【サンドッグ】 ペンギン・カフェの後継者、アーサー・ジェフスによるポスト・クラシカル・ユニット

サンドッグ   2012/11/29掲載
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 今年10月にペンギン・カフェが来日公演を行なって話題を呼んだ。そのリーダーは、80年代に一世を風靡したペンギン・カフェ・オーケストラの創設者である故サイモン・ジェフスの息子、アーサー・ジェフス。彼は父が遺したペンギン・カフェの看板を引き継ぐとともに、自身のユニット、サンドッグを結成して活動している。オリ・ランフォードのヴァイオリンとアーサーのピアノが織りなす静謐な音楽は、まさに“ペンギン・カフェの裏メニュー”とも言うべきもの。このたびリリースされたサンドッグの1stアルバム『insofar』についてアーサーに訊いた。


――ペンギン・カフェの音楽にはオーガニックでのほほんとしていて、明るくてあったかいイメージ、サンドッグの音楽には静かで美しく、ほの暗くてひんやりしたイメージを抱きました。すべてが対照的で、ペンギン・カフェとサンドッグは表と裏のように感じられます。
アーサー・ジェフス(以下、同)「うん、たしかにペンギン・カフェの“裏面”がサンドッグだという考え方は正解だと思う。ペンギン・カフェには独自の世界観や感性の枠組みがしっかりあって、ペンギン・カフェのための曲を書いていても、その枠組みにふさわしくない音楽がどうしても出てきてしまうことがある。じつは僕の父もそうだったんだ。曲を書いていて、ペンギン・カフェらしくないと思うものができると、外部のプロジェクトで使っていた。だから僕も同じように、ペンギン・カフェに合わないものを作るための“裏プロジェクト”としてサンドッグをはじめたんだ」
――『insofar』のライナーノーツによると、ペンギン・カフェのアルバム『ア・マター・オブ・ライフ...』の最後を飾る曲「Coriolis(コリオリ)」のレコーディング過程で、自分のやりたい音楽の中には、ペンギン・カフェの枠には収まりきらないものがあると感じた。それで一緒にレコーディングしていたオリ・ランフォードさんを誘ってサンドッグを結成したとあります。その“収まりきらないもの”というのは、アーサーさんにとって具体的にどのようなものなのでしょう?
 「僕としては、“シネマティック(映画的な)”という説明がいちばんしっくりくると思う。というのも、ペンギン・カフェはシンプルな枠組みに入りきらない感情を外していく“引き算”であるのに対して、サンドッグは感情のレイヤーを重ねていって流れを作る“足し算”なんだ。ストリングスとピアノ、楽器はそれだけなんだけれども、小さなパーツを重ねていくことで流れが生まれる。そういう意味においてサンドッグは、より映画の手法に近いと言えるんじゃないかな。それに、ペンギン・カフェには似合わないようなちょっとダークな感情というのも、サンドッグでは表現できるし」
――曲のタイトルには“崩壊”“喪失”という言葉も見受けられますが、サンドッグではそういったダークな世界観を表現したかったのですか?
 「とくに意識はしていなかったけれど、タイトルを今あらためて眺めてみると、たしかにそういう面はあるね。実際、このアルバムを制作している頃に彼女と別れたりもしたので、感情がそういった方向に流れていたのかも。ペンギン・カフェにはふさわしくないからあえて外してきたものが、こっちにあふれているのかもしれないね」
――オリ・ランフォードさんとは以前から親しかったのですか? なぜ今回、一緒に組むことにしたのでしょう?
 「オリはペンギン・カフェでも、ロンドン公演のときにだけ参加してもらうメンバーだったので、それほど親しいという間柄でもなかった。でも、〈コリオリ〉のレコーディングでオリと二人で演奏したとき、本当に楽しくて、彼ともっと一緒にやってみたいと思ったんだ。ただ、そのときの演奏は、これ以上のことをやってしまうとペンギン・カフェとしては間違い、不適切というギリギリのラインだった。だから、もっとオリと組んでやるからには、ペンギン・カフェとは別のプロジェクトを作る必要があると思ってサンドッグを結成したんだ」
――オリさんは数多くのポップスやロックのスターたちとセッションをされていますが、どんなヴァイオリニストなのですか?
  「ものすごくファニーな人だよ(笑)。完璧主義で技術的にこれ以上ないほど巧いんだけれども、新しいことをやろうと提案すると何でも喜んでトライしてくれる。もともとメニューイン音楽学校を出たクラシックのエリートで、ヴァイオリンという楽器の可能性を熟知している人だし、僕がどんな音楽を書くかということもわかってくれているから、クリエイティヴな面においてすごく相性がよかったね。それと、彼はステージングが最高なんだ! いかにもクラシックの演奏家みたいな難しい顔して登場するんだけれども、何曲かやっていくうちにだんだんノッてくると、芝居がかってきて、かなり面白いものになる(笑)」


――『insofar』は、“響き”がとても印象的なアルバムですね。曲によって響きのイメージ、効果が使い分けられているように感じたのですが、かなりこだわって作ったのでしょうか?
 「このアルバムでは、ピアノのほかに、フェンダー・ローズ、ハーモニウム、ダルシトーンといったさまざまな鍵盤楽器を使ったので、それぞれの特色を活かした録り方をしたかった。だから録音におけるエンジニアリングというものも、コンポジション(作曲)の一環みたいなところはあったね。たとえば〈The Heart Waits(待つ心)〉では、ハーモニウムの内部にマイクを突っ込んで、鍵盤が押し込まれて戻るときのバネみたいな音を拾って拡張して、パーカッションみたいにして使ったり。同じように〈Things Fall Apart(現状崩壊)〉では、ハーモニウムの鍵盤のカチャカチャいう音をマイクで拾って拡張して、ベース・ドラムの音みたいにして使ったんだ」
――録音した後のポストプロダクションでは、デジタルな処理も加えているのですか?
 「基本姿勢としてはアナログで、テープを使ってのレコーディングでできないことはやらないという考え方なんだ。自分の作りたい音というのは、デジタルの技術を使えば簡単にできてしまうんだけれども、それをあえて使わずに、手間と時間をかけて作っていくのが好きなんだね。デジタルの機材は極力避けて作業しているよ」
――〈Light On Stone(石に跳ねる光)〉では、クラブのフロアで鳴っているようなキックの音が聞こえます。使っている機材はアナログなのに、こういうデジタルのような音が出ているのはすごく不思議ですね。
 「〈Both Hands In Pockets(両手はポケットに)〉でも同じようなことをやっていて、ピアノの中に突っ込んだマイクをギター・アンプにつないでるんだ。それとは別に、普通に立ててあるマイクもあって、フィードバックを重ねて……なんていう形で録っているから、要するに、いいとこ取りだよね。アナログの楽器と、エレクトリックの楽器の機材を使って、出ている音は結果的にエレクトロっぽくなっているという。それとこの曲では、ピアノにコンタクト・マイクを設置して、その上に岩を載せた。それで、ピアノを弾いたときに振動で岩が共鳴する音を録る。いい音を録るために、海辺でいろんなサイズの岩を集めてきたよ。岩によって出す音が違うんだ。結局、Cシャープの音が出る岩を使ったんだけど」
――岩に歌わせた次は、人間の歌というものが入ってくる可能性はあるのでしょうか?
 「じつは人間の歌を入れるというのも、考えているところなんだ。この間知り合った女性シンガーが、頼んでもないのにサンドッグの曲に歌をつけて送ってきてくれたりして(笑)。最初は何なんだと思ったけど、聴いてみるとこれがなかなかいいんだよ。フィリップ・グラスリンダ・ロンシュタットと〈フリージング〉という曲をやっているけど、ああいう方法もありかなあ、なんていろいろ考えているところ」
――楽しみにしています!
取材・文/原 典子(2012年10月)
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