「どこかで日本っていう文脈を感じたい」――渾身のアルバム『笑うな』で在日ファンクが提示するメッセージとは?

在日ファンク   2014/09/02掲載
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 3年ぶりの3rdアルバムにして、満を持してのメジャー・デビュー作『笑うな』を完成させた、在日ファンク。ハマケンこと浜野謙太が抱え込むネガティヴの固まりから発露するネチっこいグルーヴが、この『笑うな』で、より強靭なファンクネスを纏って帰ってきた! 原点回帰的な印象を匂わせながらも、昔のあいつらとはひと味もふた味も違う――そんな進化を感じさせる在日ファンクから、フロントマンであり今やドラマやCMでも引っ張りだこのハマケンと、トロンボーン担当の盟友・ジェントル久保田の両名に登場してもらい本作についてたっぷりと語ってもらった。
――“在日ファンク、メジャー・デビュー!”ということで、大々的に発表されましたが、その後の反応はどうですか?
ジェントル久保田(以下、久保田) 「いや、でも“まだメジャーじゃなかったの?”っていう感じの反応が多かったですね。今、メジャーもインディーもそんなに垣根がないですし。だから“おめでとう”みたいなのも、そこまで多くもなく(笑)」
――実際、バンドの知名度や活動ぶりは、以前からメジャー所属のバンドと遜色ない感じでしたからね。
久保田 「だから、メジャーになって浮き足立ってるメンバーはひとりもいないですね。やっぱりそれは、メジャー・デビューしたとか関係なく、日頃のライヴとかリハーサルを通して、ここをもっとこういう風にしなきゃいけないっていう目標みたいなものを、いつもメンバー同士で共有して持ってるから。基本的にはそこに向かっているっていう感じですね。メジャー移籍したからって、わかりやすいものを作らなきゃとか、そういうのは無いです」
浜野謙太(以下、浜野) 「契約する前は、“メジャーをもっと利用してやるぞ! 俺らだってガキと違うから全部わかってんだぞ、騙されねぇぞ!”みたいな感じはあったけど、実際一緒に仕事しはじめたら、意外とみんな優しくて(笑)。気持ちをわかってくれる仲間が増えた感じで、すごく心強いです」
――なるほどね。
浜野 「今のレーベルに入るときに、ディレクターから“ファーストみたいなアルバムを作ってほしい。(在日ファンクとして)原点回帰してほしいんだ”って言われて。“あんなインディーズむき出しのアルバムみたいなの作っていいんスか?”ってこっちが驚くぐらいな。でも、俺らもどこかで、ああいう作品を作ってみたいっていう想いはあって。以前契約していたP-Vineレーベルも自由にできたはずなのに、自分たちで勝手にいろんなものを背負い込んで、こう伝えなきゃいけないとか、派手に見せなきゃいけないとか、いろんな要素を盛り込んだサウンドにしちゃってて。でも、メジャーに入った瞬間にそういう風に言われたんで、在日ファンクを一旦解体して、好きにやってみることができたんです。今までよりもむしろ、地味な作業に時間をかけられたというか。とりあえず“伝えたい”とか、そういうことは置いといて、メンバーにハマるかハマらないかってことをやっていったんですよね。たとえば自分の中には、世の中のいろんなことに対するアゲインストな気持ちが、かなりあるんだけど、それを直截的に伝えるっていうよりは、“これ、伝わんのか?”ってぐらいで表現したほうが、メンバー自身にとってもちょうどよかったというか」
――ファーストみたいなアルバムを作ってほしいって言われたときに、久保田さんはどう感じましたか?
久保田 「ファーストを作ったときは、バンドもレコーディングなんて初めてだったし、とにかくハマケンがイメージするものを必死でやったっていう感じで。それが結局、原点になっていて。2枚目、3枚目を作っても、まだそこまでバンドも固まっていたわけじゃなかったので、“ハマケンが言うなら、それやってみよう”みたいな感じで作っていって、それはそれで面白いCDができたと。だけど、3年目にして、バンドで急に“こういう在日ファンクを見せるべきだ!”とか、“俺はこういう在日ファンクにいたいんだ!”とか“そういうスタンスだったら俺はやりたくない”とか、メンバーとしての自我が芽生えてきたんですね。そういう中で、こういう音でアルバムが作れたらいいとか、意見がちゃんと出てきてまとまったところで、“これでいこうぜ!”っていうスタンスで録音ができた。だから今回のアルバムについては、みんなの愛し方が違うんですよね」
――メンバー全員ががっぷり組んで、すべてを出し切れている。
久保田 「そう。そのへんは今までと全然違うと思います」
浜野 「フル・アルバムは約3年ぶりなんですけど、その間にいろいろありましたからね。とにかくミーティングをめちゃくちゃやったんですよ。ケンカになることもあったし、僕とかも弾劾されたし(笑)」
――それがちょうど、ミニ・アルバム『連絡』の頃ですね(笑)。
浜野 「で、その後にも同じような状況があったんですよ」
久保田 「でも、ミーティングを繰り返していく中で“ハマケンのやりたいものをやればいいんでしょ”みたいなのが、揺らいだのがよかったんじゃないかなって思う」
浜野 「そうだね。バンドについての想いをミーティングとかで吐き出すことができたのが、しっかりとしたものにつながったのかなって思いますね」
久保田 「やるからにはこういうものにしたいし、みんなもこうならなきゃいけないっていうのがハッキリ見えてきた」
浜野 「俺も、その時期、声帯炎とかインフルエンザとかやらかしちゃったんで、メンバーも1人や2人辞めちゃうかと思ったんですけどね。インフルエンザのときは、中止が当日に決まって。だけど、連絡が行き届かなかったお客さんや、どうしても会場まで来たいっていう人たちのために、元気なメンバーが握手会を開いてくれて。結構寒い日だったんだけど、お客さんが400人ぐらい来て。インフルエンザで寝込んでるやつがいる中で、メンバーが文句ひとつ言わずにやってくれて。“しっかり休んでね”なんてメールくれたりして、なんだこの天使みたいなメンバーは!って感動して。俺も“絶対、みんなを幸せにするから”ってメールを返したんですけど」
久保田 「もらったほうはポカ〜ンって感じでしたけどね(笑)。幸せにするって、なんだよ。何が幸せなのか、一人一人違うだろって」
――で、今回のアルバム『笑うな』ですが。在日ファンクの根本にあった、ネガティヴなパワーから発せられるファンクの力強さっていうのが、リリックもサウンドとしても、研ぎすまされてる感じがしたんです。とくに今回アルバムの最初の方に入っている「根にもってます」が、やたらと耳に残って。
浜野 「メジャー1発目のリード曲が、〈根にもってます〉でいいのかよっていうのはありますけどね(笑)。ちょっとネガティヴな部分が出過ぎなんじゃないかとか、いろいろ懸念はありますけど。でも、とにかくメンバーにハマってるからいいやって思って」
久保田 「リハ一発目から、“うぉー!アガるねこれ!”って盛り上がったもんね(笑)」
浜野 「バンドにハマると、メンバーが誇りを持って演奏してるような、ビンってなる瞬間があって。すごく頼もしいんです」
久保田 「ハマケンの曲は結構、情報量が多いんですよ。いろんなハーモニーであったり、ベースとギターとドラムの絡みであったり。そういうのをみんなが、ものすごく深く理解しようとして、ハマケンが作った以上にガチっとやって、大きいものにしようっていう姿勢があるよね」
浜野 「そうやって、みんなの中で曲が膨らんでいくのがうれしいんですよね」
久保田 「曲によってはその逆で、ハマるって感覚が来ないときがあるんですよ。リズムの絡みが悪いとか、そういうんじゃなくて。よくできてるんだけど、うーん……みたいな」
浜野 「そういう曲は、ガンガン捨てていって。僕が曲の大方を作っていくんですけど、やっぱりみんなの中で転がるか転がらないかみたいなところを大事にして作ったアルバムなんで。だから、メンバーの満足度もすごく高いと思うんです」
――今までだったら、ハマケンが作ったデモや、頭の中でイメージするものにどれだけ近づけるかが重要だったのが、バンドの中で膨らんだり転がったりする部分を面白がれるようになった。その変化はなんでしょうね。
浜野 「ミニ・アルバム『連絡』の制作において、バンド内クーデターが起きたときからそうなってきてるんだと思うんですけど(笑)、みんなの中でちゃんと在日ファンクがあって、それが俺とは少しイメージが違うなと思っても、面白がれる。それがあるからこそ、ここまで成長できたんだろうなって思う」
――今までは、そういう感触はあまりなかったんですか?
浜野 「なかったっていうか、“みんなもっと(在日ファンクのメンバーだっていう意識を)持ってくれよ!”って感じでしたね」
久保田 「そんなに積極的ではなかったよね」
浜野 「まあ、音楽ってリーダーとか作曲者の頭の中をどれだけ忠実に再現できるか?っていう部分もあるとは思うけど。紆余曲折あって、やっと在日ファンクがみんなのものになってきた。いい意味で、僕の頭の中は100%じゃない。それがもしかしたらみんなの手が加わることで180%になるかもしれないですからね。だいたい、自分の頭の中なんて、不自由なことしか考えてないですからね」
――曲名になってる「根にもってます」っていうテーマと同様、曲や歌詞のしつこい部分もあったりするけど、ファンクの執拗な繰り返しから生まれる気持ちよさっていうのが、わかりやすく表現されてるかなと思って。
久保田 「リズムと、この言葉を発するテンションが、バッチリとハマってるのがいいと思うんですよね。それに“恨んでます”じゃなくて“根にもってます”っていうのが、またいいんだと思うけどね」
浜野 「ずっと“根にもってます”ってことは歌いたかったことで。根に持つことって一番怖いけど、それだけに一番愛もあるんじゃないかって思うんです。とくに最近、バンドに迷惑をかけたんで、メンバーはどう思ってるんだろうっていうのを想像して(笑)。きっとメンバーは根に持ってるんだろうなってこともありつつ」
――人の心理の奥底はわからないから、まったくなんとも思ってないけど、もしかしたら根に持ってるかもしれないですしね。
浜野 「日本人が、洋楽みたいに“愛してます”とか言っちゃうと、逆に軽くなると思うんですよ。それよりは、洋楽ぐらいの愛を表現するなら、日本人はもっとネチネチしないと同じぐらいの愛を表現できないんじゃないかって思う」
――この曲の歌詞って、個人が個人に対して根に持ってることを歌ってるようにもとれるし、もっと大きな意味にも受け取れるように響くのも面白い。
浜野 「在日ファンクで、ちょっと前まで〈一揆〉っていう曲をやってたんですけど、東日本大震災や原発事故があって、それから安倍晋三とかが出てきたりして、自分を取り巻く現状に対して、今はすごくアゲインストな気持ちがあるから。やっぱり僕らがやってるのはレベル・ミュージックだしと思って、直截的に伝える曲も作ってたんですけど、それがメンバーにもハマらないし、ライヴでやってもお客さんに伝わってない感じがしたんです。でも、そういうアゲインストな気持ちって大事だと思ってるから、それは常に心に持ちつつ。それがなんで伝わらないかっていうと、個人的じゃないからだと思うんですよね。個人的な感覚と、どこかでつながってるであろう視点やスタンスを加えたい」
――直截的ではないにしても、たとえば「根にもってます」を聴くことで、自分が根に持ってることって何だろうって考えるだろうし、そこからいろんなことに気付く部分もあるでしょうしね。ずっと根に持ちながら、前に進まないといけなかったりもするし。
浜野 「ずっと想い続けることの大切さというか……そういういい落としどころの曲を作ると、ライヴでお客さんが爆発するんですよね。きっと自分が根に持ってる人の顔を思い浮かべながら踊ってくれてるんでしょうけど(笑)」
――アルバムを聴き進めていってハッとさせられたのは、「脈」と「不甲斐ない」の2曲の並び。どちらも、とても美しいラヴ・ソングです。
浜野 「お、ありがとうございます。綺麗なラヴ・ソングを作りたいと思ってるんですけど、一方で、俺が何歌ってるんだろうっていう想いもあり(笑)。でも〈脈〉はそんな俺だからこそ、サビがしっくりくる」
――“今でも私は不細工なまんま”って、いきなり出てきますからね。以前よりハマケンなりのラヴ・ソングへのアプローチっていうのはあると思うんだけど、今のこの時期に「脈」という曲が生まれたというのは、どういう思いから?
浜野 「やっぱり自分は結婚してるし、子どももいるし。でも、そういう立場でも、ラヴ・ソングって作れるものなんですよね」
久保田 「でも、この曲には他のストーリーがあるんだよね?」
浜野 「広島のこと? ああ、それだとラヴ・ソングって内容ともちょっと離れちゃうんだけど……僕は広島が好きなんですけど、広島に行って思うことを書きたいなと思ってて。広島って、行くといつも晴れてて、それって統計的に晴れてる日数が日本の中でも一番多くて、だからこそ広島に原爆が落とされたんですよね。原爆が落とされてまっさらの更地になっちゃったから、新たに区画整備もされてて、道路もめちゃくちゃ広いんですよね。だから、広島に行くと晴れてるし道路も広いし路面電車も走ってて、気持ちいいって思っちゃうんですよね。でも、それも多くの人たちの犠牲の上にあるもので。結局ね、今回の『笑うな』っていうアルバム全編通してそうなんですけど、どこかで日本っていう文脈を感じたいっていうのがあるんですよね。でも、それってただ理屈っぽく話してても、へぇ〜っていう感じで流されていってしまう。だけど、みんなどこかで想ってることだと思うんですよね。そういうグチャっとした感情があって」
――広島っていう場所に行って気持ちいいとリアルタイムに感じる感情もあるけど、それは過去に積み重なった複雑な想いの上に成り立っていることでもあって。それって、さっき「根にもってます」で語ってくれた、想い続けることの大切さっていう部分とも通じますよね。
浜野 「そうなんですよ」
――ただ、そういうきっかけでできた曲だとしても、そのメッセージを語るだけのものに終わらず、純粋に美しいラヴ・ソングとしても受け取れる。一方で「不甲斐ない」についてはどうですか?
久保田 「この曲は聴いて一発で、ハマケンの日常だなって思いましたね。レコーディングもあっという間だったね」
浜野 「あっという間だったね。やっぱり切実じゃないと伝わらないっていうのは、表現する人はどこかで考えてると思うんですけど、じゃあ切実って何だって考えたときに、“君と会えなかったら死ぬほどツラい”とか、そういうのも切実だろうし……」
――“靴を買うのに半日迷う”って嘆くことも切実ですしね。
浜野 「そうなんです。僕なりの“リア充の切実”って何だろうっていうね。“重い荷物を持たせてごめん”みたいなことを、在日ファンクのサウンドに乗せられたことが、まず発明で(笑)」
久保田 「これ、すごくいいよね」
――さだまさしさんの「関白宣言」にも通じる、素敵なラヴ・ソングだと思いますよ。
浜野 「ああ、そうか! あれは素晴らしい曲ですもんね」
――自分のダメなところや弱い部分を散々さらけ出した後に、それでもついてこいって宣言するっていうのが、グッとくる。
浜野 「思い出したようにね(笑)。いろいろやっていく中で、この曲が入っているとすごく楽になれるというか。〈不甲斐ない〉は、僕がホーン・セクションを作らずに持っていって、その場でホーンズに考えてもらって。そうしたら、すごくいい仕上がりになって」
久保田 「在日ファンクとしては珍しく、管楽器もほとんど入ってないアレンジで。普段は最初から最後までダーッってホーンが入ってるんですけど、この曲は要所要所に絞って聴かせていて。普通っちゃ普通なんだけど、在日ファンクとしては初めてってぐらいに珍しいですね」
――アルバム後半に収録された、「断固すいません」のインパクトもすごいですよね。
浜野 「最近、謝罪会見とかで面白いのが多すぎるけど、みんな謝ってるようで、全然謝ってないんですよね。さっきからの話にも通じるかもしれないけど、日本人は謝り倒さないといけないんだから、立場的に。まずはそこをちゃんと謝ることからはじめないと。“もう謝らなくていいでしょ?”って言える人っていないと思うし、言っちゃいけないし、それは謝ってることにならない。それって文脈を完全に排除しちゃってることと同じだから。それだったら“俺らはカッコよく謝ろうぜ!”じゃないけど、ちゃんと謝ろう、そしてそこからはじめようっていう。謝ったほうが弱いとか、謝ったらその人を完全否定とか、そんなことは絶対にないし。そういうアゲインストな気持ちで……なんでもアゲインストしたいんですよ!」
――在日ファンクは、そこが一貫してますね。
浜野 「アメリカ人の真似して同じようなことをやってるなら、それはアメリカ人のものを聴けばいいってことになっちゃうから。俺らならではの、日本人ならではのことを歌えばいいって、そういうことを常に考えてますね。ファンクに俺らがメッセージを乗せるなら、やっぱり“すいません”だろうと」
――「STAND!」とか「GET UP!」じゃなくてね(笑)。
浜野 「そうそう。勇ましく謝ろうぜ!っていうね。これも〈根にもってます〉と同じく、最初からバンドにハマった曲ですね」
――続く「産むマシーン」は、やっぱり子どもが生まれて、人間っていう生き物の成長を目の当たりにしてる人だからこそ生まれた曲だなって感じたんですが。
浜野 「妻が出産したら、何か曲ができるんじゃないかって思ってたんですよね。壮大で素敵な感じの曲が。そうしたら湧き上がってきたのがこれで(笑)。こんな苦労して、この曲を産み落とすっていうのがね。そうやって作ってたんですけど、それこそ妻に“〈産むマシーン〉とかいう言葉なんてつまんないし、作らなくていいじゃない”って言われて、ショックで一時期ペンディングにしてたんです。でも、二人目を授かった時に、生まれてくる子が心臓病で手術もしないといけないって状況になって、夫婦ふたりでめちゃくちゃ話し合ったんです。手術なんてすごく可哀想だし、何がその子にとって幸せなんだろうって考えたり、それこそいろんな人に相談したんです。一番効いたのが、角張さん(角張渉 / カクバリズム社長)の言葉で。“わかるけど、俺は絶対に産んだほうがいいと思う!”って涙声で言ってくれて、これは俺が絶対に妻を説得しようと思って。産むからには、二人の間に疑問とか不安とか悲観的なものをすべて解決しようと思って、それこそ在日ファンクと同じように、妻と二人でとことんミーティングしたんです。〈産むマシーン〉のAメロが第1子だとしたら、Bメロが第2子で……」
――“動くかどうかもわからないのに 切って貼って切って貼って”というフレーズが当てられた部分ですね。
浜野 「子どもを生んで育てるっていうのは、曲を作って歌っていくことと結構近いよなって思って。そんな気持ちをぶっちゃけて作り上げようって」
――そうして産み落とされた「産むマシーン」っていう曲が、アルバムの中でもひと際生々しく力強いビートになっているっていうのが素晴らしい。
浜野 「レコーディングも、部屋を開け放して一発録りでやったのがすごく良かったね」
――アルバムのタイトルにもなっている「笑うな」は、男女の濃密な関係の生々しさが表れている曲ですね。この歌詞の内容って、すごくわかる感じがするんですよ。セックスの最中に笑顔とかいらないっていうか。たまにAVとかでも、やってる最中にキャッキャ言いながらやってるの観ると、すげぇ冷めるんですよね(笑)。
浜野 「そうそうそう(笑)。日本人がセックスする回数が減ってるとか、少子化とかも、そういうのと関係あると思うんですよね。普段から笑っていろんなことをごまかしてるじゃないですか。バラエティ番組でもやたらと芸人をぶち込んで、真面目なことをごまかし合ってるでしょ? そうやって日常からごまかしてるから、真面目な局面になって、気持ちをどうシフトしていいのかわからなくなるみたいなね。逆にそうやって分けると、真面目にやるものか、笑ってやるものかの両極端になっちゃうわけですよ」
――映画の宣伝なんか見ても、感動するものか、笑えるものかのどちらかになってますもんね。
浜野 「それに、今って笑いっていうものが便利なものとして多用されすぎてる。僕らはもっと狭間にある、なんだかよくわからないから笑っちゃうっていうものを大切にしたいんですよね。それに、笑いのためにも、笑わない時間っていうのも必要で。とにかく常にニヤニヤするんですよ、日本人は!」
――たしかに日常でもニヤニヤしてやりすごす場面も多いし、そこで堂々と『笑うな』と宣言する大切さはあるかもしれない。
浜野 「昔は在日ファンクのミーティングでも真面目なことをとことんやりたいけど、照れ隠しで笑いながら重要なことを言っちゃったりしてたんですよね。そうすると伝えたい人に伝わらなかったりするんですよね」
久保田 「とくに日本人は、物事に真面目に対峙することが苦手だよね」
浜野 「最初はギャラの話とかするときも、みんな笑いながら言ってたもんね」
久保田 「そうだね。そこは真顔でやるべきだよね」
浜野 「黒人はお金にがめついとか言うけど、黒人は絶対にギャラの話を笑いながら言わないよ。なんで笑っちゃうのかっていうと、どこかで卑しいって気持ちがあるからなんだと思うけど、それは全然卑しいことじゃないし。なんで卑しいって思っちゃうのかってところからはじめればいいと思うんだけど」
――うんうん。
浜野 「やっぱりね、頭いいフリをするんですよね。日本人は」
――それにしても、今日は随分とあれこれ物申しましたね!
浜野 「でも、そんな卑しい日本人に対して、俺は根にもってるんですよ。イコール、愛してるってことですけどね」
取材・文 / 宮内 健(2014年8月)
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