“まちがってないよ”って言ってもらえている気がした――牧野由依、デビュー10周年を飾る「きみの選ぶみち」

牧野由依   2015/06/19掲載
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今年デビュー10周年を迎えた牧野由依がニュー・シングル「きみの選ぶみち」をリリースした。デビュー曲「アムリタ」(2005年)を手がけた“かの香織”のペンによるこの曲は、ピアノとストリングスを軸にしたクラシカルなバラードナンバー。豊かな感情表現をたたえたヴォーカルからも、現在の彼女の充実ぶりが感じられる。8月には10周年を記念したコンサートも開催するなど、2015年はアニバーサリーに彩られた活動が続くことになりそうだ。
――ニュー・シングル「きみの選ぶみち」は、デビュー曲「アムリタ」と同じく、かの香織さんの作詞・作曲によるバラード。かのさんの楽曲は、牧野さんのアーティスト活動にとっても大きな意味を持っていますよね。
「そうですね。デビュー曲の後もアルバムで楽曲を提供していただいたり、19歳のときからずっとお世話になっているので。新しいことをやっていきたいという気持ちは常にあるし、アーティストとしても、楽曲のジャンルも発展性はあったほうがいいと思うのですが、かのさんの楽曲は――他の作家の方もそうですが――唯一無二な感じがするんです。特にバラードは本当に素晴らしくて、恋しくなっちゃうんですよね」
――「きみの選ぶみち」の原型は、5年ほど前から存在していたとか。
「2010年の年末に楽曲をいただいて、デモの段階まで進んでいました。とても素敵な曲だなと思いましたし、まわりのスタッフを含めて“すぐに出しちゃおう”というノリにはならなかったんですよね。出来るだけ多くの方に聴いていただくために、ベストなタイミングでリリースしたほうがいいよねって」
――当時から「10周年のタイミングでリリース」と想定してたんですか?
「ちょうどその頃は5周年のタイミングだったので、“そこで出すのか、その先を見据えるのか”という感じだったと思います。探り探りの部分もあったんですけど、コンサートでは歌わせていただいていたんですよね。曲タイトルもはっきりと決まっていない状態だったので、歌うたびにお客様から“謎の曲”と言われていて(笑)」
――あの素敵なバラードは何だ?と。
「牧野の界隈では“謎の曲”と言うと“あ、あの曲ですね”って通じるっていう(笑)。そうやってコンサートで歌わせていただくなかで、試行錯誤をしていたと思うんですよね。ふだんのレコーディングでは仮歌を入れる段階で“こんな雰囲気ですかね”と相談しながら自分のなかに染み込ませていくのですが、〈きみの選ぶみち〉に関しては、この5年間のなかでじっくりといろいろなことを試していて。プロセスがまったく違うんですよね」
――今回のリリースに際して、歌詞とアレンジにはさらに手を加えているそうですね。
「メロディ自体はぜんぜん変わっていないのですが、歌詞は違いますね。もともとは震災前に書いていただいた曲なのですが、それからいろいろなことを経ているので……。当初は“希望の光もあるんだけど、それよりも悲壮感に満ちている”というイメージだったんです。今回はかのさんとも相談させてもらいながら、もっと輝かしい世界を表現したかったんですよね。白黒の世界に色が加わり、クッキリした情景になっていく――そんなふうに歌いたいなって」
――より強く光を感じられる曲になった、と。
「大きい意味での方向性は同じなんですが、より具体的になったのかもしれないですね。歌っている相手、メッセージを伝える相手も明確になっているし、包み込むような優しさ、背中を押してあげるような力強さもあって。アレンジに関しては、(編曲を担当した)長岡成貢さんに“映画を観ているような感じになれる曲にしたいです”とお願いしました。弦楽器をふんだんに使って、劇伴のような雰囲気になっていると思います」
――5年の時を経て、10周年のアニバーサリーにふさわしい楽曲になりましたね。
「そうですね。かのさんから新たにいただいた歌詞を見たときに、私自身にも言ってもらえている気がして、涙が止まらなかったんですよ。10年間アーティストとして活動させてもらってきて、いろんなことがありましたし、これからもがんばっていきたいという気持ちもあって。この歌詞を通して“まちがってないよ”って言ってもらえている気がしたんですよね」
――アーティストとして活動するうえで、これまでにも無数の選択肢があったと思うのですが、牧野さんとしても「まちがってなかった」という感覚があるんでしょうか?
「そうですね。その時点では“これはやらなくてもよかったんじゃないか”と思うこともあるんですけど、後々振り返ってみると、無駄なことなんてないんですよね。それは本当に感じます」
――デビューのときに思い描いていた“10年後の自分”になれている、と。
「お恥ずかしい話なんですが、デビューのときはまったく何も思い描いていなかったんです(笑)。オーディションで『創聖のアクエリオン』のエンディングテーマ(菅野よう子のプロデュースによる〈オムナ マグニ〉)を歌わせてもらうことになって、それがプレデビューという形だったんですね。その後、シングル〈アムリタ〉で2005年にデビューしたのですが、そのときにガラッと環境が変わって。子役としてお仕事をさせてもらってはいましたが、音大に通っていましたし、学生がメインの生活だったんです。しかもぜんぜん違うジャンルだったし、アーティストとしての自覚もほとんどない状態で……。こういう取材などで楽曲について話をさせていただく機会もあったのですが、しっかり理解できていなかったと思うし、いまと比べると薄っぺらい考えだったんじゃないかなって。レコーディングなどにも立ち会わせてもらって、いろんなことを経験しながら、少しずつ覚えていく感じでしたね。目の前のことにがむしゃらに向き合っていて、とにかく“いっぱいいっぱい”でした」
――ソロのアーティストとしてステージに立つのはどうでした?
「大変でしたね、やっぱり。最初のインストア・ライヴの2〜3週間前くらいに“ピアノの弾き語りをやりましょう”と言われたのですが、“いやいやいやいや……”という感じで。結局、やらざるを得ないことになったんですけど、それもすごく大変で。ずっとピアノはやっていたし、歌も歌っていたのですが、それを一緒にやるようになったのはデビュー後ですから。しばらくは弾き語りに苦手意識がありましたね」
――ピアノはアーティスト・牧野由依にとっても大事な要素だと思いますが、どうして苦手だったんですか?
「“音大生です”ということを言っていたこともあって――実際、そうなんですけど――ピアノを弾いて間違えたときに"音大生のクセに"って思われたらイヤだなって。いまとなっては“そんなちっちゃいことを気にしてるの?”という感じだし、どうして“音大生です”って自分でハードルを上げていたのかもわからないんですけど(笑)。実際に失敗して、それがトラウマみたいになり、弾くのが怖い時期もありましたし。でも、経験を積んでいくうちに弾き語りの魅力がわかってきたんですよね。すべて自分の思った通りに出来るし、表現の幅もすごくあって。それもぜんぶ、コンサートをやっていくなかで感じたことなんです」
――アーティストとしての音楽的な方向性が見えてきたのは、いつ頃ですか?
「1stアルバム(『天球の音楽』 / 2006年)のタイミングですね。作品のコンセプトをディレクターの方と話し合っていくなかで、それまでに自分がやってきたことも踏襲したアルバムになって。いろいろなジャンルにチャレンジしていくなかで、しっかりした軸がないとブレいってしまうと思ったんですよね。それが私にとっては、クラシカルな要素だったのかなって。ピアノ、弦などを生で入れることもそうですが、クラシカルな部分が基盤になっているし、楽曲の制作のときはいつもそのことを頭に入れています」
――カップリング曲の「たったひとつ」についても聞かせてください。作曲は滝澤俊輔さん、編曲は矢野博康さん。矢野さんとは以前から、いつかいっしょに制作してみたいと思っていたそうですね。
「そうなんですよ。矢野さんの楽曲、サウンドプロデュースした作品などもずっと聴かせてもらっているんですが、あの雰囲気が好きで。グッと来るポイントを押さえながらも、狙い過ぎていない感じというか。すごく簡単な言葉で言うと、オシャレなんですよね。矢野さんが在籍していたCymbalsも好きですね」
――お、ちょっと意外ですね。何がきっかけだったんですか?
「以前、EPOさんに(〈お願いジュンブライト〉)という曲をいただいたことがあって。その曲は資生堂のコマーシャルソングだったのですが、そのシリーズのひとつ前の(CMソングを)歌っていたのが土岐麻子さんだったんです。その縁でEPOさんのコンサートに呼んでいただいて、3人いっしょにステージに立つ機会があって。その頃ちょうど土岐さんのベストアルバムが出ていて、それを聴いたときにCymbalsや矢野さんを知ったんですよね」
――矢野さんのアレンジ、滝沢さんのメロディとの相性もいいですよね。
「滝沢さんのメロディがすごく感動的だったから、アレンジはあえてライトな方向もいいかなと思って。常に光が差していて、そこからさらにドラマティックなものが見えてくるようなサウンドにしていただきたくて、矢野さんにお願いしました。矢野さんも私の楽曲をずっと聴いてくださっていたみたいなんです。それを聞いたときは、音楽を続けていて良かったなと思いました」
――牧野さんが書かれた歌詞も、いつになくストレートですね。
「いま29歳なんですけど、大人と言われる年齢になってから、あまり言わなくなってしまった言葉があるなって気付いたんですよね。たとえば"ごめんなさい"って素直に言えなかったり、"ありがとう"という言葉を身近な人に言うのも意外と難しかったり。そういうことをテーマに歌詞を書いてみたんですけど、矢野さんからも"ストレートな歌詞だね!"って言っていただきました。アマノジャクなところもあるので、もともとは真っ向勝負するタイプではないんですけど、楽曲がとても柔らかいイメージだったから、真っ直ぐな歌詞を乗せてみるのもいいかなって」
――2015年後半も10周年に関連した活動が続きそうですね。
「10周年イヤーに入った瞬間から、いろいろと動いてますからね。大きいところでは8月22日にアニバーサリー・ライヴ(Yui Makino 10th Anniversary LIVE〜So Happy!!〜 / 東京・赤坂BLITZ)がありますし、秋にはアルバムを出す予定です。あと、これは偶然なんですが、海外のイベントが多いんですよね。スケジュール的、体力的にきついところもあるのですが、今年は出来る限り、ぜんぶ行きたいと思っていて。アーティスト活動、声優としての活動を含めて、応援してくださる方々に直接会いに行きたいんですよね。もうひとつ、7月からは初めてミュージカル(ストレートプレイ・ミュージカル『うたかふぇ』/東京・池袋 サンシャイン劇場)にも挑戦します」
――すごい! 攻めてますね。
「可能性はたくさん持っていたほうが楽しいかなって。“自分はこれ”って選び取るのはまだ早いと思うし、まだまだ、いろんな経験をしていきたいんですよね」
取材・文 / 森 朋之(2015年6月)
Yui Makino 10th Aniversary LIVE
〜So Happy!!〜

2015年8月22日(土)
東京 赤坂 BLITZ
開場 17:30 / 開演 18:00

一般発売 7月18日(土)

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