進化するKIRINJI “シティ・ポップ”で“夜の匂い”のする14thアルバム

KIRINJI   2019/11/18掲載
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 KIRINJIの約1年半ぶりとなるニュー・アルバム『cherish』がリリースされる。今回は前作『愛をあるだけ、すべて』で示したダンス・ミュージック的指向をさらに押し進め、サウンドはいっそうグルーヴィになり、楽曲のムードは都会の夜の匂いが漂い、ヴォーカルはハイトーン主体のブラック・ミュージック・マナーを感じさせるものに変化。すなわち、昨今の国内シーンの主流といえるシティ・ポップ的スタイルで、そこに歌詞でヒネリの利いたユーモアやストレンジなラジカリズムが加わり、独自のセンスが際立つ攻撃的な傑作となった。作品ごとに異なる姿を見せている今の彼らはとてもスリリングな存在といえるだろう。中心人物の堀込高樹とベーシストの千ヶ崎 学に話を聞いた。
――約1年半ぶりのアルバムということで、ペースが速いですね。
高樹「そうですね。でもこのくらいのペースで出さないと、すぐ時間が経っちゃいますから。もしこういうタイプの、ダンスっぽいAORみたいなものをやりたいと思ったら、来年はもう遅いなっていう気がして、そうするともう今年中に出すしかないという気持ちがあったかもしれないですね」
――じゃあ最初から、そういうダンサブルなアルバムにしたいと思っていたんですか?
堀込「アルバムを作る前にこういうものにしようって決めることは、普段はあまりないんです。とりあえず曲を書き始めて、それで今自分がどういうことをやりたいのか、徐々に見えてくるんです。今回作り始めたときは、前作の気分がまだ続いていたので、この感じをより押し進めたことがやりたいなっていう気持ちがありました。そのへんはいつもとは違ったのかもしれない。なに作ろうかなではなくて、あの感じをもっとやりたいという気持ちで始めました」
――たしかに前作の延長線上で、ほぼ全曲ダンス・ビートですよね。ただ前作にあった派手なEDMのような曲はなくて、すごくファンキーで生っぽい人力グルーヴの曲が多くなっています。
堀込「そういうプレイヤーズ・アビリティに頼った曲が多いかもしれません。ドラムに関しては半分以上が生で、全部が生ってわけではないですが。でもベースは2曲以外はエレキ・ベースで弾いています」
千ヶ崎「前作のほうがベースも打ち込みもスムースなグルーヴのトラックが多いです。今回はドラムのトラックもリズムのトラックもスムースなんだけど、ベースはなるべく生々しいプレイをどう乗せようかということを意識しました。タッチするニュアンスをできるだけ残してほしいという」
――そのへんはグルーヴの復権みたいな感じもしますね。
堀込「前作の〈AIの逃避行〉のような四つ打ちってなったら、ああダンスっぽいんだっていう伝わり方をするじゃないですか。でも、今四つ打ちって世の中に流れているかなって思うと、流れていないなあと。むしろBPM80〜90のゆったりしたテンポでどっしりとゆるやかに乗せる曲のほうがかっこいいんじゃないかと思って。〈killer tune kills me feat.YonYon〉もそんなにテンポが速くないし、ド派手な曲ではないけど、ちゃんとグルーヴがあって、メロディもあって、気持ち良く揺れる感じ、ずっと聴いていられる感じ。その“ずっと聴いていられる感じ”を今回は意識しました。〈shed blood!〉もそうですね」
KIRINJI
©Yosuke Suzuki
――展開があまりない、ミニマルっぽい曲が多いですよね。
堀込「展開があまりないぶん、グルーヴなリフなりが魅力的じゃないと飽きちゃうし、作っていても盛り上がらないから、そこは一生懸命うまいところを見つけようとがんばりました」
――そのへんは高樹さんの時代に対する嗅覚の鋭さを感じます。
堀込「いや、そんなこともないです(笑)。シティ・ポップ流行りみたいなのもあって、それもだんだん終息しつつありますけど、自分はたぶんああいうタイプの音楽が得意で、だったら得意な感じをもうちょっと突き詰めたいという気持ちもありました。それでやるとしたらこのタイミングだろうなというのがあったんですよね」
――言われるように、まさにシティ・ポップ・アルバムだと思うんですけど、青空のような爽やかな曲は皆無で、都会の夜っぽいイメージの曲ばかりですよね。こういう曲ばかりできてきたということなんですか?
堀込「シティ・ポップをどこから捉えるかということだと思うんですけど、シュガーベイブから流れてきましたという感じだと、やっぱり日中の明るさじゃないですか。でもブラック・ミュージックのほうから寄っていくと、どうしても夜っぽさっていうか六本木っぽさっていう感じだと思うんです。今回はブラック・ミュージックの側から寄っていった感じがあるから、そうするとどうしても、サウンドとか歌詞とか、夜の匂いのするものが多くなりますよね」
千ヶ崎「グルーヴに印象が向かうには、やっぱり曲の構造がシンプルなほうがいい。ヒップホップやR&Bだと、歌が饒舌でグルーヴがシンプルっていう場合が多いと思いますが、今回のアルバムは前作よりも歌のニュアンスがすごく残っているような気がします。それって今の洋楽の構造に近くて、グルーヴがスムースでシンプルなぶん、楽曲の情感みたいなものを歌が担う。前回のアルバムに比べると歌のニュアンスや歌い回しの表現の幅が大きいように感じます。僕はそれがすごくうれしかった。やっぱりそこが音楽の中心なので。だからそういう意味で、歌ものとしても、前作よりもおもしろいものができたと思います」
――高樹さんのヴォーカルはすごく変化しましたよね。ハイトーンからファルセットでやわらかく歌っている曲が多くて、端的に言ってエロい歌声で、ファンク・サウンドにすごくなじむ声だと思うんですけど、ブラック・ミュージック的ということなんですか?
堀込「ブラック・ミュージックっぽいですね。あまり張らないように、みたいなことは心がけました。KIRINJIになってから、歌を歌っていなかった人が歌うとやわらかいヴォーカルになりがちだけど、もうちょっとちゃんとしたものにしたいという気持ちがあって、しっかり張るようにしていたんです。そうやってずっと続けていくと、歌う人の筋肉ができつつあって、ソフトに歌っても芯のある声が出るようになってきました。じゃあ今回はそんなに張らなくてもいいかなという気持ちになったのかもしれません」
――歌詞は、言葉遊び的な曲とかラジカルな曲とか、かなりユニークなモチーフが多いと思うんですよ。普通のラブソングとかエヴァーグリーンないい曲はもうやりたくないみたいな攻撃的な姿勢を感じるんです。
堀込「たとえばミドル・テンポでいい感じで、エヴァーグリーンな曲ができるじゃないですか。でもいい曲だねって言われて終わるような気がしてしまうんですよね。そういうできあがりのイメージがわかりきっているものは作っていて興奮もしない。どうなるかわからないけど、なんだかおもしろいものができそうだとか、もしかしたらダサいかもとか、こっちいったらヤバイかもとか、そういう怖いところっていうか、ギリギリの感じを今回は辿ってみた感じです」
千ヶ崎「今回の歌詞は、“静かに怖い”みたいな印象がありますね。うわーおっかないじゃなくて、ひたひた怖い。でもそれはべつに不快な怖さじゃなくて。高樹さんは昔から、更新していくということにすごくこだわってるじゃないですか。長いこと見ているとそう思います。自分の中で会得した技術の再生産では満足しないタイプ。だからその延長で見ていくと、自然なことがずっとつながってきているだけなんですよね。だからKIRINJIはやっていておもしろいし、楽しいんです。『11』からの間でも、相当変わってきましたし」
KIRINJI
©Yosuke Suzuki
――個人的に、歌詞でもっともインパクトが強かったのが「善人の反省」です。善人は己の良心に疑いを持たないから反省しないという哲学みたいなものを延々綴っていく曲で、聴いた人が嫌な気持ちになるような曲ですよね(笑)。
千ヶ崎「みんな“俺のことかな”って思いますよね(笑)」
堀込「いや、“俺のことかな”って思う人は(この歌詞で描いている人とは)たぶん違うんです。“俺のことかな”って思わない人が、こういう人だと思う。疑問を持たない人。これは頭のフレーズ2行がパッと思いついて、これなんか理屈こねられないかなって思って。親鸞の『歎異抄』で、善人が成仏できるんだから、悪人が成仏できないわけがないという話があるのですが、どういう意味なんだろうと思って。なんで善人が救われて、悪人も救われるんだろうって考え出して」
千ヶ崎「本当は善人のほうが悪いっていう」
堀込「そう。本当は善人のほうが悪いのにということを言いたいのかなと思った。どうしてかっていうと、善人は自分の悪というものに対して自覚していないから、そっちのほうが悪じゃんって。それをわかりやすい言葉にして。あいつら反省しないからタチが悪いぞっていうことですね」
――それと「Almond Eyes」や「killer tune kills me」で、ラッパーの鎮座DOPENESSやYonYonが参加しています。『ネオ』以降は毎回ラッパーが参加しています。
堀込「音楽性が『11』からずいぶん変わりましたからね。要するにエヴァーグリーンな感じだったら、ヴォーカリストがいてバック・コーラスもいてナチュラルなオケがあって、で完結するけど、ダンスっぽい曲で歌一本で引っ張るとどうしても間延びしてしまう。同じループが続いていく中にラップがポンと入ると、それだけで緩急がつくんです」
――今の日本のシーンってシティ・ポップが隆盛で、グルーヴィなものが時代の音になっていると思うんですけど、そういう中で、ずっと以前からグルーヴィなポップスをやってきたKIRINJIが、今こうやってシティ・ポップど真ん中なアルバムを作って、しかも独自のラジカリズムもあるというところに意義深いものを感じます。真打ちが本気を出したみたいな。今こういう作品を世に出すということについて、どう思いますか?
堀込「すごく不遜に聞こえてしまうかもしれませんが、やっぱり食い足りなさを感じているんですよ。シティ・ポップと呼ばれている音楽を聴くと、リズムが弱いなとか、メロディが弱いとか、ハーモニーが単純とか。もっとうまくやればいいのに、みたいな気持ちがあるんです。〈killer tune kills me〉の歌詞にもなっているんだけど、まさにそういう心境で、いい感じなんだけど物足りないなあ、ガッツリこないなっていう感じのものが多いような気がしていて。自分だったらもうちょっとうまくやるのにっていう気持ちはあるんですよ。そこに立ち向かうじゃないですけど、俺だったらこのくらいはやるという気持ちはあったのかもしれません」
――今までの流れでいくと、また次は変化するような気もしますけど、どう思いますか?
堀込「どうしますかね(笑)。今回はギターをあまり弾いていないから、ギター弾こうかなって気持ちにはなっています」
取材・文/小山 守
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