自身初の音楽書で、ドナルド・フェイゲンの名盤『The Nightfly』の音楽批評と分析書『ナイトフライ録音芸術の作法と鑑賞法』が各方面で大好評の冨田ラボ。彼が5枚目のオリジナル・アルバム制作初日をさる12月2日（火）、Billbord Live Tokyoにてライヴ形式で行ないました。

　このライヴ・ステージは、楽曲を演奏するという通常のライヴとは違いひとつの楽曲ができていく様を披露する「作編曲SHOW」。70〜90分×2ステージという、あらかじめ限られた時間の中で創作を一から行ない、その様をオーディエンスが見守るという画期的かつ実験的なライヴ・パフォーマンスであり、冨田の音楽のできる行程を見せることで日常とは違う音楽との接触を提示しようとした初の試み。以下当日の模様をお届け。

　ステージ上は冨田の自宅スタジオを想像させるようにPC、ピアノ、キーボード、ギター、ベースなどの録音機材が冨田を囲み、ステージ上のモニターには音楽制作ソフトの画面が映し出されている。ステージに上がった冨田はリハーサルで創作した音源を観客に披露し、限られた時間での完成形として提示し説明。そして0から楽曲の制作に取りかかっていった。会場は、未体験の場面に遭遇し、何が起こって行くのか解らない期待感に溢れていた。

　まずは、ピアノに向かいフリーに演奏を始める冨田。主たるメロディが生まれ、その後、サンプリング、ピアノ、ギター、ベース、キーボード、ヴォーカルと、自身の頭の中で鳴ったであろうフレーズを次々と披露し、メロディと組み合わせて行く。楽曲全体の中の断片が作り上げられて行く中で、観客は、楽曲全体の構成をもイメージさせられていった。

　途中、機材トラブルでPCがフリーズするなど、実際のレコーディング作業さながら、もしくは限られた時間であるだけに、一層の緊張感に包まれていた。観客は、冨田の発想力、頭の中で鳴っている音やアンサンブルが小節の順を追って楽器のパーツごとに、実際に目の前で音像となって現れ、またその音が構築され、組み合わさり、楽曲に仕上がって行くことを容易に想像させられ、いくつものフレーズや音色を聞き分けながら、自分自身が冨田になって楽曲を作っているような疑似体験ができたに違いない。

　次作5枚目のオリジナル・アルバムのレコーディング初日を、この様な挑戦的な企画でスタートさせた冨田ラボ。どのような形となって来たる最新作に収録されるのか、今から待ち遠しい。