クンビア再評価ムーヴメントを牽引するZZKレーベル

2010/10/21掲載
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 コロンビアを原産とする民族音楽・クンビア。シンプルな2拍子を基調としたこの南米産リズムが、数年前からダンスミュージック・ファンを中心に大きな注目を集めている。そんなクンビア・ブームを牽引しているのがアルゼンチンはブエノスアイレスを拠点とするZZKレーベルだ。先ごろMOODMANのミックスCDとShhhhhによるセレクトCDからなる2枚組作品『ZZK RECORDS presents THE DIGITAL CUMBIA EXPLOSION』が発売されるなど、ここ日本でもその存在はじわじわと浸透しつつある。そんなZZKの魅力を探るべく、中心人物の一人であるエルGことグラントにメール・インタビューを試みた。


 僕の友人のなかには何人ものクンビア中毒がいるが、症状がひどい場合は電車のガッタンゴットンという音がクンビアのビートに聴こえることもあるそうだ。それほどまでにクンビアには中毒性があるのだろう。まったく恐ろしいことである。

 クンビアとは南米コロンビアを原産とする民族音楽の一種。50年代以降は中南米全域へとその人気は広がり、現在では世界中で熱心な信奉者を生み出すに至っている。近年ではそのクンビアに新しい解釈を加えて斬新なサウンドスタイルを打ち出す音楽家 / トラックメイカーも次々に登場、やたらとあちこちから“ク〜ンビア!”というかけ声を耳にするようにもなった(言い過ぎ?)。そうしたクンビア再評価ムーヴメントのなかで目立った活動を展開しているのが、アルゼンチンはブエノスアイレスを拠点とするZZKレーベルだ。

 このZZKの特色は、ダブステップやエレクトロなど近年のクラブ・ミュージックの潮流を下地にしながら、そこにエッセンスとしてクンビアのスパイスを振りかけている点。パッと聴きはアメリカ産かイギリス産かという感じだが、よく聴いてみるとそこにはクンビアのビートがしっかりと横たわっていたり、コロンビアのフォルクローレ歌手の歌声がサンプリングされていたりする。このさじ加減が何とも絶妙なのだ。

ZZKの中心人物の一人、
エルGことグラント
 ZZKの始まりは、現在もブエノスアイレスで続けられているパーティ<ジゼク・アーバン・ビーツ・クラブ>が発端。そのパーティが始まったのが06年末、08年からはレーベル部門も始動することになった。ZZKの中心メンバーはエルGことグラント、ニーム、ビージャ・ディアマンテという3人で、後者2人はアルゼンチン人、グラントはテキサス生まれのアメリカ人である。今回、そのグラントにメール・インタビューを試みた。
 「レーベルを始めたのは、<ジゼク・アーバン・ビーツ・クラブ>で起きていたことを世界に伝えるため。ジゼクのDJたちはカッティングエッジなラテン・ダンス・サウンドをレペゼンしようとしてるんだけど、素晴らしいサウンドは常に素晴らしいパーティから生まれると思うんだよね」
 ZZKは極めてゼロ年代以降らしいレーベルと言える。クンビアという土臭いローカル・ミュージックに対して遊び心たっぷりに向かい合う姿勢はもちろん、インターネットを通じた情報発信や音楽制作にも積極的。DJ陣のミックスをフリーダウンロードできるようにしたり、ア・カペラをウェブ・サイトにアップしてリミックスを募ったりしながら、世界中のクリエイターと盛んな交流を行なっている。
 「僕らはさまざまな国のプロデューサーとコラボレーションするのを楽しんでいるんだ。インターネットのおかげで同じものに興味を持つ人たちが簡単に繋がれるようになったし、それによって関係を持ったりコラボレーションするのも楽になったからね」
「ZZK SOUND Vol.1」
 もうひとつ重要なのが、ZZKがヴィジュアル面にも力を入れている点だ。彼らのウェブ・サイト(http://www.zzkrecords.com/)にはポップでカラフルなアートワークが所狭しとアップされているが、それはアコーディオンやソンブレロ・ブエルティアオ(ヤシの葉で編んだコロンビアの帽子)といったクンビアのパブリック・イメージとは真逆のものである。
 「ZZKは何ヵ月かごとにデザイナーを入れ替えていて、彼らのヴィジョンをグラフィックやイラストで表現してもらっているんだ。さまざまな若いデザイナーが僕らと仕事をしたがっていて、それは本当に嬉しいことだね」
「ZZK SOUND Vol.2」
 ブエノスアイレスという街については「僕はこの街の人と文化、歴史、音楽、食べ物、エナジー、それらすべてを愛してるんだ。この街がZZKの生まれた場所だし、多くのアーティストが来た場所でもある。NYやロンドンに拠点を移そうとは思わないな」とも話すグラント。彼らの音源は2枚のコンピレーションや所属アーティストの単独アルバム、12インチ・シングルなど多数リリースされてきたが、今回、その神髄を伝える2枚組『ZZK RECORDS presents THE DIGITAL CUMBIA EXPLOSION』が本邦初登場盤としてリリースされることになった。一枚は日本でもっとも忙しいDJであるMOODMANがZZK音源をエディット&ミックス、もう一枚は辺境サイケデリア道を突き進むDJ、Shhhhhの選曲によるコンピ。いわば日本のアンダーグラウンド・クラブ・シーンとZZKの奇跡の出会いがここに実現したわけで、グラント自身が「本当に嬉しいよ! MOODMANのミックスはかなりヤバイよね。日本のレーベルが僕らのやってきたことに興味を持ってくれて本当に光栄だよ」と興奮するのも無理のない話である。

 ZZKは北米やヨーロッパへの進出にも乗り出しており、主要メンバーは各国で盛んにDJプレイ / ライヴ・パフォーマンスを行なっている。Youtubeなどでその模様を見るかぎり、そのパフォーマンスはかなりキテレツでポップなもの。アルゼンチンから日本まではかなりの距離があるが、ぜひメンバー揃っての来日公演を期待したいところだ。
取材・文/大石 始(2010年10月)



MOODMANのミックスCDとShhhhによるセレクトCDからなる強力な2枚組!


※発売中
『ZZK RECORDS presents THE DIGITAL CUMBIA EXPLOSION』
(RMTCD022 税込2,730円)
 ここ最近ではドイツの異形ラップトップ・レゲエ・レーベル、JAHTARIの音源をリリースするなど、良質かつ個性的な作品をジャンルレスにリリースし続けているRUDIMENTSからの2枚組。ハードコアなクラブ・ピープルから絶対的な信頼を得るMOODMANのミックスは、デジタル・クンビアの根っこにあるベース・ミュージック成分を抽出し、独自解釈を加えたMOODMANらしい内容に。こうして聴いてみると、ダブステップ〜ダンスホール〜エレクトロ〜クリックなどさまざまなエッセンスが混在しながら、統一したカラーを持つZZK音源のヴァリエーションの豊かさを再認識できるだろう。また、Shhhhh選曲サイドはチャンチャ・ビア・シルクイートやエル・レモロンなど主要メンバーの楽曲をセレクトしながら、クンビアの持つサイケデリック成分がニュルッと絞り出されている。本作でZZKの世界に初めて触れるリスナーも少なくないと思うが、本作を通してトラディショナル / エレクトロニックという2つの側面が共存するZZK音源の摩訶不思議な魅力が分かりやすく伝わってくるはず。風変わりなダンス・アルバムを探しているリスナーにも強くオススメしたい。(大石 始)
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