キノコホテル支配人・マリアンヌ東雲、最新作と今後の展望を語る!

キノコホテル   2012/12/20掲載
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 妖艶なジャケットで飾られた3rdアルバム『マリアンヌの誘惑』をリリースしたキノコホテル。すでに、DVD/写真集/ポスター/缶バッジがついた豪華限定盤は完売してしまったそうだ。そして、レコ発ツアーの最終日となる東京公演2日目に、ベースのエマニュエル小湊がキノコホテルを“退職”すると発表。これまでに作り上げてきた個性あふれるスタイルを活かしながら、新たな方向性も感じられる最新作と、大きな盛り上がりを見せつつ、新たな局面を迎えたバンドの状況について、マリアンヌ東雲支配人にお話をうかがってまいりました!
――12月9日の実演会を見せていただきまして、もともと雰囲気のある会場(東京キネマ倶楽部)なのに加えて、ダンサーが登場したり、支配人のお召し替えがあったりと、いろんな演出が盛りだくさんの素晴らしい内容でした。
 「キネマ倶楽部って、普通のライヴハウスでやるときとは違う特別なことをやりたくなる場所なのよね。今回はたまたまダンサーの娘と知り合って、ちょっと踊ってみない?って言ったらスゴくのってくれたから、そこからどんどん話が進んで、ああいう形になったの。2日間まったく同じ公演にはしたくなかったし、曲目を入れ替えたり、演出も変えたり、両日来ても楽しめるようにって構成を考えて。その2日間で、今までのキノコホテルを総ざらいしてみようという感じで」
――なにか、総決算みたいな気持ちもあったのでしょうか。
 「ちょうど新しく出たアルバムが、レコード会社移籍第一弾で、気分としては再デビューみたいなところもあって。だから今までのキノコホテルを一区切りというか、何かが大きく変わるわけじゃないんだけど、年末だし、総まとめみたいなものをやっておこうかなと。とにかく、やりたいと思ったことは全部やったわ」
――なるほど。では、最新アルバムを作るにあたって、特に何か意識していたこととかはありますか?
 「自分自身、キノコホテルを5年間続けてきて、もういちど新鮮な気分に帰りたいっていうか、2010年にデビューしたときの気持ちを取り戻したいなというのはあったわね。世の中にはキノコホテルのことをまだインディーズのバンドだと思ってる人って結構いるみたいなんだけど、それを逆手にとって、あらためてパーッと世に出てキノコホテルの存在を知らしめてやるんだという意気込みみたいなものはあったかもしれない」
――ちなみに新作では、音を重ねたり、今までと違うやり方も試したそうですね。今後、もっとそういう要素が増えていったりしそうな感じとかはありますか?
 「同じことばかりやってても飽きちゃうし。この曲にはこの音だなって、パッて閃いたから入れただけなんだけど。曲によってはそういうのもあるし、逆にギター/ベース/ドラム/オルガン/歌だけっていうシンプルなものもやり続けていきたいし、うまく共存させていきたいわね。作り込んだものと、ラフなライヴ感を残したものを同居させても違和感なく聴けるような。今までの流れを踏襲しつつ、広がりも見せつつっていう、どっちもやっていきたい。音楽性を広げながら、どこまでキノコホテルとして説得力を持たせられるか、みたいな部分に挑戦したい気持ちはあるけど、そこはまだ具体的にこういうことをしようとか話せる段階ではないかな」
――最新作では“ポップ感”を出したそうですが、具体的に支配人にとっての“ポップ”とは、どういうものなのでしょう?
 「パッと聴いてパッと入ってくる憶えやすいメロディとか、そういう意味でのポップね。アクが強いバンドのように思えるけど、曲を聴いてみると結構ポップで覚えやすい、とか。最近キノコホテルのコピー・バンドが増えてるっていう噂を聞くんだけど、 “あ、自分でもやってみたい”って思ってもらえるような、そういう要素がキノコホテルにおけるポップなんじゃないかしら」
――その一方で、ノイズ的な要素とか、インストやスキャットの曲とか、間奏がヘヴィに展開する曲などもあって、実験的なサウンドも聴けますよね。
 「初期の頃は、昭和歌謡とかGSとか呼ばれて、ちょっとかしこまってた部分、いい子いい子してた部分もあったんだけど、最近はもう自分の内面そのものがワイルドな方に向かっていて、もっと暴れてやるみたいな……単に客席へダイヴするとかだけじゃなくて、音の意味でももっと感情的になってもいいかなっていうのはあると思う。実際、今度のアルバムでもいろいろやってて、最初にマスタリングしたものを聴いたとき、そういうハードでマニアックな部分もありながら、ポップなところに着地できてるなって実感できたわ。ともすればメチャクチャなアルバムになってしまうかもしれなかったところを、(エンジニアの)中村宗一郎さんとふたりで意見交換しながら、後悔しないものを作りたいねって、練りに練ったミックス作業に時間を費やしたので、結果的にうまくまとめられたのは、ミックスの功績も大きいのかな。うまくまとまるかどうか直前までわからなかったし、録ってみたけどお蔵にしちゃった曲もあるし。どうなるかわからない中、手探りでアルバムを作ったんだけれど、直感や閃きの積み重ねで、結果的に面白い一枚になったと思う」
――なるほど。ちなみに、12月23日にはヒカシューのライヴにゲスト出演されますが、彼らのようなユニークなバンドから刺激を受けるようなことはありましたか。
 「ヒカシューからは刺激を受けまくってるわね。何度かライヴをご一緒させていただいたけど、巻上公一さんに“今日どんなセットリストなの?”って聞くと、“特に決めてないよ”とか言ってて。で、ほんとに何も決めてなくて、ベースの坂出さんがなんとなくリフを弾き始めると、みんなで“お、その曲か”って各々その日の気分でアレンジしながら演奏して、それがぴたっと合わさっちゃう。その辺の呼吸感っていうのは、ワタクシが思うバンドの理想型なのね。セットなんか決めずに、その場で思いついて好きなことをやるのが本当の意味でのライヴなんじゃないかって思ったりして。まあ、キノコホテルはそれぞれのメンバーの資質とか楽曲の性質上、やっぱり演目は決めておかなきゃいけないっていうのはわかっているけど、ヒカシューを見てると“ああ自分もいつかこんな自由なことをやりたいな”って思ったりもするわ」
――これからのキノコホテルは、どのような方向に進んでいくことになるのか、支配人の中でヴィジョンのようなものがあれば聞かせてください。
 「まずメンバーが替わるっていうのは大きなことだし、その新しいベーシストが今までいた娘といろんな意味でタイプが違っていて。すごく弾けるし、曲を覚えるのも早いし、いろんなジャンルに対応できるから、その娘が入ることで自分も刺激を受けたいなと思ってる。そこから何が生まれてくるかは、まだやってみないとわからないことなので、ワタクシ自身、楽しみにしてるわ。彼女には早くキノコホテルの従業員としてハマってほしいし、そのためにもう年明け早々ライヴが20本くらい決まってて、とにかく実地でどんどんやってこうって意向で。なので、しばらくは新しいベーシストがバシッとハマり、ファンも彼女を受け入れてくれるレベルにまで持っていってから、さて、どうしようか、そこから初めて何が生まれるかな?ってなると思う」
――メンバー交替以外に、何か変化の予感はありますか?
 「ひとつには、このミリタリールックをいつまで続けようかって問題があるけど(笑)あんまり、こうするぞ、ああするぞって考えない方が楽しいから、考えないようにしてるわ。今後の目標とかもあえて設けたりはしないの。とりあえず今はバンドが過渡期なので、ピンチをチャンスに変えるとかじゃないけど、まずは“キノコホテル、前よりよくなったね”って言わせたい気分が強いわね」
――キノコホテルは、非常に強固なコンセプトを持ったバンドで、歌の内容もそれに合わせて作られている部分もありますが、そこからハミ出していってしまいそうな、パーソナルな感情のようなものが以前より出てきているようにも思えるのですが。
 「そうね。もちろんバンド感は大事にしているけれども、自身の感情的な部分とか、パンキッシュになったり攻撃的になったりする方にベクトルが向くと内面を曝け出すことになるので、そうすると私という人間がもうちょっと露わになってくるのかなっていう。コンセプトにこだわりすぎると書ける曲も限られてきてしまうし、そこと楽曲の路線とか広がりとの折り合いのつけ方っていうのは、なかなか難しい部分もあって。もしかしたら自分で決めた衣装に縛られてる部分もあるかもしれないし。バンドって、どうしても生き物だから変わっていくじゃない? でも自分で作ったコンセプトに縛られて思うように変われない部分もなきにしもあらずだとは思ってるんで、そのあたりをどうやっていこうかなっていうのはあるわね。やっぱり自分が常に新鮮な気持ちでキノコホテルに向き合っていたいので、世間から見てどうかっていうより、自分がやってて楽しくなかったら意味がないし。だから自分が楽しむためにはどうしたらいいかってことを考えてるわ。自分が楽しめて初めて人を楽しませられるんじゃないかと思うしね」
――そんなふうに、マリアンヌ東雲というパーソナルが、完全なバンド用の架空の人物ではなくて、ご本人と地続きであるところが、キノコホテルの面白いところだと思っています。
 「特にムリヤリ作ってるキャラクターでもないし、マリアンヌ東雲と素の自分はほとんど同じというか。私が音楽に取り組むとこうなりますよっていうだけで。それで、見てる側は“これ、どこまで支配人なんだろう?”とか“今ちょっと素が見えたな”って、それぞれ思うポイントがあるのかもしれないけど、そういうのも含めて、要は女性にはいろんな顔があるんだっていうことね。だから、マリアンヌは強くて図太くてサディストで……みたいなイメージがあるかもしれないけど“そう見えて実はあの人けっこう可愛いんだよね”と思ってる人もいるし。女性ってそういう多面性が魅力だと思うので、ただサディストで暴君じゃ面白くないから、たまにドジをしたりとか、ちょっと可愛い顔をしてみせたりとか、そういうのが……まあ、わざと狙ってやってる時もあるけどね、あんた達こういうの萌えるんでしょ?って」
――どこまでが計算で、どこから意図しないものなのかというのも、見ていて非常にスリリングですね。
 「ねえ、そこはどうかしらね? うふふ」
――歌詞に関しても、バンドのコンセプトに沿ったものだけではなく、支配人個人の感情が歌われているからこそ、聴き手が共感するんだと思うんです。「もえつきたいの」はファーストの収録曲ですが、あの歌にものすごく感情移入するという女性の話も実際に知ってますし。
 「あの歌は、道ならぬ恋っていうか、きちんと相手がいる人を好きになっちゃって……誰でもそういう経験あると思うけど、そういうところから出来た曲ね。けっこう実体験が多いの、キノコホテルの歌詞は。だから感情移入してもらえるのは嬉しいわ」
――最後に、限定盤だけに収録されているボーナス・トラック「ステファニーの恍惚」に登場するステファニーさんは、どんな方なんですか?
 「私の身のまわりの世話をしている、ドMのメス豚よ(笑)」
取材・文/鈴木喜之(2012年12月)
ライヴ写真/齋藤真里
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