デビュー55周年を迎えた音楽界の巨星・
細野晴臣を讃える動きが各方面で高まるなか、
小西康陽を発起人に迎えた注目のトリビュート・アルバムが登場。『はらいそ、の音楽 コーヒーハウス・モナレコーズの細野晴臣さんトリビュート・アルバム』が12月17日(水)に発売されます。
東京・下北沢のライヴハウス・mona records(モナレコード)で小西康陽が3年にわたり主催してきたレギュラー・イベント〈コーヒーハウス・モナレコーズ〉から誕生した本作は、これまで同イベントに出演してきたアーティストたちが集結し、細野晴臣の楽曲をそれぞれの解釈と愛情を込めて弾き語りでカヴァーした企画アルバム。
本作のきっかけとなったのは、mona records21周年記念イベント(2025年3月28日開催)において、シークレットゲストとして細野晴臣が登場した出来事。その歴史的な瞬間を契機に、イベントのスピリットを形として残すべく企画が立ち上がりました。
mona recordsは2004年にオープンし、下北沢のカルチャーを支え続けているライヴハウス。
星野源がソロとして初めてライヴを行った場所としても知られ、「mona recordsオーディション」からは
眉村ちあき、
Shiggy Jr.、
にゃんぞぬデシなどをブレイク前に輩出。人気コンピレーション・シリーズ「モナレコ・コンピ」をはじめ、下北沢の“今”を伝える音楽発信拠点として確かな存在感を放っています。
細野晴臣と小西康陽の関係は1980年代半ばにまで遡ります。1984年、細野晴臣がテイチク(当時)と共に設立したレーベル「ノン・スタンダード」から、翌年に
ピチカート・ファイヴのデビュー・シングル「オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス」(12インチ)が細野のプロデュースでリリースされたことを皮切りに、両者は日本のポップカルチャーを象徴する存在としてその後も深い音楽的交流を重ねてきました。
今回のアルバムには、小西康陽をはじめ、澤部渡(
スカート)、
直枝政広、金田康平(
THEラブ人間)、
伊藤尚毅、
矢舟テツロー、
INO hidefumi、
ジョンとポール、
YOSSY LITTLE NOISE WEAVERらそれぞれが独自の感性と敬意をもって細野作品を再構築しています。
小西康陽は「風来坊」の弾き語り音源に加え、2025年3月のライヴで披露した「終りの季節」のライヴ音源を収録。また、当日の細野晴臣本人による弾き語り「香港ブルース」「恋は桃色」をMC込みで収め、会場の空気感をそのまま音源化しています。さらに、細野晴臣の未発表音源となる
フランツ・リスト「愛の夢」のカヴァー(デモ・ヴァージョン)も収録されており、ファン必聴の内容に仕上がっています。
細野晴臣の音楽世界と、それを敬愛するアーティストたちの呼吸が交わるこの作品は、mona recordsという場が長年培ってきた“つながりの力”を象徴する一枚であり、日本のポップミュージック史に新たな記録を刻む特別なトリビュート・アルバムとなりました。
東京・ULTRA SHIBUYAでは、イラストレーター・デザイナーの菅野カズシゲによる本作のジャケットアートをデザインしたマグカップ付きセットの予約販売も開始。アルバムの世界とあわせてゆっくりと堪能できるアイテムとなっています。
[小西康陽 コメント]下北沢モナレコードにおいて隔月で開催しております弾き語りの会「コーヒーハウス・モナレコーズ」、今年3月28日の回のゲストは細野晴臣さんでした。
いっしょにステージに上がったぼくも、モナレコードのスタッフも、このときの感動とよろこびが忘れられずに、いつしか「なにか記念の作品をつくりましょう」という話が持ち上がりまして、そこからいままでの「CHMR」の出演者が各々、細野晴臣さんの楽曲を弾き語り、あるいは宅録でカヴァーするアルバムをつくるはこびとなりました。制作時に便宜上つけていた「コーヒーハウス・モナレコーズの細野晴臣さんトリビュート・アルバム」という仮題がそのまま内容を表していて、けっきょくこれはサブタイトルとして残りました。
そんな中で、あつかましくも、細野さんご本人にもぜひ、なにかのかたちで参加していただきたい、スマートフォンで録音した弾き語りでも、3月28日のライヴ音源の収録でも、記念写真に入ってくださるだけでも、あるいは「細野晴臣、黙認!」というコメントを頂戴するだけでも、というリクエストが出てきまして、恐る恐る細野さんご本人にお尋ねしてみたところ、なんと、未発表曲のデモ・ヴァージョンを提供してくださることに。さらには2025年3月28日のモナレコードでの演奏も収録を許可していただきました。このときのライヴ、演奏も素晴らしいのですが、ステージでのお喋りの声がそれはもう本当に魅力的で、もしかしたら、いちばんの聴きどころはそのトークのパートかもしれません。
もちろん、参加した(小西をのぞく)8アーティストによるカヴァー・ヴァージョンも傑作ばかり。直枝政広さんやINO hidefumiさん、YOSSY LITTLE NOISE WEAVERの円熟した表現、澤部渡さんのファンキーなパフォーマンスはさすが、でしたし、矢舟テツローさんや金田康平さんのカヴァーは楽曲のあたらしい解釈をあざやかに提示してくださいました。なにより伊藤尚毅さんとジョンとポール(こと土肥雅樹さん)というフレッシュな才能を細野晴臣さんの楽曲を通してリスナーの皆様にご紹介できるのは監修者としてなによりのよろこびです。『はらいそ、の音楽』というタイトルはジョンとポール土肥さんの音源を受け取った夜に決めました。
ここからはごく個人的な話になりますが、いま66歳のぼくが日毎夜毎、じぶんの部屋で聴いているレコードといえば、弾き語りのフォークやシンガー・ソングライターのアルバム、ジャズ・ミュージシャンの「ソロ」あるいは「デュオ」のレコード、戦前のジャズ・ヴォーカリストやシャンソン歌手の録音、中南米のボレーロやフィーリン、と呼ばれる音楽、クラシック・ギターの独奏、そしてバッハ。ビートはごくごく控えめ、もしくはまったくドラムスやベースを排除した音楽ばかり。その多くは20世紀の半ばに吹き込まれたものですが、もちろん「静かな」音楽でさえあれば高額な新譜だってチェックしています。そんな音楽生活? を送る中で、こうして「いちばん好きで、いちばん影響を受けたソングライター」の作品集を日頃から尊敬している音楽家の方々とつくるよろこび。それも夜のひととき、真夜中をまわった頃にひとり小さな音で聴きたいアルバムとして仕上げることができるなんて、こんなに幸せなことはありません。
ジャケット・デザインは菅野カズシゲさんにお願いしました。彼もまた「コーヒーハウス・モナレコーズ」に選曲家としてご出演くださいました。ギターを弾く細野さんの肖像画、ご本人にも気に入っていただける、と信じております。このイラストでバカでかいサイズのTシャツを作って、それを着て海外のレコード屋さんに行きたいですね。うつくしいジャケットをありがとうございます。
もしこのアルバムに不満があるとしたら、まだまだたくさんあるお気に入りの細野さん楽曲を収録できなかったことだけ。「ありがとう」「どろんこまつり」「あした天気になれ」「無風状態」「相合傘」「三時の子守唄」「ほうろう」「流星都市」「イエロー・マジック・カーニバル」「LDK」「スポーツマン」「銀河鉄道の夜」「悲しみのラッキー・スター」ああ、まだまだある! これからも「コーヒーハウス・モナレコーズ」ですこしずつ、細野さんの楽曲は歌っていくつもりですし、もしも、もしも、もしもこのアルバムが思いがけず黒字となった暁には『はらいそ、の音楽 第二集』をつくりますので、そのときは「モアベターよっ!!!」ということで、よろしくお引き立てのほど、お願い申し上げます。(2025.10.29)