ビリー・アイリッシュが全世界での総再生数100億回越えの最新アルバム『
ヒット・ミー・ハート・アンド・ソフト』を携えた2夜限りの来日公演〈HIT ME HARD AND SOFT: THE TOUR〉が8月16日(土)、17日(日)に埼玉・さいたまスーパーアリーナにて実現。
昨年9月から始まり、17ヵ国、55都市を回るワールド・ツアーにて、およそ3年ぶりとなった本来日公演では、世界で話題の会場センターに建てられる360度ステージやハンディカメラを通したステージスクリーンなど見どころ満載な演出も際立ち、会場を大いに熱狂させました。同公演の初日公演のライヴ写真、さらにはセットリストがプレイリストとして公開されています。
[ライヴ・レポート] 前回の有明アリーナからちょうど3年ぶりとなった、ビリー・アイリッシュの来日公演。会場となったさいたまスーパーアリーナには、スタイルを真似た人、入手したばかりのツアー・グッズを身にまとう人など、ビリーへの愛を感じさせる観客で、360度のステージは取り囲まれていた。そのなかで、会場が暗転すると、ステージ中央にLEDに照らされたキューブが出現。徐々に宙に浮かんでいくと一瞬照明が消えて、中に入ったビリーが(ミリタリー風なTシャツの上にタンクトップ、ギンガムチェックのパンツというコーディネートをしている)。瞬く間に歓声が巻き起こる。やがてキューブの上に颯爽と登場すると、割れんばかりの絶叫が会場に轟く。そして、最新アルバム『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』から、日本のアニメ作品からインスパイアを受けたという楽曲「CHIHIRO」をパフォーマンス。これまでおこなってきたワールド・ツアーでもオープニングを飾った楽曲ゆえ、オーディエンスも待ってましたとばかりに、大合唱。また、楽曲のインスパイアを与えた国でのパフォーマンスゆえか、どの場所よりもエモーショナルに、またリスペクトの思いをこめて披露しているような気がした。続いて「東京(=日本)のみんな、元気?」と軽く挨拶をし、最新作から「LUNCH」をパフォーマンスすると、ビリーは広いステージを全力疾走。観客と一緒に、この空間を全身全霊で楽しもうという姿勢がうかがえたのだった。その後「NDA」など、アップテンポな楽曲を披露し終えると、ビリーは改めて会場に訪れたファンとの貴重な時間を噛み締めている様子。30秒以上も歓声を受け止め(途中でうれしさのあまり笑顔がこぼれる場面も)、「改めて日本でライヴができることがうれしい、今日は楽しんで!」と絶叫し、アルバムから美しくもはかないメロディが印象的な「WILDFLOWER」を熱唱し終えると、「ほかの楽曲では自由に歌って叫んでいいから、この1分間だけは静かに耳を傾けて」とオーディエンスに呼びかけ、デビュー盤に収録された「when the party's over」をパフォーマンス。すると、会場は一瞬にして静まりかえり(海外ではなかなかそういう瞬間はなかったよう)、代わりに会場がスマホや携帯電話の光に包まれるなか、ビリーは胡座をかき、まるで禅の世界に没入したような、イノセントな雰囲気を漂わせていた。
美しい静寂に包まれたあとは、アンニュイでミステリアスな雰囲気の「THE DINER」や、自らカメラを持ちバンド・メンバーの表情を紹介しながら披露していた「bad guy」(ラストの転調部分でみせた表情が、毒々しさとともにデビュー当時にはなかったエレガントな笑顔が垣間見られ、それが心に深く刻まれた)など、アップ・チューンを展開。会場をさらにヒート・アップさせたのだった。
その後MCでは、3年ぶりに日本でライヴがおこなえることに対する感謝の気持ちを伝える。
「このステージを通じて、みんなが安全で、自分らしくいられる場所があるということを感じてもらいたい。自身を開放して自由にいられる場所が、世界のどこかにあるということに。安全な空間あるという感覚。それがあるだけで、どんなに心が救われることか。自分にとって、この空間でみなさんと過ごせることが、本当に素晴らしい体験になっています。最高に楽しんでいる。ありがとう」
その真摯なメッセージに拍手が巻き起こるなか、ステージ中央にコーラス隊を招き、アコースティックで2ndアルバムに収録の「Your Power」、最新作からの「SKINNY」などを披露。シンプルな音色ゆえに、ビリーの情緒豊かなヴォーカル力をじっくりと堪能することができたと同時に、ビリーの音楽に耳を傾けているすべての人が自身のパワー(モチベーション)につながっているということを感じさせるパフォーマンスであった。
ステージも終盤にさしかかると、「bury a friend」をはじめとするアップテンポのナンバーで会場を盛り上げる。さらに19年発表のシングル「everything i wanted」などは、中央とは異なる特設ステージで公開。(一部の観客は)至近距離でビリーと触れあうことができ、興奮の表情を浮かべていた。その後、オーディエンスとハイタッチを交わしながら、中央へ戻ると、今度はキーボードを弾きながらデビュー曲である「Ocean Eyes」を披露。発表から10年近く経過した現在だからこそ描ける、深みのあるブルー(海の色)を感じることができた、とても幻想的な時間になったのだ。
ラストのMCでは「15、16歳のころから来日をしているけれど、みなさんはいつも温かく迎えてくれて、本当に感謝しています。だから、私はみなさんをとても大事に思っている。愛しています。本当に美しい場所で、ここに来られるのは贅沢なこと。また、日本に来ると、自分を感じることができる。出身地から遠く離れた場所なのに、距離の近さを感じていて、現実離れした気分になるというというか。感謝の気持ちでいっぱいです。本当に愛しています。今日は来てくれてありがとう」と感謝の気持ちを誠実に伝え、映画のサウンドトラックとして制作した「What Was I Made For?」を語りかけるようにパフォーマンス。さらに、こちらも日本の映画の主題歌に起用された「Happier Than Ever」では、エレキギターを持って披露。途中で、咳き込んでしまい「エヘヘ」と照れ笑いを浮かべた様子が印象的だったというか。特別な親近感をおぼえた。そしてラストには最新作からの大ヒット曲「BIRDS OF A FEATHER」を、まさに自由に空間を舞う鳥(もしくは妖精)のようなたたずまいで熱唱。ラストには羽のような紙吹雪が会場に舞い、さらに自由でハッピーな雰囲気に包まれ、ステージはあっという間に終了したのだった。
パフォーマンス後、ビリーは360度あらゆる角度の先端に向かい、深々とお辞儀をし、さらにステージからフロアに降りて、そこでも感謝の気持ちを表現しながらバックステージへ。ビリーにとって、ファンやリスナーと触れあえる時間が何よりも大切な瞬間であること、また(これは偏見になるかもしれないが)日本がインスピレーションを与える場所であるというリスペクトが伝わってきた公演になったと思う。おそらく次のアルバムのリリース後になると思うが、またビリーと特別な関係を築く機会が待ち遠しくなった。文: 松永尚久