「日常の裏側とか人生の闇の部分とか、“そういうのも含めて人生やんね”みたいな」――EGO-WRAPPIN’インタビュー

EGO-WRAPPIN’   2014/05/22掲載
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EGO-WRAPPIN'
“BRIGHT TIME”
大根 仁脚本・演出、オダギリジョー主演のテレビ東京ドラマ24『リバースエッジ 大川端探偵社』に提供した主題歌・劇中歌・エンディングテーマを収録したEGO-WRAPPIN'のニュー・シングル『BRIGHT TIME』が完成。今回のインタビューでは提供楽曲の制作秘話から、ドラマの舞台であり、また森ラッピンが実際に住んでいる浅草という街の魅力について、さらに後半では一見脱線のようでいて、その実、EGO-WRAPPIN'が描き出す唯一無二の表現の本質が浮かび上がってくるような、コク深いトークが展開されています。

――今回のシングル『BRIGHT TIME』には大根 仁監督のドラマ『リバースエッジ 大川端探偵社』の主題歌「Neon Sign Stomp」、劇中歌「太陽哀歌(エレジー)」、エンディングテーマ「サニーサイドメロディー」が収録されているわけですが、そもそもおふたりは大根監督の作品に、どんな印象を持っていましたか?
中納 「私、ドラマってほとんど観ないんですけど、これは別におべんちゃらとかじゃなくて、『モテキ』『まほろ駅前番外地』は普通に観てたんです。深夜にやってたということもあって、テレビをつけたら流れていて、いつも面白いなと思って観てました」
――どのあたりに面白さを感じましたか。
中納 「人物描写がリアルなところとか。“こういう子おるおる”みたいな(笑)。決して派手じゃないねんけど、なんか惹きつけられるところがあって。あと、劇中で流れてる音楽も良くて。私、神聖かまってちゃんとか、あのドラマで知ったんですよ。『まほろ〜』も、坂本慎太郎さんが劇中音楽をやってたりとか、どこか近い感覚を感じたんですよね。“この人、音楽好きなんやろうな”みたいな」
――森くんは?
 「僕、本当に申し訳ないんですけど、普段ドラマ観ないから、大根監督のことを全然知らなくて。でも、唯一『モテキ』のことは知ってたんですよ。ハマケン(浜野謙太)が出てたから」
中納 「ああ、確かに出てた(笑)」
――主題歌のお話は、大根さんからどんな感じで来たんでしょう。
 「今度、浅草を舞台にしたドラマをやるんだけど、ぜひともEGO-WAPPIN'に音楽をお願いしたいですって言われて。脚本を書いてる段階から、大根監督の頭の中ではEGO-WAPPIN'の曲が流れてたみたいで。実際、僕が浅草に住んでるのも知ってたみたいで、それで声をかけてもらった感じです。でも、正直、頼みにくいところもあったと思うんですよ。僕ら探偵モノのドラマは2回目やし」
――ああ、そうか。ドラマ主題歌は『私立探偵濱マイク』以来なんですね。
中納 「そうなんですよ。でも、そこを乗り越えて、あえてうちらに声をかけてきてくれたのが嬉しかったんですよね」
 「うん。それで俄然、力が入って。“任しといてくださいよ、大根さん”って感じになった」
――こんな感じにしてほしいとか、主題歌に関して大根さんから具体的な要望はあったんですか?
 「特になかったです。基本的には全部任せてもらえるような感じだったんで。今回、僕が劇伴もやらせてもらってるんですけど、そっちではちょっとあったかな? トム・ウェイツのCDがごっそりきたりとか。僕もトム・ウェイツ好きやから、“ああ、この感じですね。大好物です”みたいな」
中納 「そのちょっと前に、うちで作業してるとき、偶然、トム・ウェイツのビデオを一緒に観てたんですよ。“トム・ウェイツやっぱり、ええな”って(笑)」
 「ふと、原点に戻りたくなるとき、トム・ウェイツのビデオを観るんですよ。そのときは『BIGTIME』のビデオを観てたんですけど、『BIGTIME』の頃のサウンドって、ちょっと無国籍的なところがあるじゃないですか。マリンバが入ってたり。あの雰囲気と、浅草の雰囲気が自分の中でカブったんですよね。なぎら健壱さんが、“浅草はおもちゃ箱をひっくり返したような町だ”って言ってたんだけど、たしかにガチャガチャ感みたいなものを街全体から感じるんです。僕が住んでる浅草の近所に、一斗缶を叩きながらハーモニカを吹く、おっちゃんがおるんですよ」
――へえ。
 「キャップかぶったイイ感じのおっちゃんが。その感じがよくてね」
――どういう曲を吹いてるんですか? ブルースとか?
 「いや、古い唱歌みたいな曲。にっぽんの歌みたいな。いいんスよ、ほんまに。一斗缶を叩きながらっていうのも、むちゃくちゃいいなと思って。それで、一斗缶を主体にサウンドを考えはじめて」
――主題歌の「Neon Sign Stomp」では、実際、打楽器奏者のASA-CHANGが一斗缶を叩いてますね。
 「そうです。で、ASA-CHANGも、その浅草のおっちゃんを知ってて。しかも自分のレコーディングに誘おうとしてたぐらい本気で好きみたいで。ただ、いざオファーしよう思ったら、突然姿をくらませちゃったみたいで」
――ちょっと都市伝説的な(笑)。
 「すごくミステリアスなおっちゃんで。まあ、今は普通におるんですけど(笑)」
――オファーしようとすると、いなくなっちゃう(笑)。
 「そうそう(笑)。でも、一斗缶を使うっていうアイデアが思い浮かんでからは一気に楽しくなりましたね。これはインパクトあるなと思って。ドラマの主題歌って、ある意味インパクト勝負やなと思っていて。(『私立探偵濱マイク』主題歌の)〈くちばしにチェリー〉のときも、冒頭にホーンの派手なフレーズを付けて。あれもインパクト勝負だったんですよ。いきなりパーンと入ってくるみたいな。鈴木清順的な感じというんですか。今回は一斗缶を使ってインパクトを出そうと思って」
――歌詞はどんなイメージで書いたんですか?
中納 「原作の漫画を読みつつイメージを膨らませて、そこに浅草の街のイメージを重ね合わせていった感じですね」
――よっちゃんから見た浅草のイメージってどんな感じですか。
中納 「森くんが住んでるということもあって、あんまり観光地ってイメージではないんですよ。もちろん浅草寺とか、ええなと思いますけど、どちらかといえば森くんが連れていってくれるマニアックな居酒屋とか、全然具の入ってない焼きそば屋とか(笑)、そういうディープなスポットが印象深くて。日常の裏側とか人生の闇の部分とか、ドラマでもそういうところが主に描かれてるじゃないですか。そこを美化するわけじゃないですけど、変な意味じゃなくて、“そういうのも含めて人生やんね”みたいな。そういうリアルな感じをお洒落に表現したいなと思ったんです」
――ちゃんとスタイリッシュなものとして。
中納 「そう。スタイリッシュさは、自分の中でめっちゃテーマなんです。そこは絶対捨てられへんから。人それぞれ、スタイリッシュさの感覚って違うと思いますけど、私なりのスタイリッシュさを追及したいんですよね。ある一つの風景を表現するときに、絵を描くみたいに自分なりの色を付けていきたいというか。そういう感じで歌詞を書いてるところはありますね」
――ちょっと話し戻りますけど、森君はどういうきっかけで浅草に住むようになったんですか?
 「当時自分の家がなく、知人の家に住みはじめるようになったんです」
――居候的な?
 「そうです。最初は居候だったんですけど、地元の不動産屋で家を見つけて。その頃ちょうど、いとうせいこうさんと仕事があって、せいこうさんが近所に住んでることが分かって。初めて会った日に家まで連れてってくれて、この映画がどうだとか、この本がおもしろいとか、いろいろ教えてもらって。せいこうさんが好きになって、さらにちょっと浅草が好きになるみたいな。せいこうさんの存在も大きいですね」
――それって何年前くらいですか。
 「10年くらい前です。で、僕はもともとお酒を飲むのが好きなんですけど、浅草に好きな店を見つけてしまったんですよね」
――それはデカいですね。
 「それで、さらに離れられなくなってしまって。ここは世界的にすごいと思って。あと、東東京の酎ハイという文化を知ったのも大きかったです。大阪では、酎ハイとか、言うてもレモンサワーぐらいなもんだったんですけど、東京の酎ハイは透明なんですよね。それ飲んだときに、あー、これはうまいなってなって。酎ハイにハマったっていうのもありますね(笑)」
――いまや、すっかり浅草に根を張っちゃった感じですか。
中納 「張っちゃってますよ(笑)」
 「いやいやいや、僕なんて住みはじめて、まだ10年ですもん。全然、新参者ですよ」
――そんな感じですか。
 「せいこうさんとかに比べれば全然です。せいこうさんは除夜の鐘ついてますから。あの人は、選ばれし人やね」
中納 「浅草の人って、よそ者に対して厳しかったりとかある?」
 「意外とないで?」
中納 「へえ、結構ウェルカムなんや」
 「うん。みんなが思ってるほどない。確かに裏路地の飲み屋とか常連の人が多いけど。意外とみんなフレンドリーやで」
――よっちゃんも、お酒は結構飲むほうですか?
中納 「飲みますけど、量はそんなにでもないです。お酒の席のムードが好きなんですよ。みんなでワイワイ飲む、あの感じが。1人で飲むとか、そういうのはないですね(笑)」
――お店の空間含めてのムードが。
中納 「好きです。なんか人間やなぁって感じがする」
――EGO-WAPPIN'の楽曲でもそういう人間臭さみたいなものを出していきたい気持ちはありますか。
中納 「あります、あります。まあ、出していきたいというか、自然に出ちゃってるところもあると思うんですけど」
 「でも、あんまり生活感みたいなものを出し過ぎたら、どてらくなったりすることがあるから、そこはバランスが大事やな。それこそ、さっき、よっちゃんが言ってたスタイリッシュさの話に繋がると思うんですけど」
中納 「確かに。どてらいのはあんまり好きじゃないからな」
 「大阪出身っていうのも、あるのかな」
中納 「そうやな。あんまりコテコテなのはちょっと」
――“どてらい”って、言葉で説明するとどういう感じなんですか。
中納 「どういう感じかな?」
 「いくよくるよ師匠とか?」
中納 「いやいや、いくよくるよ師匠はええやん。もっと、どう言うのかな?」
 「なんやろう……“なめたらあかんー♪”みたいな感じとか(笑)? よっちゃんは、“なめたらあかんー♪”とか絶対歌えないでしょ。そういうことちゃう?」
中納 「そうかもな(笑)。“なめたらあかんー♪”は、自分では歌えへん気がする」
 「意識的に歌詞に関西弁を出しすぎたりすると、“どてらい”に繋がるのかな」
中納 「“どてらい”を言葉で説明するのは、ちょっと難しいな。でも、いかにどてらさをなくすかっていうことは常に意識してるかも。ちょっと気を抜いたら、“なめたらあかん”みたいな部分が出そうになることもあるんで(笑)」
――“どてらい”というのとは少し違うかもしれないですけど、EGO-WRAPPIN'って、イナたさとスタイリッシュさの間にある、キワキワな部分をいつも絶妙に突いてきてるような気がするんですよ。一筋縄じゃいかないカッコよさというか。
中納 「ああ、そこは意識してるかも、わかんないですね。ちょっとダサめなほうがかっこいいと思うこともあるし」
 「でも、年を重ねるにつれて物の見方とか変わってきますよね。今までナシだったものがアリに思えたり。自分の中では、大竹伸朗さんと出会ったのがデカかった。大竹さんの物の見方とか独特じゃないですか。それこそ“ニューシャネル”とかスナックの店名って、いちいち面白いなとか。大竹伸朗さんと都築響一さんが、2人で地方を旅して撮ってくる写真とか最高じゃないですか。秘宝館めぐりとか」
中納 「そうやな」
 「大竹さんからは、めっちゃ影響受けてると思います。アラーキーさんも面白い人でしたよ」
――アラーキーってあの?
中納 「はい。カメラマンの荒木経惟さん」
 「荒木さんはおもろかったな」
――どういう機会にお会いしたんですか。
 「雑誌の企画で撮ってもらって。ほんまに昭和のエロカメラマンみたいで。コント見てるみたいやった」
中納 「“君にはエロさが足らねえよ”とか言われて(笑)。“おい、風くれ”ぐらいの勢いで。ちょっとドリフ入ってたよな(笑)」
 「で、撮影が終ったら、“よし。飲みにいこう”って言われて、アラーキー行きつけの新宿のスナックに連れてってもらって」
中納 「めっちゃ長い紐のカバンを持ってて。歩きながら引きずってたから、“地面についてますよ”って言ったら、“うん、これはこういうものなんだよ”って言われて。めっちゃかわいかったわ」
 「付いていきたくなるもんな(笑)」
中納 「でも、連れていってもらったのが本当に普通のスナック(笑)」
 「めっちゃ普通やったな。もっとアラーキーっぽい、ぶっ飛んだ店に連れて行かれると思ってたのに。でも、その普通な感じが妙に良かったんですよね」
――年を重ねるにつれて、何の変哲もない感じが、じわじわ沁みる瞬間とかありますよね。見慣れた地元の風景とか。
中納 「あー。あるある」
――自分は地方出身なんですけど、田舎のヤンキーっぽいノリが嫌で東京に出てきたのに、20年経ったら、あんなに嫌だった地元のノリが妙にいとおしく感じられちゃったり。それこそ人間臭くていいなって。
中納 「うんうん」
 「僕もヤンキーの女の子とか見て、ええなと思うことありますよ。金髪を頭の上でピッてくくってるようなヤンキーの女の子がジャージ姿でコンビニで買い物してるのとか見て」
中納 「なんの話やねん(笑)」
 「前はそんなこと思わなかったのに。そう考えたら、だんだん、どてらい感じもオッケーになってくかもしれへんな(笑)」
中納 「そうなったら、うちも“なめたらあかんー♪”って歌うかもしれへん(笑)」
――キワキワの美学を突き詰めた結果(笑)。
 「“これがスタイリッシュや”って」
中納 「“なめたらあかんー♪”がスタイリッシュって言われたら、もうやることないな(笑)」
 「完全に終着点や(笑)」
中納 「まだまだ先は長いな(笑)」
取材・文 / 望月 哲(2014年5月)
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