11月19日、〈中島みゆきConcert「一会(いちえ)」2015〜2016〉が東京国際フォーラムで開催された。静寂のなかに身をひそめていた観客の期待は、バンドの演奏が始まり、緞帳が上がると、大きな拍手となって姿を現わした。そして、風を立たせ、
中島みゆきが登場。
アルバム
『LOVE OR NOTHING』(1994年)収録曲「もう桟橋に灯りは点らない」が1曲目。ライブとは思えないくらい鮮明に聴こえる言葉。「夜会」などで培ってきた独特の発声法によるものなのか。アレンジの妙か。音響スタッフの腕か。あるいはそのすべてかもしれないが……。そっと語るように、小さくつぶやくように歌う「ピアニシモ」「あなた恋していないでしょ」でも、一切くぐもることのない声と言葉。もはや神業の域だ。
コンサートは3部構成。第1部は“Sweet”。第2部は“Bitter”。第3部が“Sincerely Yours”。ここは観客(みなさん)への感謝に代えて、といったところだろう。
全セットリスト中、もっとも古い曲は、
『臨月』(81年)収録の「友情」。もっとも新しい曲が11月11日に発売になったばかりのニューアルバム
『組曲(Suite)』収録曲。たとえば第1部で歌われた「ライカM4」。中島みゆきとはデビュー以来のつきあいであるタムジンこと、写真家の田村 仁を歌ったらしい。中島みゆきのイメージからは、想像できないほどグルーヴィーなボーカルだった。たとえば第2部での「空がある限り」。夕暮れを背負い、凛と立って歌う。徐々に熱を帯びる声。客席を埋めた5,000人超がジリッジリッと中島みゆきの懐にひきずり込まれるのを見た。
12月9日(水)には、この『組曲(Suite)』がアナログ・レコードでも発売になる。中島みゆきにとって17年ぶりのLPレコード。世界的なカッティング・エンジニア小鐵 徹がハイレゾマスター音源をカッティング。言葉の肌ざわりまでも聴こえてきそうだ。
コンサートは進む。観客からのお便りを読むラジオ番組風コーナー、子供時代の思い出なども交えた爆笑MC、舞台上での衣装の早替えなど、音楽以外でも楽しめる構成と演出。NHK連続テレビ小説『マッサン』主題歌
「麦の唄」で第2部を締める。続く第3部の曲をすべて歌い終えると、客席に近づき挨拶をする中島みゆき。観客を見渡す表情はすがすがしい。膝を折る深いおじぎはバレリーナの美しさ。最後の最後、舞台袖間際で、立ち止まり、少しだけ振り向き、手を振った。「じゃ、また」。潔い短い別れの言葉が聞こえてきそうな一瞬だった。そして、また風を立たせ、去って行った。