6月11日は、梅雨の時期に設けられた雑節(暦)“入梅”に当たることが多いということで、1989年に日本洋傘振興協議会が「傘の日」を記念日として制定しています。傘を取り扱う会社などでは、傘のデザイン性や機能性の高さなどの魅力を発信したり、キャンペーンを行なうこともあるようです。
ちなみに、雨の日によく見かけるビニール傘は、日本が発祥。東京・浅草の老舗「ホワイトローズ」が世界で初めてビニール傘を開発したところ、1964年の東京オリンピックで日本を訪れていたアメリカの大手洋傘流通会社が「ニューヨークで売りたい」と気に入り、海外で次第に定着。日常に欠かせないアイテムへと発展しました。特に“メイド・イン・ジャパン”にこだわったホワイトローズのビニール傘は評判が高く、2010年と2018年の園遊会にて皇室が用いたことでも話題を集めました。
そんな「傘の日」にちなんで、曲名に“傘”や“アンブレラ”を冠した楽曲をいくつか紹介したいと思います。
ストレートに「傘」と名付けた楽曲を持つアーティストは、
矢沢永吉、
King Gnu、
くるり、
土岐麻子、
阿部真央、
長山洋子、
山内惠介など、ロック、ポップス、演歌などさまざまなジャンルで見ることができます。
“傘”と聞いて、多くの人が思い浮かべそうなのが、
ジャック・ドゥミ監督のミュージカル映画『
シェルブールの雨傘』ではないでしょうか。劇中で
ダニエル・リカーリが歌った
ミシェル・ルグラン作曲による主題曲「シェルブールの雨傘」は、ギリシャ人歌手の
ナナ・ムスクーリも歌唱。英語詞版は「アイ・ウィル・ウェイト・フォー・ユー」(I Will Wait for You)のタイトルで、
フランク・シナトラ、
トニー・ベネット、
ライザ・ミネリほか多くが歌い、スタンダード・ナンバーとして親しまれています。日本でも
白鳥英美子が英語詞版を歌うほか、日本語詞版を
麻丘めぐみ、
いしだあゆみ、
ザ・ピーナッツ、
美川憲一、
森昌子、
森山良子、
岩崎宏美、
石丸幹二ほか、さまざまな歌手が歌ってきました。
多くのカヴァーを持つという点では、
井上陽水の「傘がない」も人気曲のひとつでしょう。いわゆる過激な“学生運動”の勢いもなくなっていた1972年に、井上陽水としての1stアルバム『断絶』にて発表され、「人生が二度あれば」に続く2枚目のシングルとしてシングルカットされました。冒頭で“都会では自殺する若者が……”と社会問題に触れたかと思いきや、一番の問題は君に会いに行くための傘がないという詞の内容が強い印象を与えるこの曲は、リリース当初はそれほどヒットしませんでしたが、時を重ねていくにつれ、井上陽水の初期の代表曲となりました。
さだまさし、
世良公則、
中森明菜、
UA、
清春、
斉藤和義、
ACIDMANほか多くのアーティストがカヴァーしています。
曲名から推測するに、「傘がない」のアンサーソング的な感性をしのばせたと思われるのが、
森山直太朗の「傘がある」です。井上が傘がないと歌った時代とは異なり、森山が入店したカレー店のレジの横に傘が有り余っているから雨に濡れることはないと歌い綴っています。
タイトルを見るだけでも、傘への想いはそれぞれにあるようです。
槇原敬之が「この傘をたためば」、
花澤香菜が「傘を閉じたら」と歌えば、
中島卓偉は「傘をささない君のために」想いを綴ります。
KOKIAは「傘を貸してあげて」、
ゴスペラーズは「傘をあげる」と歌い、
堀内孝雄は「傘になれたら」と哀しみの雨から守る想いをしたためます。さらに、
音速ラインは「傘になってよ」、
サンボマスターは「傘にさせてくれ」と懇願がうかがえそうなタイトルを冠しています。
そのほか、音楽シーンのトップランナーたちも“傘ソング”を数多く発表しています。
aikoはメジャー3rdシングル「花火」のカップリングにて「相合傘」を発表。4thアルバム『
秋 そばにいるよ』には「相合傘(汗かきmix)」として収められています。
Mr.Childrenは、「Tomorrow never knows」をはじめ数々のヒット・シングルが収録された傑作アルバム『
BOLERO』にて「傘の下の君に告ぐ」を発表。
TOKIOの39thシングルとなった「雨傘」は、
松岡昌宏主演ドラマ『
ヤスコとケンジ』の主題歌に起用されヒット。同曲の詞曲を手掛けた
椎名林檎は、2014年のセルフカヴァー・アルバム『
逆輸入 〜港湾局〜』にて「雨傘」の歌詞を英語に替えてセルフカヴァーしています。
趣があるタイトルとしては、「雪傘」や「花傘」あたりが挙げられるでしょうか。「雪傘」は、2008年に
工藤静香の41stシングルとして発表。この楽曲を提供した
中島みゆきは、2010年のアルバム『
真夜中の動物園』にてセルフカヴァーしています。
一方「花傘」は、
川谷絵音率いるロック・バンド、
indigo la Endが2019年にリリースしたアルバム『
濡れゆく私小説』に収録。川谷らしい愛の表現が刺さる、美しく切ない楽曲となっています。
“雨の中でだけ歌えたらいいのに”というフレーズから始まる全編英語詞のラヴ・ソング「傘拍子」(さんぴょうし)を奏でているのは、人気ロック・バンドの
RADWIMPS。同曲は、RADWIMPSが本格的にトップ・シーンへと顔を覗かせたアルバム『
RADWIMPS 4〜おかずのごはん〜』にて聴くことができます。
雨の時ばかりが傘の出番ではありません。ロック・バンドの
シドは、メジャー3rdシングル「嘘」のカップリングにて「日傘」を発表。同曲は2013年リリースのメジャー初のカップリングベスト『
Side B complete collection〜e.B 2〜』に収録されています。
My Little Loverは、14thシングルとして「日傘〜japanese beauty〜」をリリース。同曲は「カルピスウォーター」のCMソングにもなりました。
そして、“歌謡界の女王”が歌う傘ソングも忘れてはならないでしょう。
美空ひばりが1963年に発表したシングル「関東春雨傘」は、“さぁさぁ さぁさぁさぁさぁ”の啖呵も痛快な、美空ならではの気風の良い楽曲。
水前寺清子をはじめ、
神野美伽、
天童よしみ、
氷川きよし、
福田こうへい、
三山ひろしほか、日本の歌謡・演歌シーンを彩ってきた面々がこぞってカヴァーしています。
最後は、傘の英語“アンブレラ”を冠した楽曲を挙げましょう。「Umbrella」は、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの
Mrs. GREEN APPLEをはじめ、
SEKAI NO OWARI、
DIR EN GREY、
YUI、
なにわ男子など、「アンブレラ」は、
KARA、
コブクロ、
BUCK-TICKなどに見られます。また、
山下達郎「白いアンブレラ」や
嵐「時計じかけのアンブレラ」といったタイトルの楽曲もあります。
このほかにも、まだ多くのアーティストが傘ソングを歌っています。梅雨の季節にお気に入りの傘ソングを見つけて、ジメジメとした雰囲気を晴らしてみてはいかがでしょうか。
(写真はミシェル・ルグランによる『
シェルブールの雨傘 オリジナル・サウンドトラック』)