大萩康司 クラシックとラテンをつなぐギタリスト、デビュー10周年のベスト盤をリリース

大萩康司   2010/05/27掲載
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 この“歌心”を、クラシック・ギター好きだけに独占させるのは、あまりにもったいない。そう実感させるのが、今年デビュー10周年を迎えた大萩康司、初のベスト・アルバム『フェリシタシオン! 〜そして新たな日々へ〜』だ。新曲4曲、再録音4曲を含む全19曲、そのどれを取っても、人の肉声につながる情感が、てらいなく伝わってくるからで、ラテン・ファンには「おやすみネグリータ」の名で知られる「キューバの子守唄」など、器楽曲であるのを一瞬忘れてしまいそう。ほんと、“歌声”が聞こえてくるような演奏であり、音色なのだ。


大萩康司
大萩康司(以下同) 「クラシック・ギターのレパートリーとして知られている曲でも、原曲に歌がある場合は聞くようにしているんです。〈キューバの子守唄〉がまさにそう。ギター曲としても有名な曲ですが、ボラ・デ・ニエベがピアノで弾き語りしているヴァージョンを耳にして、どう弾くべきか、初めて理解することができた気がした」
――タンゴの名歌手、カルロス・ガルデルの持ち歌として名高い「想いの届く日」も素晴らしいです。文字通り“歌って”いるようなギターで。
 「ガルデルの歌声がまた、格別ですもんね。あの声を聞くと、男の僕でも、ちょっとグラッと来ます(笑)」
――そう思うと、ラテン音楽との接点が、大萩さんのギターを独特のものにしているような。
 「1998年にハバナ国際ギター・コンクールに出場した時、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブだったり、ギターのレイ・ゲーラだったり、キューバ音楽との素晴らしい出会いがあったんです。レイ・ゲーラにはその後師事することになったし、そういう意味でラテンとの出会いは、自分にとっての節目ですよね」
――逆にとまどいはなかったんですか。
 「レイ・ゲーラに“譜面なんか見るな。心で弾け”と言われた時には、どうすりゃいいんだと思いました(笑)。“いい演奏をするためには、人を愛しなさい”とも言われましたね。そう教えられて初めて、“人を愛する”ことの深さについて、思い至るようになったり」
――クラシックのギタリストが“譜面は見るな”って、ずいぶん思いきってるというか。
 「僕自身は、譜面があるかぎり、必ず目を通すようにはしているんです。ただキューバに限らずラテン・アメリカの音楽家って、たとえ譜面があっても、演奏と違ってる場合がけっこうある(笑)。結局、実際の音を尊重したほうがいい場合が多いんですよね」
――『フェリシタシオン!』には再録ヴァージョンが収録されている「エストレジータ」も印象的です。メロディの向こうから、リズムが浮き立ってくるようで。
 「ハバネラのリズムですね。2001年の『シエロ』で録音した時には、リズムの捉え方がまだあいまいだった。今回の再録で、落とし前をつけた感じですね。おもしろいもので、一見ルーズに思えるラテン音楽を通過してクラシックに戻ってみると、より的確にリズムを把握できるようになっているんですよ」
大萩康司――大萩さんにとっては、クラシックもラテンも、大きな意味でつながっているんですね。
 「『フェリシタシオン!』に収録した〈ショティッシュ・ショーロ〉もそうですけど、作曲したヴィラ=ロボス自身バッハが好きで、それをブラジル人なりに表現しようとしていたわけですよね。音楽って、お互い影響し合っているものであって、クラシックが上でラテンは和声が単純だから下だとか、そういう区分けができるものではないと思うんです」
――ショパンだってそうですもんね。じつは当時の庶民の音楽から、モチーフをいただいてる(笑)。
 「あの音楽は、この音楽とこんな風につながり合っている。そういう関係が自然に伝わるような選曲も、今後のアルバム作りには反映させっていきたい、と思っているんですけど」
――6月からは、大規模なツアーが始まります。
 「ジャズ・ギタリストの小沼ようすけさんとも共演する予定です。小沼くんの自由な演奏を音符に“翻訳”することで、僕なりの表現も探っていきたい。“即興”を得意とする彼と、一度は音符に置き換えて演奏したい僕。どういう世界が生まれるか、楽しみにしています」
取材・文/真保みゆき(2010年5月)



■大萩康司 コンサート・スケジュール
フェリシタシオン!5月29日(土) 17:00 長野・アルカスSASEBO 中ホール
大萩康司×三浦一馬 デュオライブ
問:財団法人佐世保地域文化事業財団 [Tel]0956-42-1111
http://www.arkas.or.jp/?p=6414&cat26_05

6月1日(火) 19:30 東京・STB139 スイートベイジル
ゲスト:小沼ようすけ(g)、喜多直毅(vn)
問:STB139スイートベイジル [Tel]03-5474-0139
http://stb139.co.jp/site/calender/cal/1344.html

6月15日(火) 19:00 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール
問:大阪新音 [Tel]06-6341-0547
http://www.osaka-shinon.com/

6月16日(水) 19:00 京都・京都府民ホール アルティ
問:京都ミューズ [Tel]075-441-1567
http://www.h2.dion.ne.jp/~muse/

7月29日(木) 19:00 東京・キリスト品川教会グローリア・チャペル
問:キャピタルヴィレッジ [Tel]03-3478-9999
http://www.cnplayguide.com/cv_ohagi0729/

※その他の公演、最新情報はビクターエンタテインメントのサイトへ。

■大萩康司オフィシャル・サイト
http://www.jvcmusic.co.jp/ohagi/
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