そんな彼らのアルバムだから、やはりもっといい音で聴きたいと思うのは当然のことだろう。つまりはハイレゾ・リリースである。ところが、だ。彼らのアルバムのハイレゾ化はどういうわけかなかなか進んでいない。これまでハイレゾ化されたのは『I Robot』(1977年)と『Eye In The Sky』(1982年)のみ。彼らのアルバムでもっともヒットした『Eye In The Sky』のハイレゾ化は35周年記念アニヴァーサリー・エディションのフィジカル・ボックス・セットにあわせて2017年になされている。それ以降続々と彼らのカタログがハイレゾ化されるものと期待して待っていたのだが、その願いは今のところ叶っていない。2020年には『Ammonia Avenue』(7作目、初出は1984年)のハイレゾリューション・ブルーレイ・オーディオ・エディションが発売されたものの配信はなく、また2023年9月には『The Turn of a Friendly Card』(5作目、初出は1980年。初出時の邦題は『運命の切り札』)のハイレゾ音源収録のブルーレイ・ディスクを含むボックス・セットが出たばかり。しかしこれも現時点でハイレゾ配信が実現していないのはどういうわけだ! と憤っていたところ、そうしたファンの思いをキャッチしたのか、突然彼らのアルバムが2枚、同時にハイレゾ配信されたのだった。
今回配信されたのはどちらもオリジナル・アルバムではない。『The Sicilian Defence』は、1979年に録音され、『Eve』の次に5作目として発表されるはずだったがお蔵入りになっていたインスト・アルバムで、2014年にリリースされた『The Complete Albums Collection』で初めて世に出されたもの。もう1枚の『The Instrumental Works』は1988年にリリースされたタイトルどおり彼らのインスト作品のみを集めたベスト・アルバムである。ハイレゾとして若干スペックが見劣りする(44.1kHz/24bit)ことは気になるけれど、もちろんどちらのアルバムも水準は高い。この2枚を契機として、彼らの残りのオリジナル・アルバムがすべてハイスペックなハイレゾ・サウンドで楽しめる日がすぐそこまで迫っていると信じながら今はこの2枚を楽しみたいと思うのだ。
ノルウェーの「2L」レーベルが、ハイレゾとサラウンドに並々ならぬ情熱で取り組んできたのは、音楽&オーディオファンなら誰もが知っている。『四旬節と聖週間(受難週)のグレゴリオ聖歌(EXAUDIAM EUM - Gregorian Chant for Lent and Holy Week)』は2006年の収録だが、オリジナルのフォーマットはなんとDXD352.8kHz/24bitだ。JEITA(電子情報技術産業協会)や日本オーディオ協会が、ハイレゾの呼称や定義を公表したのが2014年。その8年も前に、現在でも最高スペックと言えるサンプリング周波数352.8kHzでの録音を行なっていたのだから、その先進性には脱帽するしかない。しかもサラウンドでの収録なのだ。この5.1ch音源はe-onkyo musicで入手できる。最近ではイマーシブ(没入型)オーディオといって、水平方向のサラウンドに加え上層方向の音情報を再現することを意図したサラウンドが注目されているが、2Lレーベルはイマーシブオーディオのトップランナーでもあり、2006年の時点でも当然ながら上層から降り注ぐ響きの成分も意識して録音していたに違いない。というわけで、5.1ch音源をノーマルな5.1chだけでなく、Auro 3Dモードの10.1chで再生してみる。