。それを最後のサビの歌詞が、うまく表現していると思ったので」
――ひとつながりと言われれば腑に落ちるんですが、最初「Butterfly」を聴いた時にはびっくりしました。
 「アレンジが飛び道具系ですからね(笑)」
――かなりEDMぽくて。
 「デモを聴いた時点では、ちょっとオトナの恋愛の歌を書こうと思っていたんです。働いてればいろいろあるよねっていう。ところがアレンジが上がってきた時、なんでしょう、自分の中のイメージがころっと変わってしまって」
――アレンジに詞が触発された。
 「これはちょっと違うと思った時、“夜”が見えたんです。そうだ、夜のお仕事をしている人たちにスポットを当てて書いてみようと。“夜の街を飛び回る蝶”のイメージが、ポッと浮かんできたんです。そこから“追いかけた夢さえ 思い出せない”。偽ることで満たされていく。満たされるんだけど、一方でぽっかりと心に穴が開いていく。そんな矛盾を抱えた女性の視点で歌われる歌詞が出てきた。自分でもびっくりしました。みなさんにもびっくりされましたけど(笑)」
――こういう歌詞を歌いこなせるところは、今まで積んでいらした舞台経験がものを言っている気もします。
 「作品のイメージ、世界観がつかめるかどうかだと思います。僕がそういう役を演じたわけではないですけど、昔出演した『インディゴの夜』という作品が、渋谷の街を舞台にしていた。そこからもヒントを得ています」
――で、続く「BLUE MONDAY」で、朝の陽の光が入ってくる。
 「週が明けた感じですよね。休日からウィークデイへ、みたいな」
――その意味で、1曲1曲、歌の中の“ドラマ”を生きてらっしゃるわけですよね。純粋に楽しいものですか。それとも、それもまた“仕事”に連なるものですか。
 「前者のほうが大きいです」
――楽しい。
 「ええ。お芝居の場合、役を演じることで楽しさが生じる。一方、歌の場合は、歌詞をどう自分の中に投影して表現できるか。境目はあいまいなんだけど、歌のほうが断然“自分自身”なんですよね」
――むじゃきな部分がある。
 「すべて、自分でかたちにすることができるんです。お芝居の場合、もちろん自分で作ってはいくんだけど、やっぱり演出家がいる。ある程度制限されている中での表現なんです。歌の中では、ここをこうしてくださいと言われることはないですから。あくまで僕が考える〈BLUE MONDAY〉でいけるんです」
――100パーセント、自分自身でいられるんですね。
 「そこがやっぱりおもしろいんです」
――音楽、手放せませんね。
 「いやもう、音楽がないと…」
――やってらんない(笑)。
 「とまでは言わないですけど(笑)。でも、本当に自分を表現できる場所というのは、やっぱり音楽であり、中でもライヴ。自分自身の生きたあかし、生きていて感じることを表現できる場所というのは“音楽”なんです。お芝居では、それは表現できない。レコーディングの時もそうで、感情をコントロールしながら歌おうとすると、どうしても“作業”の感覚が入り込んでくる。だからこそ、“レコーディングはライヴである”という意識を保つことが大切。そう思いながら歌うようにしているんです」
取材・文 / 真保みゆき(2018年6月)
『Ultra Worker』発売記念スペシャルイベント
www.teichiku.co.jp/artist/kato-kazuki/schedule/
2018年7月28日(土)
福岡 HMV&BOOKS HAKATA イベントスペース
開場 16:30 / 開演 17:00
※握手会(特典券が必要)



2018年8月4日(土)
佐賀 モラージュ佐賀 北館 1F モラージュプラザ
14:30〜 / 16:30〜
※ミニ・ライヴ(観覧無料) / 握手会(特典券が必要)



2018年8月12日(日)
茨城 イオンモール土浦 専門店街 1F 花火ひろば
13:00〜 / 15:30〜
※ミニ・ライヴ(観覧無料) / 握手会(特典券が必要)

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