伝説的ドラマ『
ブレイキング・バッド 』『
ベター・コール・ソウル 』の生みの親、
ヴィンス・ギリガン の最新作『プルリブス』がApple TVにて配信開始となりました。舞台は前2作と同じ米メキシコ州アルバカーキということで盛り上がっている人も多いのではないでしょうか?
『ブレイキング・バッド』は、末期ガンの宣告を受けた高校の化学教師ウォルター・ホワイトが、家族にお金を遺そうと違法薬物の精製に手を染め、悪に堕ちていく物語。化学の知識で闇社会をのし上がっていく痛快さはもちろん、
ブライアン・クランストン 演じる主人公ら個性豊かなキャラクターたちが繰り広げる人間ドラマは多くの人々を魅了し、日本でも熱狂的なファンを生み出しました。
また、5シーズンに渡り選曲された、名シーンを盛り上げる数々の挿入歌も本作の魅力のひとつ。今回は、王道から隠れた名曲までを揃えた名選曲とともに、魅力あふれるシーンを振り返ります。
■モロトフ 「Apocalypshit」 シーズン1 ep.1 / モロトフ『黙示録 』収録 地味な化学教師・ウォルター・ホワイトが初めて化学の知識でギャングと対峙する場面で流れます。まだ、初々しいウォルターのパニックぶりを煽るカオスなナンバーは、メキシコのオルタナ・グループ“モロトフ”が99年にリリースしたアルバムのタイトル曲。 VIDEO
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ミック・ハーヴェイ 「Out of Time Man」シーズン1 ep.1 / ミック・ハーヴェイ『Two of Diamonds』収録 哀愁のビートにのせ、「それはタイミングの悲劇よ」なんてコーラスが入る初回のエンド・ソング。ウォルターの“Yシャツにブリーフ姿”という有名なキー・ヴィジュアルのシーンの後に流れ、とてもシニカルな味わいがあります。楽曲はミック・ハーヴェイによるマノネグラ のカヴァー。 ■
ダロンド「Didn't I」 シーズン1 ep.9 / ダロンド『リッスン・トゥ・マイ・ソング〜ザ・ミュージック・シティ・セッションズ〜 』収録 癌の恐怖や高額な治療費で憂鬱なウォルターが遭遇した、下品で自信家のビジネスマン“ケン”。車のナンバープレート“KENWINS”を2度目に見かけてしまったとき、イライラが募ったウォルターはその車に火をつけます。BGMはカリフォルニアの伝説的シンガー、ダロンドによるソウルの隠れ名曲。切なげに歌われる「いろいろ尽くしてきたじゃないか。。」の歌詞が、一見コミカルな場面にホロ苦い余韻をもたらしています。 VIDEO
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ザ・シルヴァー・シーズ「Catch Yer Own Train」 シーズン1 ep.6 / The Silver Seas『High Society』収録 ギャングを率いる危険な麻薬常用者“トゥコ”(レイモンド・クルス)に、ウォルターが化学の魔法で相棒ジェシー(アーロン・ポール )の敵討ちをする場面で流れます。押し殺した雄叫びに重なる哀愁のフォークロックが、この後の転落を予見するように響きます。 VIDEO
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キャレキシコ 「Banderilla」シーズン2 ep.7 / キャレキシコ『イーヴン・マイ・シュア・シングス・フォール・スルー 』収録 『ベター・コール・ソウル』も生み出した名脇役・ソウル・グッドマン(ボブ・オデンカーク )の初登場回に使用。悪徳弁護士ソウルがDEAを欺こうと企むも、予期せぬハプニングが起こり……。アメリカン・ルーツ音楽の雄によるスパニッシュな楽曲が、ストレートにコミカルなシーンを盛り上げています。 ■
アメリカ 「Horse with no Name」シーズン2 ep.8 / アメリカ『名前のない馬 』収録 荒野を車で抜けるウォルターが、カーステレオから流して一緒に口ずさむナンバー。砂漠を歌った名曲が、南西部特有の乾いた景色に非常にマッチしています。 ■
アソシエイション 「Windy」シーズン3 ep.12 / アソシエイション『ウィンディ 』収録 麻薬中毒の娼婦ウェンディ(ジュリア・ミネシ)の荒れた日常を彩ったポップなソフトロック・ナンバー。実は奥行きのある人物・ウェンディのシニカルなテーマ曲であり、物語のアクセントとして印象に残ります。 ■
カルテット・チェートラ「Crapa Pelada」 シーズン3 ep.13 / Quartetto Cetra『I Successi Del Quartetto Cetra』収録 中盤から登場した、何事にも凝り性の研究者ゲイル・ベティカー(デヴィッド・コスタビル)。ピーター・シリング になりきって歌う自作のカラオケ動画で衝撃を与えた“珍”脇役ですが、自室で植木に水をやりながら歌うシーンもインパクト大。楽曲は、1940年代に結成されたイタリアのジャズ・ヴォーカル・カルテットの作品で、物凄い早口の歌です。中毒性のあるゲイルの早口歌唱は、スピンオフ作品にも引き継がれます。 ■
プリテンダーズ 「Boots of Chinese Plastic」シーズン4 ep.7 / プリテンダーズ『愛しのキッズ 』収録 ウォルターが腹立ちまぎれに車をめちゃくちゃに乗り回すシーンで流れます。歌い出しの「南無妙法蓮華経」は、鬱憤大爆発のシーンにもマッチ。 VIDEO
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ジー・オー・シーズ「Tidal Wave」シーズン4 ep.10 シーズン4 ep.10 / Thee Oh Sees『Singles Vol. 1 + 2』収録 冷酷な麻薬王“ガス”(ジャンカルロ・エスポジート )の壮絶な復讐劇を盛り上げたナンバー。崩れたマーチングのようなドラムと、女性ヴォーカルによる狂乱のシャウトが、昔年の感情を解放するガスと共鳴し、観る方にもカタルシスをもたらします。 ■
ナット・キング・コール &ジョージ・シアリング 「Pick Yourself Up」シ
シーズン5 ep.8 / ナット・キング・コール『ナット・キング・コール・シングス・ジョージ・シアリング・プレイズ +3 』収録 米ポピュラー・ミュージック界の巨星が歌うクラシカルなジャズ・ナンバー。ビジネスライクに次々と人を葬っていく作中屈指のバイオレンスなシーンに、一見ぎょっとする選曲ですが、落ちる所まで落ちたウォルターの虚無が感じられます。 ■
バッド・フィンガー「Baby Blue」 シーズン5 ep.16 / バッド・フィンガー『ストレート・アップ』収録 最終回のエンド・ソング。まるでウォルター自身が書いたかのように、物語の内容と一致した歌詞は、少しずつ転落し、大切な人々を失っていった男の物語を完璧に締めくくりました。ウォルター(作中51歳)が若かりし頃である70年代のロック・サウンドというのも、切ないです。 VIDEO
コミカルなシーンには切ないソウル・ナンバー、殺戮のシーンには優雅な往年の名曲と、一見チグハグな選曲の妙は、『ブレイキング・バッド』のオフビートな魅力を引き出しています。観返す際は、是非音楽にも注目してみください。