叡智に富んだ音楽家と無邪気な音楽少年の顔を併せ持つ才人、鈴木惣一朗の魅力に迫る

鈴木惣一朗   2008/10/22掲載
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 ハナレグミ湯川潮音といったアーティストの作品や映画『グーグーだって猫である』のサウンドトラックを手掛けるなど、ミュージシャンのみならずプロデューサーとしても精力的な活動を展開する鈴木惣一朗。今回の特集では彼が率いるインストゥルメンタル・ユニット、ワールドスタンダードの新作『花音(カノン)』のインタビューを中心に、秘蔵っ子PoPoyansが語るプロデューサーとしての彼の知られざる素顔など、叡智に富んだ音楽家と無邪気な音楽少年の顔を併せ持つ才人、鈴木惣一朗の魅力に迫ります。


自分の思い通りにならなくてもいいやと思うようになった


 鈴木惣一朗率いるインストゥルメンタル・ユニット、ワールドスタンダードから4年ぶりとなるアルバム『花音(カノン)』が届けられた。作品全体の印象は、丁寧に手入れが行き届いた庭園のような趣き。“手入れが行き届いた”といっても、決して人工的な雰囲気はなく、それぞれの木々や植物があるべき場所に根を張り、濃緑の葉を生き生きと茂らせ、美しい花を咲かせ、絶妙にひとつの調和をなしている、といった印象。箱庭的感覚というよりも庭園的感覚。ジオラマティックな箱庭感はなく、そこでは、ひとつひとつの音が、深く、しっかりと呼吸をしている。壮大なスケール感をたたえながら、37分弱で一周できる、コンパクトな収録時間も、すこぶる“庭園的”だと思うのだ。

 「知り合いから唐辛子の苗をもらったのがキッカケで1年ほど前からガーデニングにハマっていて。最初は栽培が上手くいって、おもしろいなと思っていたんだけど、ある日、唐辛子が突然、枯れてしまったんだよ。自分では、すごく可愛がってたつもりなんだけど、死んでしまった。でも、不思議と嫌な気分ではなかったんだよ。思い通りに行かない感じがおもしろいなと思って。そんなこともあって、レコーディングでも、全部が全部、自分の思い通りにならなくてもいいやと思うようになった。ガーデニングからの影響は確実にあると思う」

 自宅録音で時間をかけて制作してきたこれまでの作品から一転、気心知れたミュージシャンとスタジオに集い4日間という短期間でレコーディングされた今作。しかも今回はメンバー全員、スタジオで輪になっての一発録りという録音スタイルが採用されている。

 「もともとブルースやジャズのミュージシャンは1日や2日でアルバム1枚ぶん録音してたわけだからね。僕も以前は400時間以上かけて、レコーディングしていたんだけど、ここにきて、もっとスピーディーにアルバムを作れないかと思うようになった。一番の決め手になったのはベックの『MODERN GUILD』。ベックはあのアルバムを短期間で一気に作ったらしいんだけど、それが今の自分の気分とジャスト・フィットしたんだよ。収録時間も30分ぐらいだし、すごくいいなと思った」

 コンパクトな収録時間には、ドラスティックに変化した昨今のリスニング環境も大いに関係してるのだという。

 「iPodの登場によって、みんな曲を単体で買うようになったし、これだけ娯楽が多様化している現在、みんな忙しくて1枚のアルバムに50分も付き合ってくれないんじゃないかな。でも、やっぱり自分の作品はトータルで聴いてほしいから。たとえ収録時間が短くても、しっかりとしたストーリーが組み込まれていれば、自分が言いたいことは、聴き手にちゃんと伝えられると思う。今回のレコーディングでは3日目の時点で7曲が録れていたんだけど、僕は、このまま7曲入りのアルバムを出してもいいんじゃないかって思ったんだ。要するに、それぐらい楽しくて濃いレコーディングだったんだよ」




本当に悲しい曲を聴くと人は、ちゃんと癒される


 1997年から2002年の間に制作された“ディスカヴァリー・アメリカ三部作”でアメリカ音楽の深遠を徹底的に辿った鈴木惣一朗。9.11を境に「アメリカが作ったものは好きだけど、アメリカという国家は愛せない」というアンビバレンツな気持ちを持つこととなった彼の意識が自然と流れていったのは、10代〜20代の頃によく観ていたという、ヨーロッパ映画の劇中に流れる甘美で憂愁を帯びたメロディだった。

 「ワールドスタンダードはもともと非アメリカをテーマに始めたグループだったんだけど、結成から25年経って一回りした感じかな。ヨーロッパには古くからの歴史があって、そこにはカンツォーネやシャンソンといった民衆のための歌がある。それってインスタントなものではなくて、深くて大きな歌なんだよね。最近はそういうものにすごく興味がある。その道先案内人みたいな感じで(今作でもカヴァーしている)、ニコラ・ピオヴァーニって作曲家に興味を持つようになって。彼はエンニオ・モリコーネと並ぶ、現代イタリア映画音楽の第一人者で、“涙のメロディを書く”って言われているんだよ」

 実際、今作にも聴き手の涙腺を弛ませるような短調の楽曲がいくつか収録されているのだが、物悲しいメロディと相反して、そこに込められた想いは、きわめてポジティヴなものなのだと鈴木惣一朗は語る。

 「今のJ-POPって“癒し”とか、そういうものに向っているでしょ。どこかで踏みとどまって、みんな安易な“癒し”になってしまっている。でも本当に悲しい曲を聴くと、人って、ちゃんと癒されるんだよ。昔は演歌や歌謡曲がそういう役割を果たしていたと思うんだけど、今は悲しみに真直ぐ向き合っている音楽がほとんどないように思う。だから自分でそういうものを作りたいなと思ったんだ」

 それに──と、彼は笑顔でこう続ける。

 「暗い曲って演奏してる側も意外と盛り上がるんだよ(笑)。暗い曲を演奏していくうちに明るい気持ちになっていくっていうことを今回のレコーディングで体感したんだ」

 作品タイトルの『花音(カノン)』とは蓮の花が開く音を意味する言葉。真夜中から早朝にかけて咲くという蓮の花ように、今作はあなたの心に可憐な花を、きっと静かに咲かせてくれるはずだ。


取材・文/望月 哲(2008年10月)




【急告! ワルスタ旧音源、iTunesにて近日配信開始】


ワールドスタンダードが過去「デイジーワールドディスク」に残した幻の名盤の数々が、iTunesにて近日配信開始。詳細は後日オフィシャル・サイト(http://www.quietone.net/)にて発表。お楽しみに!

『COUNTRY GAZETTE』
(1997年)

『MOUNTAIN BALLAD』
(1999年)

『JUMP FOR JOY』
(2002年)





秘蔵っ子PoPoyansが語る、
プロデューサー鈴木惣一朗の知られざる素顔



 鈴木惣一朗プロデュースによるアルバム『祝日』を今年の7月にリリースしたPoPoyans。映画『グーグーだって猫である』のサントラや、ワールドスタンダードのニュー・アルバム『花音(カノン)』にコーラスとして参加するなど、鈴木惣一朗の秘蔵っ子ともいえるPoPoyansのcheruとnonchanに、プロデューサーとしての彼の知られざる素顔を語ってもらった。


──PoPoyansのアルバム『祝日』のプロデュースを鈴木惣一朗さんが手掛けられていますが、実際、ご本人に会うまでは、どんな印象を持っていましたか?

cheru 最初は怖い人なのかなと思っていたんです。ライヴでもいつも真面目な顔で演奏してる印象があって。
nonchan 私は、すごくインテリジェンスなイメージがありました。評論とか、たくさん書かれてるんで、すごく理論派なのかなって。
cheru でも、実際にお会いしたら、すごく気さくな方で安心しました(笑)。

──最初に直接、対面したのは?

cheru 下北沢でやった私たちのワンマン・ライヴです。会場でリハーサルをやってるときに、いきなりドアが開いて「まだなの?」って惣さんが突然、現れて(笑)。それで、二人とも「えーっ!」ってビックリしちゃって(笑)。私は惣さんがプロデュースしている作品が大好きだったんで、自分の中で、ずっと気になる存在だったんです。プロフィールにもフェイバリットに惣さんの名前を書いていましたし。そしたら、レーベルの方が私たちのプロデュースを打診してくれて。
nonchan それでライヴを観に来てくださったんです。
cheru その日は、すごく緊張して演奏したんですけど、ライヴが終わったら惣さんが、すぐ私たちのところに来てくれて。
nonchan ガシっとハグされて、「僕、プロデュースやるから!」って(笑)。そのまま勢いで道端に倒れるみたいな(笑)。そんな出会いでした。


──プロデューサーとしての惣一朗さんはいかがでしたか?

nonchan タタタタン、ババババンみたいな(笑)。ものすごく仕事が速いんですよ!
cheru 常に脳みそがフル回転してる感じ。判断が速くて、しかも的確で。
nonchan 私は、レコーディングに入る前に「二人が歌い続けられるように、僕ができる限りのことをするから」って言ってくださったのが、すごく印象的で。とにかく真っすぐで情熱的な人なんです。
cheru 音作り以外にも、音楽に向かう気持ちだったり、惣さんには本当にいろんなことを教えてもらったよね?
nonchan うん。そうそう、家で曲を作ってると、突然、電話で呼び出されるんですよ。「今、飲んでるから15分で来て!」って(笑)。それで一緒に飲みながら、いろんなことを話してくれたり。
cheru あとはお家に呼んでくれて、ビートルズ大図鑑みたいな本を見せてくれたり、ニール・ヤングのライヴDVDを観ながら「ほら、このストロークがいいんだよ!」とか一生懸命教えてくれたり。そういうときとか本当に子供みたいなんです(笑)。

──ライヴのMCで “ガーリーおじさん”って紹介してたこともありましたよね(笑)。

cheru そう! 惣さんは本当にガーリーなんです(笑)。普段は豪快でダーンとしてるんだけど、実はものすごく繊細な一面もあって。
nonchan 私たちビクトル・エレセって映画監督が好きなんですけど、初めてお会いしたときに、「PoPoyansを聴いてると、ビクトル・エルセの映画を思い出す」とか言ってくれて、それがすごく嬉しかったんです。“うわー、わかってくれてる!”って(笑)。
cheru 父親とあまり歳が変わらないのに、何を話しても通じるのがすごいなって。ガーリーな会話に惣さんが混じっても全然、違和感がないんですよ(笑)。
nonchan 音楽以外にも映画やフアッションやドラマとか、あらゆることに詳しくて、“この人は普段、どういう時間の使い方をしてるんだろう?って、いつも思いますね。
cheru 『FUDGE』とか、女の子が読んでるようなファッション誌も定期購読してるみたいだし(笑)。あの好奇心は本当にすごいなと思います。

──では惣一朗さんと出逢って、お二人がもっとも影響を受けたところは?

nonchan ものを作るということに対する情熱ですね。惣さんは作業中、ずっと「絶対いい作品になる!」って言ってるんです。自分が思っていることを信じて、口に出して、迷いなく突き進んでいく、あの姿勢を私たちも見習いたいなって。
cheru 惣さんを見てると “私たちも頑張ろう!”って、いつも思えるんです。



取材・文/望月 哲(2008年10月)




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