[武満徹 生誕80年記念特集] 精霊の庭園から from Spirit Garden〜タイトルを入り口に、武満徹の音楽を聴く〜

武満徹   2010/09/29掲載
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 音楽から立ち上るアロマ、見えるものと見えざるもの、幻視風景にかかる色彩のフィルター。武満徹の音楽をヴィジョンと感覚でとらえる試み。

 幸いにも作曲者は私たちに、勇気をもって音楽が作り出す森へと分け入るためのヒント、つまり言葉のニュアンスが豊かなタイトル(曲名)を残してくれた。〈四季〉〈水〉〈雨〉〈夢〉〈星〉など、読み解くキーワードとしての言葉は花や木々となって、武満様式による〈精霊の庭園〉を形成し、豊かな散策と精神の旅を約束してくれる。

 私たちは音楽を聴きながら脳内散策し(それが、自らプランを立てたコースであっても、行き当たりばったりで偶然の出会いを期待するコースであっても)、旋律や和声に清流のせせらぎから生まれる香気や雨の言葉、星からのささやきなどを重ね合わせることができるだろう。武満徹の音楽は、交感とでも表現したくなるそうした味わい方も許してくれる。

 さて、それでは心静かに庭園へ。
 庭園の色彩と息づかいを演出する四季。私たちが当たり前のように享受している春夏秋冬の移ろい。とくに武満が愛したのは秋の気配だった。去っていった夏への遠い憧れと、これからやってくる冬の静寂を思いつつ、季節からのメッセージを聞く。音を“聴く”のではなく香を“聞く”ように。


[おすすめの作品]

ア・ストリング・アラウンド・オータム(ヴィオラとオーケストラ)、ノヴェンバー・ステップス(尺八、琵琶とオーケストラ)、四季(打楽器アンサンブル)、秋庭歌一具(雅楽)、冬(オーケストラ)

[Disc]

(UCCD-4213〜4)

ノヴェンバー・ステップス、ア・ストリング・アラウンド・オータム 他
小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ 他

和洋の対峙と融合で独特な時の流れを生む「ノヴェンバー・ステップス」、オーケストラが描く秋の風景をヴィオラが歩き、その関係を問いかける「ア・ストリング〜」を収録。




 水の存在感と自由なフォルム。生命の源泉、流れるという躍動的な姿、透明感と純度の高い色彩、すくい上げるとこぼれ落ちてしまうつかみどころがない感触。水は、変容する姿のひとつである〈雨〉とともに武満を魅了し続けた、不思議な存在だ。音楽の中に、流れや静謐な存在感、潜んでいる生命を感じることができるだろうか。


[おすすめの作品]

ウォーター・ウェイズ(室内アンサンブル)、波(室内アンサンブル)、ウォーター・ドリーミング(フルートとオーケストラ)、海へ(アルト・フルートとギター)、海へII(アルト・フルート、ハープと弦楽)、海へIII(アルト・フルートとハープ)

[Disc]

(BVCC-37657)

室内楽作品集(ウォーター・ウェイズ、波、海へ 他)
タッシ、高田みどり、山口恭範、菅原淳(打楽器) 他

水の流れを音に重ね合わせる「波(ウェイヴズ)」、湖の中に流れる河がヒントになった「ウォーター・ウェイズ」、“調性の海”を描く「海へ」など、詩的な作品を収録。





 豊穣の恵みをもたらす空からの贈り物であるのに、哀しみがつきまとう雨の風景。それは水が姿を変えながら循環する過程のひとつだ。武満作品における雨は、ひとしずくが一音となり、その集合体が響きとなるような喜びにあふれている。雨がかもし出す香りもまた、人の心に潜む記憶を呼び起こしてくれそうな予感。


[おすすめの作品]

ガーデン・レイン(ブラス・アンサンブル)、雨の樹(打楽器アンサンブル)、雨の呪文(室内アンサンブル)、雨の樹素描/雨の樹素描II(ピアノ)、夢見る雨(チェンバロ)

[Disc]

(TOCE-13320)

アキ・プレイズ・武満(雨の樹素描、雨の樹素描II 他)
高橋アキ(ピアノ)

「雨の木」からしたたる水がリズムを生み出し、すべての生命に潤いを与える風景。大江健三郎の小説にインスパイアされた、静けさとファンタジーの世界をピアノで。




 雨が水滴なら、星は瞬き。きらきらと輝く光が音となり、その光が流れとなって宇宙を泳いでいく。天空に浮かぶ星座を生み出した、古(いにしえ)の人々に宿るロマンも、音楽というドラマを作り出す源泉だ。そして星座を形成する星の“数”もまた、武満にとっては新しいインスピレーションとなる。


[おすすめの作品]

アステリズム(ピアノとオーケストラ)、カシオペア(打楽器とオーケストラ)、星・島(オーケストラ)、オリオンとプレアデス(チェロとオーケストラ)、鳥は星形の庭に降りる(オーケストラ)

[Disc]

(BVCC-37626)

アステリズム、ノヴェンバー・ステップス、地平線のドーリア 他
小澤征爾指揮トロント交響楽団、高橋悠治(ピアノ) 他

60年代の作品である「アステリズム」は、星群または星雲、結晶体、そして三星印というキーワードが作用し、まるで新しい宇宙の誕生を聴くような音楽。




 数多くの著作(エッセイ、評論など)があり、音楽においても言葉からインスピレーションを受けることが多かった武満。ときにその言葉は音楽の出発点(曲名)となり、世界観を広げていく。またときには音楽とともに語られ、そして歌われる。聴き手にとって、これ以上のヒントがあるだろうか。J.ジョイスやE.ディキンソンなど、インスパイアされる作家(言葉)の顔ぶれからもヒントは得られる。


[おすすめの作品]

マイ・ウェイ・オブ・ライフ(バリトンとオーケストラ)、系図(語り手とオーケストラ)、うた(合唱または歌手)、そして、それが風であることを知った(フルート、ヴィオラとハープ)

[Disc]

(FLCF-3684)

武満徹ソングブック(小さな空、死んだ男の残したものは、翼 他)
小室等

クラシック系の歌曲としてではなく、フォークソングのように歌われる12曲。歌詞は谷川俊太郎または武満自身で、映画の挿入歌や平和集会のための歌などさまざま。

文/オヤマダアツシ



武満徹80歳バースデー・コンサート
10月8日(金) 19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

[出演]
指揮:オリヴァー・ナッセン
ピアノ:ピーター・ゼルキン *
東京フィルハーモニー交響楽団

[曲目]
ウェーベルン:管弦楽のための6つの小品 op.6(1928年版)
ナッセン:ヤンダー城への道
〜ファンタジーオペラ『ヒグレッティ・ピグレッティ・ポップ!』によるオーケストラのためのポプリ
武満徹:リヴァラン *
武満徹:アステリズム *
ドビュッシー:聖セバスティアンの殉教−交響的断章

※チケット購入方法など詳細は東京オペラシティのサイトへ
http://www.operacity.jp/takemitsu80/
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