[ライヴ・レポート] 2019年作『Spirit Advance Unit』でKorean Music Awardsで「Best Jazz & Crossover Album」を受賞したほか、韓国大衆音楽賞で「今年の音楽人」にも選ばれたキム・オキ。スピリチュアル・ジャズ、モダン・クラシカル、ポスト・アンビエント、ヒップホップ、ソウル、K-POPまでをクロスオーバーした作風で注目度を高め、今年3月には折坂悠太や、Balming TigerのOmega Sapienら多数のゲストを迎え、ヒップホップやディスコ、折坂悠太との日本語曲までが並ぶ新作アルバム『Hip Hop Retreat』を発表。これまで20以上の作品をリリースしているが、多彩な作風の中にもファラオ・サンダースの影響を受けたというスピリチュアルかつ変幻自在のサックスプレイは貫かれており、6人編成のバンドセットでのパフォーマンスを披露した今回はその圧巻のプレイが堪能できるライヴとなった。
ステージに登場したキム・オキは、日本の時代劇で見るような髷をのせた鬘をかぶり、オレンジに光る羽織りという出で立ち。珍妙なスタイルながら、キム・オキはいたって真面目な表情で、キーボード、ダブルベース、ギター、ドラムとともに、代表曲「shine like sunlight」から演奏を開始した。昨年の初来日を記念して編まれた作品集『Love Japan Edition』にも収録された同曲は、しっとりとセンチメンタルな曲調で、会場は早くもムーディーに。一方、サックスが歌うモチーフのメロディ、キーボード・ソロとの応酬など、ただ音で酔わせるだけではなく、聴き手を刺激するポイントも随所にあり、ライヴが始まった高揚感が場内を包む。
続けて、客席から歓声も上がった人気曲「A Love Supreme」や新作アルバムに収録の「poor people」のインスト・ヴァージョンなど、バラードを連続で披露。ゆったりとしたテンポながら、キーボード、ベース、ギターのソロがふんだんに盛り込まれ、そのあとにキム・オキのサックスが応えるという流れが展開。ソロを奏でるパートの方を向き、相手の音色を確かめるように聴き入るキム・オキの表情も印象的だった。特に、「poor people」の終盤を締めくくった、エモーションあふれるサックスの咆哮は圧巻。キーボードがハモンドオルガンの音色で奏でるノスタルジックなメロディに身体を揺らしていたものの、思わず息をのみ引き込まれた。
ずっと浸っていたい、もっと踊りたいという気持ちがせめぎ合ってきた頃、この日初のアップ・ナンバー「The Blade of a Knife」が投入。躍動感あふれるビートにのせて、キーボードとサックスの凄まじい応酬が繰り広げられた。ジャズのパワーを浴びるような演奏のラストは強烈なブロウが放たれ、キム・オキが雄叫びをあげる場面も。そして、クールダウンするかのようにバラードを挟んだ後は、キム・オクのトークパートに。「有難うございます」と日本語で語ったあと、ここで、この日のファッションが“サムライ”を表現していたことが判明。鬘と羽織りは、来日中に寄ったドンキホーテで調達したという。圧巻の演奏ですっかりスタイルは意識の外になっていたが、思いがけずお茶目な人だなと親しみを感じる一幕だった。
後半は、6人編成の最期の一人である女性ヴォーカル・Araを入れての唄ものを披露。キュートなロリータ・ヴォイスでアップ・チューンを聴かせたほか、新作アルバム『Hip Hop Retreat』でフォーク・シンガー・ソングライターのKim Il Duが歌っていた「You」では、透き通った歌唱を披露。王道のジャズ歌唱ではないものの、独特の浮遊感を持つ声音で観客を魅了した。
[KIM OKI July 28, 2025 - Tokyo, Moon Romantic セットリスト] 01. 볕처럼 빛나는 Shine Like a Sunlight 02. 정도면에서 최대의 사랑 A Love Supreme 03. 가난한 사람들 Poor People 04. 러브03 Love03 05. 칼날 The Blade of a Knife 06. 우리 만나고 헤어짐이 이미 정해져 있지 않기를 Undecided Relationship 07. 고백 Confession of Love (feat. Ara) 08. 날 바라 보지 않지 않지 않는 너에게 You (feat. Ara) 09. 코타르 증후군 Cotard's Syndrome (feat. Ara) Enc. Romantic Aoyama