「ダイアナ」や「マイ・ウェイ」など、ポップス草創期を代表し、50年代から60年代にかけていわゆる“オールディーズ”の名曲を次々と放ったシンガー・ソングライターの
ポール・アンカは、7月30日(1941年)がバースデー。
カナダのオタワにてレバノン系キリスト教徒の両親のもとで生まれたアンカは、1956年の14歳の時に最初のシングル「アイ・コンフェス」をレコーディングした後、1957年に「ダイアナ」を発表。弟のベビーシッターへの恋を綴ったこの曲は、アメリカ、イギリス、オーストラリアで1位を獲得して大ヒットしました。翌年には「君は我が運命」(You Are My Destiny)や「クレイジー・ラヴ」(Crazy Love)、1959年には再び全米1位となった「ロンリー・ボーイ」(Lonely Boy)や同2位の「あなたの肩に頬うめて」(Put Your Head on My Shoulder)、「イッツ・タイム・トゥ・クライ」(It's Time to Cry)などがチャートの上位に名を連ねていきました。
60年代に入っても「パピー・ラヴ」(Puppy Love)や「マイ・ホーム・タウン」(My Home Town)、「涙のダンス」(Dance on Little Girl)がヒット。70年代には全米1位の「ハヴィング・マイ・ベイビー」((You're) Having My Baby)のほか、「ワン・マン・ウーマン」(One Man Woman / One Woman Man)、「アイ・ドント・ライク・スリープ・アローン」(I Don't Like to Sleep Alone)、「タイムズ・オブ・ユア・ライフ」(Times of Your Life)がトップ10ヒットとなりました。
このほか、
飯田久彦、ボニー・ジャックス、
スリー・ファンキーズ、
ゴールデン・ハーフなど日本で多くのカヴァーを生んだ「電話でキッス」(Kissin' On The Phone)や、サンレモ音楽祭ではイタリア語で歌唱し、ライヴでも何度も歌った「太陽の中の恋」(Ogni Volta)なども知られています。
楽曲提供も多く、その中でも最も知られているといえるのが、アンカが作詞を手掛け、
フランク・シナトラが歌った「マイ・ウェイ」でしょう。
エルヴィス・プレスリーやアッパーなパンクロック・テイストへ衣替えした
シド・ヴィシャスをはじめ、日本でも
布施明など多くのアーティストがこぞってカヴァーを発表し、世界中のカラオケの定番ソングの筆頭格にもなりました。あまりにも(特に世のおじさん方が)歌うため、“カラオケで嫌われる歌ナンバーワン”というありがたくないキャッチフレーズも生まれました。
多くのディズニー作品へ出演し、アイドル歌手としても活躍していた
アネット・ファニセロ(当初はアネット名義)に、当時の恋人だったアンカが提供したのが、「恋の汽車ポッポ」(Train of Love)です。アンカがセルフカヴァーしたほか、日本では
森山加代子、
かまやつひろし、
大瀧詠一らがカヴァーしました。“ザ・ヴォイス”と称され、エネルギッシュな歌声で魅了した
トム・ジョーンズの代表曲のひとつ「シーズ・ア・レディー」(She's a Lady)も、アンカが作曲を手掛けています。
日本でも楽曲提供を受けたアーティストは少なくなく、時代劇ドラマ『水戸黄門』では“助さん”役を12年間を演じ、俳優、アイドル、歌手として活躍した
あおい輝彦が歌った「あしたこそは」は、アンカが作曲。
田原俊彦が1983年にリリースした15thシングル「さらば‥夏」は、ボビー・ゴールズボロとの共作で作曲を手掛け、見事に1位を獲得しています。
そして、
マイケル・ジャクソンの死後に発表された「ディス・イズ・イット」(THIS IS IT)は、実はアンカとの共作。アンカがデュエットを持ちかけたのを機に楽曲を作り始めたものの、マイケルが『スリラー』旋風で多忙だったためレコーディングが中断。その後、1991年にプエルトリコ出身の
サファイア(Sa-Fire)のアルバム『ふたりのイエスタデイ』に「アイ・ネヴァー・ハード」(I Never Heard)としてリリースされました。
2009年にマイケルが急死すると、遺産管財人が“お蔵入り”していたマイケルのヴォーカルトラック素材を見つけ、映画『マイケル・ジャクソンTHIS IS IT』公開に先駆けて発表。すると、その曲をラジオで聴いたアンカが「1983年にマイケルと一緒に作った曲だ!」と訴え、晴れてアンカとマイケルの共作として知られるところとなりました。
同曲「ディス・イズ・イット」は、2013年発表のアンカのアルバム『
デュエッツ』(写真)に新たなアレンジやヴォーカルを加えたヴァージョンで収録されています。同アルバムにはパティ・ラベルとの「君はわが運命」やトム・ジョーンズとの「シーズ・ア・レイディー」、フランク・シナトラとの「マイ・ウェイ」などの“デュエット”も聴くことができます。