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爆音が物語を心に刻む 音楽で振りかえる豊田利晃監督の映画【前編】

2025/10/15掲載
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The BirthdayがEDテーマの最新作『次元を超える』が公開される豊田利晃監督のこれまでの作品に使われた音楽を教えてください。
爆音が物語を心に刻む 音楽で振りかえる豊田利晃監督の映画【前編】
 豊田利晃監督の最新作『次元を超える』が10月17日(金)よりいよいよ公開に。エンディング・テーマのThe Birthday「抱きしめたい」も話題を呼んでいますが、豊田作品と言えば、dipTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT中村達也ら日本のロック・スターたちの音楽が彩ってきたことでも知られます。

 今回は、これまでの作品を振り返りながら、その主題歌や劇伴をリサーチ。映像と化学反応を起こし、物語を心に刻み付けてきた“音楽”の面から作品の魅力に迫ります。

■『ポルノスター』(1998)
主題歌:dip「13階段への荒野」(『13 TOWERS』[96] / 『13 TOWERS/13 FLOWERS』[2012 / 再発])

90年代渋谷を舞台に、千原浩史演じる謎の青年“荒野”とデートクラブを経営するチンピラたちを描いた豊田監督のデビュー作。dip「13階段への荒野」は、豊田監督が周囲の反対を押し切って主題歌に起用したそう。ヤクザは躊躇わずにナイフで刺す一方、自分が何者かは分からない荒野の破滅を予言するような重いギターリフは、暴力で駆け抜けるしかない若者たちへのレクイエムのように全編で流れ、物語と一体化。「痛みだけが新しい世界を映すだろう」の歌詞は監督の世界観にも通じ、その後、ヤマジカズヒデの音楽が豊田作品の常連となることも頷けます。


■『青い春』(2002)
エンディング・テーマ:THEE MICHELLE GUN ELEPHANT「ドロップ」(『カサノバ・スネイク』[00]ほか)
挿入歌:the blondie plastic wagon「RASPBERRY DANCE」(『ビッチズ・ブルー』[01])

松本大洋の短編集『青い春』をもとに、松田龍平新井浩文高岡蒼佑(高岡奏輔)、大柴裕介らの出演で実写化。こちらも“自分が何者か”に揺れる若者たちが描かれており、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT「ドロップ」の冒頭ギターリフの絶望を湛えた響きが、エンディングに深い余韻をのこします。同じくTMGEによるオープニング・テーマ「赤毛のケリー」や初期衝動ほとばしるthe blondie plastic wagon「RASPBERRY DANCE」など、登場人物の虚無や焦りの感情を増幅させるロック・チューンがほかにも多数使用。音楽監督は上田ケンジが務めており、自身が所属するanalersの楽曲も使われています。


© 松本大洋/小学館・「青い春」製作委員会 2001

■『ナイン・ソウルズ』(2003)
サウンドトラック:dip『9souls』サウンドトラック(03)

刑務所を脱走した9人が、帰るべき場所を目指す逃避行の物語。原田芳雄、松田龍平、千原浩史板尾創路鬼丸、KEE(渋川清彦)、マメ山田鈴木卓爾大楽源太が演じる、可笑しみや哀しみ、無力感に映画館には笑い声とすすり泣きの両方が響く名作です。音楽はdipが担当。脱走シーンに流れるサイケデリックな「9souls」もインパクト大ですが、10年間の引きこもりの末、父親を殺害するに至った金子未散(松田龍平)の荒涼とした心象風景が伝わる「Nowhere I'd Like To Be」や、最後のシーンで流れる「let's get lost」も後戻りできない人間が持つ希望の切なさが表現されているようで涙必至。Buffalo Daughter大野由美子U-zhaanが参加した楽曲もあり、オリジナル・アルバムとして通して聴けるサウンドトラックは必聴です。なお、これが縁でdipのファンになったという板尾創路は、dip「HASTY」のMVにも出演しています。




©2003「ナイン•ソウルズ」製作委員会

■『空中庭園』(2005)
主題歌:UA「この坂道の途中で」(『Nephews』[05])

角田光代の同名小説を原作に、家庭の崩壊と再生を描いた物語。小泉今日子演じる主婦・絵里子が、必至で自分の家庭を繕うも、破綻していく日常を経て再び“生まれ直す”ベランダでのシーンは圧巻でした。UAが作詞を手掛けた「この坂道の途中で」は、方向を失い立ち止まってしまう人を受け止める優しい歌。作曲はdip・ヤマジカズヒデで、dipでは「to here never come」として演奏されており、ライヴ盤『pharmacy』でも聴くことが出来ます。

©2005「空中庭園」製作委員会

■『アンチェイン』(2000)
挿入歌:ソウル・フラワー・ユニオン「アンチェインのテーマ」(『アンチェイン』[00])

レイ・チャールズの名曲からリングネームをつけた元プロボクサー、アンチェイン梶と、彼と強い絆で結ばれた3人の格闘家の生きざまに迫るドキュメンタリー。、千原浩史によるナレーションとともに、クレイジーと純粋が同居するアンチェイン梶の在り様に心揺さぶられる名作です。音楽はソウル・フラワー・ユニオンが務めており、テーマ・ソングは中川敬が情念たっぷりに歌う「アンチェイン・マイ・ハート」のカヴァー。奥野真哉が作曲した挿入歌「アンチェインのテーマ」も、のんびりと優しい曲調が不器用な男たちの山あり谷ありの人生に寄り添っていて印象的です。


©2001フィルムメイカーズ+リトルモア

 後編では、2010年以降の作品もご紹介。なお、『次元を超える』と同時期に撮影された渋川清彦主演の修行映画『そういうものに、わたしはなりたい。』も10月10日より公開中。また、10月16(木)まで東京・代官山のギャラリー「AL」にて、豊田監督の展覧会「BONIN ISLANDS DREAMING」も開催中。ヤマジカズヒデが音楽を務めた新作映像『ある惑星の誘惑』も上映中です。

『そういうものに、わたしはなりたい。』
2025年10月10日(金)公開
公式サイト:toyodafilms.net
配給: 豊田組

『次元を超える』
2025年10月17日(金)より東京 ユーロスペース他にて全国順次公開
公式サイト:starsands.com/jigen
配給: 豊田組

BONIN ISLANDS DREAMING
2025年10月10日(金)〜16日(木)13:00〜20:00
al-tokyo.jp/news/20251010_toyodatoshiaki_boninislandsdreaming/
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