【ボズ・スキャッグス】あのサウンドを求めてメンフィスで制作したニュー・アルバム

ボズ・スキャッグス   2013/12/09掲載
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ボズ・スキャッグス
“メンフィス”
 ウィリー・ミッチェルのプロデュースで、アル・グリーンアン・ピーブルズらのハイ・レコードの傑作を次々と生み出したメンフィスのロイヤル・レコーディング・スタジオ。ほかにも、ロッド・スチュワートからキース・リチャードまで、そこの独自のサウンド求めて訪れた人たちも少なくない。ボズ・スキャッグスもその一人だ。新作『メンフィス』では、リズム&ブルースのふくよかなリズムに、ほれぼれするような歌声を絡ませる。
――どうして、こういうアルバムをつくろうと思ったんですか。
 「ひとつは、プロデューサーのスティーヴ・ジョーダンと仕事がしたかったんだ。彼とは、12年前に仕事をして、互いの音楽スタイルが気に入り、一緒に何かをする機会をうかがっていた。もうひとつは、シンガーに徹するアルバムを作りたかった。歌って楽しい曲を歌う。気に入っている曲である必要はない、こういうタイプというしばりもない。歌うことが楽しい、と思える曲だ。歌うことだけを考えたアルバムを作りたかったんだよ」
――メンフィスのロイヤル・スタジオでやることになった経緯を教えてください。
 「歌いたい曲を彼に送り、彼からも何曲か送られてきて、それをもとに電話で話し合おうということになった。どういうミュージシャンを使い、どこでレコーディングしようか、とね。それで、スタジオの話になったとき、ぼくは、“メンフィスでやるべきだと思う、以前使ったスタジオがあるんだ”と言うと、彼もまた、“ぼくもメンフィスでやるべきだと思う、前にやったスタジオがある”と言うんだ。世界中にスタジオは限りなくあるのに、2人が求めるサウンドを得られるのはこのスタジオだ、と思ったのが、メンフィスの同じスタジオだったわけさ。ミュージシャンに関しても、ぼくは、いつもドラマーにベーシストを選んでもらうんだけど、彼はウィリー・ウィークスの名前をあげた。異論なんてあるはずがない。ウィリーとは35年近く一緒に仕事をしてきたからね。じゃあ、キーボードはとなって、ぼくは迷わず、“チャールズ・ホッジズがメンフィスにいる”と言えば、スティーヴも、“同感だ、彼しかいない”となって。ギタリストは、レイ・パーカーJr.だね、と、そういう具合に2人の考えはぴったり一致していたんだ」
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――選曲どうやって決めていったんですか。
 「8、9曲は、あらかじめ決まっていたかな。レコーディング初日のリズム・セクションがあまりにも素晴らしくて、これなら、どんな曲だって試せる、と思えたね。最高にいい感じだった。ちょうど数日前、ニューヨークのクラブでひさしぶりにスティーリー・ダン〈パール・オブ・ザ・クォーター〉を聴いて、良いなあ、と思っていたので、“あれを試してはどうだろう”と、スティーヴに持ちかけたところ、“いいねえ、じゃあ、〈ラヴ・オン・ア・トゥー・ウェイ・ストリート〉を覚えてる?”とスティーヴが言ってきて、“もちろんさ”“じゃあ、やってみよう”と、そういう感じで進んでいった。ただ、メンフィスにはミュージシャン仲間が大勢いるから、スタジオに彼らがのぞきにやってくるたびに作業を中断しなければならなかった。最初は、これじゃあ、永遠に終わらないぞと思ったくらいさ。それでも、3日目が終わる頃には全曲できていた。翌日は、ホーンやストリングスを加え、BBQを食べ、その翌日には帰った」
――そのストリングスですが、「ソー・グット・トゥ・ビー・ヒア」では、故人のウィリー・ミッチェルの名前がクレジットされていますが、これは、アル・グリーンのオリジナルを参考にしたという意味ですか。
 「そうだね。スタジオでは、ウィリー・ミッチェルがまるでそこにいまもいるような存在感があったよ。なにもかも当時のままだからね。たとえば、チャールズ・ホッジズのB3ハモンド・オルガンが置かれている真上の天井が雨漏りするんだ。雨が降り始めると、みんなでオルガンの位置を変え、床にバケツを置く。そんな具合でね、なにもかも昔のままにしてある。コンソールのつまみやフェイダーも、鉛筆の印があってそこに合わせると、完璧なサウンドが出来上がる」
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――これだけ、テクノロジーが発達した中で、いろんな方法でレコーディングができると思うのですが、ロイヤル・スタジオに2人の意見が一致したのはそういうところですか。
 「その昔、特にR&Bのレコード会社は、それぞれリズム・セクションを抱えていた。お抱えのミュージシャンたちが、同じスタジオで、独自のサウンドを作り出していたんだ。モータウン、スタックス、フィリー・インターナショナル、マッスルショールズ……。そして、このドラマーのこのドラムにはこのマイクだ、というのがあって、それが彼ら独自のサウンドになっていた。そういう時代は、いまや過去のものだ。スティーヴもぼくも、そういう“そのスタジオにしかないサウンドがある”スタジオでやりたいという点で意見が一致していたんだ。ロスやニューヨークやロンドンだと、数日かけて楽器をセットし、自分たちの欲しいサウンドになるまでマイクや機材を調整し、聴きかえし、ようやく、“さあ、やろうか”ということになる。例外的なスタジオとしてここがあった。あとはマッスルショールズくらいだけど、あそこも少し変わったからね。たくさん選択肢があるようにみえても、ぼくらが愛するリズム&ブルースのサウンド、プレイヤー、フィーリングを考えると、自然にここだったんだ」
取材・文 / 天辰保文 (2013年11月)
ライヴ写真 / 土居政則
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