村治佳織、名だたるアーティストとともに参加した『ディズニー・ゴーズ・クラシカル』を語る

村治佳織   2020/10/12掲載
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 2018年にデビュー25周年を迎え、日本を代表するギタリストとしての存在感をますます強めている村治佳織。英国の名門クラシック・レーベル「デッカ(Decca)」と、日本人初のインターナショナル長期専属契約を結び、積極的なレコーディング活動も行っている彼女は、今回『ディズニー・ゴーズ・クラシカル』にマッテオ・ボチェッリ、ルネ・フレミングら名だたるアーティストとともに参加。共演は“女王陛下のオーケストラ”と呼ばれる名門ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団だ。

©Disney
――村治さんにとって初のディズニー音楽のレコーディングとなりましたが、この企画に参加されたきっかけは何だったのでしょうか?
「昨年、デッカから参加してほしいというお話をいただきました。デッカの企画するコンピレーション・アルバムに一人で参加するのは初めてでしたし、しかも豪華なアーティストとご一緒できたので、とても嬉しかったです。デッカに所属できて本当に良かったなとあらためて感じました」
――今回は「パート・オブ・ユア・ワールド」を演奏されましたが、映画の『リトル・マーメイド』をはじめ、ディズニー映画はよくご覧になっていたのでしょうか?
「『リトル・マーメイド』は今回のお話をいただいてから、はじめて全篇通して拝見しました。子供の頃よりも、大人になってからのほうがディズニー映画を観る機会が増えましたね。あらためて、ディズニーの世界は大人も子供も関係なく魅了されるものだなと思いました」
――映画をご覧になったことで演奏する際のイメージは広がりましたか?
「原曲を歌うヒロインのアリエルは、プリンセスですが守られる存在というよりは、困難を乗り越えて海から陸へと上がり、不可能を可能にしていくという強さを持っていますよね。何かを得るため突き進んでいくという姿勢にすごく共感できましたし、今回の楽曲のアレンジがスケールの大きなものだったので、そこに対するイメージも作りやすくなりました。海の底の深い世界や、さしこむ光、“まだ見ぬ世界へ行きたい”という一途な想いを意識しています。また今回ミュージック・ビデオも撮影しましたが、それが本当に私の描くイメージとぴったりなので、ぜひご覧いただきたいです」
――今回のアレンジ、オーケストラとの共演ということもあると思いますが、原曲の元気いっぱいでかわいらしい感じというよりは、グッと大人っぽく、広がりのあるサウンドになっていますね。ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との共演について教えていただけますか。
「今回は一緒にレコーディングしたのではなく、ロイヤル・フィルの方が先に録音した音源に合わせて演奏しました。またそれとはべつに、その伴奏で現地のギタリストの方が演奏されたサンプルも届きました。求められる演奏表現がすでに決まっている状況でしたので、定まった枠組みの中で自分の表現を模索していくのは少し大変でした。音源を何度も聴いて、タイミングをはかりながら、自分の表現を見つけだしていきましたね」
――お話を伺うまで、実際にご一緒に演奏されているものだと思っていました! これまで今回のような形の録音はされたことがあるのでしょうか?
「自分で演奏したものに音を重ねていく多重録音は経験がありましたが、オーケストラと今回のような形での録音は初めてです。“カラオケに合わせました”という感じが出ないように、その場で一緒に音楽を生み出したような“新鮮さ”を出したかったので、その部分には最後までこだわりテイクを重ねています。ですから、そのようにおっしゃっていただけてとても嬉しいです」
――このレコーディングは2019年の5月とのことなので、現在非常に増えている“リモート演奏”の先駆けといえますね! ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏について感じたことを教えていただけますか?
「音に厚みがあって素晴らしいですよね。またそれぞれの楽器の音色が非常に明快で、立体的な響きが聴こえてきます。今回のアレンジにはヴァイオリンのソロ・パートがありますが、その部分は、ヴァイオリニストの方が私と一緒に笑顔で弾いているイメージを持ちながら演奏しました」
村治佳織
――その場で一緒にできないぶん、呼吸やタイミングなど、普段よりもアンサンブルの難易度は増しましたか?
「これまでにたくさんのオーケストラとの共演経験があったことは大きな助けになりました。オーケストラは音の厚みがあるので、いつもより呼吸を深くするとか、こちらがコンマ何秒遅らせて音を出す……といった微妙なタイミングの感覚が必要なのですが、そのあたりはあまり苦労せずにできました。これまでのノウハウが最大限に活かせたと思います。
“聴き合おう”という意識さえあれば、仮にその場で一緒ではなかったとしても無機的ではなく有機的なものができるということが実感できました。リモート演奏の可能性の広さということにも注目していただけるのではないかと思います」
――楽曲もこれまでの村治さんのレパートリーとはかなり違うものですが、何か奏法を変えたりなどはされていますか?
「弾き方とは少し違いますが、プロデューサーから、いつもとは違うアドバイスをいただきました。歌い方はもちろんですが、大きなことで言えばグリッサンドの使い方です。これはクラシックの楽曲ではあまり多用しませんが、今回のような曲ではこれがとても効果的な響きを作ってくれました」
――もともと村治さんの演奏は歌心を感じますが、今回はさらに豊かな“うた”を感じました。この点はいかがですか?
「たしかに音色のことはつねに考えていました。まず、ギターは同じ音を違う弦で奏でることができるのですが、弦の太さがそれぞれ違うので、使う弦によって音色の深みや響きなどが変わってきます。今回は単旋律ということもあり、いろいろな制約がありませんでしたので、普段なら使わないようなハイポジションで、より響く弦を使用して音を出すなど、音によってどの弦を使うかといったことはかなり工夫しました。あとはヴィブラートですね。昔はほとんど使わなかったのですが、『シネマ』(2018年発表のアルバム)以降、積極的に使用するようになりました。演奏活動を再開したタイミングくらいから肩の力が抜けたようで、以前は出せなかったような“ゆらぎ”が自然と出せるようになったのです。今回もそれを最大限に使って演奏しています」
村治佳織
――今回使用された楽器は、『シネマ』のときと同じ1859年製の「アントニオ・デ・トーレス」だったようですね?
「そうです。減衰が非常に美しくて、自然な余韻を出すことができる楽器です。この楽器は3年ほどお借りして弾いてきましたが、最近返却しました。このレコーディングをしていた時は意識していませんでしたが、この楽器での演奏の集大成といえるものになったかもしれませんね」
――ディズニー音楽は世代を問わず多くの方に愛されていますが、村治さんご自身は今回の「パート・オブ・ユア・ワールド」以外に何かディズニー音楽を演奏したり、思い出のある楽曲はありますか?
「リサイタルなどで演奏したことはありませんが、小学生の時、父の主催する発表会の最後に、父と弟と3人で〈ミッキーマウス・マーチ〉を演奏したことはよく覚えています。また、今回のディスクでルネ・フレミングさんが歌われている〈星に願いを〉はよく聴きますし、心に残る名曲です。この曲に限らず、いつかディズニー音楽をソロやオーケストラとの共演で、まとまった形で演奏してみたいなと思っています」
取材・文/長井進之介
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