ブラック・カントリー・ニュー・ロード(Black Country, New Road)が、10月31日に英・ロンドンのブリクストン・アカデミー(O2 Brixton Academy)にてライヴを開催。ハロウィンの夜に『
Forever Howlong』を携えての大規模なUK&EUツアーを締めくくった当日のレポートが到着しています。
なお、ブラック・カントリー・ニュー・ロードは、12月に2度目のジャパン・ツアーを開催。12月8日(月)の大阪・BIGCAT公演を皮切りに、12月9日(火)名古屋・JAMMIN’、12月10日(水)東京・EX THEATERの3ヵ所を巡ります。大阪&名古屋公演には柳瀬白瀬(
betcover!!)、東京公演には
青葉市子がそれぞれゲスト参加。詳細はBeatinkの公式サイトをご確認ください。
[ライヴ・レポート] 10月31日、ハロウィン・ナイト。仮装した人々が乗り合う地下鉄で向かった先はロンドン・ブリクストン。ブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)は、9月から始まった3rdアルバム『Forever Howlong』を引っ提げての大規模なUK&EUツアーをこの伝説的なヴェニュー、O2アカデミーのソールドアウト・ショーで締めくくった。
タイムテーブルは21時15分開始となっているが、21時になると、白いシーツのようなものを被ったゴーストが二人、ステージに現れた。ちらりと見える足から、後にこれがジョージアとルークであることが分かる。彼らは入念にサウンドチェックをし、再び舞台袖へと消えていった。
予定より少し遅れて、フォンテインズD.C.の「Starbuster」が流れる中、見知らぬ人々が登場。誰!?と思っていると、なんとBR,NCのメンバーではないか!彼らはなんとフォンテインズD.C.に仮装している!ルイスとタイラーはコナー、ルークはカルロス、そしてジョージアがグリアンに??ハロウィン・スペシャル・ショーにうってつけの演出に、のっけからオーディエンスは大盛り上がり!これだけでもアドレナリンがあがるのに、彼らがオープニングに選んだのは、AC/DCのハードロック・アンセム「Highway to Hell」!しかもスクリーンに映し出されていた“Foutaines D.C.”のロゴがいつのまにやら“AC/DC”になっている!ガールズが歌う「地獄へのハイウェイ」は、自由とロック精神を象徴する、力強い解放の讃歌だ。そして、スクリーンの“AC/DC”が、今度は“BC,NR”に変わると、アルバム収録曲の「The Big Spin」がスタートした。メイの軽やかなピアノと跳ねるようなボーカルにメンバーたちの幾重にも重なる音の洪水が押し寄せると、オーディエンスは大喝采を浴びせる。シームレスに「Salem Sisters」へ移ると、歌詞に込められた感情を音楽で展開させるかのように、タイラーのボーカルは、時に声質を変え、速度を落とす。そして「Two Horses」。ジョージアの子守唄のようなささやきに寄り添うように、チャーリーが穏やかなバンジョーの音色を奏でるが、曲が進むにつれ、まるで二頭の馬が荒野を駆け抜けるような、力強くドラマティックな高揚感へと展開していく。
しかしながら、今日のオーディエンスはどれくらいアルバムを聴き込んできたのだろうか。「Besties」のイントロでチェンバロが鳴り響くと、大きなうねりが巻き起こり、2階席まで大合唱となったかと思うと、「For the Cold Country」では、メイのボーカルに合わせて拳を宙に突き出して踊る輩もいる。この半年間聴き続けてきた作品をついにライブで体験できたという興奮が明らかに伝わってくる。
ハロウィーン・バージョンのショーは、悪魔の笑い声やオオカミの遠吠えが随所に響き渡り、さらにセットの中には、ルイスが絶叫する「Paint It, Black」や、不穏で夢のような「Twin Peaks:Laura Palmer’s Theme」などが織り込まれ、オーディエンスにとっては、トリックかつトリートなサービスも施された。
中盤チャーリーが「2019年のハロウィンの日に、ここでチャーリXCXを見たんだ。効果音は少なかったけど、衣装替えは多かった(笑)」と語り、場内は大爆笑。さらに、バンドとは長い付き合いだという、この日のサポート、ピート・ウムとブルー・ベンディに感謝の意を述べた。
メンバー全員がマルチ・インストゥルメンタリストである故、彼らは時に場所を入れ替わり、時に楽器を持ち換える。その静かな流動性は、6人の間にひとつの有機的なつながりが張り巡らされているかのようだ。それぞれが主役でありながら、同時に全体の一部でもある、そのバランス感覚こそが、現在のBC,NRの真髄であり、演奏のたびに生まれる小さなアンサンブルの化学反応が、曲に深さときらめきを与える。
メイがアコーディオンで総指揮をとる「Forever Howlong」で、他5人がリコーダーを一斉に吹き始める。シンプル・イズ・ベストを体現したパフォーマンス。余分なものを削ぎ落したからこそ見えてくる音色の美しさがここにはある。
残り1曲となったところで、タイラーは、「すべてが始まった場所、ウィンドミルに感謝します」と述べ、さらに「パレスチナの人々のために、私たちはこれからも力を合わせ、声を上げ続けなければなりません」と続けた。キーボードに掲げられたパレスチナ旗は、バンドが当初から支持を表明していた証だ。タイラーが、「フリー!フリー」と叫ぶと、オーディエンスは声を合わせて「パレスチナ(パレスチナ解放)!!」とレスポンス。それは政治的なスローガンであり、音楽の力が持つ連帯そのものだった。
最終曲「Happy Birthday」では、再びオーディエンスがシンガロング。エクステンドされたアウトロに至るまで、皆で歌い続けた。最後は、バンドに絶大なる拍手を送り、このツアーの成功を祝福するかのように、スタンディング・オベーションでショーは幕を閉じた。アンコール無しの90分、『Forever Howlong』全曲を網羅しつつ、カラフルなカバー曲を織り交ぜ、BC, NRは、自身のライブを単なる再現ではなく、ひとつの新しい作品として構築してみせた。それはアルバムを単に演奏するのではなく、むしろその“次章”とも言うべきパフォーマンスだった。
今年4月、アルバムリリース直後にVillage Undergroundで収録曲を演奏するショーケース・ギグを鑑賞し、半年後の今回、O2アカデミーでのライブを堪能した筆者が思うのは、BC, NRは成長し続けるバンドなのだということ。タイラーが先のMCで、「ショーはこれで終わりだけど、(バンドが)これからどこへ向かうのか、という気持ち」と言っていたところからも分かるように、今回のツアーでさらに自信をつけたバンドがこれからどこに向かうのか、来日公演で是非それを見届けて欲しい。
Text by 近藤麻美
