のろしレコード 松井文、折坂悠太、夜久一、シンガー・ソングライター3人が出会って生まれた歌

のろしレコード   2019/10/30掲載
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 3人の個性的なシンガー・ソングライター、松井文、折坂悠太、夜久一が立ち上げたレーベル、のろしレコード。これまで、それぞれがここからソロ作品を発表してきたが、“のろしレコード”名義で3人がコラボレーションを通じたアルバムを作り上げた。本作には、あだち麗三郎、ハラナツコ、宮坂洋生の3人が、“悪魔のいけにえ”というバンドとして参加。3人それぞれが個性を発揮しながら、より幅広い音楽性を持った『OOPTH』は、のろしレコードの新たなアンセムともいえるアルバムだ。レーベルメイトであり、友人であり、良きライバルでもある3人に話を訊いた。
――どういう経緯で3人でレーベルを立ち上げることになったのでしょうか。
松井「私が夜久君と折坂君にライヴで知り合って、それぞれに声をかけたんです。当時、自分のレーベルをやりたいと思っていて、2人の歌がすごく好きだったので何か一緒にやれたらいいなと思ったんですよね」
夜久「文ちゃんちで鍋をするからって誘われたんです。悠太君とはそこで初めて顔を合わせたんですけど、その場で文ちゃんに“レーベルやりたいんだけど”って言われて」
折坂「それまでひとりでライヴとかレコーディングをやってたんですけど、どこか所属する場所とか母体があればいいなとは思ってたんです。でも、それを自分で始めるっていうのは考えてもみなかった。でも、この人たちと一緒だったら面白いかもって思ったんです」
――松井さんのなかで、どんなレーベルにしたいなど、ヴィジョンみたいなものはあったのでしょうか。
松井「具体的なイメージはほとんどなくて。それぞれが一枚ずつアルバムを出せたらいいな、と思ってたくらいです。いざスタートしてみると、3人がレーベルをやっていることが面白いと取り上げてもらうことが多くなって。それは思ってもみなかった展開で、3人で一緒にライヴをすることが増えたんです」
夜久「一緒にやっていると、それぞれ違う方向を向いているから、2人を見て“あ、こういうことをやってるんだ”って、それが刺激になったりしますね。“すごい頑張ってるぞ”って思うやつが身近にいるということが」
折坂「ただ、活動するうえでの実務的な面は、一人でやっている時とそんなに変わらない気がする。だから、ここに所属しているメリットって、正直そんなに感じないんですけど、そのぶん、3人の繋がりがはすごく純粋な気がしますね。そのことに気付くまで、レーベルの在り方をめぐって3人でケンカしたりもしたんですけど」
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――バンドでも大変なのに、3人のソロ・ミュージシャンが一緒にやるのはさらに大変でしょうね。
松井「最初は私が突っ走って、いろいろアイディアを出したり、2人がべつにやりたくないことを無理強いしていたかもしれないですね。でも、そのうちに、みんなが同じテンションで“やりたい”と思うことをやるようになっていきました」
折坂「“また、それぞれでやろうか”ってなった時期もあったんです。でも、最近はそれぞれに土壌ができてきて、お互いにちょうどいい距離感もわかってきた。そこから“また新しいことが始められるかもしれない”っていう気持ちが生まれてきて。そのタイミングで新しいレコードを作ることになったんです」
――なるほど。のろしレコード名義では、2015年にリリースした『のろしレコード』に続いて2作目ですが、前作の制作時と気持ち的な違いはありますか?
夜久「前回はそれぞれが弾き語りで録ったコンピレーションみたいな作品だったんですけど、今回はそれぞれが歌って、そこにみんなが参加するっていうやり方でした。僕はこういうのを3人でやってみたかったんです。僕の中でレーベルをやるっていうのは、こういうことだったので、やりたかったことがようやくできた気がしました」
――それぞれの歌の世界を保ちながら、それが巧い具合に混ざり合っていますね。
折坂「今回の作品はバンドの存在が大きくて。これまで、僕らは“ことびらき”っていうイベントを定期的にやっていたんですけど、去年の年末にこれまでと違う形でやってみようということになったんです。そこで3人を含めたバンドみたいな形態でやってみたら、すごく手応えを感じたんですよね。ザ・バンドみたいに、それぞれが曲を書いて歌うバンド、そんなイメージだったんですけど。それを音源として残したいっていうのが『OOPTH』 の始まりでした」
――バンドと一緒にやってみていかがでした?
夜久「僕はこれまで一度もバンドでやったことなくて、何もかも新鮮でしたね。同時に不安でもあったんですけど、新曲の〈チャイナガール〉をやった時、最初の一音で“あ、大丈夫だ”って思いました。すごく広がりがある音で、みんなやることをちゃんとわかっていて、はっきりイメージを持っている気がして。それがすごく気持ちよかったです」
折坂「バンド・メンバーの曲に対する想像力というかインスピレーションがすごく豊かで。〈道〉という曲をセルフ・カヴァーしたんですけど、一人でとぼとぼ歩いている景色が、音を聴いていると浮かんでくる。あだちさんも宮坂さんもハラさんも、歌詞を深く読みこんで演奏してくれたんだろうなって思います」
松井「私は〈さなぎ〉っていう新曲をやったんですけど、最初に自分がイメージしていたのとはまったく逆の仕上がりになって、それが面白かったです。最初は今よりロックな感じだったんですけど、あだちさんがパーカッションっぽいドラムを入れたりしているうちにカントリーっぽい仕上がりになって。このメンバーでやるんだったら、そういうアレンジのほうがいいなって思いました」
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――アルバムの予告映像を見ると、3人で折坂さんの新曲「コールドスリープ」のコーラスをやっていますが、この曲は本作用に作った曲ですか。
折坂「そうです、スタジオに入る直前にバンド・メンバーと突貫工事で作りました。最初、〈コールドスリープ〉はアルバムのタイトルとして考えていたんです。曲調はトラディショナルだけど、タイトルがSFっぽいのが面白いと思って。でも、その言葉を思いついたら、それが自分たちがやっていることと繋がる気がしたんですよ」
――というと?
折坂「〈コールドスリープ〉って時代を飛び越えるということでもあるじゃないですか。長い間、冷凍睡眠(コールドスリープ)して別の惑星に行ったら、その惑星の人たちからしたら、遠い過去の遠い星から来たことになる。僕ら3人はそれぞれ古い時代の音楽が好きで、それはコールドスリープで届けられたようなものなんですよね。タイトルの〈OOPTH〉は“オーパーツ(註:その時代にそぐわないと思われる謎めいた発掘品)”から来ているんですけど、僕たちは自分たちと違う時代や場所から届いた音楽に共鳴して音楽を作ってきたんだな、と思って」
――なるほど。3人はフォークやルーツ・ミュージックに影響を受けているけど、それを探求しているわけでもないですよね。
松井「べつにフォークにこだわって聴いてるわけじゃなくて、歌詞と音楽のわりと素朴な感じとか、空気感とか、そういうところが好きなんですよ。“こういう歌、いいな”みたいな感じで」
折坂「僕は2人ほどフォーク・ミュージックに詳しくなくて。フォークがどういう音楽か、それを2人に教えてもらった気がします。音楽ってレコードを聴いただけじゃわからない。その音楽が鳴っている現場に行くことで初めてわかると思うんです。最初は勉強程度に聴いていたフォークが、どんどんリアルに感じられるようになったのは、間近で2人が歌っているのを聴いたからなんです。この2人と出会ってなかったら、こういう歌は歌ってなかったと思いますね」
――のろしレコードの歌は、3人の出会いを通じて生まれ、そして、育った歌なんですね。
夜久「3人みんな、音楽がすごく肉体的なんですよ。身体を使って表現してるっていうか。やってることは全然違うけど、みんな歌に絶対に手を抜いていない部分が見える。そういうところを見ると僕はすごく安心できるんです。それだけでも、一緒にやれてよかったと思いますね」
取材・文/村尾泰郎
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