JUNはかく語りき――THE WILLARD、10年ぶりとなるアルバム『Romancer』を発表

THE WILLARD   2017/01/13掲載
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 孤高という言葉がこれほど似合うバンドはなかろう。しかしそこには悲壮感はまるでない。あるのは夢と神々しさのみ。ウィラードの新作最高なんだよ!っと言い続けてからあっという間に10年が経過したことに驚かされたが、前作を超える素晴らしき新作が誕生。そのタイトルは『Romancer』という。理想的な翳りをもったキャラクターがマルチカラーで駆け抜けていく様は、流行も反流行をも超えて存在する普遍的な名作映画のようだ。細かく曲調を分析することは可能だが、それがナンセンスに思えるほど全てを美学をもってのみこむのがTHE WILLARDという名の世界であり物語である。そんな世界の中心人物、JUNが現れ、口を開いた。彼こそが現代の“Romancer”である。
――勝手なイメージですが、こういう取材に出てきてくれたことに驚いてます。
 「勿体つけようなんて気持ちは皆無なんだけど、言葉で語る時はもうとうに過ぎたと感じているんだ。自分のなかで80年代の反省があるからね。マスで情報を流して色々やっていくというやりかたに辟易して世紀を跨ぎ、今はそれがさらに強いから基本的に実のない話はしたくないなと思い、必要ないと思う取材等は一切断ってきたから(笑)」
――ウィラードってお伽話というか、歌詞、楽曲、アートワーク、もうすべてがその物語の中で起きてる出来事な感じがするんですよね。そこは不可侵で聖域、無菌な世界で……。
 「イメージはともかく僕が目指したのは、俗な言葉だが第三極として在りたかったということだろうね」
――第三極!
 「うん。やっぱり主流があって反主流があって、という区別は皆したがるけれど、その中に括られる危うさは良く理解してるから、そのどっちにも関わりたくなくて。やっぱり音楽をやるためには三種類目の極でいたほうがいい。そこに自分の流れを作りたいっていうのがウィラードのありかたの根源なのかなと思うね」
――それすごくしっくりきます。さて、今回先行でシングルとEPが2枚出ましたが、セルフカヴァーが入ってましたよね。あれはどういう意図だったのでしょうか?
 「過去の曲っていうのは年月を経てどんどん美化されそれはそれで美しいものではあるんだけど、同時に併せ持つ悪しき記憶は無くなるワケではない。だったら新しく作ってしまって、悪しき記憶は断っていくように具体的に動いていこうという。〈The End〉は初期の代表的な曲だったし、その悪しき過去の記憶を切るっていう意味でもやはり象徴的なあの曲を再録したかったんだ。〈Fairy Tale〉はまたそれと微妙に違ってて、自分が当時やりきれなかったことが今出来るっていう。ガキの頃は拙いわけでしょ? その部分がこの歳になってくると、いかようにもいけるよなって。やっててとても気持ち良かった。昔は複雑なコーラス・アンサンブルを構想するまでが限界だったけど、今は構想も実際も楽にできたりするから。あと今一緒にやってるドラマーの酒井 愁とベーシスト篠田達也、彼らが素晴らしいからね。僕はね、アリス・クーパーとかルー・リードの〈ベルリン〉をやってるボブ・エズリンってプロデューサーのサウンドプロジェクトがすごく好きなんだけど、このリズム隊とだったらああいったことも楽にできるだろう、だったら過去の曲からやってしまえば良い。そんな思いが叶ったとも言えるね」
――EPではエルヴィス・プレスリーで有名な「Suspicious Minds」をやってて最高でした。時折みせるカヴァーのセンス、解釈がズバ抜けてますよね。
 「プレスリーはすごく好きで。ヴォーカリストとしてはもちろんなんだけど、ギタリストとしての観点からみてもジェームズ・バートンは凄く好きだし。やりたいなと。プレスリーだけじゃなくて、ジーン・ヴィンセントとクリフ・ギャラップも好きだから。ああいったロカビリーもほんとはもっとやりたいな」
――今回のアルバムにも一曲スウィング調のロカビリー的なナンバーがありますよね(「Underground」)。
 「そうそう。あれはね、ECHOPLEXっていう古い60年代の真空管式のテープ・エコーがずっと調子わるかったんだけど直したので使いたかった、ってのもあって。でもちょっと盛大に使いすぎたかなって(笑)」
――いやいや、あれはあれでドリーミーでよかったです。では、今回のアルバムはどのようなものにしたかったですか?
 「前回のアルバムで幅が広がったんだけど、それをひとつひとつ突き詰めて極めていきたかったんだよね。歌詞的にもそうかな。あと僕は、映画が好きなんでちょっとタランティーノ・チックな構成というか、例えばエンディング前の〈Days Of Wine & Roses〉っていう曲のタイトルが2曲目の歌詞に出てきててさ、だからエンディングに行く手前で一回前に戻ることもできますよ、それともエンディング・テーマにいきますか?って、端的に言えば想像の中では、時系列という秩序からも解放されて自由なんだぜ。そういう意図もあるよ」
――コンセプトが先にありきだったんですか?
 「いや、それは同時に。音が出来つつ歌詞も考えていったんだよ。歌詞にバイロンとか出てくるんだけど、それはイギリスのロマン主義の詩人でね、合理主義に対する感性の時代というか、やっぱそこは自分にも不可欠な要素で。それが出てきたかと思えば、ドン・ジュアンね。彼は放蕩する人じゃない? この歳になってそれが歌えるってなかなか度胸があっていいんじゃないかって(笑)。まあそういった一見すればただのバラバラのイメージが、レコーディングを進めるうちに自然と説得力を持ち出して、途中で揺るぎない程に“Romancer”を構成する上で欠かせない要素になっていったんだ。不思議な程自然な調和だったよ。完成形が全く分からないバラバラのジグゾーパズルを組んでみたら、“Romancer”になって、ああこれなら本望だなって喜びを得たって感じで。コンセプチュアルな見え方はうれしいけれど、それは僕が意図したというよりもアルバムに導かれてと言った方が正しいかもしれない」
――JUNさんは常に俯瞰して冷静にみてるようなイメージがあります。
 「ただ、それと主観的な自分自身でものすごい葛藤があるんだよ。ボブ・エズリンもルー・リードも自分自身であるという葛藤ね(笑)」
――なるほど、自分で自分をオーバープロデュースしちゃったり抗ったりとか(笑)。さて、JUNさんっていうとバイクのイメージですが、今回は“車”がテーマになってますね。
 「テーマというよりモチーフだね。ランチェロもそうだし。僕はアメ車のさ、V8でOHVのカリカリのチューニング・エンジンは人生の終焉に乗ろうって思っていて、そこがピークでいいやって考えてる。で今はDOHCの4バルブ、回して走る小気味良い2シーターに乗っているのだけど、憧れがあるんだ。特に60か70年代の“マッスル”と言われた時代のハイパワーでアクセル踏んだらいきなりお尻が降りだすみたいなやつ。まぁいわば恐竜だね。ティラノサウルスみたいに今は生き残れないでしょ、排気量的にも燃費的にも。でも、だからこその憧れはそこにあって。まぁ、友人のを何度も借り倒して乗ってはいるんだよ、実際に乗ってアクセル踏んでシフトにクラッチを操ってみないと何にも言えないから。でも結局そういうことじゃん? なんかバイクのこととか車のことになるといろいろ喋っちゃうんだけどさ、自分の世界観の重要な要素の一つだよ」
――そうだと思いますし、JUNさんの世界観を伝えるのがこの取材の使命だとも思ってます。
 「あとさ、バンドとしての今後はとにかく、個人としてはtwitterとかfacebookとかやらないんだけど、あれをやりだしたら終わりだなくらいに思ってて(笑)。コミュニケーション過多で困ってまで、自分の世界観を伝えたいとは思わないんだ。……いや、まぁそれは人それぞれだよ。僕個人は無理って話ね」
――そこは“Romancer”としての生き方には反しますよね。そこと接点をもってたらこういう作品は作れないと思います。
 「うん、作れない上に僕には無理なんだ」
――でも、そういうことをやらない人に陥りがちな時代遅れ、取り残され感が決してないんですよね。なぜかっていうともはや違う世界で存在し続けてるからなんでしょうね。
 「あぁ、前に行くとか後ろに下がるとか無い場所に居る自負はあるよ。そして、自分がその立ち位置に立てていることをとても幸せなことだと考えてる。先に言った第三極ってことはさ、そういう基準では見られないってことだから」
――アンダーグラウンドでもカルトバンドでもなく、ですよね。
 「そう、そのつまらない場所に陥りたくもない」
――とはいえ、やはりこうしてインタビュ―に出てくるってことはやっぱりいろんな人に聴いてほしいって思いはあるんですよね。
 「うん、内々で分かってくれればみたいなことじゃなく、レコードは出す以上は売れたほうがいいし、なによりポピュラリティは得たほうがいいにきまってる。80年代は反省すべきとこが多くて、まぁ良く言えばそれで僕らのことを知ってくれたのかもしれないけど、悪い意味ではそこから抜けるのにこの歳までかかってしまった。いろんなバンドが陥ることを味わった。はっきりいっておきたいのが、当時“3つあった”とか言われるけど、それには全く興味がない。違うところにいる、まぁ、当時からそこまで接点があったわけじゃなかったしね」
――たまたま“御三家”とか勝手に括られただけで。
 「そうそう。で、それぞれが今まだやってるんであれば それはがんばってほしいなとは思うけど、じゃあ今もう一回やるかっていったら、そういう気は全くない」
――どうしても聞きたいのですが、今の在り方において“パンク”というものはもはや無関係でしょうか? それとも……。
 「いや、やはりパンクは大きいから。一過性の単なる現象だったとして捉えられるのは僕にとってすごく嫌なことで。やはりオリジナル・パンクの起爆性とか、クリエイティヴィティとか自分のなかでは非常に大きいものだと思ってる。そして今の在り方は、自分の血がいまだ赤い様に今もそれに基づいたものではあるし、揺るがないアイデンティティとして自分がパンクであるというのは誇りを持って言えるね」
――おぉ、それを聞けて嬉しいです。さて、今作の聴きどころは?
 「自分では全曲好きなんだけど、実はアルバムの中で一番最後に作った一曲目の〈Fuzzy Dice Ranchero〉。このドライブするロックンロールは僕の理想形だよ。ランチェロにドラァグクイーン、乾いた空のブルーを背景にファジーダイス。いにしえのマテリアルかもしれないけど、35mmのフィルムには絶対映えるだろうからね。あとやっぱり〈Romancer〉ね、あのなんとも美しく突き抜けた世界をどう表現するのかを、どう出しきれるかってとこで最後まで葛藤した。自分の中で“ありえなかった”って程の言葉で曲を飾りたかったから。とってつけたとか、歯が浮くようなとかそういう形容をされたとしても、構わないんだ。それを不毛化するだけの強さをあの曲は持っているよ」
――こうして“Romancer”を描いてると今後の生き方、在り方も引っ張られて、それそのものになっていきそうですね。
 「かもしれない。近づいていければいいなって思うし、それが出来るんなら本望かな」
取材・文 / 恒遠聖文(2016年12月)
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