MESSAGE――大西洋平ドキュメンタリー

大西洋平   2010/12/01掲載
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 東京・渋谷を中心に年間150本を超える路上ライヴを行ない、メッセージ性の強い“歌”を届けているシンガー・ソングライターの大西洋平。そんな彼が2009年には3曲入りのCD「きっともっと特別な / 8月16日、彼は明日の朝バイト」を、2010年10月にはスタジオ・ライヴの模様が収録されたDVD+CDの『スタジオライブ』をリリース。そこで、常に“ライヴ”を意識した活動を続ける彼にスポットを当てた。


 まず、現時点での代表曲ともいえる楽曲「8月16日、彼は明日の朝バイト」を聴いてみてほしい。2009年にリリースされた最初の音源、そして、今年発表されたスタジオ・ライヴ盤(CD+DVD)にも収録されたこの曲には、シンガー・ソングライター大西洋平の本質がもっとも強く刻み込まれている。実際に見た風景、そこから生じた思いをありのままに描いたリリック、ずっしりとした力強さと心地よい開放感を併せ持ったメロディ、徹底的に装飾を取り除き“まっすぐに歌を届ける”ということに焦点を絞ったパフォーマンスが一つになったこの曲には、年齢や好みのジャンルを超え、聴き手の気持ちをグッと引き寄せるパワーが確かに宿っている。しかし大西自身はこの曲を書いた当初、「ぜんぜんウケないと思ってました」と言う。
 「この曲が出来たのは、まったくの偶然なんですよね。渋谷でライヴがあって、そのときの対バンの人たちと話しているうちに終電を逃しちゃったんです。そのときにつれづれに書いた曲だったから、“いい曲だね”って言われるたびに“えっ、これがいいの?”って(笑)。思ったこと、起きたことをそのまま書いただけだから、“自分から生まれた”っていう気がしないんです。でも、この曲が気づかせてくれたことはたくさんありますね。人に届く歌って、こういうことなんだな、と」
 「8月16日、彼は明日の朝バイト」には、「お金が欲しくて歌い始めたんじゃない 有名になりたくて歌を選んだんじゃない/小学5年の時 学校の先生が歌が上手と褒めてくれたからだ」という一節があるが、これも本当の出来事だという。テレビの音楽番組が大好きで、クラスでもしょっちゅう歌っていたという大西。歌への興味はこの頃から、しっかりと芽吹いていたようだ。
 「小学校高学年くらいになると、音楽の授業でも恥ずかしくて歌わなくなったりするじゃないですか。僕はぜんぜんそんなことなくて、大声で歌ってたんです。そのときの先生が“君の歌はいい”って言ってくれて、嬉しかったですね。ホントに歌が上手いと思われたのか、歌に対する姿勢を褒めてくれたのかはわからないですけど(笑)。その頃に好きだった音楽から、“歌で人の人生が変わるってことがあるかもしれない”って教わったんですよね」
 中学に入ると、音楽に対する思いはさらに強くなっていく。「いまギターをやらないと、一生やらないかもしれない」という焦燥感に押されるようにしてクラシック・ギター部に入部、ギターの基礎を学ぶとともに、学校の先輩たちからの影響で洋楽ロックも聴き始める。さらに友達と一緒にバンドを結成、早くもオリジナル曲を書き始めたという。彼の音楽活動のベーシックになっている“路上ライヴ”を初めて経験したのも、この時期だ。
 「中2の最初の頃は、もう路上に出てましたね。原宿なんですけど、当時はギター弾きながら歌ってても、ぜんぜん大丈夫だったんですよ。一人でやるのは気まずいから、隣に友達に座ってもらって。でも、けっこう人も集まってたんですよ。交差点の信号が青になるのを見計らってその曲の目立つ部分を歌ったりして。その頃はカヴァーが中心でしたけど、オリジナルもちょっと歌ってました」
 プロになることを意識しはじめた高校時代には、3ピースのバンドを結成、都内のライヴ・ハウスで月1のライヴ活動をスタートさせる。この時期の大西は、(現在の音楽性からはちょっと想像できないが)エアロスミスホワイトスネイクをはじめとする洋楽ロックに傾倒していたという。
 「トライセラトップスが好きだったっていうのもあるかもしれないですけど、ギターのリフがあって、ロックで、しかもメロディがポップっていう音楽をやりたかったんです。TOTOも好きで、そこからAOR――ボズ・スキャッグスとかクリストファー・クロスなんかも聴いたり。ギターはそれほど上手くなかったけど“弾きながら(歌う)”ってことはかなりやれてたと思います。どっちかというとサウンドを重視していて、歌詞は“めちゃくちゃ英語”だったりしました。デモ・テープをレコード会社に送って、“会社に遊びに来なさい”ってこともあったし、すごく自信はありましたね」
 大西の音楽性が大きく変化するのは、高校卒業後。大学に入って新たにバンドを作るも、ソロ・アーティストとして活動することを決意。一人でデモ制作を続けると同時に“弾き語り”という表現にも改めて向き合うことになる。それはもちろん、“自分が表現すべき歌とは?”という問いかけでもあったはずだ。
 「弾き語りの人が何人か集まってるライヴにも顔を出してたんですけど、“おもしろいことを歌ってるな”っていう驚きがあったんですよね、最初は。ただ、そのうちに“驚かせる”ということばかりに意識がいくようになっちゃったんです。突拍子もないことばかり歌う、というか」
 ちょうどその頃、大西は偶然、友部正人のライヴを観る。そこで聴いた「一本道」――東京・阿佐ヶ谷の風景を描いた名曲――によって、大西は自分の音楽観が一気に変わるほどの大きな衝撃を受ける。
 「もともと影響を受けやすいタチなんですけど、友部さんのライヴを観たときは“ズドン!”と来ました。その頃に自分が書いていた歌を思い返して“本当に自分が残したいのは、こんな歌なのか?”って考えると、絶対にそうじゃないなって。いまの僕には普遍的なことを歌うことができない。だったら、まずは自分自身が強烈に感じてること、本気で思ってることを歌うしかないし、そうじゃないと意味がないな、と。そう思ってからは、作る歌も変わってきましたね。“サウンドがいい”って言われるよりも“歌詞がいい”って言われたほうが嬉しくなったし。……何かを残したいんですよね、聴いてくれる人のなかに」
 「ライヴのチケットも売れない、毎日がつまらなくて“このままじゃやばい”と思ってたとき、自分の気持ちをそのまま書いた」という楽曲「めぐり逢えたら」、恋人との思い出、別れを受け入れようとするリアルで切実な心情を綴った「カーテンコール」。“絶対、この人にしか歌えない”という強い独創性、そして、生々しい体験に裏打ちされた楽曲を決して独りよがりなものにせず、幅広い層のリスナーに伝わるポップ・ソングに結びつけるセンスが一つになった彼の音楽は、ここからさらにたくさんの人々によって共有されることになるだろう。
 「“こうなりたい”っていう目標はあまりなくて。自分ができるのは“曲を作って歌う”、それだけだと思うんですよね。自分の評価に結び付くことで、自分で良くしていけるものは、やっぱり歌しかないのかなって。そこさえしっかりやっていれば、必ず伝わると思うんですよね」
 大西の音楽的なスタンスについて、特筆すべきことがもう一つある。それは“生”の音楽へのこだわり。渋谷での路上ライヴを続けているのも、スタジオ・ライヴによる音源、映像をパッケージした作品をリリースするのも、すべてそこに繋がっているのではないだろうか。
 「携帯で音楽を聴く人が増えてますよね。楽しみ方は人それぞれだし、どう聴かれてもいいんですけど、音楽がファースト・フードみたいになっちゃうのは良くないんじゃないかなって。デスクトップ・ミュージックのおもしろさもあるけど、ギターを生で弾いたときの振動っていうのは、“データ”とはぜんぜん違うものなんだよって。絵だって教科書とかで写真を観るのと、美術館で生で観るのは全然違うんですよ。絵の具が淀んでいたり、赤と青の間にある色がとってもキレイだったりするんです。あっ、同じ人間がこれを本当に描いたんだって思うような。音楽も生身の人間から出ているというところをもっと感じてもらえたらと思っています」
取材・文/森 朋之(2010年11月)


【大西洋平 ライヴ情報】

<道玄坂吟遊詩人〜第二十五編〜>
●12月20日(月)@渋谷GUILTY
●OPEN 18:00 / START 18:30
●ADV.¥2000 / DAY. ¥2500(DRINK別途¥500)
●出演:あるがまふぃあ、YOO、実平雄飛、大西洋平
 
大西洋平ワンマン・ライヴ
<今日に名前をつけるなら>

●2011年1月28日(金)@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
●OPEN 18:30 / START 19:00
●ADV.全席指定 ¥3,800

■大西洋平 オフィシャル・サイト
http://yohei-onishi.com/


■大西洋平 オフィシャル・ブログ「今日に名前をつけるなら」
http://ameblo.jp/tokyo1222/
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