渡辺俊美   2012/02/08掲載
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 TOKYO No.1 SOUL SETの一員として活動を続けてきた渡辺俊美のソロ・プロジェクト、THE ZOOT16。今回リリースされるベスト・アルバム『Z16』は、2002年に同名儀で活動を開始して以降、自身のレーベルから発表された3枚のフル・アルバムと現在入手困難なEP収録音源をまとめた一枚。TOKYO No.1 SOUL SETに比べ、渡辺のルードでパンキッシュな側面を打ち出してきたTHE ZOOT16の歩みを振り返るには最適な一枚と言えるだろう。また、彼は福島第一原子力発電所の20キロ圏内にある双葉郡富岡町の出身。過去のTHE ZOOT16の歩みに加え、震災以降の心境の変化についても話を聞いた。
今でもそうですけど、男っぽいものが好きなんです。
やっぱり男から支持されたいし、分かりやすく言えば、それがZOOT 16(笑)
――まず、今回ベスト・アルバムを作ることになった経緯を教えてください。
 「『ヒズミカル』(2010年)を出したあたりで、THE ZOOT16としての活動を一回休んで“渡辺俊美”として動いてみたくなったんですね。それにあたって、THE ZOOT16の活動をまとめてみようと。マヌ・チャオが“何かを変えたいんであれば、まずは身の回りの整理から始めろ”と言ってたんですけど、僕もここで整理しておこうと思ったんです」
――“渡辺俊美”として動いてみたくなったその理由は何だったのでしょう。
 「やっぱり震災以降、いろいろ考えたんですよ。東京に出てきてから人とは違う目線でやってきたつもりなんですけど、震災があって“これでいいのかな?”という思いと“これでいいんだ!”っていう思いが両方生まれてきた。音楽活動を通じてやってきたことに関しては自信を持ってるんですけど……自分の死に方を意識するようになったんですね。これまでずっと格好つけてきたし、ファッション性を意識してた部分もあったと思うんですけど、震災後“これでいいのかな?”という思いが増してきたんです」
――震災後の心境の変化に関しては後ほど詳しくお聞きしたいんですが、その前に、2002年にTHE ZOOT 16として活動を始めることになったきっかけを教えてください。
 「THE ZOOT 16に関しては第一に“SOUL SETとは違うものをやりたい”という意識があったし、自分の可能性を試してみたかったんです。それまで自分で歌詞を書いたことがなかったし、サウンド面も含め全部プロデュースしてみたかったし。DIYでどこまでいけるか、試してみたかったところもありますね。僕にとっては実験でもありますし、本質を探るために始めたものでもありますね」

ジョー・ストラマー&ザ・メスカレロス

『ROCK ART AND THE X-RAY STYLE』

(1999年)

マヌ・チャオ
『Proxima Estacion : Esperanza』
(2001年)

――そういう方向に向かう際、誰か刺激になったアーティストはいるんですか。
 「2002年にジョー・ストラマー(元ザ・クラッシュ)が死んだことが大きいですね。(ジョーが生前結成していた)ジョー・ストラマー&ザ・メスカレロスが大好きだったんですよ。クラッシュも好きだったけど、ソロになってからのジョーに憧れてた。それとマヌ・チャオも2001年のアルバム(『Proxima Estacion : Esperanza』)を聴いたときに“やられた!”と思いましたね。マヌもいろんなバンドを経てソロになった人だし、その意味でも刺激になりました。その頃の僕は〈みんな幸せに〉みたいなメッセージにウソっぽさを感じちゃってたし、日本の音楽業界のあり方、価値観も大きく変わりつつあったので、社会に対して物言うマヌの存在は大きかったんでしょうね」
――マノ・ネグラよりもマヌ・チャオ、クラッシュよりもメスカレロスが刺激になったっていうのは面白いですね。
 「ポール・ウェラーも同じ感じで好きですね。僕が高校を卒業するかしないかぐらいのタイミングでスタイル・カウンシルがデビューしたんですけど、(レコードに)針を落としたときはビックリしました。常に新しいことをやってるという意味ではデヴィッド・ボウイも大好きです。彼は何をやっても“デヴィッド・ボウイ”じゃないですか? 憧れますね」




――THE ZOOT16を始めたが2002年だったわけですけど、音楽業界的にはパッケージの売り上げがマックスに達したのがこの頃で、それ以降は急降下していったわけじゃないですか。
 「そうですね」
――この2002年の段階で、音楽を取り巻くそうした状況の変化を予感してDIYな活動をスタートしたところもあったんですか?
 「うん、そういう予感は完全にありましたね。SOUL SETの『9 9/9』(99年作)を出したころからあったのかな。思っていた以上に時代が早く動いてるっていう感覚があったし、“少しでも止まってたら一瞬のうちに忘れられるわ”と思ってました。“誰かから声がかかるのを待っていても仕方ないし、自分で動かないとダメだ”と。何よりも“自分でもやれるんじゃん?”と思ってましたしね」
――その“自分でやれるんじゃん?”っていう思いの奥には、状況に対する危機感もあったと思うんですけど、DIYでやっていく楽しさ、開放感に対する憧れもあったんじゃないですか。
 「そうですね。僕の場合は楽しくないとできない(笑)。ちょうどレコード屋さん(ZOOT SUNRISE SOUNDS)をやってた時期だったんで、アナログが売れなくなりつつあったことも肌身で感じていたし、自分の店でCDを売る場合にしてもどう売っていくべきか、考えながらやってました。THE ZOOT16は衝動的に始まったものだったんだけど、すごく考えてましたよ。好きなことやってるはずなのに(笑)」

『THE ZOOT 16』
(2003年)

――そして、2003年には最初のミニ・アルバム『THE ZOOT 16』が出ます。
 「当時はレゲエをやりたかったんですよ。あとは打ち込みのジャンプ / ジャイヴみたいなもの。それと、スカに憧れてました。SKA FLAMESは今でも大好きだし」
――まとめて言うと、ルードなもの?
 「そうですね。今でもそうですけど、男っぽいものが好きなんです。やっぱり男から支持されたいし、分かりやすく言えば、それがZOOT 16(笑)。女の子に歌ってるものではないんですね」
――楽曲の制作方法は今とは違うんですか?
 「変わらないですね。管楽器以外は全部自分でやってますし、作り方は変わってない。そのとき好きな曲を自分でコンパイルして、それを聴きまくるんですよ。リフは真似したりもしますけど、結果的に全然違うものになるんです」
――じゃあ、このミニ・アルバムを作ったときはスカやジャンプ / ジャイヴを聴いていたわけですか。
 「そうですね。あとは無名のリズム&ブルース。当時はレコードの買い付けもやってたんで、そういう7インチに出会う機会が多かったんですよ」
――そこにバルセロナのルンバ・カタラーナや南米のクンビアが入ってきたのはいつごろなんですか?
 「2003、4年じゃないですかね。“もうレゲエはいいかな”と思い始めた時期で。“ド”の付くレゲエはもういいや、と。聴く分にはいいんですけど、それを受けて自分で何かを作り出していく感覚にはならなかった。ヒップホップに対しても同じなんですけど、それをそのままやってどうするんだ、と。その後バルセロナのルンバを好きになったときも日本とバルセロナの環境の違いが自分にとって壁になったんですよ。日本はあまりにも平和だな、と」
――ルンバやクンビアのどこにグッときたんですか。
 「今まで感じたことのないリズムだったことが大きいのかな。クンビアはリズムも面白いし、なおかつ古いクンビアはそのリズムの上で(歌手が)高らかに歌ったりするじゃないですか。自分もどちらかというと高らかに歌うタイプなんで、結構合うんじゃないかと思って。最初のSOUL SETにしても、BIKKEがトースティングしてる横で僕がデニス・ブラウンみたいに高らかに歌うイメージで始めたんで、言ってしまえばレゲエからクンビアにリズムが変わっただけでもあるんですけどね」
ボブ・マーリィやマヌ・チャオみたいに、
渡辺俊美=レベル・ミュージックと思ってもらえるぐらいになりたい

『Right Out』
(2004年)

マヌ・チャオ
『Radio Bemba Sound System』
(2002年)

『Mutiny』
(2005年)

『完全逆様な世界』
(2006年)

『ヒズミカル』
(2010年作)

――2004年には1stアルバム『Right Out』が出ますが、ちょうどルンバやクンビアを聴き始めた時期ですよね。
 「この頃はまだルンバもクンビアも身に付いてなかったと思うんですけど、当時好きだった音楽を全部採り入れてみようと。あとは各楽曲をノンストップで繋げてみたかったんですね。今回のベスト・アルバムもそうですけど、1曲1曲ではなく一枚の作品にしたかった」
――そういう構成はマヌ・チャオのライヴ盤『Radio Bemba Sound System』(2002年)からの影響なんですか。
 「そうですね、あのアルバムの影響もありました。あと、結構『Right Out』に入れられなかった曲も多くて、そのほとんどが『Mutiny』(2005年)に入った感じですね。『Mutiny』は、自分のなかでは躁鬱みたいな作品。(『Mutiny』収録の)<ごめんねマイペース>ができて自分でも救われましたけど。<握り拳のメロディー>は“どうしようもないラヴソングばっかり売れやがって”というヒガミも出てますけど(笑)、曲自体は好きですね」
――その『Mutiny』の翌年にリリースされた『完全逆様な世界』についてはいかがでしょうか。
 「ある意味、僕にとってZOOT16で言いたいことは、このアルバムで全部言った感覚はありました。アメリカの大統領がブッシュからオバマに変わっていろんなものが変わっていく予兆みたいなものがこのアルバムを作っていた時期にあって……今から考えると何も変わらなかったですけどね。このアルバム・タイトルはとても気に入ってます」
――ベスト・アルバムに収録されている楽曲はここまでのアルバムに収録されているものですが、2010年には『ヒズミカル』がリリースされました。
 「当時はいろんな思いが錯綜してましたね。プライヴェートでいろいろあって孤独感もあったんですけど、“最後はみんな死ぬ”っていう結論に達しました。“だから好きなことをやれ”っていう」
――それは冒頭でお話しされていた、震災以降の心境にも繋がってきますね。
 「うん、繋がってますね。『ヒズミカル』を作った後ぐらいから“渡辺俊美としてどう生きるか”ということは考えてましたから」
――そしてこのベスト・アルバム『Z16』がリリースされたわけですが。
 「本当は過去に僕が参加した楽曲も入れて二枚組にしたかったんですけどね。選曲するのも楽しかったな。うまく繋がってたでしょ?」
――そうですね。DJミックスとしても聴けますし。
 「DJというよりはライヴのイメージかな。最初は17曲入れるつもりだったんですよ。でも、スタッフから“16曲のほうがZOOT16としてはいいんじゃないの?”っていう話があって(笑)。ここに入ってるのはずっと歌っていきたい曲ばっかりですね」
――震災以降の思いについてもお話を聞きたいんですが……なかなか短い言葉で説明できるものじゃないですよね?
 「いやー、やっと気持ちが落ち着いてきた感じですよ。年明けからようやく気合いが入ってきた。それまでは音楽も聴いてなくて……この前、昨年の年間ベスト・アルバムの話をしてたんですけど、全然音楽を聴いてなかったことに気付きましたね。それこそジェイムス・ブレイクライ・クーダーぐらいしか新譜は聴いてないし、スペインのルンバ系も聴いてるんですけど、全然心に入ってこなかった。いいものもあるはずなのに、まったくダメでしたね。本を読む気にもならなかったから。なんかね、何をやってても上の空だった。気になって仕方ないんです」
――曲作りもできなかった?
 「やる気はあるんだけど、何も出てこない状態。ライヴはできるんですけどね、新しい言葉やメロディーが出てこない。Twitterを見てても感情的になっちゃって……とにかく、自分が潰れたらダメだと思いましたね。“やれることをやる”ことも大事だけど、“やれないときはやらない”ことも重要だろうと」
――そのなかで“やるべきこと”も見えてきた?
 「そうですね、少しずつですけど。それを今整理してる状況です。12月の頭にお墓参りに行って、家族全員とも会えましたし。それからですね、落ち着いて音楽を聴けるようになったのも」
――では、その“やるべきこと”とは?
 「……震災後の歌を歌うことですね。20キロ圏内で生まれ育ったアーティストって、そうそういないじゃないですか? ウソは歌いたくないし、素直に言葉が出てくるのを待ってる感じです」
――いろいろな思いを噛み砕いてる状態?
 「うん、そうですね」
――さっき“日本はバルセロナやニューヨークに比べたら平和だ”っていう話がありましたけど、今の日本は、ある意味それ以上の極限状態ですよね。そのなかでストリート・ミュージックが、レベル・ミュージックが何を歌うべきかっていう問題もあると思うんです。
 「それはいつも頭のなかにありますね。社会を否定するのは簡単だと思うんですけど、さまざまな思いをどう自分の言葉にできるか。それが重要。ジャンルではなく、渡辺俊美の歌を歌いたい。ボブ・マーリィやマヌ・チャオみたいに、渡辺俊美=レベル・ミュージックと思ってもらえるぐらいになりたいんです。ミュージシャン以前の“渡辺俊美”を確立したい。そのためにも今回ベスト盤を出したかったんですよ。“今までの僕はこういう人間でした”と」
取材・文/大石始(2012年1月)
【福島/タワーレコード郡山店】
<THE ZOOT16「Z16」発売記念インストアライブ>
●日時:3月9日 (金) 18:00〜
●会場:タワーレコード郡山店

《参加方法》
タワーレコード郡山店にて2月8日発売THE ZOOT16『Z16』(PECF-1038)をお買い上げいただいた方に(予約者優先)、ご購入先着順でサイン会参加券を差し上げます。サイン会参加券をお持ちの方は、イベント終了後にサイン会にご参加いただけます。

・イベントの観覧はフリーです(どなたでもご観覧いただけます)。
・サイン会参加券の配布は定員に達し次第終了いたします。配布定員数終了後にご購入いただいてもサイン会参加券はご用意できませんのでご注意ください。
・当日はジャケットにサインを致しますのでお買い上げ頂いた商品を忘れずにお持ちくださいませ。
・サイン会参加券を紛失/盗難/破損された場合、再発行はいたしませんのでご注意ください。
・小学生以上のお客様はサイン会参加券が必要になります。
・イベント中は、いかなる機材においても録音/録画/撮影は禁止となっております。
・会場内にロッカーやクロークはございません。手荷物の管理は自己責任にてお願いいたします。
・会場周辺での徹夜等の行為は、固くお断りしております。
・店内での飲食は禁止となっております。
・都合によりイベントの内容変更や中止がある場合がございます。あらかじめご了承ください。
※お問い合わせ:タワーレコード郡山店 TEL:024-921-5701
http://twitter.com/tower_koriyama

【東京/タワーレコード新宿店】
<THE ZOOT16 ミニライブ&サイン会>
●日時:3月8日 (木) 19:00〜
●会場:タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース

《参加方法》
タワーレコード新宿店・渋谷店にて2月8日発売THE ZOOT16『Z16』(PECF-1038)をお買い上げいただいた方に(予約者優先)、ご購入先着順でサイン会参加券を差し上げます。
サイン会参加券をお持ちの方は、イベント終了後にサイン会にご参加いただけます。

・イベントの観覧はフリーです(どなたでもご観覧いただけます)。
・サイン会参加券の配布は定員に達し次第終了いたします。配布定員数終了後にご購入いただいてもサイン会参加券はご用意できませんのでご注意ください。
・当日はジャケットにサインを致しますのでお買い上げ頂いた商品を忘れずにお持ちくださいませ。
・サイン会参加券を紛失/盗難/破損された場合、再発行はいたしませんのでご注意ください。
・小学生以上のお客様はサイン会参加券が必要になります。
・イベント中は、いかなる機材においても録音/録画/撮影は禁止となっております。
・会場内にロッカーやクロークはございません。手荷物の管理は自己責任にてお願いいたします。
・会場周辺での徹夜等の行為は、固くお断りしております。
・店内での飲食は禁止となっております。
・都合によりイベントの内容変更や中止がある場合がございます。あらかじめご了承ください。
※イベントに関するお問い合わせ:タワーレコード新宿店 TEL:03-5360-7811
http://twitter.com/tower_shinjuku
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