「“ここじゃないどこか”に思いを馳せるための音楽を作りたい」――「ディスコの神様」にtofubeatsが込めた想いとは?

tofubeats   2014/05/02掲載
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“ディスコの神様”
tofubeats、メジャー第2弾シングルは、ヴォーカルに藤井 隆を迎えた「ディスコの神様」! 郊外のニュータウン出身である両者の感受性と、ブックオフの250円棚に流れ着いたバブル時代のJ-POPを自らの音楽の源泉と公言するtofubeatsらしいブリリアントなポップ感覚とが合致した力強い一曲になった。また、デビュー・シングル「Don't Stop The Music」でのソノシートに続き、今回は「ディスコの神様」のリミックスも収録したカセットテープ付きの初回限定版を発売するという趣向も大きな話題を呼んでいる。現代型のシティ・ポップの担い手へと快調に歩を進めているtofubeatsに、最新シングルのリリースにまつわる現在の心境やメジャー・デビュー後の変化について話を聞いた。
――メジャーでの2ndシングル「ディスコの神様」、まさかの藤井 隆さん起用に驚きましたけど、曲を実際に聴いてつくづく最高に絶妙なキャスティングだと思いました。
 「藤井さんが去年、松田聖子さんの作詞作曲で出したシングル〈She is my new town〉が本当に良かったんです。僕の活動のなかで“ニュータウン”というのは大事なキーワードなんですよ。メジャー・デビュー前に別ラインでdjnewtownとしてフリーダウンロード音源を作ってリリースしていましたし。そのあと、いろいろ調べたりするうちに藤井さんとは音楽の趣味が共通していたり、出身が千里ニュータウンであることとかも含めて、いつか一緒に何かやらせていただきたいなと思うようになったんです。それで、今回タイミングがあって、ヴォーカルをしていただけたという感じです」
――そのオファーは、「ディスコの神様」という曲ありきでした?
 「いえ。毎回、曲はオファーしてから作ってます。事前にミーティングの場を設けていただいて、そこから曲作りをしました」
――直接会ってみて、藤井さんからはどういうインスパイアがありました?
 「僕は松田聖子さんがSeiko名義で出した〈Let's Talk About It〉(1996年)という曲がめちゃくちゃ好きなんです。おそらく藤井さんも〈She is my new town〉のときに、あの曲をイメージしてオファーを出されたんじゃないかなと思っていたら、案の定、本当にそうで。しかも、そういう曲に“ニュータウン”という言葉を入れてほしいという依頼もしていたみたいで」
――本当にニュータウンでつながったんですね。
 「曲調も、最初はあの曲みたいなミドルテンポでやりたいと思ってました。でも、ご本人と会ってお話してみたら、なんかもったいない気がしてきて。藤井さんはスターだし、僕らからしたら“あの藤井さんが受けてくれた!”というくらいのレベルの話で、ものすごくびっくりしたんですよ。だから、もう少し景気のいい感じのものにしたくなって、そのいっぽうで、“ニュータウン”というキーワードもそのままにしたものを作りたいと思って、この曲になったんです」
――ある意味、一時期のSMAPっぽい曲でもありますよね。本当はSMAPに歌ってもらいたかったのかなと思ったくらいで。
 「全然そんなことはないんですけど、最初に曲のサビができたときに、あまりにSMAPっぽすぎたので、ちょっとメロディを変えたというのは本当です(笑)」
――そういう華やかな曲調でありながら、この曲に描かれている“ディスコ”という現場は、実は今はもう滅びつつあるものですよね。
 「というか、もう“無い”と言ってもいいようなものだと思います。“ディスコ”も“神様”もみんな幻だと言ってしまってもいいんですよ。僕は“ディスコに行ってわいわい騒ぎたい”という曲が作りたいのではなく、“ここじゃないどこか”に思いを馳せるための音楽を作りたいんです。ニュータウンに住んでて、同級生や友達で好きな音楽が一緒の人もいなくて、自分の部屋でひとりで好きな音楽を聴いて“どうにかなんないかな”って思ってる。そういう自分にとって音楽が大事なものだったので、それを突き詰めたものを作りたいし、そういう音楽だからこそバカっぽいものじゃないとダメだという思いはあります。そして、藤井さんとはそういう感覚は共有できるかも、とも思ったんです。実際、曲ができあがったときに藤井さんに渡していろいろ話をしてたら、“この曲は〈家を出ない曲〉なんですね”っておっしゃって。何も僕は説明をしてないのにそこをわかってくれたのならもう十分だなと思いました」
――そういう意味でも、tofubeatsという音楽家のおもしろさは、トラックメイカーというだけでなく、シンガー・ソングライター的な部分が相当に強いんですよ。
 「“シンガー”かと言われると、かなり危ういですけど(笑)」
――でも、自分の曲を自分で歌うというスタンスは、最初から軸としてありますよね。
 「僕は自分の歌はすごく嫌いだし、難があるレベルで歌がうまくないので、オートチューンをごりごりにかけないと世に出せないんです。でも、僕の好きな宇多田ヒカルを聴いていて思うのは、自分にとってパーソナルなものを突き詰めていくということは絶対しなきゃいけないし、そういうときに自分が作った曲を他人が100%わかって歌うことは不可能だということなんですよ。他人とやって生まれるものもあるんですけど、自分の歌がいくら嫌でも自分が歌うしかないものはある。だけど、自分の歌は嫌いだし。その葛藤をどう着地させるかは未だに悩んでいるところではあります」
――DTMで何でもできるんじゃないかと傍目には思える時代に、そういう不自由さが抱え込まれているというのもおもしろいですね。
 「しょうもないことなんですけど、今回〈ディスコの神様〉で、僕は生でマラカスを5分間ずっと演奏してるんですよ(笑)。これって初めての自分の生演奏が入ってる曲なんです。くだらないことなんですけど、自分の曲に合わせて何かを演奏するという経験がこれまで僕は1回もなかったんです。コピー・バンドも組んだことないし。一番最初に打ち込みから始まっていて、そのまま今に至ってるので。人の曲をいじることはあっても、合わせて何かを弾くことはなかった。ギターも買ったんですけどね、練習しないんでうまくならない。何も習熟しないんです(笑)」
――音楽制作に関して言えば、以前のインタビューで、メジャー・デビューに伴って生じた「作った曲を発売まで寝かせる」という事態に慣れてないと発言してましたよね。確かに、インディーズ時代はそれこそできたての状態でどんどん配信していたわけですけど。
 「今でも慣れないですね。不安な要素も多いんですけど、最近は仕事の多さがそれを忘れさせてくれる部分もあります。でもやっぱり、今回の曲のリミックスみたいな、ちょっと旬っぽいものを作ったときは不安になりますね。そういうものほど納期ぎりぎりまで粘ります。3ヵ月もすればインターネットのトレンドなんか変わっちゃうし、それはいつもすごく不安ですね」
――逆に言うと、インディー時代は、出すほうも先鋭だし、受けとる側も先鋭というせめぎ合いみたいなところがありましたよね。今のtofubeatsはもっとJ-POP的な場所に立っているので、広がっていく様子を待つ時間も必要という気がします。
 「そうですね。時間をかけるといろんな人が聴いてくれるんだなという学びも本当にあります。一枚のCDをリリースするのにちょっとずつ情報を出していったり、そうすることで得なことがいっぱいあることもわかったし。でもやっぱり不安の払拭はできないですね。“世に出て初めて曲になる”みたいな感覚が僕はあるので」
――今回のシングルでは、カップリング曲の「Her Favorite」と「衣替え」のPVが、「ディスコの神様」よりかなり早くに公開になっていますね。
 「これは撮影から公開まで2週間かかってないんです。〈ディスコの神様〉のビデオ公開が発売日近辺になっちゃうんで、“先にB面のPVを作ってくれない?”って言われたんです。僕がキャスティングから配車から全部やりました(笑)。東京に住んでるモデルの子に“明日、新幹線で神戸まで撮影に来てくれない? ギャラ払うから”って交渉して、出演してくれるオカダダにも“明日、11時に神戸で”ってお願いして、大学の後輩2人をアシスタントにつけて、レーベル・スタッフもまったく不在の状態で、ひとりでカメラや撮影機材も買いに行って、レンタカー借りて、新幹線で来るモデルの子を迎えに行って、ZARA行って服を揃えて、普通に僕が実費で予約したホテルにチェックインして、自分で三脚を立てて、自分で撮影したのがあのビデオです」
――そうなんですか! めちゃくちゃDIYですね!
 「〈衣替え〉は、レンタカーにカメラをガムテープで固定して撮りました。編集も自分でやって、カラコレ(色彩補正)だけ、ちゃんとした監督さんにお願いしました。本当に、大学生みたいですよね(笑)。でも楽しかったですよ。まあ、〈ディスコの神様〉のPVが絶対ちゃんとしてるっていう担保が取れてるから、こういうことができるんですけどね」
――「衣替え」のエンドロール的な演出、すごくよかったですよ。
 「時間も実力もないのにどうにかして2曲分作らなくちゃいけなかったので、エンドロールならもう一曲いけると思ってやりました。あと、こういう“観覧車の見える部屋を予約して”みたいな、かっこいい感じのことって、他人の提案だと恥ずかしくてできないけど、自分でやるんだったら遊び半分でできるんですよ。だから、みんなでげらげら笑いながらやってたんです(笑)」
――その話は、ありがちなかっこよさとの距離感みたいなテーマでもありますけど、そこはやはり意識していますか?
 「あのPVを見て真に受ける人がいたとしても、僕らは自分たちをかっこいいと思ったことはないんで。“ありがたいな”とは思いますけどね」
――でも、メジャー・デビューを経て、DJブースやステージに立ったときに受ける歓声とか明らかに変わってきてると思うんですよ。
 「はい。昔とは違うかもしれないですね。でも、やっぱり、大事なのは身の周りの人が褒めてくれるかどうかだと思いますけどね。世の中って信用できる部分と信用できない部分がある。自分がやってることは昔から変わってないわけで、一番最初に自分の礎を作ってくれた人に確認を取るというのは理にはかなってるのかなと思います。そこがよければ、後から好きになってくれた人も“いい”って言ってくれるものになるんですよ」
――マスに対しての発言というのは意識します?
 「曲にある種の考え方を表明すると、そう思ってない人はその曲は聴けないという話がありますよね」
――でも、そのなかでも“含み”は持たせたいですよね。「ディスコの神様」で藤井さんが気がついた部分というのも、まさにその含みだと思うんですよ。
 「そうですね。含みはあってしかるべきと思います」
――でも、そんな思いとは関係なく、これを聴いて『懐かしのディスコ万歳!』とか言い出す世代もいるのかもしれないし。
 「それはそれでありがたいですけどね。好き勝手に思ってもらえるものが、J-POPの一番いいところなので。森高千里さんの〈私がオバさんになっても〉だって、“オバさんになりたい”とも取れるし、“なりたくない”とも取れる。そこに僕は打ちのめされるところがあったんです。そういう意味で、自分も聴き手にどっちとも取れる感覚を与えたいなというのはあります」
――今回の「ディスコの神様」でもうひとつ重要なのは、カセットテープ付の限定版がリリースされることです。
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“ディスコの神様”
初回限定盤
 「これに関して言えば、僕はMD世代なので、本当はMDでやりたかったんです。でもコストを調べたら絶対に無理な感じだったんです。そしたら、カセットはワーナーでも現行のリリースがまだあったんですよ。それがあったおかげで製造ラインもあるし、パッケージのノウハウもあるということで、何とかコスト的にもうまく収まって出せることになりました。ある人から“tofuくん、本当にメジャーを楽しんでるね”って言われました(笑)」
――カセット世代ではないですよね?
 「はい。でも、僕はヒップホップ好きだったので、ミックステープ・カルチャーを知ってるんです。リアルタイムではMDで、高校2、3年生くらいでiPodの第二、第三世代くらいのを使ってました。でも、今でも曲を作るときに、ある程度打ち込んだ音源を一回カセットに流し込んで、ぎゅっとまとめた音にして使ったりしてるんですよ」
――tofubeatsの音楽は、もともと配信からスタートしたわけですけど、自分にとってメディアの選択というのは重要な手段になると思っていますか?
 「メディアの種類はそんなに重要じゃなくて、いっぱいメディアがあるということが大事だと思うんです。僕自身はCDも、レコードも、データも買います。そのときに目に入ったものとか、聴いてしっくりしたものを買うのであって、そういう選択肢はあってしかるべきだと思ってるんです。〈Don't Stop The Music〉の時のソノシートとか今回のカセットとか、わがままを聞いてくれて作ってくれる機会なんてなかなかないと思うんですけど、選択肢を増やすために頑張ってるようなところが僕にはあって。カセットテープが入ってる初回版があったほうが、世の中のバリエーションになるなと思うんですよ。なんでもそうなんですけど、物事がひとつの方向にしか行かなくなるのってツマんないじゃないですか。世の中にいろんなメディアがあってそれぞれにいいところがあるんだったら、それは残ってしかるべきだと思う。そういうことでしかないんですけどね。“CDに入ってる〈ディスコの神様〉と、カセットに入ってる〈ディスコの神様〉では何が違うのかな?” 聴いてる人がそう思うだけでも、それは十分価値がある。“こんなものがあるのか”と若い人が思うのがおもしろいですしね。インディーでも最近カセット・リリース多いですよね。僕も最近、自分の家になんでこんなにカセット増えてるんだろうと思ってて」
――カセットもそうですけど、シティ・ポップが今リバイバルしていると言われてますが。
 「そこも〈ディスコの神様〉とまったく一緒というか、みんなが今そうじゃない時代を生きてるからだと思います。でも、シティ・ポップが流行ってるということについては、角松敏生さんがあるインタビューで“シティ・ポップは今流行ってるわけじゃない。かつてそういうのを聴いていた人たちが部長とか課長の世代になって再発盤を買ってるだけ”というようなことを言っていて。僕も、シティ・ポップを聴いてる人たちの総数が若い人たちのなかで増えてるわけでもないと思います。僕らみたいな一部の音楽好きがその残滓にあずかって自分の制作にフィードバックしてるだけで。聴くチャンスは増えてはいるんでしょうけどね。実際、僕もすごくたくさん再発を買いましたし」
――でも、これから東京でオリンピックを迎えるにあたって、よくもわるくも都市開発が盛んになって、バブルっぽい感じに見える部分も増えてくると思うので、そこで奏でられる音楽としてのシティ・ポップの役割は重要になりますよね。
 「そうですね。東京のミュージシャンはこれからが腕の見せどころじゃないですかね」
――自分が拠点を神戸から東京に移して、とは考えないですか?
 「オリンピックに向けた動きが始まって関係者が増えたせいなのか、最近東京のホテルがぜんぜん予約が取れないんですよ(笑)。さすがに毎回『じゃらん』を見ながら一時間も宿を取るのに苦労しなくちゃいけないのもどうなのかなって思いますけど(笑)。でも東京オリンピックに向けて、今よりもっと東京に人が増えちゃうから、もっと行きたくなくなると思います」
――そういう意味での都市との距離感は揺るがないんですね。
 「そうです。東京の郊外としての神戸に住んでるという意識なんです。昔は神戸に対する郊外に住んでました。今は神戸の市内に住んで、東京に対する郊外を意識していると思うんです。いつか活動拠点が世界とかになったら東京に住むかもしれないですけど(笑)」
――世界の郊外としての東京!
 「でも、そうなったとしても関空から海外には行けるか(笑)。あくまで住と職は分離したいタイプなんです。働くところが身の周りになくて当然みたいな。これは根っからのニュータウン育ちの考え方なのかなと思うんですけど(笑)」
取材・文 / 松永良平(2014年4月)
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