BUCK-TICKの最新アルバム『
スブロサ SUBROSA』を携えたライヴハウス・ツアー〈BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA〉より、2025年5月25日(日)に行われた豊洲PIT公演の模様が公開されています。
BUCK-TICKは、アルバム『
スブロサ SUBROSA』を2024年12月に発売。本ツアーは、アルバム発売後、4人体制となった新生BUCK-TICK初の全国ライヴハウス・ツアーであり、4月12日(土)の仙台公演を皮切りに、5月25日(日) 東京:豊洲PIT公演まで、12公演が行なわれました。
ヴォーカルは、メンバーの
今井寿と
星野英彦の2人が務め、新作アルバム『スブロサ SUBROSA』の楽曲を中心に、これまでの楽曲も織り交ぜた新たなスタイルで、ツアーを経てさらに進化した現在のBUCK-TICKを体現するライヴとなりました。
なお、6月7日(土)より、メンバーの地元である群馬から追加公演を開催。群馬・群馬音楽センター2公演、大阪・NHK 大阪ホール2公演ほか、東京・LINE CUBE SHIBUYA(旧:渋谷公会堂)6公演が決定しています。
[ライヴレポート] 4月からスタートしたBUCK-TICKの全国ツアー〈BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA〉のファイナル公演が、5月25日東京・豊洲PITで行なわれた。
湧き上がる高揚感、リズムに乗って揺れるフロア、大きな歓声とクラップ、ステージとフロアでの魂を揺さぶるようなエネルギーの応酬。その熱狂ぶりは、祭りに似ていると思った。煽る者と煽られる者。担ぐ者と担がれる者。豊穣、継承、鎮魂。祭りの根源にある祈りや希いのようなものが、この空間に満ちていた。ギタリストである今井寿と星野英彦がボーカルを務める新体制ではステージにシンセサイザーやPCも導入されたが、同期演奏と生演奏を融合させたサウンドが、どこまでも有機的に聴こえたのはそのせいかもしれない。土着的であり、むきだしであった。
スポットライトに照らされた今井のギターと歌に、星野のギターとコーラス、樋口豊のベース、ヤガミ・トールのドラムと、順に音を集めて力強い光を放つ「百万那由多ノ塵SCUM」を終えると、今井がフロアに向けて言い放った。「さあ、始めようぜ。スブロッサ!」。2023年12月29日の日本武道館公演のオープニングで、観客を鼓舞したのもこの「さあ、始めようぜ」という言葉だった。歓喜に沸くフロアを見据え、右手はハンドマイク、左手は杖を肩に担ぎ、「スブロサ SUBROSA」を歌いながらステージを闊歩する。その顔には、目の下あたりを横断する一本の白いラインがひかれている。樋口とヤガミが繰り出すずしりとしたリズムがボトムを埋め、星野が打ち鳴らすメタルパーカッションが冴えわたる。3曲目の「夢遊猫 SLEEP WALK」ではイントロの前に、今井がギターを鳴らしながら“Sleepwalk 夜の散歩をしないかね”とサビのフレーズを歌うのだが、歌う長さもスピードも、かき鳴らすギターも即興なので、ツアー中ひとつとして同じものはなかった。この日はたっぷりと、次のフレーズの“Sleepwalk 今夜も一緒に歩こうぜ”までを、まるで誰かに語りかけるように歌っていたのが印象的だった。
「ハロー、豊洲Babies。スブロサへようこそ。BUCK-TICKだ。今夜もガッガッガッと、アドレナリンとかセロトニンとかいい感じのを出して、みんなで一緒に楽しもうぜ。いくぞ、豊洲Boys&Girls!」と今井のMCから始まった「雷神 風神 -レゾナンス #rising」では、樋口のクラップを真似て会場が一体となる。今井ギターのインプロビゼーションから繋がる「遊星通信」の跳ねたリフとシャッフルドラムが体を揺らすと、「さあ、今日は豊洲PITで遊びましょう」と星野がハンドマイクでボーカルをとる「paradeno mori」へ。軽快なリズムに合わせて、星野がゆらゆらと横に揺れながら歌詞に合わせた手の振りで歌の世界観を表現する。その艶っぽい一挙手一投足に、あちこちから歓声があがった。樋口も一段高い立ち位置からフロントに降りてきて、お尻を振るユニークなポーズで笑顔を誘った。
インスト曲「ストレリチア」では、異国情緒漂うアンサンブルがイマジネーションの花を咲かせる。演奏に没入するメンバーを観ているのも楽しい。その余韻を引き継いだ「From Now On」ではソリッドなサウンドを聴かせ、ダウンテンポの「Rezisto」では今井のけだるい低音ボイスと、樋口のヘビーなベースで観客を酔わせた。星野がシンセを、今井がMIDIギターを操るアンビエントなインスト曲「神経質な階段」では、音源には入っていなかった生ドラムが深みと奥行きを加えた。星野のボーカルの進化を感じさせられたのはバラードナンバー「絶望という名の君へ」。声の抑揚や手にも表現をつけ、聴く者の心に届ける歌声はとても優しかった。
「じゃあこの辺で一気に上げていきましょう」と、アフロビートのリズムでグルーヴする「冥王星で死ね」でボルテージを上げるも、「もっといこうか。もっともっと!」とさらに煽って「TIKI TIKI BOOM」へ。パーカッシブなビートに乗せる今井のラップ。早口の途中で、ドゥルルルルルと巻き舌を放つと歓声が沸いた。 “TIKI TIKI BOOM”と連呼するサビを、今井と星野が左右に並んで歌う姿がやけに神々しく観えたのは、“TIKI”が神を意味する言葉だからか。そしてアルバム『スブロサ SUBROSA』の楽曲で構成された本編に唯一組み込まれた既存曲が、櫻井敦司と今井とのツインボーカル曲「IGNITER」。空いたままの櫻井パートは観客が引き受け、轟轟轟とパワフルに突き進んでいく。星野の端正な歌とスリリングなギターリフが感情を掻き立てる「プシュケー -PSYCHE-」、「嘆きの丘の上空 天使がラッパを吹いている」と今井の語りから始まった「ガブリエルのラッパ」は、荘厳でいてドラマチック。青い光に包まれたステージで奏でられたアンビエントテクノの「海月」は、海月が海を漂うような、光を集めるような音像で魅了した。そして本編ラストは「黄昏のハウリング」。淡々としたアンサンブルと抑揚を抑えた今井のボーカルが、より一層の哀愁を誘うが、アウトロではその感情が炸裂する。ヤガミのドラムは力強さを増し、今井のギターソロは感情をぶつけるように哭いている。それに呼応するように、メンバーを背後から照らす白い光がどんどん強くなっていき、シルエットだけを映した。
コンピュータボイスによるメンバー紹介の後、一人でステージに登場したヤガミが緩急をつけたドラムソロで会場を温めた頃、今井、星野、樋口もステージに戻ってきた。おもむろに「ねぇ、知ってる?」と今井。「芸術は爆発なのか。ねぇ、知ってる?でも爆発は芸術じゃねえよな。知ってる?芸術はバ・ク・ハ・ツ・ダダダダ DADA DISCO」と続けて、「DADA DISCO -GJTHBKHTD-」へ。ちなみに何を言っていたのかと言うと、収録アルバム『或いはアナーキー』リリース当時もファンの間で謎解きが話題になった副題の“GJTHBKHTD”の部分のことだ。星野がかき鳴らす印象的なリフをバックに、今井は跳ねながら指を立てながら歌い歩く。続いて、トリッキーなロックチューン「CREAM SODA」は星野がボーカルをとり、「ラストいくぜ!」と披露したのは「BOY septem peccata mortalia」。櫻井色の強いこの曲のメインボーカルは今井がとり、サビでは星野がコーラスでユニゾンする。“もっと欲しい”と人間の強欲さを歌うこの曲を最後にセレクトしたということは、この先も貪欲に突き進むという意思表明だろうか。すべての演奏を終えた今井は、「かっこいいステージができました。いい乾杯ができそうです」と満足気な表情を浮かべた。
この後、〈BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA〉の追加公演が、6月7日(土)より群馬音楽センター、NHK 大阪ホール、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催される。LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)はバンド史上初の6日間公演。ライヴハウスからホールへと移った時、漲るエネルギーはどんなふうに変化するだろうか。アクションを起こすたびに進化を続けてきたBUCK-TICKの、むきだしのステージが観られるのは今しかないかもしれない。未見の人がいるならば、ぜひこの追加公演で体感してほしい。



Text:大窪由香
撮影:田中聖太郎
※写真は2025年5月16日(金)東京:Zepp Haneda公演のもの