[こちらハイレゾ商會]第98回 歌手デビューから40年、薬師丸ひろ子の歌が身に沁みる配信限定アルバム
掲載日:2021年12月14日
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こちらハイレゾ商會
第98回 歌手デビューから40年、薬師丸ひろ子の歌が身に沁みる配信限定アルバム
絵と文 / 牧野良幸
薬師丸ひろ子が2021年で歌手デビュー40年、その記念の一つとして『Highlights from Indian Summer』がハイレゾ配信された。全21曲からなる配信限定のアルバムである。
収録されているのは、2018年と2019年の東京のオーチャードホールにおけるライヴ音源から14曲。加えて「戦士の休息」や最新曲「Come Back To Me ~永遠の横顔」などスタジオ録音の7曲。
アルバムはライヴ音源から始まる。いきなり歌手デビュー曲の「セーラー服と機関銃」。さらに「探偵物語」とその両A面だった「すこしだけ やさしく」。早くもベスト・アルバムのような気分を満喫するが、これが近年おこなわれたライヴというところが通常のベスト盤とは一味も二味も違うのだ。
薬師丸ひろ子の歌声はクリスタル・ヴォイスというだけでなく、背筋を伸ばしたようにまっすぐに伸びていくところが好きだ。ライヴではその歌声が年齢を重ねたことによって、さらに深くなっているのがわかる。
伴奏は小ストリングスを加えたバンド。現在の薬師丸ひろ子、そしてファンの年齢にふさわしいシンプルでオーソドックスなものだ。それが薬師丸ひろ子のヴォーカルを引き立てる。今現在の薬師丸ひろ子の歌唱を聴き共感する。そんなライヴなのである。
曲は「メイン・テーマ」。そして僕が一番好きな曲「Woman“Wの悲劇”より」と続く。まだ5曲しか聴いていないのに充実感は申し分ない。あらためて薬師丸ひろ子のヒット曲のクオリティの高さを感じる。このあともライヴは続き、デビュー・アルバムで歌った、竹内まりやが薬師丸ひろ子のために作った「元気を出して」や中島みゆきの「時代」などをじっくりと歌い上げていく。
オーディオの話をするとライヴらしい薄い間接音のある音である。コンサート会場の臨場感が伝わる。2chにもかかわらずサラウンドのような華やかな音場は、薬師丸ひろ子のスターとしてのオーラがそう感じさせるのだろう。ライトアップされたステージが目に浮かぶようだ。曲が終わるたびに起こる節度のある拍手からは、観客が満足感を噛み締めているのがわかる。その拍手が引き潮のように消えていき、次のトラックまでの無音時間さえ会場で体験しているかのように思う。
ライヴ音源が14曲続いた後でスタジオ録音が7曲が並ぶ。まずは薬師丸ひろ子の銀幕デビュー作『野性の証明』の主題歌「戦士の休息」のカヴァー(オリジナルは町田義人が歌った)。ヴォーカルを中心にした音作りはライヴ音源とそんなに変わらないと思うので、それまでのライヴと続けて聴いても音質的にはそんなに違和感がない。
よく聴けば確かに違うのだが、最初は曲が終わっても“あれ、拍手がないな”と思うくらいライヴのつもりで聴いていた。曲は『Cinema Songs』など、薬師丸ひろ子の近年のアルバムから選ばれている。これらのアルバムもオーディオファイルとしては聴きどころの多い録音なので、今回ハレイゾで聴けるのは嬉しい。
最後に新曲「Come Back To Me ~永遠の横顔」が収められている。これは「Woman“Wの悲劇”より」を作曲した呉田軽穂の作詞・作曲による最新シングルだ。「Woman“Wの悲劇”より」とは真逆の軽快なテンポの曲であるが、哀愁のあるフレーズが呉田軽穂作らしい。80年代に薬師丸ひろ子が歌っていてもおかしくないほどキャッチーである。
トータル1時間30分ちょっとのアルバム。ヒット曲あり、最新の曲ありと薬師丸ひろ子の魅力をまんべんなく収録している。個人的にはこの歳になって80年代のサウンドで聴くと少々疲れるところがあるので、本作のように薬師丸ひろ子のヴォーカルにフォーカスをあてた落ち着いた演奏のほうが好きである。
僕はこのハイレゾをOPPOのユニバーサルプレーヤーBDP-105DJPで再生して聴いた。BDP-105DJPは何年も前に発売され今は製造終了のモデルだが、SA-CDやBlu-rayの再生でオーディオ・ファンやAVファンに評価の高い機器だ。そのBDP-105DJPはハイレゾも再生できるのである。ネットワーク上やUSBメモリーに入れたハイレゾを聴くことができる。DSFファイルにも対応し、flacのサラウンドも再生できる優れものだ。
現在、僕はハイレゾを「パソコン+DAC」「HDDオーディオ・プレーヤー」「ハイレゾ対応ポータブル・プレーヤー」、そして「OPPO BDP-105DJP」の“四刀流”で聴いている。
何が言いたいのかというと、当初は“PCオーディオ”と呼ばれハードルの高かったハイレゾも、再生環境が着実に広がっているということだ。思った以上にオーディオ機器やAV機器はハイレゾへの対応を進めている。読者の方も一度お手持ちの機器をチェックしてみてはいかがか。もしハイレゾ再生ができるなら、ぜひこの薬師丸ひろ子『Highlights from Indian Summer』を聴いてみてほしい。いい音楽で聴いてこそ高音質も楽しめるというものだ。



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