ハドソン・モホーク(Hudson Mohawke)、ØU$UK€ UK1MAT$U(ヨウスケ・ユキマツ)、
ノサッジ・シング(Nosaj Thing)らが出演した新イベント〈BODY HEAT〉が、今年3月に東京・高輪ゲートウェイ駅前に期間限定でオープンしたナイトミュージアムバー&クラブ「ZERO-SITE Takanawa Gateway」にて開催。
日本初上陸となる“Danley Sound Labs”のサウンドシステムの迫力の音質とともに、7月の末にはクローズしてしまう期間限定のクラブで850人を熱狂に導いた当日のレポートが到着しています。
[ライヴ・レポート] ほのかに新築の木材の香りが漂う高輪ゲートウェイ駅。開放的なコンコースからは黒々としたオフィスビルが整然と居並ぶ様が見える。約4ヶ月間のみの営業となるベニュー、ZERO-SITEはその駅舎に直結する形で、ひとときのダンスフロアを用意していた。端から端までクリーンアップされていく大都市の渦中にありながら、失せることのない人々の熱を高次元まで引き上げる、どこか刹那的な「仮設」のホットスポット。『BODY HEAT』という本イベントのタイトルが、既にその機能を物語っている。
足を踏み入れると広々としたラウンジにバーカウンター、入り口正面のDJブースではFUJIMOTO TETSUROがミドルテンポのディープ・ハウスをサーブしている。清潔な横長のフロアで奥には大きなソファがいくつも用意されており、そのホスピタリティはとても「仮設」とは思えない。パーカッシブなアフロ・ハウスを軸にロングセットを展開したAbiuと共に、茹だるような外気がサウンドシステム越しにクールダウンしていくのを感じる。
ZERO-SITEが単なる「仮設」ではなく、熟達のクラバーも唸る仕様であることを証明しているのは、メインエリアとなる3Fの音響だ。「世界最高峰と称される“Danley Sound Labs”を日本初導入」という触れ込みは伊達ではなく、全ての音域が明瞭かつゴージャスにアウトプットされている。ラティーナの風味を織り交ぜたKATIMI AIのハウスセットとの相性も抜群、サンセットタイムにマッチする至上の体験だ。
そして「Danley Sound Labs」の本領を提示したのはノサッジ・シングだ。LAビートシーンに身を置き、ヒップホップからアンビエントまで多彩に料理する才人。「敏腕プロデューサー」という言葉が似合いすぎる彼だが、そのDJプレイはどんなものなのだろうか?テックハウスでフロアのテンションを引き上げたKATIMI AIからバトンを受け取ったノサッジ・シング、彼は即座にレトロなハウスチューンから桁外れの重低音を連打する。強烈なサブベース、そこかしこから「ヤバい!」と驚嘆の声が漏れ出す。豪華ゲスト陣と共に作り上げた2022年の傑作『Continua』では静謐なアレンジでリスナーの心を掴んだ彼だが、『BODY HEAT』では終始ハイテンションなDJセットを披露した。
そのバトンをØU$UK€ UK1MAT$Uが受け取ると、フロアの温度は一段と高まった。孤高のハードスタイルで今や日本を代表するDJの一人として世界中からラブコールを受けているOU$UK? UK1MAT$Uだが、ZERO-SITEのハイブロウな環境下で体感すると、フィジカルに根差した情熱的な側面が目につく。燃えたぎるフリーマインドを緩めることなく、そして縦ノリを崩さずに、キックの一つ一つに体温を宿らせるようなプレイだ。先日共演を果たしたケミカル・ブラザーズの「Free Yourself」をドロップし、野暮ったさのないビッグ・ビートで自らのスタイルを貫く様は圧巻。最後半のインダストリアルな展開からTNGHT「Higher Ground」のリンクする展開には、柔らかなサービス精神を垣間見た。
「Higher Ground」のドロップを後方で微笑みながら眺めていたのは、この日のヘッドライナーとなるハドソン・モホークだ。『Cry Sugar』のオープニングからセットを始めると、壮大なスケールで会場全体を包み込んでいく。トランスヒューマニズム的好奇心とゴスペル〜ソウル・サンプリングが奇妙な塩梅でミックスされている『Cry Sugar』の、マシナリーな人間讃歌とでも言うべき唯一無二のサウンドが、『BODY HEAT』というテーマと共にZERO-SITEでの一夜を克明なものにしていく。ドラムンベースからドリル、さらにはダスト・パンク「One More Time」の大ネタエディットまで、フリーキーなリズムの組み方でハドソン・モホーク印に組み替えていく光景には思わず息を飲んだ。
フロアの天井に這うような形で配置されたディスプレイには、広大な山脈が映し出されている。セットの後半、ビートを廃したスペクタクルなトラックにオーディエンスが浸っている様子を後方から眺めていると、人肌から発せられた蒸気が雲上まで登っていくかのようだ。そしてこの夜二度目の「Higher Ground」を、今度はセルフ・リミックスでプレイすると、暴発としか表現できないほどの熱狂がフロアに生まれた。大ネタを織り交ぜながら遊ぶイタズラ心と、根底に流れるヒューマニックな愛情。本編ラストのR&Bクラシック・メドレーも、アンコールまで残った踊り足りない観客へのサービスのように連打した四つ打ちセットも、ハドソン・モホークのポジティブな面が最良の形で表れた90分だった。7月の末にはクローズするZERO-SITE、その熱だけは確実に各々へと伝播し残り続けるだろう。



text by 風間一慶
Photo by Kazma Kobayashi