豊田利晃監督の最新作『次元を超える』が10月17日より公開され、その奇想天外な発想と映像が話題に。
さらに監督がスペインで開催中のシッチェス・カタロニア国際映画祭「ニュービジョン」部門で日本人初となる最優秀監督賞を受賞し注目される中、この快挙を祝い「音楽で振りかえる豊田利晃監督の映画【後編】」をお届けします。
■『蘇りの血』(2009)
メインテーマ:Twin Tail「蘇りの血」(『蘇りの血 オリジナル・サウンドトラック』[2009 / タワーレコード限定]) BLANKEY JET CITYやLOSALIOSの活動で知られる屈指のドラマー、中村達也を主人公に、太古の世界で繰り広げられる人間の再生と愛の始まりを描いた寓話物語。中村達也の起用は、豊田監督とのバンド“TWIN TAIL”がきっかけで、劇伴は全編TWIN TAILによるもの。中村演じる按摩師オグリは寡黙な役柄ですが、その胸中を代弁するかのような中村自身のドラミングはストーリーの語り手のようです。サウンドトラックでは、再生への凄まじいエネルギーを聴き手に注ぐ「蘇りの血(メインテーマ)」のほか、勝井祐二のヴァイオリンが原始の森に溶け込む「蘇生の旅」や夢現の古代を盛り上げた「大王の宴」なども聴くことができます。©「蘇りの血」製作委員会■『I'M FLASH!』(2012)
主題歌:I'M FLASH!BAND「I'M FLASH」(I'M FLASH!BAND『I'M FLASH』[2012 / サウンドトラック]) 鮎川誠の楽曲「I'M FLASH “Consolation Prize”(ホラ吹きイナズマ)」にインスパイアされて制作。初タッグとなる藤原竜也が宗教団体の若きカリスマ教祖を演じ、その衝撃の運命を描いた本作の主題歌はチバユウスケ、中村達也、ヤマジカズヒデ、KenKenからなる“I'M FLASH! BAND”による「I'M FLASH」のカヴァー。荒くストレートなパンクロックとともに、チバが歌うキラーフレーズ「ぱっと光って消えちまう」が、死生観を問う本映画を見事に体現しており、生の儚さ、激しさを刻み付けます。この主題歌のほか、スガダイロー、大野由美子も参加したサウンドトラックもリリース。©2012「I'M FLASH」製作委員会■『泣き虫しょったんの奇跡』(2018)
照井利幸『「泣き虫しょったんの奇跡」(2018)Original Soundtracks』 サラリーマンからプロ棋士になった瀬川晶司六段の自伝をもとにドラマ化。自身も奨励会に在籍していた豊田監督の思いも込められた作品です。音楽は、『モンスターズクラブ』(2011)の挿入歌も手掛けた元BLANKEY JET CITYの照井利幸の全編書き下ろし。純粋に将棋が楽しかった子ども時代を彩った「green apple」やトレーラーにも使用された「mad hunter」など、主人公の心象風景を、ギターを軸にしたサウンドが寄り添い丁寧に描写しています。ギター・インスト集としても味わい深く聴けるサウンドトラックは必聴。©2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 ©瀬川晶司/講談社■狼蘇山3部作
『狼煙が呼ぶ』(2019)主題歌:切腹ピストルズ「狼信仰」
『破壊の日』(2020)エンディング・テーマ:GEZAN「壊日」(『「破壊の日」オリジナルサウンドトラック』[2020])
『全員切腹』(2021)エンディング・テーマ:照井利幸、中村達也、ヤマジカズヒデ「OLD SPARK」 コロナ禍により混乱を極めた時期と重なる2019年〜2022年にかけて上映された狼蘇山3部作は、常に時代と呼応してきた豊田監督が、社会に対し声を上げた作品群。鮮烈な映像と音楽に、監督の怒りや祈りが炸裂しています。
この3部作から、パンク由来の和楽器集団・切腹ピストルズが豊田組に参加したことも象徴的で、1作目『狼煙が呼ぶ』ではZAKによる録音&ミックスのもと主題歌「狼信仰」が誕生。本作に出演もしている総隊長・飯田団紅が打ち鳴らす鉦(かね)、エレキ三味線、篠笛、太鼓が一体となり、鬼気迫るサウンドで聴き手の反骨精神を呼び起こします。
続く『破壊の日』では、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポー演じる修験者が、田舎の炭鉱にひそむ正体不明の怪物に重ねて、強欲にまみれた現代日本をお祓い。GEZANが絶望と怒りと祈りをすべてぶちこみ爆音に昇華したEDテーマ「壊日」、魑魅魍魎の恐ろしさを感じるMars89のテクノ・サウンド、経文から書かれた切腹ピストルズ「御まじない」など、本作では憑き物を落とすようなサウンドの数々が書き下ろされています。また本作からは、向井秀徳や小泉今日子、ILL-BOSSTINO、伊藤雄和らも参加したテーマ・ソング「日本列島やり直し音頭二〇二〇」も生まれています。
窪塚洋介が、切腹を命じられる侍を演じる3作目『全員切腹』の音楽には、和太鼓集団・鼓童より中込健太と住吉佑太が参加。大太鼓の轟音が、切腹ピストルズ、Mars89の音とともに壮絶な演技を焼きつけました。照井利幸が作曲、中村達也、ヤマジカズヒデが参加したエンディング・テーマ「OLD SPARK」ともに、豊田組ショップで販売されているオリジナル・サウンドトラックに収録されています。©豊田組 爆音で祓い、祈った“狼蘇山3部作”の集大成となる『次元を超える』は、ある和楽器の存在も注目ポイントとなっています。同じく公開中の『そういうものに、わたしはなりたい。』では切腹ピストルズの名曲「いきいづ」が使われいるほか、飛騨音響派や
向井秀徳、豊田監督も“狼蘇らせ隊”として音楽に参加しており、是非、劇場で爆音を浴びてほしいところです。
近年の豊田作品には観る側に解釈をゆだね、問いかける難解さがありますが、音楽がはその手掛かりになるかも。ご紹介した音楽が、映画をより楽しむ糸口となれば幸いです。
前編はこちら:cdjournal.com/main/research/-/9267■
『次元を超える』2025年10月17日(金)より東京 ユーロスペース他にて全国順次公開
公式サイト:
starsands.com/jigen配給: スターサンズ
©次元超越体/DIMENSIONS■
『そういうものに、わたしはなりたい。』2025年10月10日(金)公開
公式サイト:
toyodafilms.net配給: 豊田組