2023年に12年ぶりの新作アルバムを『
ア・トリップ・トゥー・ボルガタンガ』を発表した、「On-U Sound」の伝説的プロジェクト、
アフリカン・ヘッド・チャージ(AFRICAN HEAD CHARGE)が、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’25〉2日目、7月26日(土)にFIELD OF HEAVENに出演。陽が落ちて夜空に包まれる時間帯に、圧巻のアフロ・サイケデリック・ダブ・グルーヴを披露した当日のレポートが到着しています。
また、フジロック会場にて完売したTシャツの受注生産がBEATINKオフィシャル・サイトにて受付開始。受注予約受付は8月3日(日)までです。
[ライヴ・レポート] 70年代にジャマイカから英国に渡り、〈On-U Sound〉総帥のエイドリアン・シャーウッドとともにアフリカン・ヘッド・チャージを結成して80年代初頭からレーベルの看板アクトとして活躍。90年代半ばには西アフリカのガーナへと移住し、現地の多彩なリズムを学びながらよりハイブリッドな音楽性を示していたボンジョ・アイヤビンギ・ノアほどに、ルーツ・レゲエとアフリカ音楽の繋がりを真摯に追求し続けてきた音楽家はいないだろう。フジには2011年以来の登場となったダブ界の生けるレジェンドのステージは、長いキャリアの中で培ってきた新旧の重要レパートリーを散りばめながら、夕暮れから夜へと移りゆく時間帯に太くもズブズブのアフロ・サイケデリック・ダブ・グルーヴで聴く者すべてをキングストン〜ロンドン〜アクラの間に浮かび上がる異空間へと誘うものとなった。
始まりを告げるような鐘の音に呪術的なチャントなどが重なるイントロに、やがてバンドの演奏が加わった。歓声に迎えられて登場したボンジョがコンガを叩きながら歌い始めると、序盤は「Run Come See」から「Dervish Chant」と流れ込むメドレーを経て、23年にリリースされた最新作『A Trip To Bolgatanga』にも参加していたガーナ人打楽器奏者のエマニュエル・オキネとドラマーとの3人による打楽器のみでの前奏を挟んでアフリカ色を強めながら「Conspiring」へ。数多くのレゲエ界の大物のバックも務めてきた名ベース奏者のバーリントン“バリー・ドレッド”ネルソンを筆頭とする実力派揃いのメンバーに加え、ラスタファリアンの間では神の化身として崇められるエチオピアの最後の皇帝=ハイレ・セラシエ1世の肖像がプリントされた旗を掲げ続ける謎の人物(ダンサー?)も存在感を放ち、レゲエとアフリカの接点を様々な角度から意識させた。
ヤーマン!と挨拶代わりに声をかけてテンションを高めると、よりルーツ・レゲエ色の強い演奏にトビの強いダブ処理を施しつつ「Who Are You?」。この日のダブ・ミックスはシャーウッドに替わって内田直之が務めていたが、まったくもって違和感のない音となっていたのも特筆モノだった。“No Peace, No Love, No Joy”という歌詞の繰り返しが印象的な「Wicked Kingdom」では曲間でボンジョがトーキング・ドラムも用い、ドラマーがサンバのリズムのようにスネアを連打して盛り上げると、そのままテンポを上げて「The Race」へ。続く「Jungle Law」では時空を捻じ曲げるような過激なエフェクトも加わってディープに振り切れると、中後半にはややメロディアスな曲調に転じて神であるジャーを讃えるナンバーも立て続けに取り上げ、ラスタファリアニズムへの揺らぐことのない傾倒の深さを窺わせた。そして終盤は、曲タイトル通りにボンジョが学んできたアフリカン・ドラミングの重要性を説くような「Drumming Is The Language」を経て、よりテンポアップしてアフリカ色の濃厚なグルーヴを炸裂させた「Powerchant」で盛り上げ、最後は“Love!”と告げて本編を終えた。
選曲面では、ガーナ移住後の生活環境の変化が豊かに反映された2005年リリースの傑作『ヴィジョンズ・オブ・ア・サイケデリック・アフリカ』からのナンバーが4曲と多めだったのが特徴的だったが、ライブでは定番の初期曲メドレーも挟みながらのベスト的なセットだったと言えるだろう。ナイヤビンギのリズムに宿るアフリカの記憶を、独自の活動スタンスで追求し続けてきたボンジョだからこそ辿り着けた孤高のグルーヴとメッセージは、アフロ・ディアスポラの音楽が注目を高める今にもまた新たな覚醒と酩酊をもたらすものとして、世代やジャンルを越えた磁力を強烈に放っていた。




text by 吉本秀純
Photo by Kazma Kobayashi