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Pro Tools(プロトゥールズ/プロツールズ)とは?

2006/10/06掲載
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アーティスト・インタビューを読むと、そこかしこに飛び出す気になるワード“Pro Tools(プロトゥールズ/プロツールズ)”。分かるようで分からない、その実態とは?
 Logic(※1)、Cubase(※2)、Sonar(※3)、Nuendo(※4)などいろいろあるDTM(※5)、DAW(※6)などのハードディスク・レコーディング環境の中で、プロ・アマ問わず、最もユーザーからの信頼を得ていると思われるPro Tools。多くのレコーディング・スタジオが導入し、アーティストのインタビューなどを見ても頻繁に出てくるこのPro Toolsなるもの。

 Pro Toolsを簡単に説明すると、パソコン上でレコーディングや編集、加工処理を行なったりするためのデジタル・オーディオ・プロダクション・システム。Digidesign社が開発・販売を行なっています。システムそのものはコンピュータ、ソフトウェア、DSPカード、オーディオI/O、ハードディスクなどによって構成され、もちろんミックスやマスタリング作業も可能。プラグインを使えばアウトボードをつないだコンソールとしても機能し、midiシーケンスと音声の同期も可能。つまりPro Toolsは、音楽制作において必要な要素をほぼ網羅したシステムなのです。また、ハードウェア構成の違いでアマチュア・レベルからハイエンド・モデルまでいくつかのヴァージョンがあり、予算やニーズにあわせたシステムを選ぶことができるのも人気の理由でしょう。自宅スタジオを持つミュージシャン(プロ・アマ問わず)がPro Toolsを導入するケースは非常に多く、この6月まで公式サイトにはフリーウェア(!)のPro Toolsもありました。実際に、このサイトをご覧になっている方の中にもダウンロードしたユーザーもいるのではないでしょうか。

 もともと、同社の音声波形編集ソフト「Sound Designer」とオーディオ・インターフェース「Sound Tool」を原型として、90年代初頭にプロ用のレコーディング・システムとして開発されたのが始まり。当時のパソコンの性能では、非圧縮かつCD品質の音声をリアルタイムで処理することが困難だったため、専用のDSPカードを増設し、音声処理を分担させることで音楽制作に耐えられる環境を確保。DSPカードやオーディオI/Oを必要に応じて追加できるという柔軟さだけでなく、パソコンの高性能化にそれほど依存することなく能力の強化をできた点が評価すべきところでしょう。なお、その後、パソコンの性能向上に伴い、CPU上で音声処理を行なえるコンシューマ向けのPro Toolsも登場しました。

 Pro Toolsも他のDAWと同様に、パソコンのモニタ上での波形編集作業やハードディスク・レコーディングによる非破壊レコーディングが(録音したデータを消さずに残すことができ、容易にテイクの差し替えなどが)可能。やはり、プラグインの種類の豊富さ(アンプ・シミュレーターとして確固たる地位を築いたPOD(※7)でお馴染みのLine6 AmpFarmやAntares Audio Technologies社のピッチ修正用エフェクトAuto-Tuneなど)から人気を呼んでいます。そのため、音楽制作の現場だけでなく、映像・放送制作など多くの現場で使用されるようになりました。なお、現在ではエフェクトのみならずソフトウェア・ベースのサンプラーやシンセサイザー、ヴィンテージ器材を再現するプラグインも発売されています。これさえあれば、どんな時代のサウンドも限りなくその当時に近いサウンドに作りこめてしまうわけですね。

 ハードディスク・レコーディングを世の中に確実に浸透させたPro Toolsでは、音をデータとして取り扱うため、波形編集やタイム・コンプレッションなどができ、曲の一部分だけのコピー、音程を変えないで行なうピッチの変更、音程の微調整などを簡単に行なうことができ、結果、レコーディングにかかる費用を安く抑えることができる利点があります(このような作業は他のDAWやHDR(※8)でも可能ではありますが)。一方、やり直しが何度もきく、テイクの差し替えが簡単、音程などが微妙にずれていても修正できるという点から、アーティスト自身の意識や技術などの低下が懸念されています。とはいえ、通常ではありえない演奏が実現可能になり、編集作業をうまく活用しているミュージシャンがいることも事実。コーネリアスのアルバム『POINT』などが代表的な作品でしょうか。Pro Toolsを修正のためのツールとするか、楽器の一部として使うかは、アーティストによるシステムの捉え方の違いで生まれるものなのかもしれませんね。

 自宅のPro Toolsにアビー・ロード・スタジオのリミッター(※9)を再現したプラグインを取り込めば、パソコンはたちまちアビー・ロード・スタジオに早変わり。たとえそこが4畳半の和室だとしても、またたく間に音の実験室であったEMI第2スタジオへと変貌を遂げ、編集作業さえ身につければ、あなたもビートルズのような魔術師に。そして、ピッチ・コントロールまで完コピした「ストロベリー・フィールズ」だって簡単に作れちゃう。そんなことも可能な世の中になったわけですね。

 最後にPro Toolsには日本音楽スタジオ協会(JAPRS)による「Pro Tools 技術認定試験」というものもあります。レコーディング・エンジニアの育成を主眼に置いたこの試験。HPでは過去に出題された問題の閲覧もできるので、解いてみるのも面白いですよ。 


※注※
(1)Logic:Apple傘下になった独Emagic社のDAWソフト。

(2)Cubase:独Steinberg社開発のMIDIシーケンス&ハードディスク・レコーディングソフト。

(3)Sonar:Cakewalk開発、EDIROL販売のMIDIシーケンス&ハードディスク・レコーディングソフト。

(4)Nuendo:独Steinberg社によるポスト、レコーディング、ミキシング、サラウンド・プロダクションなどに対応したメディア・プロダクション・システム。

(5)DTM:デスクトップ・ミュージック。パソコンとシンセサイザー、サンプラーなどをMIDIなどで接続して演奏する音楽、あるいはその音楽制作の総称。

(6)DAW:デジタル・オーディオ・ワークステーション。デジタルでのオーディオ録音、編集、ミキシングなどの作業が出来るように構成された一体型のシステム。

(7)POD:Line6社のアンプ・シミュレーター。丸い形状が特徴。ラック仕様モデルもある。

(8)HDR:ローランドのVSシリーズ、YAMAHAのAWシリーズなどに代表されるハードディスク内蔵のマルチ・トラック・レコーダー(ハードディスク・レコーダー)。

(9)リミッター:過大入力された部分を潰して、全体のレベルを揃えるエフェクター。
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