スケーター・カルチャーとオールド・ロックの邂逅―カリフォルニアの才人ハンニ・エル・カティーブ、デビュー!

ハンニ・エル・カティーブ   2011/12/20掲載
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スケーター・カルチャーとオールド・ロックの邂逅―カリフォルニアの才人ハンニ・エル・カティーブ、デビュー!
 ナイキとコンバースという2大ブランドのキャンペーンに楽曲が使われ、50年代から飛び出してきたような初期のロックンロール・スタイルが話題のシンガー・ソングライター、ハンニ・エル・カティーブ(Hanni El Khatib)。しかし、彼はカリフォルニアの出身で、デビュー前はスケーター・ブランド“HUF”のチーフ・デザイナーを務めていたという、いわばストリート・カルチャーの住人。そんな人物が、いかにして今のスタイルにたどり着いたのか? そこにはオールド・ロックへの愛情と、常に新しいものを生み出そうとする高い意識、そして、変わらぬDIY精神があった。


――カリフォルニアの出身で、ストリート・カルチャーにも造詣が深いというと、まず思い浮かぶのはパンク・シーンですが、あなたの音楽性はそうではないですよね? もともとはどんな音楽がお好きだったのですか?
 ハンニ・エル・カティーブ(以下、同)「僕はサンフランシスコで育って、スケートボードのカルチャーからいろんなことを学んだんだけど、スケートのシーンはやっぱりパンクが強いから、もちろん僕もそこを通ってる。ただ、音楽としてはまっていたというよりも、パンクを取り巻くカルチャー自体、Tシャツを作ったりっていうDIY精神に影響を受けていて、それは今でもすごくリスペクトしてるんだ。音楽に関してはそこからホントにいろいろ聴いてきて、オールド・ソウル、オールド・ファンク、50's〜60'sのガレージ、クラシック・ロック、1930年代のデルタ・ブルースとか、その通ってきた中で残ったものが、今の自分のスタイルになってるんだと思う。パンクで今でも聴くのは、ミスフィッツブラック・フラッグフガジぐらいかな」
――その色々聴いてきた中で、結果的にまるで50年代から飛び出してきたような今のスタイルが残ったのは、どんな部分が魅力的だったからなのでしょう?
 「その時代のブルースとかロックって、詞もギターもすごくシンプルだから好きなんだ。僕は音楽を通じて、複雑なプロダクションよりも、楽曲自体のアイディアを表現したいから、50年代の音楽はそれがすごく表現しやすいんだ。あと、当時のレコーディングのスタイルにも興味があって、すごく実験的だし、みんながいろいろな発明をした時期だから、そこにも惹かれるね」
――アルバム『ウィル・ザ・ガンズ・カム・アウト』は、おもにホーム・レコーディングで作られているんですよね? 特にどんな部分において50年代の影響を受けていますか?
 「11曲中10曲は友達のハー・スペース・ホリデイのマーク・ビアンキのホーム・スタジオ……って言ってもベッドルーム・レコーディングとほぼ変わらないような環境なんだけど、そこで録っていて、ミックスはサンフランシスコの僕の自宅でしてる。影響を受けているのは特にヴォーカルのトリートメントで、ディレイやリヴァーブをよく使っているのは、フィル・スペクターとか、あの時代を意識してるからなんだ」
――ただ、あなたはかつての素晴らしい音楽のよい部分を受け継ぎながら、それを更新して新しいものにしようという意識も強いと思うんですね。そのバランスはどうお考えですか?
 「それに気づいてくれて嬉しいよ。自分はレトロなことをリヴァイヴァルしたいわけじゃなくて、オーセンティックなものから自分が共感する部分を取り入れながらも、それを自分のジャンルとして、コンテンポラリーなものとして作りたいと思ってるんだ。もちろん僕だって今の音楽も聴くから、新しい音楽を聴く人たちにも共有してもらえる音楽を作りたいし、その時代・そのジャンルが好きな人だけじゃなくて、いろんなタイプの人に僕の音楽を聴いてもらいたいと思ってる」




――現在はLAのガレージ・シーンと接点が強いそうですが、シーンの魅力はどんな部分ですか?
 「僕はノー・エイジとかが“THE SMELL”を中心に盛り上がってた頃には間に合ってなくて、それよりもう少し新しい世代、ハコで言うと、“THE ECHO”とかでよくライヴしてるんだ。最近はそれぞれが精力的な活動をしながら、バンド同士もサポートし合っていて、特に〈FUCK YEAH FEST〉をオーガナイズしてる連中がいろいろイベントをやったりして盛り上げてるよ。LAだけっていうよりは、南カリフォルニア全体って感じなんだけど、レーベルに所属していてもいなくても精力的なバンドが多くて、それって最初に言ったパンクの精神を受け継いでると思うんだ。僕は今はレーベルに所属してるけど、自分でTシャツのデザインもしてるし、ボタンまで自分で作ってるからね」
――アルバムのアートワークもご自身で手がけられているのですか?
 「うん、僕はイメージを選ぶときにシンボルになるようなものを選ぶようにしている。今回ので言うと、古い車って重くて、人力だと解体できないような気がするけど、でも事故にあった車だと、すごくフラジャイルで、繊細な気がする。そこにメッセージを感じて、それに見合うパワフルなイメージの画像を探したんだ」
――資料には、あなたの音楽は“銃で撃たれ、そして電車にひかれた人に向けられたもの”との記述があります。これは何を意味しているのでしょうか?
 「それはすごく比喩的なもので、トラウマを体験した人へのメッセージなんだ。音楽はつらいときに人を救えるものだと思っていて、自分は音楽を作ることで救われてるから、音楽を作れない人でも、聴くことで何かしら救われる気持ちになってほしい。それは僕がいつも思ってることなんだ」
取材・文/金子厚武(2011年11月)
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