表現者としての本質が色濃く浮かび上がった中納良恵の2ndソロ・アルバム『窓景』

中納良恵   2015/01/30掲載
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 EGO-WRAPPIN'中納良恵が7年ぶりとなるソロ・アルバム『窓景』(まどけい)を完成させた。複数のサウンド・プロデューサーと共に制作した前作『ソレイユ』から一転、EGO-WRAPPIN'およびソロのレコーディングやライヴで長らく活動を共にしてきた打楽器奏者、菅沼雄太を共同プロデューサーに招いた今作は、多彩なサウンドプロダクションを試みながら、表現者としての彼女の本質がより色濃く浮かび上がってくるような、よりパーソナルな色合いの強い作品に仕上がった。
――ソロ・アルバムにはいつぐらいから取り掛かったんですか?
 「前のソロ・アルバムを出した後も、年に1〜2回ソロのライヴがあったりして、その間にちょいちょい曲を作っていたんですよね。結構、前に作った曲もあるし」
――「Ding Gong」は前のソロ・アルバムを出した直後のライヴで、もう演奏してましたよね。
 「やってました。他には〈SCUBA〉とか〈大きな木の下〉も割と古い曲なんですけど。自分の中では前に作った曲と最近作った曲との温度差をあんまり持たせたくなかったから、その変どうしようと思ったんですけど、菅ちゃん(菅沼雄太 / 共同プロデューサー)と中村君(中村 督 / エンジニア)が、“音のミックスとかで調整していけば最終的に辻褄が合うと思うから、とりあえず出したいものを出そう”ってアドバイスしてくれて」
――今回、共同プロデューサーとして菅沼雄太さん、また、エンジニアとして中村 督さんが全面的に作品に参加されていますが、ご一緒するのは割と早い段階で決まっていたんですか?
 「そうですね。前のアルバムは色んな人とやらせてもらったから、今回はがっつり同じ人とやってみたいなと思って」
――そこで、共同プロデューサーとして菅沼さんを制作パートナーに選んだのは?
 「ソロのライヴを菅ちゃんと2人でやることが多かったのと、あとは、コミュニケーションを取りやすい人ということで。エゴでもドラムを叩いてくれてるし」
――菅沼さんはドラムだけじゃなく、弦楽器も弾けるマルチプレイヤーでもありますよね。そのあたりも理由としてあったのかなって。
 「それもあります。菅ちゃん、ええギター弾くんですよ。エフェクターのかけかたとか音質の加減もセンスいいし。好きなベクトルが似てて、いろいろ伝えやすかったですね。ただ、彼は面倒くさいぐらい超恥ずかしがり屋やから(笑)」
――そうなんですか。逆にコミュニケーションを取るのが難しそうですけど(笑)。
 「そこは長年の付き合いで(笑)。音楽を作るのって、恥ずかしさとかも含めて、全部さらけ出さないと成立せえへん作業なんです。だから音楽を一緒にやってきた人とは、すごく深い絆で結ばれていて。そういう意味では、菅ちゃんとも付き合いが長いから。エゴのアルバムでいうと『Night Food』からなので、もう13年ぐらいになりますね。なので最小限の言葉で理解し合えるというか」
――阿吽の呼吸というか。
 「そうですね。私の性格もよく分かってると思うし(笑)。彼は出しゃばらへんけど、すごく存在感があるから。ドラムの音も繊細やし、すごく歌いやすいんですよ」
――事前に作品の方向性みたいなことは話し合われたんですか?
 「いえ、特に(笑)。エゴもそうですけど、毎回作品を作るときは、コンセプトとか決めずに作り始めるから。森君はいろいろ考えてるかも知れへんけど、私はいつもザックリなんで(笑)」
――じゃあ、基本はいつものスタイルで。
 「そうですね。ただ最近はシンガー・ソングライターとかフォークとか静かな音楽が好きやから、普段聴いてるものと近づけようというのはありましたね」
――ちなみに最近、よく聴いてるのは?
 「スティーブ・ティルストンっていうイギリスの男性フォーク・シンガーをよく聴いてます。70年代の作品なんですけど、繊細なギターのアルペジオを中心にしたシンプルな音で。最近はそういう音楽を好んで聴いてますね。かと思えば、FKA・トゥイグスもよかったし、あとドーターの新譜もよかった。でも、ぱっと思い浮かぶのはそれぐらいですかね。年々、音楽を聴かなくなってるので」
――以前のインタビューでも、前ほど音楽を聴かなくなったっておっしゃってましたよね。
 「そうなんです。最近はパソコンの電源を入れるのとかも、結構気合が必要になって、パッって電源を入れられないんですよ。そこから情報が一気に広がっていくじゃないですか。昔は何でも得たかったし、なんでもやれると思ってたから、うわ〜っていろんな音楽を聴いたり買ったりしてたんですけど、最近は情報をインプットするのに力が必要になってきていて」
――それ、すごく分かります。
 「知ることによって得るものもすごく大きいと思うんですけど、その反面、“知ったところで……”っていうのも分かってきたというか(笑)」
――知ったことによって知識に縛られて、逆に不自由になることもあるし。
 「ありますよね。あと、いろんな情報に囲まれすぎると、世界と自分が隔離されてるような気がして、すごく孤独感に襲われるんです。だからパソコンの電源を入れるときとか気合が要るんですよね。休みの日とかは、ゆっくり自分と向き合ってるのが楽ちんっていうか。……なんかお婆さんみたいな感じですけど(笑)」
――(笑)。でも、今の時代、ほうっておけば情報が入ってきちゃうから。無意識的な自己防衛みたいなものじゃないですか?
 「かもしれないですね。もちろん、いい音楽とか知りたいんですよ。こうやって取材で“最近、いいバンドいました?”とか話すのも楽しいし。でも、以前よりガムシャラな感じはなくなってますね」
――音楽を作ることに対するモチベーションも変わりましたか?
 「そうですね。最近は曲を作りながら自分を再確認してるというか。“自分ってなんやろう?”とか、めっちゃ考えるし。常に妄想して、暴走して(笑)」
――ソングライティングというのは、自分と向き合う作業でもある?
 「曲を書くことで、自分を再発見することもあるし、癒されたりすることもあるし。“やっぱ間違ってない”とか(笑)」
――作業に煮詰まったりしたときは、何をしてるんですか?
 「泳いだりとか。とにかく泳ぐのが大好きなんですよ」
――水泳はいつから始めたんですか?
 「東京に来てからですね。途中、ジョギングに代えたことも何度かあったんですけど」
――なんで水泳に戻ったんですか?
 「ジョギング、しんどいなと思って」
――水泳だって、しんどいですよ(笑)。
 「ははは。でもね、水泳は全然しんどくないんですよ。いつも2km泳ぐんですけど、全然、しんどくないんですよね。今は自宅の近所のジムに通ってるんですけど、そこのプールが見晴らしがよくて、めちゃくちゃ気持ちいいんですよね」
――結構アンビエント感あります?
 「アンビエント感、超あります(笑)。神社とか見えて。ざっくりした感覚ですけど、磁場がいいのかな、とか。だから長い距離とか全然泳げて」
――たとえば長い距離を泳いでると、だんだん無の境地になったりしますか?
 「それが、むしろ、めっちゃいろんなことを考えるんですよ。曲のこととか、日々の暮らしのこととか。上手く言えへんけど、“考える”っていうよりも、自分を客観視できるんですよね。すごく冷静に、自分と向き合って。曲を作るときも泳いでるときも、どんだけ向き合ってるんやって話ですけど(笑)」
――今回も、曲を作ったり泳いだりしながら、自分と向き合いつつアルバムを制作していったと。
 「そうです(笑)」
――ソロで曲を作るときは、もちろんエゴとは違うモードなわけですよね。
 「そうですね。そういえば坂本慎太郎さんが、“僕はライヴ会場のキャパとか、そういうのを想定して曲を作ることはない?”って言ってて。たとえばドームツアーとかやってる人は、たぶん、そういう会場で演奏することを想定して曲を作ってると思うんですよ。エゴでも、野音とかキネマ倶楽部とか、イェーイ!みたいに盛り上がる会場で演奏することを無意識で想定して曲を作ってるところがあると思うんです。歌詞に関しても、エゴでは言葉がお洒落だったりとか、いい意味で着飾るっていうか、そういう言葉選びをしてるような気がするんですよね。でも、ソロではもうちょっと自分の素の部分を出していいんじゃないかと思って。歌詞も曲も含めて」
――そこがエゴとソロとの一番の大きな違いですか。
 「そうです。あとは森君のギターのフレーズから生まれてきたか、自分のピアノから生まれてきたかっていう」
――今回も基本的にはピアノの弾き語りから?
 「そうですね。〈ケムニマイテ〉と〈Ding Gong〉と〈SCUBA〉はサンプラーで声を重ねて作っていきました」
――アレンジはどんな風に組み立てていったんですか?
 「こういう感じにしたいなって、ある程度イメージして、それを演奏してくれる皆さんに伝えていきました。この曲はちょっと弾き語りっぽくしようとか、管楽器がほしいなとか」
――演奏者の座組みも中納さんが決めたんですか?
 「そうです。菅ちゃんは出たことに対してアドバイスをくれる感じで、基本的には自分で決めました」
――では、具体的に幾つか気になる曲について。まず、ハナレグミの永積 崇君とデュエットしてる「beautiful island」ですが、調べてみたら、エゴは結成初期の段階で永積君が所属していたSUPER BUTTER DOGと対バンしてるんですね。1997年に心斎橋クラブクアトロで共演してます。
 「その日のライヴ覚えてます。当時、私らは大阪に住んでたんですけど、“都会っぽい洒落たバンドが来たな〜”って。演奏も上手やったし。東京もんみたいな(笑)」
――東京もん(笑)。
 「ファンキーなんだけど、すごく洗練された印象だったんです。特に永積君の声が印象的で。そのときは挨拶程度しか話さなかったと思うんですけど、上京してからフェスやイベントで共演することが何度かあったり。あと、永積君とは大宮エリーちゃんの番組でデュエットさせてもらって」
――その時に、いつか一緒にやりましょうみたいな話を。
 「そうですね。それほど具体的じゃなく、ですけど。で、今回、自分のソロを作るにあたって誘わせてもらったんですけど」
――作業はどんな感じで進めていったんですか?
 「まずは永積君のスタジオに曲を持っていって、それを聴いてもらって、1回リハをしてからレコーディングしました」
――一緒にやってみて、いかがでしたか?
 「よかったですね。永積君のヴォーカルって、どこかフェミニンなんですよね。すごく不思議な声だなって改めて感じました。レコーディングもすごく独特な感じで。次元がぐにゃって変わった感じがしたんですよ。タイムスリップした感じっていうか」
――タイムスリップ?
 「変なスピリチュアルな話とか、全然そういうのじゃないんですけど、過去とか未来が、ぐにゃってなったような感覚で。一緒にデュエットして、“この人と昔、会ったことあるな”とか、そういう感覚に陥ってしまって」
――デジャヴュみたいな。
 「そうですね。やっぱり音楽は面白いなあって。神聖な空気感でした」
――曲もそういう雰囲気ですもんね。空気が澄んでるというか。
 「そういうのもあったのかな。永積君のスタジオに行ったら、森の音を流してたんですよ。なんか、長野とかいろんな土地の森の音を生で中継してるサイトがあるみたいで。そういうのも相まって、すごくさわ〜っとした時間が過ぎたんですよ。またスタジオも周囲を自然に囲まれてて、空気がいいんですよね。磁場がすごくいい気がする」
――次は坂本慎太郎さんが歌詞を提供している「写真の中のあなた」。坂本さんが所属していた、ゆらゆら帝国ともエゴは何度か対バンしてますよね。
 「最初はスペースシャワーの、くるりRIZEと、ゆら帝とエゴが出たイベントだったかな。たしか野音だったと思います。それからイベントとかで何度かご一緒して。個人的にもずっと、ゆらゆら帝国のファンだったんですよ。坂本さんが作る曲の世界が大好きで」
――ソロも素晴らしいですよね。
 「むちゃくちゃいい。メッセージ性もあるし」
――ユーモアもありますよね。
 「そうですね」
――常々感じてることなんですけど、坂本さんって、ご本人の醸し出す雰囲気や表現がすごくエレガントだと思うんです。
 「あ、そうですね。確かにエレガントや。めちゃくちゃ賢い人だと思うし、ああいう曲を書かれるんだから繊細やろうし」
――坂本さんの作る音楽の一番グッとくるところってどういうところですか?
 「一番というとあれですけど、人間的というかドラマティックなところがいいですね。簡単な言葉で、あそこまでメッセージ性のある音楽を作れるのは本当にすごいなと思います。特にソロは音も歌詞もすごくシンプルじゃないですか。ああいう音楽って作るのが一番難しいと思うんですよね」
――歌詞はどんな感じでオファーしたんですか?
 「ソロ・アルバムを作るんで歌詞を書いてほしいですって。で、ピアノに乗せてラララで弾き語ったデモを渡して、あとは丸投げです」
――で、あがってきたのが「写真の中のあなた」。
 「“そうやって歌ってましたよ”って坂本さんは言ってました(笑)。“僕にはこういうふうに聴こえたんですけど”って(笑)」
――聴こえたんでしょうね(笑)。
 「みたいです。40の女心をくすぐるような(笑)」
――静かなドラマがある歌詞ですよね。しみじみ効いてくるというか。
 「この曲の歌詞って、誰にでも当てはめることができると思うんです。恋人だけじゃなく、先生とか、親とか。歌詞としての間口が広いですよね。今は説明っぽい歌詞が多いじゃないですか。もっと想像力を掻き立てるような歌詞があったほうがいいんじゃないかって近頃、特に思うんですよ。たとえば洋楽を聴いたときとか、直接的には理解できなくても、何を歌ってるのかなんとなく想像できるじゃないですか。自分なりの解釈で。結局は聴く人がどう感じるかだから。想像できる余白があったほうがいいと思うんですよね」
――すごく細かいところですけど、「濡れない雨」の歌詞の最後、「お腹がすいた」って言葉で終わるのがすごくいいなと思って。
 「お腹が減るんですよ」
――そのまんまじゃないですか(笑)。それこそ、「あのね」の歌詞のイカをあぶるくだりとかもそうですけど。ソロならではな歌詞だなって。
 「まさに自分の日常を描いた感じですね。〈濡れない雨〉とか」
――着飾らない中納さんの姿が垣間見えます。
 「そうですね。今回、歌詞を書きながら色んなことを考えて。一人は寂しいなとか、あとは……それこそ愛って深いなとか(笑)。遠藤周作の名言集で愛について語ってるところがあって。 “愛とは捨てることである”って言葉が出てくるんですよね。醜いこととか、イヤやって思うことを受け入れることが愛であるっていう。誰々が好きとか、誰々を愛してるっていうのは愛じゃないっていう。見捨てたくなるようなことまでも受け入れていくことが愛なんだみたいなことを書いてて。なるほどなーと。そんなことをふと思ったりして」
――ちなみに前のソロを作ったときの自分と今の自分を比べて、一番変わったところってどこだと思いますか?
 「前のソロは、今にして思えば、まだまだ着飾ってたかなって思いますね。それはそれで愛おしいですけど。そのときに感じたことを目一杯表現しようと思って頑張ったんやし。そういう自分は認めてあげたいですよね。前向きに頑張ってたこととか、イキってたこととか、振り返ってみると恥ずかしいことも多いけど、いつでも自分に正直に音楽を作ってきたわけやから。それはエゴも含めてですけどね」
――その礎の上に今があるっていう。
 「そうなんですよ。だから誰のせいにもできへんっていうか。結局全部、自分やから。音楽って作り手の内面がどうしても出てくるものだと思うし。自分自身、やっぱり作り手の生身を感じられるような音楽が好きだなって、最近改めて思うんですよね」
取材・文 / 望月 哲(2014年12月)
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