スタンダードとインプロヴィゼーションをしなやかに行き来するデュオ・アルバムを発表――類家心平 中嶋錠二 インタビュー

類家心平   2014/02/21掲載
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類家心平 / 中嶋錠二“N.40°”
 今もっとも多忙なトップ・ジャズ・トランペッター、類家心平が、同郷青森県八戸市出身のピアニスト、中嶋錠二とデュオ・チームを結成し、新作『N.40°』を発表した。アヴァンギャルドからオーソドックスなジャズまでカヴァーする類家だが、この二人の演奏もまた、そんな自由な空間を泳ぐ。有名なジャズ・スタンダードを取り上げながら、自由な即興演奏が挟まれるが、その境界はほとんどなく、二人のフレーズは、しなやかに不思議な抒情の世界を描いていく。ジャズのスタイルを超えた新しい世界が見えてくる。
――アルバム・タイトルの“北緯40度”とはお二人の故郷である八戸のことですが、同郷というのは後になってわかったそうですね。。
中嶋錠二(以下、中嶋) 「ぼくは知ってましたが、確認したのは知り合った後のことですね」
類家心平(以下、類家) 「たまたま同じバンドで演奏していたんですよ。その後、いいなぁと思って、ぼくのグループにも誘って共演し、さらに今回のデュオに発展しました」
――デュオでやろうというのは、何かきっかけがあったんですか。
類家 「最初はライヴの主催者の提案です。早い話、経済的な理由でしょうね。小人数のグループほど負担が少ないので。2009年ごろからそうしていろんなミュージシャンとやり始めて、それがとても面白かった。デュオは、相手次第でどんどん変わるし、同時に世界がはっきりする。それが面白いんです。最近は(中嶋)錠二とやる機会が多くなって、だんだんこれをアルバムにまとめたくなったんです」
中嶋 「この編成は、ピアノからすれば、好き勝手に出来て面白いですね。自分次第で何とでもできるんです。正直言って、フリーな即興というのに最初は戸惑いました。ピアノという楽器の宿命でしょうか、ハーモニーからなかなか逃れられないんですよね」
――ピアニストという立場だと求められるスタイルがあると思います。
中嶋 「ぼくはピアノで何でもやりたいと思うけど、やはり向き、不向きというのがあると思うんです。演歌はやれないとか、クラシックはやろうと思っても出来ないというようなことが、どうしようもなくある。でも、音楽はそういうものじゃないと思います」
――このアルバムは、スタンダードとインプロヴィゼーションという両極の表現が自然に交差するところが新しく、とても面白いと思いました。
類家 「ぼくたちは、スタンダードもフリーも同列に感じるというのが基本なんです。でも問題は、聴くほうがまだそれに慣れていないことですね。奇をてらってやってるんじゃないかと思われることが多いんですよ。でも、そうじゃないんです。どちらも同じなんだよといいたいんです。それが伝わればいいなと思っています」
――そういった感覚がまさにこのアルバムの核心だと思います。
類家 「スタンダートだと曲自体が方法になってしまうということがあると思うんです。曲そのものにすでに歌詞やメッセージがあって、それに従うことが期待されている。たとえばテンポや曲調とか、そういう規制ですね。でも、じつはジャズにはいろいろな表現が許されていて、それが大きな可能性を生むんです。とくに楽器演奏は曲の意味を自由に変えられるし、それがジャズだと思うんです」
中嶋 「そうしていろいろやっているうちに、自分の世界やスタイルが自然に出来てくるんでしょうね」
類家 「それと、これは自分ひとりだけで生まれるものじゃないと思います。ものを作るというのは、他者がいてこそ成立することじゃないかな。そういう意味で、このアルバムでとりあげた曲は、単なる、“みんなが知ってるスタンダード”ではなく、“ミュージシャンが作ったオリジナル”なんだということに意味があります。あまりやっていないことだけど、ぼくは、日本人が作ったオリジナル曲もスタンダードのようにやりたかったんです。音楽には人柄のようなものが反映されて自然だと思います。
 90年代からいろんな方法が出尽くしてしまって、これまでのやり方では新しい世界への突破がなかなか難しい気がするんですよね。確かに、いろんな難しい技法が今も生まれているけど、逆にそういうものが互いの会話が出来ないようにしている気もするんです。技術の高いアメリカのミュージシャンは、それでも会話が可能なのは素晴らしいけど、技術だけを追いかけると、それだけで手一杯になって、会話も生まれなくて音楽がつまらないものになってしまう。それより大切なのは、やっぱり音楽は人柄なのかなぁと思います(笑)。それが自然に伝わってこそ音楽だし、それを生み出すのが面白さだと思います。最終的には技術といえるかもしれないけど、それは単に目新しいということではなくて、もっと深い人間の素晴らしさを伝えるもので、素晴らしい音楽に共通するものだと思うんですよ。そういうものをみんなで共有したいんです」
取材・文 / 青木和富(2014年1月)
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