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BEAT、一夜かぎりの武道館公演のレポートが到着 80年代キング・クリムゾンの名曲に観客が熱狂

ビート   2025/09/05 13:12掲載
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BEAT、一夜かぎりの武道館公演のレポートが到着 80年代キング・クリムゾンの名曲に観客が熱狂
 元キング・クリムゾンエイドリアン・ブリュー(g,vo)とトニー・レヴィン(b)、圧倒的な実力を誇るギタリストのスティーヴ・ヴァイトゥールのドラマー、ダニー・ケアリーからなるスーパー・バンド、BEAT。彼らが、80年代キング・クリムゾンの楽曲をパフォーマンスする一夜かぎりの来日公演を、9月1日(月)に東京・日本武道館で開催しました。

 日本先行発売されたライヴ・アルバム『ライヴ〜イン・ロサンゼルス 2024』のブックレットに解説を寄稿した片山伸による公演レポートが公開されています。

[ライヴ・レポート]
BEAT 一夜限りの武道館公演にプログレ・ファンが泣いた!

 キング・クリムゾンの80年代レパートリーだけを演奏するという大胆不敵なバンド、BEAT(正式名称:BEAT - Performing the music of 80s KING CRIMSON)がついに来日し、9月1日にロックの聖地・日本武道館で一夜限りのコンサートを行った。

 プログレッシヴ・ロックにおいて、武道館での開催という事実は実に意義深い。

 思い返せば、武道館で“純粋なプログレッシヴ・ロックの公演”が行われたのは1994年のイエス、ピーター・ガブリエル以来かと(ドリーム・シアターなどプログレッシヴ・メタルを除く)。これまでピンク・フロイドやイエス、ジェネシス、ピーター・ガブリエル、エイジア、ラッシュ、ムーディー・ブルースといった大物が武道館に立ってきたが、意外にも本家キング・クリムゾンは実現していなかった。つまりBEATは、武道館のプログレ公演史を塗り替えたと同時に、“本家を超える偉業”を成し遂げたのだ。

 80年代のキング・クリムゾンは、すでに死滅したと見なされていたプログレッシヴ・ロックに新たな息吹を吹き込み、蘇らせた存在だった。70年代に多用したメロトロンやヴァイオリン、サックスを捨て去り、代わりにギター・シンセサイザーや電子ドラム、チャップマン・スティックといった最新鋭の楽器を導入。さらにポリリズムやポリメーターを駆使したミニマル的アプローチを展開し、“プログレ界のリズム革命”とも呼ばれた。

 その時代を担ったエイドリアン・ブリューが発案し、キング・クリムゾンの創始者ロバート・フリップ公認のもとで誕生したのがBEATである。

 メンバーはエイドリアン・ブリュー(75歳、g/vo)、トニー・レヴィン(79歳、b/vo)の元クリムゾン組に、ギターの巨匠スティーヴ・ヴァイ(65歳)、トゥールのドラマー、ダニー・ケアリー(64歳)。かつて英国人中心だったキング・クリムゾンが80年代に初めてアメリカ人を迎え入れた歴史を踏まえると、全員アメリカ人編成のBEATは必然の進化とも言える。平均年齢が70歳を超えた新バンドというのも興味深いが、彼らは決して“懐古”ではなく、現役感あふれるバンドであることを証明してみせた。ダントツで知名度があるのはスティーヴ・ヴァイだが、今回彼は「いちメンバーとしてのパフォーマンスを楽しんでいる」という。

 当日の東京は最高気温36.4℃という猛暑。しかし武道館のなかはそれ以上の熱気でムンムン。プログレ・コンサートと言えば年齢層の高さが定番だが、スティーヴ・ヴァイやトゥールのファンと思しき客も多数見受けられ、この日は若い世代の姿も目立った。


【セット・リスト 9月1日】(『』内は収録アルバム)

(会場BGM:Steve Reich / Music For 18 Musicians 〜 Robert Fripp / Music For Quiet Moments 21)

<第1部>
01. ニューロティカ(Neurotica)『Beat』
02. ニール・アンド・ジャック・アンド・ミー(Neal And Jack And Me)『Beat』
03. ハートビート(Heartbeat)『Beat』
04. サートリ・イン・ダンジール(Sartori In Tangier)『Beat』
05. モデル・マン(Model Man)『Three Of A Perfect Pair』
06. ディグ・ミー(Dig Me)『Three Of A Perfect Pair』
07. マン・ウィズ・アン・オープン・ハート(Man With An Open Heart)『Three Of A Perfect Pair』
08. インダストリー(Industry)『Three Of A Perfect Pair』
09. 太陽と戦慄パートIII(Larks' Tongues In Aspic Part III)『Three Of A Perfect Pair』

(休憩 会場BGM:Robert Fripp / Music For Quiet Moments 33)

<第2部>
10. ウェイティング・マン(Waiting Man)『Beat』
11. ザ・シェルタリング・スカイ(The Sheltering Sky)『Discipline』
12. スリープレス(Sleepless)『Three Of A Perfect Pair』
13. フレーム・バイ・フレーム(Frame By Frame)『Discipline』
14. 待ってください(Matte Kudasai)『Discipline』
15. エレファント・トーク(Elephant Talk)『Discipline』
16. スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー(Three Of A Perfect Pair)『Three Of A Perfect Pair』
17. インディシプリン(Indiscipline)『Discipline』
18. セラ・ハン・ジンジート(Thela Hun Ginjeet)『Discipline』


 ステージ上に登場した4人の衣裳はカジュアル・フォーマルな感じで、このへんは80年代キング・クリムゾンのスタイルを踏襲。セット・リストは海外ツアーとほぼ同じで、80年代キング・クリムゾンが残した3作品『Discipline』『Beat』『Three Of A Perfect Pair』からの選曲。

 19時にオンタイムで開演、いきなり「ニューロティカ」の爆発的なサウンドが耳をつんざく。低音の振動から摩訶不思議な効果音を含む高音域、ブリューの抜けの良いヴォーカルなど、細部までよく聞こえてくる。まるでCDのような完璧な演奏、サウンドだ。続く「ニール・アンド・ジャック・アンド・ミー」とともにすでにポリメーター(各々が別々の拍数のフレーズを弾き続けること)が全開で早くも会場がざわめく。

 「コンニチワー!」とブリューが一言挨拶してから「ハートビート」へ。ブリューとレヴィンによるヴォーカルがとても心地よいし、2人とも歌がうまい。続く「サートリ・イン・ダンジール」ではヴァイのソロが痛快で、なんとポルタメントを利かせたギター・シンセでチョーキングとピッチシフト・ペダルを使い分けるという荒技も。そして的確だけどズッシリと重たいケアリーのドラムが80年代キング・クリムゾンとの決定的な違いを感じさせ、このあたりで「これはキング・クリムゾンではない、BEATなんだ」と会場も納得しはじめた。

 ブリューは80年代に弾いていた懐かしい“Twang Bar King Guitar”へと持ち替え、「みんな来てくれてありがとう。我々がここに立てるのがどれほど名誉なことか、想像できるかい?」と武道館公演開催への感謝のMC。そして「モデル・マン」〜「ディグ・ミー」とヴォーカル曲が続く。さらに「キング・クリムゾンでは『Three Of A Perfect Pair』のいくつかの曲はライヴで演奏しなかったんだ。だからいま我々が演奏するよ」というMCのあと「マン・ウィズ・アン・オープン・ハート」へ。『Three Of A Perfect Pair』からの曲がすべてクリムゾン時代よりもソリッドで重厚な音になっていてうなづくばかり。

 前半のハイライトは「インダストリー」。10分近いインストゥルメンタルのなかで、ヴァイとブリューによるギター・シンセが美しいハーモニーを織りなし、ブリューは曲中でギターを“Adrian Belew Signature Model Parker Fly”に持ち替え、レヴィンは鍵盤ベースと5弦ベースを、ケアリーは生ドラムと電子ドラムを駆使。1曲のなかでこれほど奏でられる音色が豊かに変化するのは圧巻。熱くなったヴァイは上着を脱ぎ捨て、臨戦態勢に。そして間髪入れずに「太陽と戦慄パートIII」へ突入。スティックの変幻自在な音も好きだが、ここではレヴィンの5弦ベースの重低音に体が揺さぶられた。最高だ。

 約15分間の休憩のあと、第2部へ。ケアリーとブリューがステージ前方に置かれたパーカッションをミニマル・リズムで叩き、会場がトランス状態へ導かれると「ウェイティング・マン」へと突入。ブリューによるあのエフェクティヴなフィードバック・ギターも登場した。「ザ・シェルタリング・スカイ」は再び10分に及ぶ長尺のインストゥルメンタルで、ここでもヴァイのギター・ソロが映える。ヴァイはアームを握ったままでギターを宙に振りかざす“ギターの舞”を披露し、会場を熱狂させた。

 コンサートも終盤に入り、怒濤の“リズム革命”的曲が続く。レヴィンが指サックを付けたファンクフィンガーズ奏法で「スリープレス」を奏で、そしてクリムゾン・レパートリーのなかで最も難易度が高い「フレーム・バイ・フレーム」は、ヴァイがロバート・フリップのパートを自己解釈した得意のタッピング奏法で湧かせ、ポリメーターの応酬曲なのにも関わらず、会場は大ノリノリ。「サンキュー」と一言置いてから「待ってください」へ。キング・クリムゾン初の日本語タイトルなだけにブリューが「マッテ、クダサイ〜」と丁寧に歌ってくれたのには感涙。

 そして80年代キング・クリムゾンのトレードマークと言える、象の鳴き声が響きわたる「エレファント・トーク」で熱狂の頂点へ。まるで示し合わせたかのようにブリューとヴァイの足のリズムがシンクロし、もはやダンス・バンド状態に。当然ながらこの日一番の盛り上がりで、会場は興奮の坩堝と化した。ただ、だだっ広い武道館ではなかなかお客さんが立ちあがるタイミングがなく、ついにブリュー自らが「さあ、ひとりずつ立ちあがって!君たちは素晴らしいよ!」と猛アピールしてようやくアリーナ席が総立ち状態に。

 余談だが、キング・クリムゾンが1981年に初来日公演を行った浅草国際劇場にて、あまりにも静かに聴き入っていた観客に対し、ブリューが「座ってないで、立ちあがって!」と煽り、1階席の客がステージへ一斉に詰め寄り盛り上がったことがあった。めぐりめぐって44年後にまたブリューに煽られたわけだが、それが難易度の高いポリメトリックな「スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー」の時だったので、唖然としながら立ち尽くすしかなかった人も。この曲では途中ギター・ソロの場面でブリューがいきなり電動ドリルを持ち出し、ドリル・スライド・ギターを披露。

 最後はケアリーの豪腕ドラム・ソロで見せ場を作りながら「インディシプリン」で感動の大団円に。本来ならここで本編が終了してアンコールに応じる手筈になるのだが、ブリューがギターを背負ったまま「あなたたちを愛してます!またすぐに戻ってきたいです!門限があるからあと1曲しか演奏できないんだ」と言い、すぐさま「セラ・ハン・ジンジート」へ。この曲もポリメトリックな高難度の曲だが、最後の最後に信じられないほど一糸乱れぬ完璧な演奏で締めくくってくれた。惜しくも「レッド」を聴くことは叶わなかったが、21時ちょうどに終演を迎え、夢のような時間は幕を閉じた。

 武道館公演を観て改めて感じたのは、演奏された楽曲は紛れもなくキング・クリムゾンのレパートリーでありながら、BEATは決してセルフ・カヴァー・バンドではなく、4人の強固な結束による“ひとつのオリジナル・バンド”として確立していたこと。

 難解とされた80年代キング・クリムゾンの音楽が、多様性社会となった現代においてもなお新鮮に響いたことは、彼らがいかに革新的であったかを改めて証明するものだ。つまり、80年代キング・クリムゾンの音楽は永遠不滅のプログレッシヴ・ロックだったのである。

 BEATのこの武道館公演は、21世紀のプログレ史に残る伝説として語り継がれることになるだろう。偶然にもこのタイミングでBEATの昨年のロサンゼルス公演を完全収録したライヴ・アルバム『ライヴ〜イン・ロサンゼルス 2024 (LIVE)』がリリースされ、彼らの最高のパフォーマンスを追体験できるようになっている。なかでもブルーレイの映像が驚くほど美麗で、奏法や所作など彼らの一挙手一投足を堪能できる点も嬉しい。来日公演の感動が冷めやらぬうちに、あるいは伝説の目撃者か否かを問わず、必見・必聴の画期的な作品だ。


文: 片山 伸(Shin Katayama)

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Photo by SHOTARO

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