女優の檀れいが歌手デビューを果たした。デビュー・シングル『檀れい・シングス・ディズニー』は、彼女自らが選曲したディズニー・ソングのカヴァー。『ムーラン』から「リフレクション」の日本語版と中国語版のカヴァー。『リトル・マーメイド』から「パート・オブ・ユア・ワールド」を収録。曲によっては台詞も入って、彼女の演技力と歌唱力が存分に発揮されている。ただ名曲をカヴァーするだけではなく、そこに自分の想いを込めたという檀れいに曲について話を訊いた。
――歌手デビュー、おめでとうございます!檀さんは宝塚出身で、演技だけではなく歌も歌われていました。いつか歌の作品を出してみたい、と思われていたのでしょうか。それとも思いがけないデビューでした?
「思いがけないデビューでした。宝塚時代はお芝居をして、歌ったり踊ったりもしていましたが、芸能界に入ってからはお芝居中心でやってきました。お声がかかれば歌ってはいましたけれど、歌手デビューをしたいとは思ったことはありませんでした。逆に〈私がCDを出すなんて……〉という気持ちのほうが強かったんです」
――近年、コンサートを定期的に開催されていましたが、歌いたい、という気持ちはお持ちだったんですか?
「2021年の終わりぐらいに、歌をやりたい、歌というものを自分の中でもっともっと育てていきたい、という歌に対する思いが強くなってきたんです。それでボイストレーニングを再開したら、偶然にも〈番組で歌ってみませんか?〉って声をかけていただいて。それが『題名のない音楽会』だったんですけど、そこで宝塚以来、ひさしぶりにオーケストラをバックに歌って、音楽の持つ力は素晴らしいなと思ったんです。宝塚時代はオーケストラをバックにお芝居したり、歌ったりしていたことを思い出して〈もっともっと歌いたい!〉と思うようになりました。それで〈2022年はデビュー30周年だしライヴをしよう!〉と思いついて。そしたら、今度はディズニーさんから『ウィッシュ』という作品の声優オーディションを受けてみませんか?というお話をいただいたんです。ディズニーは大好きだったので嬉しかったです。宝塚を落ちたらディズニーランド®で働こうって思っていたくらいなので(笑)。だから、オーディションを受けさせていただけるだけで幸せだったんですけど、今回はディズニーの曲を歌ってみませんか?というお誘いをいただいて。いろんな流れに導かれてここまできた、という感じです」
――大好きなディズニーの曲の中から何を歌うのか。選曲については悩まれたりもしました?
「大好きな曲が多いので悩みましたね。そこで考えたのは〈私が歌う意味って何かな?〉ということでした。歌手ではない私が歌を歌ってCDを出して、皆さんに受け入れてもらえるのかな?という不安があったんです。なので〈自分が歌う意味〉というフックが欲しかった。それがあれば前に進む力になるんじゃないかと思いました。そう考えた時に、これまでの人生で私に寄り添ってくれたり、その時々の私の気持ちにリンクしたディズニーの曲がある。それを歌おう、と思ったんです」
――CDに収録された曲は、檀さんの思い入れが強い曲なんですね。「パート・オブ・ユア・ワールド」は宝塚の下積み時代によく聴かれていた曲だとか。
「そうです。私が宝塚に飛び込んだのが10代の終わりだったんですけど、エンターテイメントの世界は私にとって光り輝く別世界でした。飛び込んだのはいいけれど、これから先、どんな風に進んでいったらいいんだろう。どうやったらなりたい自分になれるんだろう、と右も左もわからずに焦っている時に、ディズニー・アニメーションの『リトル・マーメイド』が公開されて映画館で観たんです。主人公の人魚、アリエルが船から海に落ちてきたものなどをいっぱい集めて〈ねえねえ。これ素敵でしょ。私こんなにたくさん宝物を持ってるの〉と無邪気に歌うんです。そして、歌っているうちに陸の世界に対しての憧れが膨らんでいって、最後は〈陸の世界に行きたい!〉という心の叫びになる。アリエルの陸の世界に対する憧れと葛藤。それがエンターテインメントの世界に憧れまた葛藤している私の気持ちとピタッとあって、曲を聴いた途端に心をギュッと掴まれました。映画を観てからは毎日、この歌を何度も何度も聴いていました。この曲を歌うと、その時の気持ちが思い出されて、込み上げてくるものがあります」
――青春時代に刻み込まれた曲なんですね。「リフレクション」には、どんな想いが込められているのでしょうか。
「芸能界に入ってから、皆さんが抱く“檀れいのイメージ”と“ありのままの私”とのギャップに戸惑った時期があったんです。皆さんが望む自分であったほうがいいのかな?それとも、このままの私でいていいのかな?と悩んでいました。その時のことが〈リフレクション〉を聴いた時に蘇ってきたんですよね。だから自分が抱いていた気持ちを、この曲を通じて皆さんにお伝えしたいと思ったんです」
――セリフから入るという演出がドラマティックですね。セリフと歌を両方こなせる檀さんだからこその演出だと思いました。
「私は演じる仕事をしているので、セリフから始めたいと思いました。でも、セリフを喋った後、いきなり朗々と歌うとおかしなことになるので、セリフの言葉が少しずつ音符になるようなイメージで歌いました。〈リフレクション〉を歌うにあたっては、まず曲に対する思いを音楽監督の森大輔さんにお話ししたうえで、〈この曲を歌う時は孤独でいたい〉とお伝えしたんです。それでできたのがこの曲でした。まず、暗い部屋の中に私が一人でいる。そこでふっと出てきた言葉が最初のセリフで、そこから世界が大きく広がっていって、最後にまた暗い部屋に一人でポツンといる、という曲にしてくれました」
――一幕もののお芝居のようですね! 「リフレクション」は中国語ヴァージョンも収録されていますね。
「私はライヴで中国語の曲を歌ったり、NHKの『中国語!ナビ』という語学番組をやらせていただいたりしたので中国語でも歌ってみたいと思いました。〈リフレクション〉は中国を舞台にした『ムーラン』で歌われる曲なんですけど、日本語と中国語では歌詞が少し違うんです。〈本当の私と偽りの私〉というテーマは同じなんですけど、中国語のほうが使われている言葉が強いんです。この曲は愛する人への想いを歌った曲だと思われていますが、私は別の受け取り方をしていて。本当の自分を大切にしたい、ということを歌っているんじゃないかと思っているんです。壮大な大地でただ一人でいるムーランが、自分の魂に嘘をつかずに前に進んでいくんだ、という決意をする歌じゃないかって。中国語ヴァージョンでは、そういう想いを込めて歌いました」
――本当の自分を大切にしたい、ということが、檀さんがこの曲に込めた想いなんですね。女優は誰かを演じることが仕事ですが、歌では本当の自分を出していきたい、と思われているのでしょうか。
「そうですね。女優というだれかを演じる仕事をしていると、本当の自分を見てもらえるチャンスはないですし、元々私は自分をうまく表現できるタイプではなくて。でも、歌に少しでも自分の想いを乗せられたら、と思ったんです。だから今回は歌の主人公になって歌うというよりは、檀れいとして歌いました」

ブックレットより
――CDにはフォトブックが封入されていて、そこには撮り下ろしの写真が掲載されています。さらに歌の世界が広がりますね。
「曲ごとにイメージのコンセプトがあって、それに沿って撮影をしました。撮影は十文字美信さんにお願いしたのですが、私が芸能界に入ってから一番写真を撮っていただいている方なんです。いつも私のいろんな表情を引き出していただいて、安心してお任せできる方です。普通、撮影の時はたくさんのスタッフの方がカメラの後ろで私を見ているんですけど、今回は私と十文字さんの2人きりで撮影をしました。言葉を交わさなくてもレンズ越しに気持ちと気持ちで会話しているような撮影で、いろんな感情が心の底から湧き上がってきて涙があふれる瞬間もありました。その時、同じタイミングで十文字さんも目頭を熱くされていて。十文字さんとは久しぶりでしたが、すごく良い写真を撮っていただきました」
――こういう形でディズニー・ソングを歌われて、あらためてデイズニー・ソングの魅力を感じられました?
「やっぱり、ディズニーの曲は色褪せないですよね。オーケストラをバックに歌っても、ギター一本で歌っても、それぞれの良さがありますし、世代を超えて聴き続けられる力強さを持っていると思いました」
――檀さんの歌を聴いて、ディズニー・ソングには物語があるということを感じました。女優であり歌も歌える檀さんだからこそ、その物語をご自身の語り口で表現できるんでしょうね。
「そんな風に感じていただけるなんてありがたいです。今回はただ自分の好きな曲をカヴァーしてるのではなく、そこに自分の思いをのせて歌っているので、少しでも言霊を飛ばすことができたらいいなって思っていました。歌のテクニックに関してはわからないというか、歌手を職業とされてる方には到底及ばないので」
――今回のリリースをきっかけに、歌を追求していきたい、という気持ちはさらに膨らみました?
「膨らみました。コンサートの時に、いつも何を歌おうかと悩んでいましたから、やっと自分の歌ができたのが嬉しくて。とくに〈リフレクション〉の日本語ヴァージョンは、セリフが入っているし、サビが2回あったり、最後もちょっと付け加えたりしているので、〈これは私の曲です!〉と胸を張ってお届けできる。ディズニーにはたくさん素敵な歌があるので、これからもっといろんな歌が歌いたいですね。ヴィラン・ソング(悪役の歌)とかも歌ってみたい。その時は悪い顔をして歌いますよ(笑)」
取材・文/村尾泰郎
東京・丸の内 COTTON CLUBにて7月8日(火)と7月9日(水)にライヴを開催予定。詳細は後日公表。